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ミネの記憶の話
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「まただ・・・何なんだよ、これぇ!?」
「何者かの記憶だろう。前に見た時の記憶と繋がったな」
一度目に記憶の映像を見た時は、それが一体何だったのか、何をしている様子だったのか全く分からなかった。だが今回一行が見た記憶により、その不確かな記憶が何なのか分かり始めてきた。
「アクセルやケネトはどうだ?今のが何だったのか分からないか?」
「確かな事は分からないが、あの男が見た光る川が俺達の見たものと同じなら、あの記憶の場所がここ、回帰の山である可能性は高いだろうな」
「地形自体はよく似ている。だが、回帰の山の記録にあれ程大きく山頂が抉られたという記録は残っていないだろう。それに抉られたのが本当だとするならば、地形そのものが、今とは違った形になっているだろうしな」
ハインドの街で調査隊の記録を読み漁ったというアクセルとケネトであっても、あの記憶の光景だけでは分からないようだ。そして何よりも、あの光景の中で最も印象的だったであろう、山が抉られたのが景色。
ケネトが言うように、あれだけ地形が変わる程の変形があれば、その後の地形にも大きく影響がある筈。しかし現在の回帰の山には、そのような過去があったような記録も形跡も無いのだという。
「カガリ君はどうだい?調査隊として今活動しているのは、君とミネさんって人だけなんだよね?」
「あっあぁ・・・そうだけど」
「なら、ミネさんから何か過去の調査隊の記録にはない事を聞かされたりしていないかい?」
「記録にない事だって?おいおい、いくら何でもそりゃぁ・・・」
ツクヨがカガリにした質問から何かを察したミアが、記録に記された過去の出来事について記憶に自信がありげなアクセルを呼び止める。
「いや、あり得ない話じゃないだろ。代々受け継がれてるものなら別かも知れないが、過去の失態から肩身の狭い思いをしている組織が、組織内だけで秘密裏に受け継いでいる話や能力があるってのは」
「そうそう!そういうの!カガリ君、何か心当たりはないかい?」
「そう言われても、どの話が調査隊の記録に無い話なのかとか、俺には全く・・・」
「難しく考えなくてもいい。“山が抉られた”という事に関する話はなかったか?または山の地形に関する話とかな」
「地形・・・地形か」
ケネトの助言でミネの昔話を思い出していたカガリは、以前に彼から聞いた不思議な話を語る。カガリ曰く、それは言い伝えや継承するようなものではなく、本当か嘘かも分からない与太話として聞いた話に過ぎなかったようだ。
それはミネが酷く酔っ払った時に聞いた話で、カガリもそんな彼の話をちゃんと聞いてはいなかった。だが普段から山に関しては厳しいミネが語るものだからと、アクセルらと同じように過去の調査隊の記録を探した事があったそうだ。
「ミネさんも聞いた話みたいに話してたから、ホントか嘘かは分からないけど、ミネさんがまだ若い頃に回帰の山が綺麗にくり抜かれたみたいに抉られた事があったんだとさ。でもそんな事、もし本当ならもっと誰かが知っててもいい話だろ。だから俺、いろんな人に聞いた事もあったし、一人で調べた事もあった。でも人に聞いても、そんな事あり得ないって馬鹿にされるだけだし、記録にもそんな話は見つからなかったんだ・・・」
「つまり、ミネさんしか知らない話って事かい?」
「でも、その時のミネさんも酷く酔っ払ってたし、ただの夢の話だったんじゃないかって思ってたけどさ・・・。さっきの誰かの記憶を見たら、やっぱりあの話って嘘じゃなかったように思えるんだ」
「ミネだけが知っている話に、俺達が見た誰かの記憶・・・。山が抉られた景色ってのは、その何者かの記憶の中で確かにあった。カガリの聞いたというミネの話と一致する。それがミネも誰かから聞いた話なのか、それともミネ自身の体験談なのか」
しかし、記憶の中で聞いた声はミネのものではなかったと皆は語る。一番近くで聞いていたカガリですら、記憶の中の男の声はミネのものではないと言うのだから、恐らくあの記憶の男の声はミネではないのだろう。
「だがどうするよ実際。山頂の方角も分からねぇし、今がどの辺りかも分からねぇんだろ?そんな状態でどうやって先や後ろに戻るってんだぁ?」
「・・・・・」
ツバキの問いに、一行は口を噤んでしまう。シン達は勿論のこと、アクセルとケネトにもどうする事が正解か分からず、カガリにも今回帰の山に何が起きているのか分からなかった。
「山頂の方角も、目印になるような物も地形も分からない・・・。周囲に生き物の反応もないというのが唯一の救いか。襲われる心配はなさそうだが・・・」
「さぁな。生き物の反応でもありゃぁ、生物の本能ってので帰り道くらい分かったかも知れねぇぞ?」
「他に何か、周囲から感じられる反応はないのかい?」
他に感じられるものがあるとすれば、回帰の山や生命の源たる光脈の反応だろうが、それもどういう訳か今は感じられないのだという。山頂に近づけば反応も強くなる筈なのだが、今となってはまるで山の外かのように感じられない。
完全に向かうべき方角を見失う一行に、道を切り開いたのは唯一人間以外の種族である紅葉だった。明らかに普通の生き物とは違った能力を持つ紅葉には、人には感じられない僅かな反応が分かるのか、静かになった一行の中で再びアカリの元を離れ、今度はリナムルで見せた時のように、姿を変えて羽ばたき始めた。
「何者かの記憶だろう。前に見た時の記憶と繋がったな」
一度目に記憶の映像を見た時は、それが一体何だったのか、何をしている様子だったのか全く分からなかった。だが今回一行が見た記憶により、その不確かな記憶が何なのか分かり始めてきた。
「アクセルやケネトはどうだ?今のが何だったのか分からないか?」
「確かな事は分からないが、あの男が見た光る川が俺達の見たものと同じなら、あの記憶の場所がここ、回帰の山である可能性は高いだろうな」
「地形自体はよく似ている。だが、回帰の山の記録にあれ程大きく山頂が抉られたという記録は残っていないだろう。それに抉られたのが本当だとするならば、地形そのものが、今とは違った形になっているだろうしな」
ハインドの街で調査隊の記録を読み漁ったというアクセルとケネトであっても、あの記憶の光景だけでは分からないようだ。そして何よりも、あの光景の中で最も印象的だったであろう、山が抉られたのが景色。
ケネトが言うように、あれだけ地形が変わる程の変形があれば、その後の地形にも大きく影響がある筈。しかし現在の回帰の山には、そのような過去があったような記録も形跡も無いのだという。
「カガリ君はどうだい?調査隊として今活動しているのは、君とミネさんって人だけなんだよね?」
「あっあぁ・・・そうだけど」
「なら、ミネさんから何か過去の調査隊の記録にはない事を聞かされたりしていないかい?」
「記録にない事だって?おいおい、いくら何でもそりゃぁ・・・」
ツクヨがカガリにした質問から何かを察したミアが、記録に記された過去の出来事について記憶に自信がありげなアクセルを呼び止める。
「いや、あり得ない話じゃないだろ。代々受け継がれてるものなら別かも知れないが、過去の失態から肩身の狭い思いをしている組織が、組織内だけで秘密裏に受け継いでいる話や能力があるってのは」
「そうそう!そういうの!カガリ君、何か心当たりはないかい?」
「そう言われても、どの話が調査隊の記録に無い話なのかとか、俺には全く・・・」
「難しく考えなくてもいい。“山が抉られた”という事に関する話はなかったか?または山の地形に関する話とかな」
「地形・・・地形か」
ケネトの助言でミネの昔話を思い出していたカガリは、以前に彼から聞いた不思議な話を語る。カガリ曰く、それは言い伝えや継承するようなものではなく、本当か嘘かも分からない与太話として聞いた話に過ぎなかったようだ。
それはミネが酷く酔っ払った時に聞いた話で、カガリもそんな彼の話をちゃんと聞いてはいなかった。だが普段から山に関しては厳しいミネが語るものだからと、アクセルらと同じように過去の調査隊の記録を探した事があったそうだ。
「ミネさんも聞いた話みたいに話してたから、ホントか嘘かは分からないけど、ミネさんがまだ若い頃に回帰の山が綺麗にくり抜かれたみたいに抉られた事があったんだとさ。でもそんな事、もし本当ならもっと誰かが知っててもいい話だろ。だから俺、いろんな人に聞いた事もあったし、一人で調べた事もあった。でも人に聞いても、そんな事あり得ないって馬鹿にされるだけだし、記録にもそんな話は見つからなかったんだ・・・」
「つまり、ミネさんしか知らない話って事かい?」
「でも、その時のミネさんも酷く酔っ払ってたし、ただの夢の話だったんじゃないかって思ってたけどさ・・・。さっきの誰かの記憶を見たら、やっぱりあの話って嘘じゃなかったように思えるんだ」
「ミネだけが知っている話に、俺達が見た誰かの記憶・・・。山が抉られた景色ってのは、その何者かの記憶の中で確かにあった。カガリの聞いたというミネの話と一致する。それがミネも誰かから聞いた話なのか、それともミネ自身の体験談なのか」
しかし、記憶の中で聞いた声はミネのものではなかったと皆は語る。一番近くで聞いていたカガリですら、記憶の中の男の声はミネのものではないと言うのだから、恐らくあの記憶の男の声はミネではないのだろう。
「だがどうするよ実際。山頂の方角も分からねぇし、今がどの辺りかも分からねぇんだろ?そんな状態でどうやって先や後ろに戻るってんだぁ?」
「・・・・・」
ツバキの問いに、一行は口を噤んでしまう。シン達は勿論のこと、アクセルとケネトにもどうする事が正解か分からず、カガリにも今回帰の山に何が起きているのか分からなかった。
「山頂の方角も、目印になるような物も地形も分からない・・・。周囲に生き物の反応もないというのが唯一の救いか。襲われる心配はなさそうだが・・・」
「さぁな。生き物の反応でもありゃぁ、生物の本能ってので帰り道くらい分かったかも知れねぇぞ?」
「他に何か、周囲から感じられる反応はないのかい?」
他に感じられるものがあるとすれば、回帰の山や生命の源たる光脈の反応だろうが、それもどういう訳か今は感じられないのだという。山頂に近づけば反応も強くなる筈なのだが、今となってはまるで山の外かのように感じられない。
完全に向かうべき方角を見失う一行に、道を切り開いたのは唯一人間以外の種族である紅葉だった。明らかに普通の生き物とは違った能力を持つ紅葉には、人には感じられない僅かな反応が分かるのか、静かになった一行の中で再びアカリの元を離れ、今度はリナムルで見せた時のように、姿を変えて羽ばたき始めた。
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