World of Fantasia

神代 コウ

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まどろむ景色と感覚

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 この場所が原因なのか、それともカガリを山で見つけた際に起きた出来事がトリガーになったのか。原因が分からない一行は、皆の状態を確認してから野営を畳み、捜索の続きへと戻る。

 次に目指すのは七号目付近の山道となる。これまで以上にモンスターが強くなったり、光脈に精気の影響も徐々に身体に現れ始める頃だと、アクセルは一行に注意を促す。

 カガリの勧めもあり、事前に精神を安定させる薬を服用して準備を整え、歩みを進める。その道中で、アクセルとケネト、それにカガリ達が一体どの程度回帰の山を登ったことがあるのか尋ねるシン。

「これから更に精気が濃くなるんだろ?アンタ達はどのくらい山頂へ登ったことがあるんだ?」

「普段の状態の回帰の山なら、俺達は何度も登ったことはあるぞ」
「あぁ、だがここまで山が荒れているのは初めてかもな・・・。カガリ、お前はどうだ?」

「俺もここまで精気を強く感じるのは初めてかも・・・。普段は測定しながら慎重に登るんだけど、今回は戦える人が多いんでいつも以上に早く登れるって感じかな。山越え自体は何度かミネと一緒に経験してるよ。他の国や街からの行商人を案内するんで、ギルドからも頼まれたりもするし」

 どうやら三人とも、ここまで荒れた山に入るのは初めてだったらしい。山にヌシの交代自体、それほど頻繁に起こる事ではないらしく、調査隊の記録では、先代の隊長の中にはヌシの交代が行われる時期の山を経験せずに引退した者もいるくらいだとカガリは語る。

 そもそも調査隊による光脈の乱れの観測が行われた際は、回帰の山へは入らないという決まり事がハインドに街や、その周辺諸国に知れ渡っている。

 だが、例え規則や決まり事があっても、それを全ての者が守る訳ではない。当然、危険な時期に入っていようと、急ぎの様や危険と知りながら入る輩もいる。

 大抵はそういった期間に山に入った者は帰って来なかったり、異常をきたして戻って来る者が多かったようだ。

「何だって俺達が来たタイミングで、そのヌシとやらの交代時期が来ちまったんだ!?運悪過ぎだろ・・・」

「でもここまで来ちゃったら、もう山を越えた方が早いよね?遠回りしても私と紅葉はよかったけど・・・。シンさん達には何か事情があるんですもんね?」

 アカリの言葉に最も反応したのはツバキだった。確かにシン達には悠長に旅をしていると、現実世界で悪さをしている“フィアーズ”なる組織や、シン達とは別に異世界から現実世界へとやって来た者達である“イーラ・ノマド”と呼ばれる者達、そしてこちらのWoFの世界で度々シン達の前に現れる黒い衣を纏った者達。

 彼らが別の世界へ転移すると仕組みを解明し、必ずしも悪事に利用しないという保証は何処にもない。寧ろ彼らなら、それを使って何かとんでもない出来事を引き起こそうとして来るかもしれない。

 そうなればシン達は現実の世界へ戻れなくなるだけではないく、こちらの世界で存在することすら出来なくなってしまうかもしれない。つまりは突然存在自体が消滅してしまうかもしれないという事だ。

 シン達にとっても、各世界や様々な時代に起きている異変について、いち早く知る必要があるのだ。

 そしてのんびりしていられないのはツバキも同じだった。彼の場合、彼自身に関係しているというよりも、自分と同じ様な年頃の少年達が、生物燃料の研究の犠牲になっているという事が許せなかった。

 旅の途中で、アークシティが行っていたと思われる古い研究施設のあったオルレラという街を訪れた際、そこで研究の犠牲になった少年達と、悪い事だと知っていながら協力させられていた研究者オスカーの頼みにより、ツバキはそんな非人道的な研究を止めさせたいと強く思う様になっていた。

「何の因果だろうな。だがよ、このまま山頂まで行けんだったら、アンタ達はそのまま向こう側に向かって下って行ってもいいぜ?元々俺達も、アンタ達の助けが無い事が前提だったんだからな」

「そうはいかないよ。ここまでお世話になったし、それにトミさんの事情も知っちゃったから・・・。私には彼の気持ちがよく分かるんだよ・・・」

 ツクヨは大事な人が居なくなってしまったトミと自分を重ねていた。ツクヨも現実世界で、何よりも大切な家族を失っている。彼は妻と子がこちらの世界に来ているはずと信じて疑わない。二人を見つけるまで、ツクヨは現実世界へは戻れないとも言っている。

 もしかしたらツクヨは、こちらの世界で死ぬ覚悟すらもしているのかも知れない。地獄の様な光景を目の当たりにして、彼の心はそれを受け入れる事が出来なかったのだ。

 自分と似た境遇のトミを見て、彼が救われる事がツクヨの希望にもなるかも知れない。自分の希望を明るいものとする為にも、トミには報われて欲しいと思っているようだ。そんな彼の思いを、シンとミアも汲み取っているのだろう。

 アクセルの提案は確かにシン達にとっては効率的で、時間の短縮にもなる事だったが、ツクヨに少しでも希望を持ってもらう為にも、トミの依頼を何とか叶えてあげられないかと、最後までアクセルとケネトが受けた依頼に付き合うことにしたのだ。

「そうかい?アンタらも変わってるねぇ。まぁ俺達にとっても人手が多い方が助かるし、アンタ達にとっても、どうせなら山が落ち着きを取り戻すまで待った方が安全に山を越えられるしな」

 互いの利害の一致を再確認しながら、六合目以降の山道では大型のモンスターだけではなく、交戦的なモンスターも増え、何度か戦闘を交えながらも暫く獣道を進んで行く一行だったが、ここでカガリがある異変に気がつく。

「アクセルさん、ケネトさん」

「ん?どうした?」

「あれからだいぶ歩いたと思うんですけど、七号目の目印を見ましたか?」

「いや・・・そういえば確かに見ないな。ケネトは」
「俺の気のせいだと思っていたんだが、カガリも妙に感じていたのか。実は俺もそろそろ目印か何かが見つかる頃だと思っていたんだが・・・」

 雲行きの怪しい会話をする三人に、シン達が何が妙なのかと尋ねると、これまでの山道の感覚からしても、そろそろ七号目付近である事が分かる何かしろの目印が見つかる筈らしいのだが、いくら進んでもそれが見当たらないのだという。

 山の異変で目印が壊されたり消失してしまったりしたのではないかと言う一行に、三人はそれならそれで光脈に反応が近づいたりしているものだと言うのだが、こちらも如何にも近付いている様子が感じられないのだと答える。

「おいおい、まさか迷っちまったのか!?」

 ツバキの言葉に焦燥の表情を浮かべるシン達。しかし何度も登ったことのある山道だと言うアクセルとケネトは、道に迷ったということをさも自信があるかのように否定した。

「んじゃぁ俺が上空から見てやるよ。山頂の方角が分りゃいいんだろ?」

 そう言ってツバキはカメラを取り出し、木々で覆われた上空へ向けてカメラを羽ばたかせた。枝の間を器用に潜り抜け、そして森を抜けたと思われた先でカメラが捉えたのは、濃い霧に囲まれ全く先の見えない灰色の景色だった。
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