1,613 / 1,646
ライノとミネの約束
しおりを挟む
時が流れれば人も変わる。ライノが隊長になってからも、他の国や街から新しいギルドの隊員がやって来るのは止まらなかった。どんなに調査が進んでも、どんなに注意を払っていても、光脈の精気に当てられてしまう者は出てしまう。
「隊長は、ミネっていう調査隊の方とお知り合いなのですよね?」
「ん?あぁ、そうだが・・・」
「いいのですか?その・・・彼に好き勝手させてしまって。以前は調査隊もギルドの管轄にあったとされているようですが?」
ハインドの街のギルドと調査隊の因縁については、現在調査隊が二名しか残っていない事もあり、長期の自粛という対応を持って、回帰の山の調査の指揮権は各々の組織に依存すると、ライノが新たに規約の改正に努めていた。
そして今では、そんな彼の働きのおかげもあり、調査隊であるミネとカガリは昼夜問わず自由に山へ出入り出来るようになっている。
「構わんさ、彼らも自己責任んで調査を行なっている。こちらの手を煩わせないという条件でな」
ただそれは、あくまで建前に過ぎない。この規約の改正はギルドと調査隊が完全に袂を分つものではなく、二人が互いの目的の為に協力する為の、嘗ての約束でもあったのだ。
あの日、回帰の山の美しい湖で光脈の川を目にする前、ミネはライノに光脈の存在やその性質、そして過去の忌まわしき儀式の事を知れば、自ら調査などしたくなくなると告げたが、それでもライノは自分が出世して調査隊を自由にし、ギルドが裏で協力する事を約束していたのだ。
これにより回帰の山の調査は実質的にミネとカガリが行う事になり、山の犠牲者の数がこれまで以上に抑えられる事となった。
「ミネ・・・。俺は約束を果たしたぞ。調査はどうなってる?何故今まで沈黙していたんだ。考えが変わっちまったのか?」
だが、ライノの想定外だったのはミネが失踪し、街に帰って来たと思ったら何処からか赤子を連れて来たミネは、その子をまるで自分の子のように育て始めた。
ミネの噂はライノの耳にも入っていたが、ギルドが行う山の調査はより安全を重視したやり方となった為、他の依頼がギルドに多く寄せられるようになり、その対応で忙しくなってしまっていた。
街の風向きが変わり、山への出入りは行商人や旅の者達が行き来する時の光脈の様子を確かめるだけに留まり、調査は滞っていた。ミネにどのような考えがあったのかはライノには知る由もない。
八号目付近で狼煙を上げていたシン達一行は、夜明けを待つその間も精気によって不気味なほど強靭に成長したモンスターの襲撃を受けていた。
「アクセル、アンタの能力なら事を静かに収められるだろ?」
「それを言うならシン、お前のアサシンとしてのスキルも、相手が死に気づく前に暗殺するのに適した能力なんだろ?」
「行けッ!アクセル、シン!モンスターの来る位置は俺が教えてやる」
「ツバキ達は私達に任せてくれ、シン」
数こそカガリ救出の時ほど多くはなかったが、個々の能力はこれまでの比にならないほど恐ろしく膨れ上がっていた。
通常よりも魔力量が二倍以上もあり、体格も一回りも二回りも大きく攻撃の威力も範囲も計り知れないものとなっていた。
それらの気配をケネトがどの方角から来るか、先回りして調べそしてシンの影のスキルと、アクセルのソウルハッカーのスキルで殺さずに森へと追い返していく。
明かりが無ければアサシンのスキルは、通常時よりも強力なものとなり存分に力を振えた。ケネトからモンスターの位置を教えてもらったシンは、影の中を移動して忍び寄ると、モンスターがシンの存在に気がつく前に森の木々の影を集め、底無しの巨大な影の沼を作り出し、森の奥へと追い返す。
別の場所ではアクセルが木の上に登り、枝を伝って移動すると、上方からモンスターの魂を抜き取り遠くへとそれを投げる。魂を失ったモンスターは、自分の魂を追いかけ一人でにその巨体を森の奥へと運んで行った。
「いいか?山頂付近の生き物は、光脈の精気によって育てられた神聖な生物として扱わなければならない。さもなくば山の怒りを買い、人の歴史や営みなど瞬く間に飲み込んでしまう・・・と、されている」
「されている?言い伝えか何かですか?」
ケネトの語りにツクヨが尋ねる。回帰の山には未だ未開の謎が多くあり、それらの自然の怒りに触れぬよう言い伝えとして、様々な形や儀式としてその行いを封じてきたのだと言う。
「要するに、回帰の山の山頂付近。とりわけ光脈の加護を受けた生物は、人であれ獣人であれ魚人であれ、それが例えモンスターであれ命を奪う事は山の神の怒りに触れるとされてきた」
「なるほど、それでシンとアクセルさんが最適って訳ですね」
ツクヨの剣技やツバキのガジェット、ケネトの魔法ではその神聖な生き物となったモンスターを傷付けてしまう。それ故の人選だった。
「隊長は、ミネっていう調査隊の方とお知り合いなのですよね?」
「ん?あぁ、そうだが・・・」
「いいのですか?その・・・彼に好き勝手させてしまって。以前は調査隊もギルドの管轄にあったとされているようですが?」
ハインドの街のギルドと調査隊の因縁については、現在調査隊が二名しか残っていない事もあり、長期の自粛という対応を持って、回帰の山の調査の指揮権は各々の組織に依存すると、ライノが新たに規約の改正に努めていた。
そして今では、そんな彼の働きのおかげもあり、調査隊であるミネとカガリは昼夜問わず自由に山へ出入り出来るようになっている。
「構わんさ、彼らも自己責任んで調査を行なっている。こちらの手を煩わせないという条件でな」
ただそれは、あくまで建前に過ぎない。この規約の改正はギルドと調査隊が完全に袂を分つものではなく、二人が互いの目的の為に協力する為の、嘗ての約束でもあったのだ。
あの日、回帰の山の美しい湖で光脈の川を目にする前、ミネはライノに光脈の存在やその性質、そして過去の忌まわしき儀式の事を知れば、自ら調査などしたくなくなると告げたが、それでもライノは自分が出世して調査隊を自由にし、ギルドが裏で協力する事を約束していたのだ。
これにより回帰の山の調査は実質的にミネとカガリが行う事になり、山の犠牲者の数がこれまで以上に抑えられる事となった。
「ミネ・・・。俺は約束を果たしたぞ。調査はどうなってる?何故今まで沈黙していたんだ。考えが変わっちまったのか?」
だが、ライノの想定外だったのはミネが失踪し、街に帰って来たと思ったら何処からか赤子を連れて来たミネは、その子をまるで自分の子のように育て始めた。
ミネの噂はライノの耳にも入っていたが、ギルドが行う山の調査はより安全を重視したやり方となった為、他の依頼がギルドに多く寄せられるようになり、その対応で忙しくなってしまっていた。
街の風向きが変わり、山への出入りは行商人や旅の者達が行き来する時の光脈の様子を確かめるだけに留まり、調査は滞っていた。ミネにどのような考えがあったのかはライノには知る由もない。
八号目付近で狼煙を上げていたシン達一行は、夜明けを待つその間も精気によって不気味なほど強靭に成長したモンスターの襲撃を受けていた。
「アクセル、アンタの能力なら事を静かに収められるだろ?」
「それを言うならシン、お前のアサシンとしてのスキルも、相手が死に気づく前に暗殺するのに適した能力なんだろ?」
「行けッ!アクセル、シン!モンスターの来る位置は俺が教えてやる」
「ツバキ達は私達に任せてくれ、シン」
数こそカガリ救出の時ほど多くはなかったが、個々の能力はこれまでの比にならないほど恐ろしく膨れ上がっていた。
通常よりも魔力量が二倍以上もあり、体格も一回りも二回りも大きく攻撃の威力も範囲も計り知れないものとなっていた。
それらの気配をケネトがどの方角から来るか、先回りして調べそしてシンの影のスキルと、アクセルのソウルハッカーのスキルで殺さずに森へと追い返していく。
明かりが無ければアサシンのスキルは、通常時よりも強力なものとなり存分に力を振えた。ケネトからモンスターの位置を教えてもらったシンは、影の中を移動して忍び寄ると、モンスターがシンの存在に気がつく前に森の木々の影を集め、底無しの巨大な影の沼を作り出し、森の奥へと追い返す。
別の場所ではアクセルが木の上に登り、枝を伝って移動すると、上方からモンスターの魂を抜き取り遠くへとそれを投げる。魂を失ったモンスターは、自分の魂を追いかけ一人でにその巨体を森の奥へと運んで行った。
「いいか?山頂付近の生き物は、光脈の精気によって育てられた神聖な生物として扱わなければならない。さもなくば山の怒りを買い、人の歴史や営みなど瞬く間に飲み込んでしまう・・・と、されている」
「されている?言い伝えか何かですか?」
ケネトの語りにツクヨが尋ねる。回帰の山には未だ未開の謎が多くあり、それらの自然の怒りに触れぬよう言い伝えとして、様々な形や儀式としてその行いを封じてきたのだと言う。
「要するに、回帰の山の山頂付近。とりわけ光脈の加護を受けた生物は、人であれ獣人であれ魚人であれ、それが例えモンスターであれ命を奪う事は山の神の怒りに触れるとされてきた」
「なるほど、それでシンとアクセルさんが最適って訳ですね」
ツクヨの剣技やツバキのガジェット、ケネトの魔法ではその神聖な生き物となったモンスターを傷付けてしまう。それ故の人選だった。
0
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

異世界無宿
ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。
アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。
映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。
訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。
一目惚れで購入した車の納車日。
エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた…
神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。
アクション有り!
ロマンス控えめ!
ご都合主義展開あり!
ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。
不定期投稿になります。
投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる