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神代 コウ

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神饌の儀 追手の男

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 ツクヨはそれが、シンの言っていた黒い衣の人物だと直ぐに分かった。だが彼は足を止める気となく山道を駆け抜け続けて行った。

 一方、黒い衣の人物に、過去命を救われていたアクセルは、目の前に現れた人物こそその人物なのではと足を止める。

「あらぁ?無視して行っちまうのかい?じゃぁ仕方あるまいねぇ・・・」

「おい!アンタ待ってくれ」

 アクセルの声に黒い衣の人物は反応した。その様子を駆け抜けながら遠目で見るツクヨ。あの黒い衣の人物の出方次第では、この状況の手助けになってくれるかも知れない。そんな僅かな期待を持っていたのだ。

 だが、案の定二人の前に現れた黒い衣の人物は、アクセルらの恩人などではなかった。

「アンタ、昔山で子供を二人助けなかったか?」

「助ける?さぁ、身に覚えがねぇな。それに人助けは俺の性分じゃねぇさな」

「そうかい・・・それじゃぁ」

 黒い衣の人物から返事を受け取ったアクセルは、体勢を低くして拳にオーラのようなモノを纏う。そしてそれを容赦なく黒い衣の人物へと放つ。それは彼が山の中でモンスター相手に見せた、魂を引き摺り出す能力だった。

 しかし、それをまるで知っているかのように紙一重で避ける黒い衣の人物。初見では何をしているのかも分からず、範囲も不確かなアクセルの攻撃を紙一重で避けられたのは、果たして偶然か必然か。

「まずはあっちの無視した野朗からだ。陳腐な足止めなんかには、俺ぁ掴まらねぇよ」

「何ぃッ!?避けただと?俺の技を知ってるのか!ってか俺を無視しやがって・・・待ちやがれッ!」

 ツクヨを追い掛ける黒い衣の人物を、更に追い掛けるアクセル。ツクヨも決して速度を落としたつもりはなかったが、黒い衣の人物の足は速く、直ぐにツクヨの元まで辿り着いてしまう。

「なんて速さだッ・・・!」

 黒い衣の人物は、その衣の下に隠した刀を引き抜きツクヨに斬り掛かる。その抜刀術は、ツクヨと同クラス、或いはそれ以上の者でなければあり得ないほど素早く、狙われたツクヨも抜刀を余儀なくされる。

「ッ!?」

「ほう、これくらいは受け切れるか。なら・・・ッ!」

 間一髪のところで斬撃を躱したツクヨに、黒い衣の人物の目にも止まらぬ連撃が襲い掛かる。足を止められ、その上で全てを受け切るのは不可能と判断したツクヨは、相手の攻撃を瞬時に見極め、数発を受け流しあとの斬撃を紙一重で回避する。

 息をする事さえ忘れてしまう程に緊迫した状況。一難が去り、大粒に汗が額から流れる。その様子を見て黒い衣の人物は、ツクヨを強者と認めたのか笑みを浮かべる。

「ふふ・・・いいぞ、いい成長だ。だがこれではまだ足りない。そうだな、ここらで一つランクアップを・・・ん?」

 黒い衣の人物が振り抜いた刀を受け止めるツクヨ。すると男は、鍔迫り合いをする最中、彼の身につけている物に視線を送る。

「おぉ?そいつを持っているのなら話は別だ。食事の邪魔はさせないが、コイツを喰わせるのもまた一興か」

「貴方は先程から一体何をッ・・・!」

「俺かい?俺ぁ・・・」

 男が何かを口にしようとした瞬間、彼の背後から亡霊のように迫る手の形をしたオーラが飛んで来る。二人は互いに刀を弾き飛び退く。そこへ遅れたアクセルが到着した。

「やっと・・・追いついたぜ・・・クソ野朗ッ・・・!」

「もう追い付かれたか。でも予定が変わったからね、良いよお前の相手・・・俺がしてやるッ!」

 だが男が向かったのはツクヨの方だった。不意を突かれたのもあるが、黒い衣の男の移動速度は、海上レースにおいて武術を極めたハオランを上回るほど速く、接近を許してしまう。

 気が付いた時には刀では対応し切れない距離まで詰められていた。しかし男の方も手に武器は握ってはおらず、そのままツクヨの襟元を掴み上げると、彼らが目指していた山頂へ続く方角に向けて投げ飛ばしたのだ。

「何ッ!?」

「ツクヨッ・・・!何のつもりだ!?」

「おいおい、お前らが向かってた道だろ?手ぇ貸してやったんだ」

 大きく投げ飛ばされたツクヨはそのまま着地すると、黒い衣の男とアクセルの方を呆然と見つめた後、直ぐにやるべき事を思い出しミネの向かう山頂へ向けて再び走り出す。

「あらら、薄情な奴だねぇ。お前を置いて行っちまいやがった・・・ッ!?」

 嘲笑うような声色を発する男に、アクセルは無言で攻撃を仕掛ける。しかし、やはり男にはアクセルの特殊な攻撃が見えているのか、最も容易くそれを躱して見せた。

「薄情なんじゃねぇよ。俺に任せて行ったんだ!お前を止める為に」

「俺を止める・・・?お前が俺を?」

 低い声で振り返る黒い衣の男の表情は、フードで見えずとも侮辱されたように怒りで震えているのが分かる。気配を読み取れるアクセルに、力量の差が分からない筈もない。

 それでもアクセルは、立ち向かう事をやめずに男の前で戦闘体勢に入る。
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