World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,619 / 1,646

身を清める森の湖

しおりを挟む
 数にして五体。ツクヨが相手にしている二体のモンスターとは別に、獣人型や獣型が入り混じっている。それぞれのモンスターの仲間なのかは分からないが、その爪や牙に付いたツクヨの血に誘われたのは確かだ

「クソッ!何考えてんのか分からんが、悪いが助太刀させてもらうぞ!」

 シンは周囲のモンスターにバレるのを覚悟の上で、今も尚モンスターと対峙しているツクヨの前に姿を現した。彼はモンスターとの戦いに夢中だったようで、シンが現れたことで驚きの表情を浮かべた。

「シン!?どうしてここに!?」

「話は後だ!先ずはこの場を片付けてから・・・!」

 瞬く間に周囲の影を集めたシンは、先に飛び掛かって来た方のモンスターを影の中へと引き摺り込む。スキルの隙を突いて攻撃を仕掛けるもう一体のモンスターの攻撃を、鞘に入った刀で受け止める。

「ありがとう、流石ツクヨだ」

「なんのこれしき」

 スキルにクールタイムが終わり、再度集めた影をモンスターの足元で広げ、影の中へと落とし込んでいく。あっという間にその場を切り抜けたシンは、周囲に他にもモンスターが集まっている事をツクヨに話すと、今度は自分達が影の中へと入り移動した。

 彼らを追っていたモンスター達は、その場に残されたツクヨの血に誘われ鉢合わせると、互いに戦いを始めた。その様子は宛ら、野生動物の縄張り争いのようだった。

 モンスターと言えど、生物としての生態は基本変わらない。それは精気を纏ったモンスター達であっても変わらないようだった。だがそんな事があった事を知る由もなく、シンとツクヨはそこからある程度離れた森の中で姿を現す。

「流石だね。モンスターを傷付けずに転移させて、私達も安全なところまで逃げる事が出来た。私には出来ない事だ・・・」

「人には得意不得意があるだろ。俺にはツクヨのように強力な攻撃は無いし、武器も多くは扱えない。投げるだけだ。・・・それで?あれくらいにモンスターだったら、そんなに傷だらけになるほど苦戦する筈ないだろ?一体何をやってたんだ?」

 ボロボロになったツクヨの服と、痛々しく刻まれた爪の痕、そして流れた血を吸って赤く染まる箇所を眺めながらシンはツクヨの思惑について尋ねた。

「あれは・・・そうだね、私に出来る方法でみんなからモンスターを引き離そうと考えたんだ。この血を使ってね・・・」

「自分を囮にしたのか!?なんて無茶を・・・。第一、夜明けまで逃げ切ったとして、その後はどうするつもりだ?匂いのついたままでは、野営には戻れないだろ?」

「どっかで回復薬でも使って止血した後、水で流そうかと・・・。山って山水とか湖があったりするものだろう?」

「まだ見つけてもいないのに・・・か?」

 ただ、彼らはまだ知らない事だったが、回帰の山には嘗てのライノとミネが訪れた湖がある。そこでライノは気を失い、それっきりミネとは長らく会わなくなってしまった。

 しかしそこでは、ライノがシン達も見たような光脈らしき黄金の川を見るという体験をしている。果たして安全な場所なのかは分からない。そもそも彼らはその場所さえ探し当てていないのだから、今心配することでもないのかも知れないが。

「じゃぁその水を探しに行くか」

「ちょっと、シンも付き合うつもりかい?それじゃぁ当初の私の目的が果たせないじゃないか」

「休息の事だろう?大丈夫さ、どの道陽が差し込めば俺のスキルは弱体化しちゃうから、きっとツクヨ達の足手纏いになる。今の内に活躍させておいてくれよ。じゃないと格好がつかない」

 シンらしくない言葉ではあったが、ツクヨは何故数あるクラスの内シンはアサシンを選んだのかが分かったような気がした。人には役割がある。シンはそれをよく分かっているのだろう。

 戦いの華である相手にダメージを与える火力役。傷付いた仲間を回復するヒーラー。相手の攻撃を一手に引き受け仲間を守るタンク役など。クラスによって様々な役割があり、それは戦いにおいてだけではなく、私生活や別の場所でも同じ事が言える。

「分かったよ、何を言っても引きそうにないし。それじゃぁ水を見つけるまで頼むよ」

「任せろ」

 頼り甲斐のある笑みを浮かべて先導して森の中へと歩みを進めるシン。生物の気配感知に長けるクラスではあるが、実際の身体能力としてもアサシンのクラスは聴力が優れている。

 それを頼りに周囲の環境音を聞き分けながら、二人は暗い森の中をモンスターを避けながら進み、そして漸くライノとミネが訪れた湖を見つけた。

「水だ!湖だ!まさに絵画のように美しい光景」

「さぁ、思う存分泳いでいいぞ、ツクヨ」

「私を何だと思っているんだ君は。まぁ確かに早く血を拭わなくては」

 モンスター達から逃げるように影に忍び湖までやって来た二人。距離を取り気配を消してここまでやって来たが、モンスターがツクヨの血の匂いに誘われてやって来るのも時間の問題。

 直ぐにその身に付いた血を洗い流そうと、湖の辺りへとツクヨがやって来る。そして水面を覗き込もうとしたその瞬間、彼らの意識の中に再び何かの記憶の映像が映り込む。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

だらだら生きるテイマーのお話

めぇ
ファンタジー
自堕落・・・もとい楽して生きたい一人のテイマーのお話。目指すのはスローライフ!

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?

甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。 友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。 マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に…… そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり…… 武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

処理中です...