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山のヌシになった者
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二人はミネに、何故避難が必要なのかと問う。すると彼は記憶の中で湖の人物に言われた事の続きを二人に語り始める。それは回帰の山におけるヌシの役割や、山の神と呼ばれる存在の目的についてが含まれていた。
「理由か、確かに何事か分からぬ事に備えろと言われても、直ぐに信用できるものでもないか。その為に俺の記憶の一部を見てもらったんだがな
・・・」
「見てもらった・・・?あれはアンタの仕業だったのか?」
「正確には俺の意思とは関係ないんだがな。まぁそれはいい、それよりも俺の記憶の中で見ただろ?この湖でもう一人の俺に何かを告げられているところを・・・」
ミネは今シンとツクヨが居る湖で、水面に映る別のミネに己の正体について告げられていた。だがミネの記憶を見ていた二人には、肝心のその部分は聞こえていなかった。しかしその後のミネの様子からも、いい事ではなかったのは推測がいく。
「何故山の事について詳しいか。それについて水面の人物に尋ねていましたね?」
「そうだ。そして俺は、その人物にこう告げられた。俺は現在回帰の山の“ヌシ”なのだと・・・」
「ッ!?」
一瞬、彼が何を言っているのか理解出来なかった二人は、言葉を返す事も出来ず沈黙してしまう。それは話に聞いていたヌシとは、随分と印象が違っていたからだった。
精気の流れからアクセルらは、人に慣れている何かが今の山のヌシがなのではと推測していたが、それがまさか人そのものだったとは思わなかったのだ。
それにミネがもし本当に山のヌシだったのなら、街に降りて来られていた理由が分からない。ヌシは精気を振り撒き、周囲に異変を巻き起こしているというのが、ハインドの街で行われていた調査の結果だった筈。実際の情報とは違っていたのだろうか。
「どうやら俺は、最初の記憶・・・夫婦が祭壇に赤子を捧げた儀式の日に、この山にヌシになっちまったようだ」
ミネの記憶の中で最も古いものは、白装束の者達が祭壇のある山頂へと赴き、そこで生贄の儀式を行っていたものだった。そこでは一組の夫婦が我が子を祭壇の上に捧げ、周りの者達が祈りを捧げるという異様な光景が広がっており、山の神に捧げ物を受け取ってもらう為、神の姿をその目にする事は許されぬとして、白装束の集団が山頂から撤退する。
問題が起きたのは、一行が山を降りている時だった。儀式の生贄に選ばれた赤子の親が、列を抜けて山頂へと戻って行ったのだ。それを目撃した当時のミネは、二人を心配して後を追った。
そして山頂で泣きじゃくる赤子を抱えて謝罪の言葉を繰り返し口にする一家の元に、信じられないものが近づいていた。
それは山を丸ごと飲み込んでしまう程巨大な生物の大口だった。悍ましいほどに不気味に広がる肉の壁に、大蛇のように蠢く巨大な舌。初めはそれが生物であるのかさえ理解出来なかったが、ヌシとなったミネにはそれこそが回帰の山で山の神と呼ばれている存在であることを理解した。
同時に山のヌシというものが、どういった役割を持っているのかを知り、その意思と肉体の自由を奪われてしまったのだという。
「山のヌシと言えば聞こえはいいかも知れないが、所詮山のヌシとは山の神の使いに過ぎない」
「使い?」
「山のヌシが光脈に精気をある程度コントロールしている事は、お前達も知っているだろ?山の神はそこにいる生物を使い、光脈の精気を都合の良いように集めているんだ」
ミネ曰く、山の神とは名ばかりのモノである。しかし、その存在無くして回帰の山とその周辺の大地は今の生態系を築けないのも事実。山の神が溢れ出す光脈の精気を食べてくれるおかげで、この大陸の生物は生きながらえているといっても過言ではないのだと語る。
「そんなに広範囲に影響が・・・?」
「そりゃそうだよ!だってここの生物やモンスターも、ちょっと精気に当てられただけでおかしくなっちゃうんだから。え・・・でも待って、じゃぁ精気を集める山のヌシって・・・」
何かに気付いた様子のツクヨに、ミネは黙って頷いた。山のヌシは光脈の精気を纏い流れを作る。故に移動すれば精気の流れが生まれ、シン達やアクセルらが観測した精気の流れも、山のヌシであるミネが人里へと降りて来た影響だと言える。
彼が街に入っても精気が流れ込まない原理については、彼が精気をコントロール出来るとしか説明がつかないが、そうまでする理由が街にあったと思われる。そしてそれは我が子のように育てていたという、カガリと見て間違いないだろう。
「山のヌシとは、山の神が光脈の精気をより効率よく食す為の道具に過ぎない。精気は魔力のように生命体に引き寄せられ、魔力が定着する大人よりも子供や赤子の方がより多く引き寄せる事から、生贄には若い命が選ばれていたんだ。だが説明しなければならないのは、それよりも山のヌシになってから俺の存在が、ただの人間ではなくなった事だ」
ミネの存在にはおかしなところがいくつもあった。過去に様々な時代に同じようにミネという人物が存在した事、そしてそれらのミネの記憶を、現在のミネが所有している事など、通常の生物ではとっくに寿命を迎えている事は明らかだった。
それこそ不死の存在にでもなっていなければ、あり得ない事だった。しかし彼はちゃんと歳を取っている。老人の姿や記憶もある事から、肉体の劣化や歳をとるという概念はあるようだ。
「理由か、確かに何事か分からぬ事に備えろと言われても、直ぐに信用できるものでもないか。その為に俺の記憶の一部を見てもらったんだがな
・・・」
「見てもらった・・・?あれはアンタの仕業だったのか?」
「正確には俺の意思とは関係ないんだがな。まぁそれはいい、それよりも俺の記憶の中で見ただろ?この湖でもう一人の俺に何かを告げられているところを・・・」
ミネは今シンとツクヨが居る湖で、水面に映る別のミネに己の正体について告げられていた。だがミネの記憶を見ていた二人には、肝心のその部分は聞こえていなかった。しかしその後のミネの様子からも、いい事ではなかったのは推測がいく。
「何故山の事について詳しいか。それについて水面の人物に尋ねていましたね?」
「そうだ。そして俺は、その人物にこう告げられた。俺は現在回帰の山の“ヌシ”なのだと・・・」
「ッ!?」
一瞬、彼が何を言っているのか理解出来なかった二人は、言葉を返す事も出来ず沈黙してしまう。それは話に聞いていたヌシとは、随分と印象が違っていたからだった。
精気の流れからアクセルらは、人に慣れている何かが今の山のヌシがなのではと推測していたが、それがまさか人そのものだったとは思わなかったのだ。
それにミネがもし本当に山のヌシだったのなら、街に降りて来られていた理由が分からない。ヌシは精気を振り撒き、周囲に異変を巻き起こしているというのが、ハインドの街で行われていた調査の結果だった筈。実際の情報とは違っていたのだろうか。
「どうやら俺は、最初の記憶・・・夫婦が祭壇に赤子を捧げた儀式の日に、この山にヌシになっちまったようだ」
ミネの記憶の中で最も古いものは、白装束の者達が祭壇のある山頂へと赴き、そこで生贄の儀式を行っていたものだった。そこでは一組の夫婦が我が子を祭壇の上に捧げ、周りの者達が祈りを捧げるという異様な光景が広がっており、山の神に捧げ物を受け取ってもらう為、神の姿をその目にする事は許されぬとして、白装束の集団が山頂から撤退する。
問題が起きたのは、一行が山を降りている時だった。儀式の生贄に選ばれた赤子の親が、列を抜けて山頂へと戻って行ったのだ。それを目撃した当時のミネは、二人を心配して後を追った。
そして山頂で泣きじゃくる赤子を抱えて謝罪の言葉を繰り返し口にする一家の元に、信じられないものが近づいていた。
それは山を丸ごと飲み込んでしまう程巨大な生物の大口だった。悍ましいほどに不気味に広がる肉の壁に、大蛇のように蠢く巨大な舌。初めはそれが生物であるのかさえ理解出来なかったが、ヌシとなったミネにはそれこそが回帰の山で山の神と呼ばれている存在であることを理解した。
同時に山のヌシというものが、どういった役割を持っているのかを知り、その意思と肉体の自由を奪われてしまったのだという。
「山のヌシと言えば聞こえはいいかも知れないが、所詮山のヌシとは山の神の使いに過ぎない」
「使い?」
「山のヌシが光脈に精気をある程度コントロールしている事は、お前達も知っているだろ?山の神はそこにいる生物を使い、光脈の精気を都合の良いように集めているんだ」
ミネ曰く、山の神とは名ばかりのモノである。しかし、その存在無くして回帰の山とその周辺の大地は今の生態系を築けないのも事実。山の神が溢れ出す光脈の精気を食べてくれるおかげで、この大陸の生物は生きながらえているといっても過言ではないのだと語る。
「そんなに広範囲に影響が・・・?」
「そりゃそうだよ!だってここの生物やモンスターも、ちょっと精気に当てられただけでおかしくなっちゃうんだから。え・・・でも待って、じゃぁ精気を集める山のヌシって・・・」
何かに気付いた様子のツクヨに、ミネは黙って頷いた。山のヌシは光脈の精気を纏い流れを作る。故に移動すれば精気の流れが生まれ、シン達やアクセルらが観測した精気の流れも、山のヌシであるミネが人里へと降りて来た影響だと言える。
彼が街に入っても精気が流れ込まない原理については、彼が精気をコントロール出来るとしか説明がつかないが、そうまでする理由が街にあったと思われる。そしてそれは我が子のように育てていたという、カガリと見て間違いないだろう。
「山のヌシとは、山の神が光脈の精気をより効率よく食す為の道具に過ぎない。精気は魔力のように生命体に引き寄せられ、魔力が定着する大人よりも子供や赤子の方がより多く引き寄せる事から、生贄には若い命が選ばれていたんだ。だが説明しなければならないのは、それよりも山のヌシになってから俺の存在が、ただの人間ではなくなった事だ」
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それこそ不死の存在にでもなっていなければ、あり得ない事だった。しかし彼はちゃんと歳を取っている。老人の姿や記憶もある事から、肉体の劣化や歳をとるという概念はあるようだ。
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