1,596 / 1,646
カガリの両親
しおりを挟む
篝火で暖を取りながらカガリの話を聞く一行。現在の見張りはケネトとツクヨが担当している。一応、見張り役には気配を感知できるスキル持ちの人間がそれぞれ交互に出るようにしており、シン達一行からはアサシンのクラスで相手の気配を読み取る事に長けているシンが担当する事となった。
アクセルとシンとミア。彼らがカガリの話を聞き、他の者達に伝える役割を持ち、彼の話に耳を傾ける。
「俺には両親がいないんだ。ミネさんが山で泣いている俺を拾ってくれて、それ以来ミネさんが俺の親代わりだった。けど、ミネさんは自分を親とは思うな、お前には確かな愛情を注いでくれる本当の両親がいるって言ってたんだ。まぁ、それ以上聞こうとしても何も教えてはくれなかったけど・・・」
話を聞いたシンがミアの方を見る。この話は宿屋で調査隊との接触を果たしたと言うミアとアカリから聞いた話と同じだった。だがこの時はミアも初めて聞くフリをしていた。
それはミネが両親のことを頑なにカガリに伝えようとしない様子を目の当たりにし、本人からもそう聞いていたからだった。
「けどさ、そんなに隠されたら知りたくなるじゃんか。しかも俺の両親は俺のこと愛してたって言うんだぜ?俺を山に置き去りにしたのにさ・・・」
「何か事情があるんじゃないか?仮にそれが嘘だったとしても、ミネに何のメリットもない」
アクセルは彼の生い立ちについては知らないようだ。調査隊というもの自体は調べていたようだが、その隊員一人一人の情報までは網羅していなかったらしい。
「んなこたぁ俺だって分かってますよ。ミネさんがそんな事言うような人じゃないって事くらい・・・。だから尚更気になるんすよ。ミネさんがそこまで言う俺の両親ってのが、どんな人達だったのか・・・」
「それで調べたのか?両親のこと」
「おい、ミア」
恩人に止められていた両親の捜索と、それでも両親のことを知りたい彼の気持ちのジレンマを突くことは、彼にとって辛い事なのではとシンはミアを止めようとするが、ミアはまるでカガリにそんな事で愛情を注いでくれた両親のことを諦めて欲しくないと言った様子で彼に詰め寄っていた。
「ミネさんには言ってないけど、実は一人で色々と調べてた・・・。この話はミネさんには言わないでくれよ?」
意外にも子供らしい一面を見せるカガリに、当たり前だと微笑ましい表情を浮かべて頷く一行。そして彼が調べたという両親の情報が、直接息子の言葉で伝えられていく。
どうやらカガリの両親はハインドの街で農家をしていたらしく、二人の作る作物は行商人達から評判も良かったようだ。街の中でもそれなりに有名だったらしく、近所の家々にも彼らの噂は広まり、店にも彼らの作った作物が多く並んでいたらしい。
しかし、山の様子が変わってから街で採れる作物に異変が現れ始める。それまで順調に育っていた作物は、今までの栽培方法では育たなくなってしまったのだという。
街の人達は当時の調査隊に山を調べてきて欲しいと頼んだが、これといった成果はなく原因が分からないまま暫くの歳月が経った頃、とある夫婦が何の前触れもなく忽然と姿を消してしまったらしい。
その夫婦の妻の方は、山の様子が変わる少し前から妊娠していたらしい。捜索依頼は調査隊の元にも届いていたが、山での失踪事件は軒並み解決には向かっていないのが街の通例でもあった。
恐らくその夫婦こそが両親だろうとカガリは信じているようだ。
「俺が知る限りの情報はそれだけだ。けどその夫婦が多分俺の・・・」
ハインドの街に農家というのは少なくないらしい。一瞬シンとミアの脳裏に過ったのは、山に消えた妻の捜索依頼を出しているトミの話だった。確か彼らも農家であり、畑を潤す為に山の麓へ土を採りに行ったという話だった筈。
しかしカガリの年齢を考えれば、彼らの話とは結びつかないことは直ぐに分かった。トミの妻であるユリアが失踪したのは、せいぜい数ヶ月前の事らしい。
それに比べてカガリの両親が失踪したのは、カガリ自身が赤子だった頃だという事から、今のカガリの年齢を見るに十数年経っている。
他にも似たような話はあるのかと、カガリとアクセルに尋ねる二人。それを聞いて彼らは少なくない話だと語る。
ハインドの街で生活をすれば分かる事らしいが、やはり山の恩恵を受ける事から、その山の精気がなくなってしまうと生活に支障をきたしてしまうのだという。
身体自体にはそれほど影響はないが、仕事には大きく関係するらしい。恵まれた環境にあると、それが突如として失われた時、人は今までの便利さを求めてしまうらしい。
故に山へ入ってしまう者も少なくないのだとアクセルは言う。
「安定した山の状態が保てればこんな事も無くなるのに・・・」
「自然が起こす現象を安定化させるなんて事、人間には出来ねぇさ」
「けどこのままじゃ、この先もずっと人は山に呑まれて行っちまう!ミネだってもしかしたら・・・」
「悪い方に考えるのはよせ、カガリ。その為の調査隊だろ?お前はそんな自然の現象と戦うミネの背中を見て憧れたんじゃなかったのか?」
「それは・・・」
今のカガリにはまだ難しい事なのかもしれないが、ミネまでも失踪してしまった以上、今誰よりも山の知識があるのはカガリだけだ。山のヌシのことや光脈のこと、そしてそこから溢れる精気のことを解明する為に、彼の力は欠かせない。
アクセルとシンとミア。彼らがカガリの話を聞き、他の者達に伝える役割を持ち、彼の話に耳を傾ける。
「俺には両親がいないんだ。ミネさんが山で泣いている俺を拾ってくれて、それ以来ミネさんが俺の親代わりだった。けど、ミネさんは自分を親とは思うな、お前には確かな愛情を注いでくれる本当の両親がいるって言ってたんだ。まぁ、それ以上聞こうとしても何も教えてはくれなかったけど・・・」
話を聞いたシンがミアの方を見る。この話は宿屋で調査隊との接触を果たしたと言うミアとアカリから聞いた話と同じだった。だがこの時はミアも初めて聞くフリをしていた。
それはミネが両親のことを頑なにカガリに伝えようとしない様子を目の当たりにし、本人からもそう聞いていたからだった。
「けどさ、そんなに隠されたら知りたくなるじゃんか。しかも俺の両親は俺のこと愛してたって言うんだぜ?俺を山に置き去りにしたのにさ・・・」
「何か事情があるんじゃないか?仮にそれが嘘だったとしても、ミネに何のメリットもない」
アクセルは彼の生い立ちについては知らないようだ。調査隊というもの自体は調べていたようだが、その隊員一人一人の情報までは網羅していなかったらしい。
「んなこたぁ俺だって分かってますよ。ミネさんがそんな事言うような人じゃないって事くらい・・・。だから尚更気になるんすよ。ミネさんがそこまで言う俺の両親ってのが、どんな人達だったのか・・・」
「それで調べたのか?両親のこと」
「おい、ミア」
恩人に止められていた両親の捜索と、それでも両親のことを知りたい彼の気持ちのジレンマを突くことは、彼にとって辛い事なのではとシンはミアを止めようとするが、ミアはまるでカガリにそんな事で愛情を注いでくれた両親のことを諦めて欲しくないと言った様子で彼に詰め寄っていた。
「ミネさんには言ってないけど、実は一人で色々と調べてた・・・。この話はミネさんには言わないでくれよ?」
意外にも子供らしい一面を見せるカガリに、当たり前だと微笑ましい表情を浮かべて頷く一行。そして彼が調べたという両親の情報が、直接息子の言葉で伝えられていく。
どうやらカガリの両親はハインドの街で農家をしていたらしく、二人の作る作物は行商人達から評判も良かったようだ。街の中でもそれなりに有名だったらしく、近所の家々にも彼らの噂は広まり、店にも彼らの作った作物が多く並んでいたらしい。
しかし、山の様子が変わってから街で採れる作物に異変が現れ始める。それまで順調に育っていた作物は、今までの栽培方法では育たなくなってしまったのだという。
街の人達は当時の調査隊に山を調べてきて欲しいと頼んだが、これといった成果はなく原因が分からないまま暫くの歳月が経った頃、とある夫婦が何の前触れもなく忽然と姿を消してしまったらしい。
その夫婦の妻の方は、山の様子が変わる少し前から妊娠していたらしい。捜索依頼は調査隊の元にも届いていたが、山での失踪事件は軒並み解決には向かっていないのが街の通例でもあった。
恐らくその夫婦こそが両親だろうとカガリは信じているようだ。
「俺が知る限りの情報はそれだけだ。けどその夫婦が多分俺の・・・」
ハインドの街に農家というのは少なくないらしい。一瞬シンとミアの脳裏に過ったのは、山に消えた妻の捜索依頼を出しているトミの話だった。確か彼らも農家であり、畑を潤す為に山の麓へ土を採りに行ったという話だった筈。
しかしカガリの年齢を考えれば、彼らの話とは結びつかないことは直ぐに分かった。トミの妻であるユリアが失踪したのは、せいぜい数ヶ月前の事らしい。
それに比べてカガリの両親が失踪したのは、カガリ自身が赤子だった頃だという事から、今のカガリの年齢を見るに十数年経っている。
他にも似たような話はあるのかと、カガリとアクセルに尋ねる二人。それを聞いて彼らは少なくない話だと語る。
ハインドの街で生活をすれば分かる事らしいが、やはり山の恩恵を受ける事から、その山の精気がなくなってしまうと生活に支障をきたしてしまうのだという。
身体自体にはそれほど影響はないが、仕事には大きく関係するらしい。恵まれた環境にあると、それが突如として失われた時、人は今までの便利さを求めてしまうらしい。
故に山へ入ってしまう者も少なくないのだとアクセルは言う。
「安定した山の状態が保てればこんな事も無くなるのに・・・」
「自然が起こす現象を安定化させるなんて事、人間には出来ねぇさ」
「けどこのままじゃ、この先もずっと人は山に呑まれて行っちまう!ミネだってもしかしたら・・・」
「悪い方に考えるのはよせ、カガリ。その為の調査隊だろ?お前はそんな自然の現象と戦うミネの背中を見て憧れたんじゃなかったのか?」
「それは・・・」
今のカガリにはまだ難しい事なのかもしれないが、ミネまでも失踪してしまった以上、今誰よりも山の知識があるのはカガリだけだ。山のヌシのことや光脈のこと、そしてそこから溢れる精気のことを解明する為に、彼の力は欠かせない。
0
お気に入りに追加
305
あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

城で侍女をしているマリアンネと申します。お給金の良いお仕事ありませんか?
甘寧
ファンタジー
「武闘家貴族」「脳筋貴族」と呼ばれていた元子爵令嬢のマリアンネ。
友人に騙され多額の借金を作った脳筋父のせいで、屋敷、領土を差し押さえられ事実上の没落となり、その借金を返済する為、城で侍女の仕事をしつつ得意な武力を活かし副業で「便利屋」を掛け持ちしながら借金返済の為、奮闘する毎日。
マリアンネに執着するオネエ王子やマリアンネを取り巻く人達と様々な試練を越えていく。借金返済の為に……
そんなある日、便利屋の上司ゴリさんからの指令で幽霊屋敷を調査する事になり……
武闘家令嬢と呼ばれいたマリアンネの、借金返済までを綴った物語

隣国から有能なやつが次から次へと追放されてくるせいで気づいたらうちの国が大国になっていた件
さそり
ファンタジー
カーマ王国の王太子であるアルス・カーマインは父親である王が亡くなったため、大して興味のない玉座に就くことになる。
これまでと変わらず、ただ国が存続することだけを願うアルスだったが、なぜか周辺国から次々と有能な人材がやってきてしまう。
その結果、カーマ王国はアルスの意思に反して、大国への道を歩んでいくことになる。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。
スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?
山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。
2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。
異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。
唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

婚約破棄された国から追放された聖女は隣国で幸せを掴みます。
なつめ猫
ファンタジー
王太子殿下の卒業パーティで婚約破棄を告げられた公爵令嬢アマーリエは、王太子より国から出ていけと脅されてしまう。
王妃としての教育を受けてきたアマーリエは、女神により転生させられた日本人であり世界で唯一の精霊魔法と聖女の力を持つ稀有な存在であったが、国に愛想を尽かし他国へと出ていってしまうのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる