World of Fantasia

神代 コウ

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誰かの記憶

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「なぁ!待てって、やっぱり諦めよう」

「やっぱり私には無理よ!あの子を諦めるなんて出来ないッ!」

 一人の人物の視線で何かの光景を見せられている。森を走り抜けて行く視線の主人と、もう一人は女性のようだった。視線の主人の方は何処かを目指す女性を引き止めようとしている。

 だが彼女は幾ら男が言葉を掛けても、決して止まることはなくすごい剣幕で男の言葉を跳ね除ける。だがどうしても止めたいのなら、力づくで止める事も出来る筈。そうしないのは、男もまた心に迷いがあるからなのだろう。

「君の気持ちも分かる。俺達の間に漸くできた子だ、あの子が生まれてくるのを俺も凄く・・・凄く楽しみに、生き甲斐にしてた。でもまさか、あの子が選ばれるなんて・・・」

「街の人達の手前、とてもではないけど口には出来なかった。私にも弱さがあった、迷いがあった・・・。これが街の為であり、みんなの為であり、何よりも私達を見守って下さるヌシ様の為だもの。でも・・・」

 足を止めて俯いた女性は、目にいっぱいの涙を溜め込んで男に思い丈をぶつける。どうやら二人の間に出来た子供に何かがあったようだ。

「どうしてあんな小さな子が・・・?こんなの聞いたこと無い・・・」

「みんなそうさ。初めは誰も信じちゃいなかったのに。でもあの反応を見たら疑いようがないだろ?子供はまたいつか出来る。けど君は・・・」

「あの子だってあの子しかいないわ!例え次に子授かれたとしても、それはもうあの子じゃない・・・。全くの別人、二度とあの子とは会えない・・・」

「それでもだ。分かってくれ・・・」

 男の説得で何とか足を止めた彼女だったが、その直後二人が向かっていた森の先から、凄まじい程の精気が溢れ出して来た。

「うッ・・・!この精気は!?まさかもう始まったのか?」

「ごめんッ!私、やっぱり諦められないッ!!」

「おッおい!!」

 彼女は男が油断した内に彼の手から離れ、精気が溢れ出てくる森の先へと向かって行ってしまった。その後を男も直ぐに追い掛けて行くと、そこには石造の祭壇の様なものがあった。

 そしてその祭壇の上には、分厚い布に包まれたとてつもない魔力を帯びた何かが置かれていた。二人に話からすると、それが二人の子であると思われるのだが、一切鳴き声を上げていないのがそれが何かしらの生物であるという可能性を揺るがしていた。

 彼女は一目散に祭壇の上に置かれたそれを抱き上げると、その場にしゃがみ込んで何かから守る様に腹に抱えた。続けて駆けつけた男が彼女の身体を支えながら立ち上がらせると、もの凄い精気が向かって来る先の景色に異常な光景が広がる。

 それは奥の景色から順に、何か空間の歪みにでも飲まれているかの様に、木や土だけではなく、雲や山までもが削り取られていくというものだった。そのあまりの広範囲さに、二人は絶望して足を止めてしまう。

 そして二人揃ってその場に崩れ落ちると、眼前に迫る削り取られていく光景に、二人もまた飲み込まれ一瞬にして視界が途絶えてしまった。

 ここで一行が見ていた謎の光景が切り替わり、今度は先程の二人とは別に同じ場所に足を運んでいたもう一人の人物の視界になる。山頂の方を見つめるその人物の視界にもまた、まるで山が巨大な何かに齧り取られたかの様に、景色が抉り取られていた。

「何だアレはッ・・・!?これがヌシ様の・・・いや、今はあの二人が気掛かりだ。何故禁忌を破ってまで山に戻った?故郷や街の人達がどうなってもいいとでも!?・・・それだけあの子はお前達にとって・・・」

 次に一行の見た景色は、どうやら最初の二人を追って山に入って来た人物の様だった。その声色から性別は男だと分かる。彼は二人が何かしらの禁止された行為を破り、山に我が子を取り戻しに行った事を知っているようだ。

 二人を追って祭壇があるとされている山頂を目指していた彼は、目の前で何処かへ消え去った山の上層部へと足を踏み入れていく。ごっそりと切り取られたかの様な森からは、普段は全く見ることの出来ない空を拝むことが出来る。

 しかしそれが果たして本当に空なのかと疑いたくなるほど、上空には何もなく、陽の光は勿論のこと、雲一つ無い灰色の景色が広がっているだけだった。

 そして山頂に近づくにつれて霧が深くなり、周りには根元しか残っていない木が幾つも並んでいた。異様な雰囲気の中、綺麗に抉られたクレーターの様な地形に滑り降りて来た彼は、そこで地面に掌を押し当て、何かのスキルを使用する。

 すると彼の掌に地中から黄金の光が吸い上げられて来た。本来の反応とは違ったのか、彼は咄嗟に手を引こうとしたが、黄金の光は彼の手を地中に引き摺り込もうとする。

 とても抗えぬその力に負けた彼の身体は、まるで底なしの沼に落ちていく様に地面の中へと引き摺り込まれていった。

 そこで一行の意識は現実のものへと切り替わる。まるで浅い夢を見ていたかの様な感覚に囚われていた一行は、何が起きたのか理解出来ないといった様子で各々の反応を伺う。

「俺・・・今意識を失ってた・・・のか?」

「アクセルもか?実は俺も今、何か別の誰かの光景を見ていた様な・・・」

 アクセルとケネトの始めた会話から、その場にいた全員が同じ光景を共有していたことが明らかになる。その後シン達やカガリ、そしてアクセルらと見ていた光景について話をしていく。

 話せば話すほど、全員の口から同じ光景の話が上がる。誰かの視界となり何処かの森の光景を目にしていた事から、これが誰かの記憶ではないかという結論に至る。

 だがそれがいつの、何処の誰の記憶なのかは分からない。しかし唯一、現在彼らが遭遇した出来事と重なる様な部分があった。それは山の中で黄金に輝く光に遭遇し、触れたという事だった。

 恐らくそれは光脈の川と見て間違いないだろう。あの記憶の中で男が飲み込まれた光もまた、一行が意識を失った時に見た黄金の川と同じ性質なのだろう。
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