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救出とそれぞれの思惑
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道中、ユリアが意識を取り戻す事はなかったが、山頂から離れれば離れるほど彼女は大人しくなっていった。初めはそのまま死んでしまうのではないかと思っていたツクヨだったが、それと同時に彼女の身体には人らしい温もりが戻っていった。
ただそこにある物の様に、温もりも何も感じなかった彼女は間違いなく生きている。行方不明になってからこれまでの間、どうやって凌いでいたのだろう。
虚に開いていた目はいつの間にか閉じており、彼女は疲労からかぐっすりと眠ってしまっているようだ。だが無事である事に変わりはない。胸を撫で下ろしたツクヨは、移動速度を更に上げる。
生きていると分かれば、後は大きな怪我や衝撃を与えないように送り届けるだけだ。意識を一つの事に向けられるようになってからは、ツクヨから様々な迷いが消え彼自身の身体をも軽くした。
山のヌシの大行列から引き返していたツクヨの前に、人の気配が近づく。これまで見た大行列に参列する生物の反応とは違い、明らかにその反応は自分の意思で動いているようだった。
それも反応は複数。ツクヨがその反応に気が付いてから、向こうもツクヨの反応に気が付いたのかこちらへ向かって来ている。その反応に敵意や殺意は感じない。だが慣れ親しんだシン達の反応でもない。
それ程気にする事でもないことを気に掛けている内に、ツクヨの前に現れたのは、ケネト率いるギルドの捜索隊を連れ戻しに来た部隊だった。
「あっあれ?ケネトさん達?」
「やはりツクヨだったか。ん?その人は・・・?」
ケネトは直ぐにツクヨの抱えている人物に気が付き、彼から事情を聞く。その際、その場にカガリがいる事にも気が付いていたツクヨは、ミネの一件の事は隠しつつ、野営へ戻り忘れ物を取りに行った途中で彼女を見つけたと報告する。
直接対面して話を聞いていたケネトには、チラチラとカガリの方を気にする視線からツクヨが何かを隠しているのを見抜いていた。しかしケネトも、カガリをどうにか五号目の野営へ帰らせたいと思っていた事もあり、彼の話に合わせて野営へ一度撤退する流れへと持っていった。
「よし、これ以上先への捜索は危険だ。探していた依頼の人物も見つかった。一度野営へ戻り、状況を確認しに向かおう」
「待ってくれよケネト!ここまで来たんだ、もう少し先まで・・・」
「ミネを探したいお前の気持ちもよく分かる。だがミネだったらこんな時どんな判断をするか、分からないお前でもあるまい?」
「それは・・・」
ケネトもまた、ミネの名前を出しカガリの心を上手く誘導していた。彼の名前を出し、彼の教えを出されればカガリも引き下がらない訳にもいかなかったようだ。
「いいか?ミネにもきっと考えがある。そこに愛弟子であるお前が現れたらどうだ?彼はきっとお前を心配して、何よりも先にお前の身の安全を確保しに来るに違いない。・・・ミネの邪魔はしたくないだろ?」
「わっ・・・分かったよ。野営へ戻ろう」
無事にカガリの説得に成功したケネトは、ツクヨとユリアを結んでいた蔦を切り離し、ギルドの隊員達が持って来ていた簡易的な担架に彼女を乗せる。野営へ向けて山道を下る準備を始める中、ケネトはツクヨにアクセルの行方について話を聞いていた。
「アンタを追ってアクセルは山道を登って行ったんだ。何処かでアクセルに会わなかったか?」
「それが・・・会うには会ったんだが」
ツクヨは森での出来事をケネトに話した。
「黒いローブ姿の男!?」
アクセルと同様に、ケネトもその人物の容姿を話した途端に、思わず声を漏らしてしまう程大きな反応を示した。周囲の者に聞かれていないか、キョロキョロとした後、ツクヨとの距離を詰めたケネトは詳しくその話について問い詰める。
しかしツクヨ自身も、その黒衣の男について詳しく見たり聞いたりした訳でもなく、ケネトが欲しがるような情報はツクヨから出てくる事はなかった。ただ、その後アクセルがその男と対立していた事を踏まえると、二人が探している過去の恩人とは全くの別人である事が伺える。
「アクセルの奴一人で・・・。妙に先が騒がしいのってまさかッ・・・!」
「正直、この森の中で戦いが起きるとしたら、もうそれしか・・・」
「クソッ・・・!悪いが俺はアクセルの元へ向かう。お前はミネの救出へ行くんだろ?ギルドの連中にカガリの事は任せよう。俺達は上手く理由をつけて・・・」
二人が山を登る口実を考える中、妙なほど素直にケネトの話に従っていたカガリは、ミネから教わった森の声を聞く“利き耳”を使い、二人の会話を盗み聞きしていたのだ。
ミネを救出すると言う話を聞いて、やはり只事ではない事を察したカガリは、一行に怪しまれぬようにミネの元へ向かう為、一度大人しく野営へ戻り抜け出す算段を企てる。
カガリがそんな計画を企てているとも知らずに、ツクヨとケネトはギルドの隊員達と話し合い、先にツクヨをミネ救出へ向かわせると、他の者達は五号目にあるギルドの野営へと向かう。
ケネトとカガリ、双方の思惑を秘めたままユリアを安全な場所へと運ぶ一行。そして野営に到着すると、直ぐにユリアの治療と回復が行われ、忙しくなる現場を尻目にケネトとカガリは、ほぼ同時に違う方角から山頂へと向かう森の中へと姿を消した。
ただそこにある物の様に、温もりも何も感じなかった彼女は間違いなく生きている。行方不明になってからこれまでの間、どうやって凌いでいたのだろう。
虚に開いていた目はいつの間にか閉じており、彼女は疲労からかぐっすりと眠ってしまっているようだ。だが無事である事に変わりはない。胸を撫で下ろしたツクヨは、移動速度を更に上げる。
生きていると分かれば、後は大きな怪我や衝撃を与えないように送り届けるだけだ。意識を一つの事に向けられるようになってからは、ツクヨから様々な迷いが消え彼自身の身体をも軽くした。
山のヌシの大行列から引き返していたツクヨの前に、人の気配が近づく。これまで見た大行列に参列する生物の反応とは違い、明らかにその反応は自分の意思で動いているようだった。
それも反応は複数。ツクヨがその反応に気が付いてから、向こうもツクヨの反応に気が付いたのかこちらへ向かって来ている。その反応に敵意や殺意は感じない。だが慣れ親しんだシン達の反応でもない。
それ程気にする事でもないことを気に掛けている内に、ツクヨの前に現れたのは、ケネト率いるギルドの捜索隊を連れ戻しに来た部隊だった。
「あっあれ?ケネトさん達?」
「やはりツクヨだったか。ん?その人は・・・?」
ケネトは直ぐにツクヨの抱えている人物に気が付き、彼から事情を聞く。その際、その場にカガリがいる事にも気が付いていたツクヨは、ミネの一件の事は隠しつつ、野営へ戻り忘れ物を取りに行った途中で彼女を見つけたと報告する。
直接対面して話を聞いていたケネトには、チラチラとカガリの方を気にする視線からツクヨが何かを隠しているのを見抜いていた。しかしケネトも、カガリをどうにか五号目の野営へ帰らせたいと思っていた事もあり、彼の話に合わせて野営へ一度撤退する流れへと持っていった。
「よし、これ以上先への捜索は危険だ。探していた依頼の人物も見つかった。一度野営へ戻り、状況を確認しに向かおう」
「待ってくれよケネト!ここまで来たんだ、もう少し先まで・・・」
「ミネを探したいお前の気持ちもよく分かる。だがミネだったらこんな時どんな判断をするか、分からないお前でもあるまい?」
「それは・・・」
ケネトもまた、ミネの名前を出しカガリの心を上手く誘導していた。彼の名前を出し、彼の教えを出されればカガリも引き下がらない訳にもいかなかったようだ。
「いいか?ミネにもきっと考えがある。そこに愛弟子であるお前が現れたらどうだ?彼はきっとお前を心配して、何よりも先にお前の身の安全を確保しに来るに違いない。・・・ミネの邪魔はしたくないだろ?」
「わっ・・・分かったよ。野営へ戻ろう」
無事にカガリの説得に成功したケネトは、ツクヨとユリアを結んでいた蔦を切り離し、ギルドの隊員達が持って来ていた簡易的な担架に彼女を乗せる。野営へ向けて山道を下る準備を始める中、ケネトはツクヨにアクセルの行方について話を聞いていた。
「アンタを追ってアクセルは山道を登って行ったんだ。何処かでアクセルに会わなかったか?」
「それが・・・会うには会ったんだが」
ツクヨは森での出来事をケネトに話した。
「黒いローブ姿の男!?」
アクセルと同様に、ケネトもその人物の容姿を話した途端に、思わず声を漏らしてしまう程大きな反応を示した。周囲の者に聞かれていないか、キョロキョロとした後、ツクヨとの距離を詰めたケネトは詳しくその話について問い詰める。
しかしツクヨ自身も、その黒衣の男について詳しく見たり聞いたりした訳でもなく、ケネトが欲しがるような情報はツクヨから出てくる事はなかった。ただ、その後アクセルがその男と対立していた事を踏まえると、二人が探している過去の恩人とは全くの別人である事が伺える。
「アクセルの奴一人で・・・。妙に先が騒がしいのってまさかッ・・・!」
「正直、この森の中で戦いが起きるとしたら、もうそれしか・・・」
「クソッ・・・!悪いが俺はアクセルの元へ向かう。お前はミネの救出へ行くんだろ?ギルドの連中にカガリの事は任せよう。俺達は上手く理由をつけて・・・」
二人が山を登る口実を考える中、妙なほど素直にケネトの話に従っていたカガリは、ミネから教わった森の声を聞く“利き耳”を使い、二人の会話を盗み聞きしていたのだ。
ミネを救出すると言う話を聞いて、やはり只事ではない事を察したカガリは、一行に怪しまれぬようにミネの元へ向かう為、一度大人しく野営へ戻り抜け出す算段を企てる。
カガリがそんな計画を企てているとも知らずに、ツクヨとケネトはギルドの隊員達と話し合い、先にツクヨをミネ救出へ向かわせると、他の者達は五号目にあるギルドの野営へと向かう。
ケネトとカガリ、双方の思惑を秘めたままユリアを安全な場所へと運ぶ一行。そして野営に到着すると、直ぐにユリアの治療と回復が行われ、忙しくなる現場を尻目にケネトとカガリは、ほぼ同時に違う方角から山頂へと向かう森の中へと姿を消した。
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