1,633 / 1,646
神饌の儀 追手の男
しおりを挟む
ツクヨはそれが、シンの言っていた黒い衣の人物だと直ぐに分かった。だが彼は足を止める気となく山道を駆け抜け続けて行った。
一方、黒い衣の人物に、過去命を救われていたアクセルは、目の前に現れた人物こそその人物なのではと足を止める。
「あらぁ?無視して行っちまうのかい?じゃぁ仕方あるまいねぇ・・・」
「おい!アンタ待ってくれ」
アクセルの声に黒い衣の人物は反応した。その様子を駆け抜けながら遠目で見るツクヨ。あの黒い衣の人物の出方次第では、この状況の手助けになってくれるかも知れない。そんな僅かな期待を持っていたのだ。
だが、案の定二人の前に現れた黒い衣の人物は、アクセルらの恩人などではなかった。
「アンタ、昔山で子供を二人助けなかったか?」
「助ける?さぁ、身に覚えがねぇな。それに人助けは俺の性分じゃねぇさな」
「そうかい・・・それじゃぁ」
黒い衣の人物から返事を受け取ったアクセルは、体勢を低くして拳にオーラのようなモノを纏う。そしてそれを容赦なく黒い衣の人物へと放つ。それは彼が山の中でモンスター相手に見せた、魂を引き摺り出す能力だった。
しかし、それをまるで知っているかのように紙一重で避ける黒い衣の人物。初見では何をしているのかも分からず、範囲も不確かなアクセルの攻撃を紙一重で避けられたのは、果たして偶然か必然か。
「まずはあっちの無視した野朗からだ。陳腐な足止めなんかには、俺ぁ掴まらねぇよ」
「何ぃッ!?避けただと?俺の技を知ってるのか!ってか俺を無視しやがって・・・待ちやがれッ!」
ツクヨを追い掛ける黒い衣の人物を、更に追い掛けるアクセル。ツクヨも決して速度を落としたつもりはなかったが、黒い衣の人物の足は速く、直ぐにツクヨの元まで辿り着いてしまう。
「なんて速さだッ・・・!」
黒い衣の人物は、その衣の下に隠した刀を引き抜きツクヨに斬り掛かる。その抜刀術は、ツクヨと同クラス、或いはそれ以上の者でなければあり得ないほど素早く、狙われたツクヨも抜刀を余儀なくされる。
「ッ!?」
「ほう、これくらいは受け切れるか。なら・・・ッ!」
間一髪のところで斬撃を躱したツクヨに、黒い衣の人物の目にも止まらぬ連撃が襲い掛かる。足を止められ、その上で全てを受け切るのは不可能と判断したツクヨは、相手の攻撃を瞬時に見極め、数発を受け流しあとの斬撃を紙一重で回避する。
息をする事さえ忘れてしまう程に緊迫した状況。一難が去り、大粒に汗が額から流れる。その様子を見て黒い衣の人物は、ツクヨを強者と認めたのか笑みを浮かべる。
「ふふ・・・いいぞ、いい成長だ。だがこれではまだ足りない。そうだな、ここらで一つランクアップを・・・ん?」
黒い衣の人物が振り抜いた刀を受け止めるツクヨ。すると男は、鍔迫り合いをする最中、彼の身につけている物に視線を送る。
「おぉ?そいつを持っているのなら話は別だ。食事の邪魔はさせないが、コイツを喰わせるのもまた一興か」
「貴方は先程から一体何をッ・・・!」
「俺かい?俺ぁ・・・」
男が何かを口にしようとした瞬間、彼の背後から亡霊のように迫る手の形をしたオーラが飛んで来る。二人は互いに刀を弾き飛び退く。そこへ遅れたアクセルが到着した。
「やっと・・・追いついたぜ・・・クソ野朗ッ・・・!」
「もう追い付かれたか。でも予定が変わったからね、良いよお前の相手・・・俺がしてやるッ!」
だが男が向かったのはツクヨの方だった。不意を突かれたのもあるが、黒い衣の男の移動速度は、海上レースにおいて武術を極めたハオランを上回るほど速く、接近を許してしまう。
気が付いた時には刀では対応し切れない距離まで詰められていた。しかし男の方も手に武器は握ってはおらず、そのままツクヨの襟元を掴み上げると、彼らが目指していた山頂へ続く方角に向けて投げ飛ばしたのだ。
「何ッ!?」
「ツクヨッ・・・!何のつもりだ!?」
「おいおい、お前らが向かってた道だろ?手ぇ貸してやったんだ」
大きく投げ飛ばされたツクヨはそのまま着地すると、黒い衣の男とアクセルの方を呆然と見つめた後、直ぐにやるべき事を思い出しミネの向かう山頂へ向けて再び走り出す。
「あらら、薄情な奴だねぇ。お前を置いて行っちまいやがった・・・ッ!?」
嘲笑うような声色を発する男に、アクセルは無言で攻撃を仕掛ける。しかし、やはり男にはアクセルの特殊な攻撃が見えているのか、最も容易くそれを躱して見せた。
「薄情なんじゃねぇよ。俺に任せて行ったんだ!お前を止める為に」
「俺を止める・・・?お前が俺を?」
低い声で振り返る黒い衣の男の表情は、フードで見えずとも侮辱されたように怒りで震えているのが分かる。気配を読み取れるアクセルに、力量の差が分からない筈もない。
それでもアクセルは、立ち向かう事をやめずに男の前で戦闘体勢に入る。
一方、黒い衣の人物に、過去命を救われていたアクセルは、目の前に現れた人物こそその人物なのではと足を止める。
「あらぁ?無視して行っちまうのかい?じゃぁ仕方あるまいねぇ・・・」
「おい!アンタ待ってくれ」
アクセルの声に黒い衣の人物は反応した。その様子を駆け抜けながら遠目で見るツクヨ。あの黒い衣の人物の出方次第では、この状況の手助けになってくれるかも知れない。そんな僅かな期待を持っていたのだ。
だが、案の定二人の前に現れた黒い衣の人物は、アクセルらの恩人などではなかった。
「アンタ、昔山で子供を二人助けなかったか?」
「助ける?さぁ、身に覚えがねぇな。それに人助けは俺の性分じゃねぇさな」
「そうかい・・・それじゃぁ」
黒い衣の人物から返事を受け取ったアクセルは、体勢を低くして拳にオーラのようなモノを纏う。そしてそれを容赦なく黒い衣の人物へと放つ。それは彼が山の中でモンスター相手に見せた、魂を引き摺り出す能力だった。
しかし、それをまるで知っているかのように紙一重で避ける黒い衣の人物。初見では何をしているのかも分からず、範囲も不確かなアクセルの攻撃を紙一重で避けられたのは、果たして偶然か必然か。
「まずはあっちの無視した野朗からだ。陳腐な足止めなんかには、俺ぁ掴まらねぇよ」
「何ぃッ!?避けただと?俺の技を知ってるのか!ってか俺を無視しやがって・・・待ちやがれッ!」
ツクヨを追い掛ける黒い衣の人物を、更に追い掛けるアクセル。ツクヨも決して速度を落としたつもりはなかったが、黒い衣の人物の足は速く、直ぐにツクヨの元まで辿り着いてしまう。
「なんて速さだッ・・・!」
黒い衣の人物は、その衣の下に隠した刀を引き抜きツクヨに斬り掛かる。その抜刀術は、ツクヨと同クラス、或いはそれ以上の者でなければあり得ないほど素早く、狙われたツクヨも抜刀を余儀なくされる。
「ッ!?」
「ほう、これくらいは受け切れるか。なら・・・ッ!」
間一髪のところで斬撃を躱したツクヨに、黒い衣の人物の目にも止まらぬ連撃が襲い掛かる。足を止められ、その上で全てを受け切るのは不可能と判断したツクヨは、相手の攻撃を瞬時に見極め、数発を受け流しあとの斬撃を紙一重で回避する。
息をする事さえ忘れてしまう程に緊迫した状況。一難が去り、大粒に汗が額から流れる。その様子を見て黒い衣の人物は、ツクヨを強者と認めたのか笑みを浮かべる。
「ふふ・・・いいぞ、いい成長だ。だがこれではまだ足りない。そうだな、ここらで一つランクアップを・・・ん?」
黒い衣の人物が振り抜いた刀を受け止めるツクヨ。すると男は、鍔迫り合いをする最中、彼の身につけている物に視線を送る。
「おぉ?そいつを持っているのなら話は別だ。食事の邪魔はさせないが、コイツを喰わせるのもまた一興か」
「貴方は先程から一体何をッ・・・!」
「俺かい?俺ぁ・・・」
男が何かを口にしようとした瞬間、彼の背後から亡霊のように迫る手の形をしたオーラが飛んで来る。二人は互いに刀を弾き飛び退く。そこへ遅れたアクセルが到着した。
「やっと・・・追いついたぜ・・・クソ野朗ッ・・・!」
「もう追い付かれたか。でも予定が変わったからね、良いよお前の相手・・・俺がしてやるッ!」
だが男が向かったのはツクヨの方だった。不意を突かれたのもあるが、黒い衣の男の移動速度は、海上レースにおいて武術を極めたハオランを上回るほど速く、接近を許してしまう。
気が付いた時には刀では対応し切れない距離まで詰められていた。しかし男の方も手に武器は握ってはおらず、そのままツクヨの襟元を掴み上げると、彼らが目指していた山頂へ続く方角に向けて投げ飛ばしたのだ。
「何ッ!?」
「ツクヨッ・・・!何のつもりだ!?」
「おいおい、お前らが向かってた道だろ?手ぇ貸してやったんだ」
大きく投げ飛ばされたツクヨはそのまま着地すると、黒い衣の男とアクセルの方を呆然と見つめた後、直ぐにやるべき事を思い出しミネの向かう山頂へ向けて再び走り出す。
「あらら、薄情な奴だねぇ。お前を置いて行っちまいやがった・・・ッ!?」
嘲笑うような声色を発する男に、アクセルは無言で攻撃を仕掛ける。しかし、やはり男にはアクセルの特殊な攻撃が見えているのか、最も容易くそれを躱して見せた。
「薄情なんじゃねぇよ。俺に任せて行ったんだ!お前を止める為に」
「俺を止める・・・?お前が俺を?」
低い声で振り返る黒い衣の男の表情は、フードで見えずとも侮辱されたように怒りで震えているのが分かる。気配を読み取れるアクセルに、力量の差が分からない筈もない。
それでもアクセルは、立ち向かう事をやめずに男の前で戦闘体勢に入る。
0
お気に入りに追加
310
あなたにおすすめの小説
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

転生貴族の異世界無双生活
guju
ファンタジー
神の手違いで死んでしまったと、突如知らされる主人公。
彼は、神から貰った力で生きていくものの、そうそう幸せは続かない。
その世界でできる色々な出来事が、主人公をどう変えて行くのか!
ハーレム弱めです。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~
金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。
そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。
カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。
やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。
魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。
これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。
エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。
第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。
旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。
ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

【完結】憧れの異世界転移が現実になったのでやりたいことリストを消化したいと思います~異世界でやってみたい50のこと
Debby
ファンタジー
【完結まで投稿済みです】
山下星良(せいら)はファンタジー系の小説を読むのが大好きなお姉さん。
好きが高じて真剣に考えて作ったのが『異世界でやってみたい50のこと』のリスト。
やっぱり人生はじめからやり直す転生より、転移。
転移先の条件としては『★剣と魔法の世界に転移してみたい』は絶対に外せない。
そして今の身体じゃ体力的に異世界攻略は難しいのでちょっと若返りもお願いしたい。
更にもうひとつの条件が『★出来れば日本の乙女ゲームか物語の世界に転移してみたい(モブで)』だ。
これにはちゃんとした理由がある。必要なのは乙女ゲームの世界観のみで攻略対象とかヒロインは必要ない。
もちろんゲームに巻き込まれると面倒くさいので、ちゃんと「(モブで)」と注釈を入れることも忘れていない。
──そして本当に転移してしまった星良は、頼もしい仲間(レアアイテムとモフモフと細マッチョ?)と共に、自身の作ったやりたいことリストを消化していくことになる。
いい年の大人が本気で考え、万全を期したハズの『異世界でやりたいことリスト』。
理想通りだったり思っていたのとちょっと違ったりするけれど、折角の異世界を楽しみたいと思います。
あなたが異世界転移するなら、リストに何を書きますか?
----------
覗いて下さり、ありがとうございます!
10時19時投稿、全話予約投稿済みです。
5話くらいから話が動き出します?
✳(お読み下されば何のマークかはすぐに分かると思いますが)5話から出てくる話のタイトルの★は気にしないでください

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件
月風レイ
ファンタジー
普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。
そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。
そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。
そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。
そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。
食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。
不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。
大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

ちょっと神様!私もうステータス調整されてるんですが!!
べちてん
ファンタジー
アニメ、マンガ、ラノベに小説好きの典型的な陰キャ高校生の西園千成はある日河川敷に花見に来ていた。人混みに酔い、体調が悪くなったので少し離れた路地で休憩していたらいつの間にか神域に迷い込んでしまっていた!!もう元居た世界には戻れないとのことなので魔法の世界へ転移することに。申し訳ないとか何とかでステータスを古龍の半分にしてもらったのだが、別の神様がそれを知らずに私のステータスをそこからさらに2倍にしてしまった!ちょっと神様!もうステータス調整されてるんですが!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる