World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,618 / 1,646

不可思議な行動

しおりを挟む
 シンの心配とは他所に、ツクヨはその血の匂いを逆に利用してモンスター達を誘き出そうとしていた。彼はまだ気配を消して追い掛けて来ているシンのことを知らない。

「さてと・・・。そろそろシンとも十分に距離を離せたかな?周りにも敵が集まって来たね。それじゃぁそろそろ始めるか・・・」

 何か考えがるのか、ある程度森を駆けたところで、ツクヨは周りにいるモンスターの中から一体を選び、その方角へと進路を変えた。突然向きを変えたツクヨの気配に、慌ててシンも進路を変える。

「おっおい、ツクヨの奴一体どうするつもりだ?そっちにはモンスターが・・・」

 このままでは向かって来るモンスターと鉢合わせになる。しかし今からではもう回避の仕様のない出来事だ。先程のモンスターの実力からして、手を抜いて相手が出来るほど生ぬるい敵ではなかった。

 だが光脈の精気を纏った生物は神聖化された者であり、命を奪って仕舞えばどうなるか分からない。一体どうするつもりなのか、ツクヨの考えが分からないシンは、ただ彼の後を追い無茶をしないよう手助けをする他なかった。

 ツクヨが進路を変えて間も無く、彼はシンが危惧していた通り別のモンスターと鉢合わせになった。今度のモンスターは先程の二足歩行の獣人型とは違い、四足歩行の獣型のモンスターだった。

 カガリ救出の際に出会した群れのモンスターよりも筋肉質で身体も大きい。四足歩行であるにも関わらず、その頭部は成人男性の身長よりも随分と高い位置にある。

 その目はやはり光脈の精気にやられ正気を失っているようだ。牙を剥き出しにして目の前に立ちはだかるツクヨに敵意を向ける。それでも警戒心は無くしていないのか、無闇に突っ込んで来ることはなく、ツクヨの出方を伺っているようだった。

「早く走れそうだ・・・。うん、悪くない。出来ればもうちょっと小さくあって欲しかったけど、この際贅沢は言えないね。さっきのモンスターを傷付けてしまった事が悔やまれる・・・。私には何かしらの罰があるかも知れないから、暫くみんなには近づかない方がいいかな・・・」

 自身の未熟さ故の後悔に表情を歪めるツクヨ。そして次は失敗しないといった決意に満ちた目に変わると、ツクヨはモンスターとの間にある互いの間合いを突き抜け、モンスターへと飛び掛かる。

 だが彼は武器を手にしてはいなかった。当然、モンスターはそんな事などお構いなしにツクヨへと飛び掛かり、フェイントを交えた前足による攻撃を繰り返す。

 ツクヨはそれを一つ一つ丁寧に避けていく。素早いモンスターの動きを注意深く観察し、確実に避ける為に一切の無場のない動きで。しかしそれはあくまで“避け”に徹した動きだった。まるでツクヨからは攻撃を仕掛ける気など無いかのように。

 暫くしてツクヨとモンスターが戦う現場が見えるところまでやって来たシンは、双方に気づかれぬ前に立ち止まり、気配を消したまま木の陰に隠れる。

「何をしてるんだ?ツクヨの奴・・・武器も持たずに。一体何をする気だ?」

 直ぐには飛び出さず、先ずはツクヨの思惑を探ろうとするシンは、それを確かめるまで彼の邪魔をさせない為、近づいて来る別のモンスター達の排除する。

 暫く様子を見ていると、次第にツクヨがモンスターに押され始める。余裕を持って避けていた筈のツクヨの動きに、モンスターが対応してきていたのだ。ツクヨの初段の攻撃を避ける癖を学習し、誘い出すような動きを取り始めるモンスター。

 急なモンスターの対応力に驚かされたツクヨは、何回か擦り傷を負わされるも、ツクヨも次第にモンスターの思惑に気が付き避けられるようになって来るのだが、一度はモンスターの動きを見切れたものの、何故か擦り傷を負う回数が増えてきたのだ。

 避ける事に徹すれば、ツクヨなら決して避けられない攻撃ではない筈。だがそれでもツクヨの身体に傷が増えていく一方だった。

「何でだ・・・何故そんなにギリギリで避けてんだ?ツクヨ。そんなの、避けられないお前じゃないだろ!?」

 明らかに動きのおかしいツクヨに疑問を抱きながらも、まだ彼の思惑が分からないシンはいつ助けに入るべきか迷っていた。ツクヨの返り血でモンスターの顔や爪が赤く染まっていく。

 ツクヨにも疲労の色が見え始める。まさかこのまま嬲り殺しにされるつもりではないかと心配したところで、注意を逸らされていたシンの包囲網から抜けた別のモンスターが、ツクヨとモンスターの戦いに割って入る。

 新たに乱入したモンスターはツクヨだけでなく、ツクヨの返り血を浴びたモンスターにも襲い掛かる。三つ巴の戦況となりいよいよツクヨにも避ける余裕がなくなったかと思われた。

 だがそのシンの心配を他所に、ツクヨは口角を上げて笑みを浮かべると、その乱入して来たモンスターの攻撃に自ら飛び込んで行ったのだ。今度の傷はそれまでの擦り傷とは違い、出血の量が多く派手にやられていた。

「おいおいッ!?まさか本当に・・・!?」

 しかしながら依然としてツクヨの表情には笑みが浮かべられている。何処にそんな余裕があるのかと疑いたくなる程だ。シンは痺れを切らし、彼の救助へと向かおうとしたところで、周囲の気配を警戒していたシンの感覚に、複数に生物の反応が浮かび上がる。

 既にツクヨ達は、精気を纏ったモンスター達に囲まれてしまっていたのだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

だらだら生きるテイマーのお話

めぇ
ファンタジー
自堕落・・・もとい楽して生きたい一人のテイマーのお話。目指すのはスローライフ!

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

微妙なバフなどもういらないと追放された補助魔法使い、バフ3000倍で敵の肉体を内部から破壊して無双する

こげ丸
ファンタジー
「微妙なバフなどもういらないんだよ!」 そう言われて冒険者パーティーを追放されたフォーレスト。 だが、仲間だと思っていたパーティーメンバーからの仕打ちは、それだけに留まらなかった。 「もうちょっと抵抗頑張んないと……妹を酷い目にあわせちゃうわよ?」 窮地に追い込まれたフォーレスト。 だが、バフの新たな可能性に気付いたその時、復讐はなされた。 こいつら……壊しちゃえば良いだけじゃないか。 これは、絶望の淵からバフの新たな可能性を見いだし、高みを目指すに至った補助魔法使いフォーレストが最強に至るまでの物語。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...