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神代 コウ

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神饌の為の装置

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 カガリがトミとユリアの子である事を知り、驚きを隠せないといった様子のシンとツクヨ。しかしツクヨには引っ掛かる点が一つあった。それはトミが捜索依頼を出しているのは妻であるユリアだけだった。

 自身も家族を持つ身であるからこそ、我が子の捜索を出さないのはおかしい。ミネの話にはまだ続きがあるようだ。ツクヨは何故トミが我が子の捜索依頼を出していないのかと問う。

 するとそこには、儀式の最中に贄として捧げた我が子を取り戻しに行ったことで、予想外の出来事が彼らのみに降りかかっていた事を知る。

「俺はカガリに、お前の両親はもういないと伝えた。それはトミもユリアも、当時の記憶を失っていたからだった。大事にしていた我が子であるカガリのこともな・・・」

「そんな・・・記憶を?」

「あぁ、だが命があっただけでも本来は奇跡だと言ってもいい。俺と彼らはあの時・・・山の神に喰われた」

「ッ!?」

 ミネが真っ暗な空間で二つの光りと話していた時、既に彼らはその山の神とやらの食べられていたのだ。その時には既に、トミとユリアの肉体と魂は分離されており、魂と意識だけが光りとなって我が子の元へと向かっていた。

 まだ身体を保っていたミネは、光りとなった二人と再会し赤子のカガリを救出すると約束した。だがミネには脱出の案などなかった。それでも今にも消えそうな二人の魂の前で、ミネは二人を不安にさせるような言葉や態度を示すわけにはいかなかった。

 二つに光がミネの前から消えようとしたその時、山の神に喰われたミネの身体にも異変が起こっていた。まるで全身に力が漲るように精気が流れ込み続け、自分の身体ではないように制御が効かなくなる。

 そして込み上げる熱量が限界を迎えた時、ミネは赤子を抱えたまま意識を失ってしまう。そして次に目を覚ました時には回帰の山の中に戻っており、同時に山のヌシにされていたという訳だ。

 ミネが山のヌシにされた事により、無意識に助けようとしていたカガリや、肉体と魂を失った筈のトミとユリアも、山の神の体内から救い出し森の何処かへと送り出していたのだ。

 何が起きたのか分からぬまま、ミネはその胸に抱える赤子と共にハインドの街へと降りて行った。それから暫くしてトミとユリアも街へと降り、運命的な出会いをした二人は、嘗て夫婦であった記憶を失ったまま再び夫婦となる。

 その後はシン達も知る通り、ユリアはミネがハインドの街に入り浸る事で流れ出した鉱脈の精気に当てられ、回帰の山で行方不明になる。成長したカガリを弟子にして山の調査を行っていたミネは、次第に精気の流れの真実に気付き始め、街からも距離をとる。

「俺が自分のことを山のヌシなんじゃないかって思い始めたのは、つい最近だ。それまでは漠然とだが、俺が街に居ることで何か悪影響が出ているんじゃないかって程度だった」

「おかしいと思った時に、街からも山からも離れようとは思わなかったのか?」

 山や街に居ることで精気の流れを乱し、そこに住まう生き物達に悪影響を与えてしまうのなら、そこから離れて仕舞えばいい。実に簡単なことだが、無論それを試そうとしなかった訳でもないようだった。

「そりゃぁ思ったさ。だが、離れられないんだ・・・。山のヌシになってから次第に思考まで支配されてくるんだ。山の神の為に、多くの生物に光脈の精気を浸透させて半ば中毒状態にさせる。その為にある程度山から外へは離れられるが、俺自身の身体がそれを拒み、思考を奪われ山の方へと帰される」

 山を離れられないんだ理由の他に、ミネは自身が山を離れると山のヌシを失った回帰の山がどうなってしまうのかを想像すると、二度とそのような危ない真似はしなくなったのだと語る。

 生物に精気を纏わせる為の装置となったミネが、勝手にその主人である山の神の元を離れられない。ミネ達が山の神の体内から脱出できた代償と彼は考え、自分の身一つで許されるのなら甘んじて受け入れる覚悟をした。

「だからこそ、せっかく助かったカガリやトミ、ユリアを巻き込む訳には行かないんだ。トミは街に居るからいいが、ユリアは精気に当てられて回帰の山の中にいる。彼女は俺が責任を持って街へ送り返して見せる。だからカガリを・・・」

「そういう事なら俺達は一向に構わない。ただ一つ聞きたい、俺達はこの山の向こう側へ行きたい。出来れば安全にだ、子供もいる。それは可能か?」

 カガリの救出に関しては断る理由などなかった。だがこれから起こるであろう出来事のせいで山を越えられなくなる方が、シン達にとっては致命的だった。

「安心しろ。“事”が済めば明日にでも山は越えられる」

「事が済めば・・・一体何をする気ですか?ミネさん」

 ミネの様子がおかしい事を察したツクヨは、同じ子を持つ親として彼のしようとしている事が、カガリにどんな影響を残してしまうのかを心配したのだ。

「いずれその時は来るんだ。それが今夜だってだけだった。俺は精気を纏った生物を集めて山の神を鎮める為、神饌の贄となる。それで俺の役割は終わりだ・・」

「終わりじゃない!カガリ君は貴方を心配して、危険と知りながら山へ探しに来ていました。彼にとっては貴方が親なんです。また彼を一人にするつもりですか?」

「分かったような口を聞くじゃねぇか・・・。ならどうしようってんだ?身も心も自由の利かない操り人形の俺にどうしろと?」

 珍しくミネに突っ掛かるツクヨの気迫に、仲間のシンまで思わず言葉を失ってしまった。ツクヨは全てを受け入れ、役割を全うするだけの文字通り操り人形になっているミネが気に入らなかったのだ。
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