World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,605 / 1,646

男の見た記憶の続き

しおりを挟む
 身体は無重力状態となり、落ちた勢いを緩めながら男は奈落の底へと、二人を連れ戻しに向かう。水面には確かに映っていた二人の人影。しかし、その川へ飛び込んだ男が体験したのは、川へ飛び込むのとは全く別の体験だった。

 何も見えない中を落ちて行く男は、闇雲に周囲へと手を伸ばし続け、そこにいた筈の二人を探していた。幸か不幸か、男の必至の働きが功を奏し、あちこちへ伸ばしていた手が何か物体に当たる。

 確証はなかったが、男はその触れたものが二人の内どちらかの人物であると判断し、急ぎそれを掴んだ男はその物体を引き寄せる。無重力が故に、手に伝わる重さだけではそれが人の身体であるのかまでは分からない。

 しかし手繰り寄せていくよ、男の腕には余るほど物体の感触が大きい事に気がつく。否、大きいのではなく、手繰り寄せた物体は二つだったのだ。これで男は、その二つの物質が彼らである事を確信し、両腕に抱えながら上を目指して登ろうとする。

 だが男の身体は下へ下へと落ちて行く反面、二つの物体は男の反応とは反対に、意識を持つ男に触れたと同時に徐々に上へ向かって上がって行く。自分の手元から離れていってしまいそうになるそれらを、最初は男も引き止めようとしたが、落ちる自分が引き止める事で彼らは上へ帰れないのではと考える。

 男は二つの物体から手を離し、上へ向かう二つの物体を見送る。するとある程度上がっていったところで、その二つの物体が照らし出され、男の予想通り助けようとしていた男女であったことが明らかになる。

「良かった、やはりあの二人だったか。これで良い・・・これで・・・」

 上がって行った二人はそのまま光に包まれ姿を消した。その空間から姿を消したことが救いになったのかは定かではないが、男には彼らが無事ここから解放されたのだという安心感があった。

 だが、二人の代わりに一人取り残されてしまった男は、何もない空間をただ落ちて行くだけとなり、何処へ向かうかも分からないまま、ただ達成感とこれまでの事を思い出していた。

 男が思い出していた記憶は、それを見ていたシン達にも共有されていた。

 先程の男女が、男の街へとやって来る記憶が浮かび上がる。彼らを街の人が歓迎している様子を、男は離れて眺めていた。如何やら二人は何処かへ行っており、街へ帰って来たような場面だったらしい。

 そして次の場面では、その男女の元に赤子が誕生していた。だが赤子の出産をその場にいた者達は喜んでいなかった。騒がしくなる部屋に男がやって来ると、旦那の方が男に何かを必死に伝えている。

 それを聞いた男は唖然とした様子で、ただただその場で旦那の必死の訴えを聞き入れているだけだった。再び場面は切り替わり、回帰の山と思われる山道を、白装束に身を包んだ者達が仰々しく列をなして登って行く。

 行列の中腹辺りに台座を運ぶ者達がおり、そこには綺麗な布に包まれた赤子が居た。そして列の最後尾には、他の者達と同じく白装束に身を包んだ男女が暗い顔で参列している。

 山頂であろう開けた場所に到着した一行は、そこに置かれた台座の上に赤子を乗せて離れると、何かの祈りの儀式のようなものを始めた。それを少し遠くから見ていた男は、その子の両親である男女の方へと視線を送る。

 祈りの儀式を行う他の者達の動きを、二人はただじっと立ち尽くして見ているだけだった。その光景は男の記憶越しに見ていたシン達にさえ、二人の悲しみと絶望が伝わってくるようだった。

 赤子を山頂の台座に取り残し、白装束の一行はその場を離れ山道を下って行く。間も無く山を抜けて街へと戻って来ようかとしたところで、二人の男女はこっそりと行列から抜け出し、山へと戻って行ってしまった。

 男は二人が心配で見張っていたのだろう。唯一二人の動きに気がついた男は、恐らく赤子を連れ戻しに行くのだと察しその跡をつける。他の者達に気付かれぬところまで離れた男女は、そこで白装束を脱ぎ去り山道を急足で駆け上がって行く。

 だが長い時間をかけて降って来た山道はすっかり真夜中となっており、先もハッキリとしないほど視界が悪く、道中の草木で傷だらけになりながらも走り続ける男と女。

 追っていた男は二人の気配を頼りに山道を登るも、まるでそれを阻むかのように邪魔しに入る魔物達に苦戦を強いられていた。このままでは二人を見失ってしまうと考えた男は、整備された山道から横道へと入り、道なき道を進みながら迂回して山頂を目指す事にしたようだ。

 再び場面が切り替わると、最初にシン達が男の記憶で見た、山が抉られるように消失している光景を目撃する。如何やら今までの記憶は、その最初に見た男の記憶へと繋がるものだったらしい。

「何だアレはッ・・・!?」

 男がその光景に驚愕したところで男の記憶は途絶えた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

処理中です...