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他から育む労りの心
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意識を取り戻したシンは、瞬く間にそこから一人で立ち上がれるくらいにまで回復し、まるでただの目眩だったのかと言わんばかりに、何事もなく捜索の続きをしようとしていた。
だがアクセルの判断で、これ以上進むのはやめた方がいいとの事。ケネトの帰りを待ち、揃い次第ギルドの者達を待たせている麓まで降りるらしい。と、そこで突然、アクセルの背後から男の声がした。
「アクセル、コレ・・・」
そこにいたのは、人影を追って森の奥へと向かったケネトだった。彼の手には何やらカードのような物があった。
「ぅおッ!?居るなら居るって言えよ!心臓に悪いだろ?」
「込み入った話をしていたようでな。それよりもコレを見てくれ」
そう言ってケネトに見せられたのは、ミネの調査隊のライセンスカードだった。どうやら先程の人影を追っていた際に、その人影が落とした物と思われる。
「じゃぁ何だ。さっきの人影はミネだったって事か?」
「分からない。だがシルエットは男のもののようだった。トミさんの奥さんという線はないと思うが・・・」
「結局、得られた手掛かりはこのライセンスカードと、アンタの見たという光脈の光景くらいか」
話の終わりの辺りから戻って来ていたケネトは、シンの見たという光脈の光景については聞いていなかった。一行は来た道を戻りながら、気を失っていた間のシンの経験を吟味する。
ヒーラーであり、精神的な現象について詳しいケネトでも、シンの体験したという現象については分からないし、記録や噂でも聞いた事はないのだと言う。それだけ異例の経験なのだということが、余所者のシンやツクヨでも分かる。
故に二人は、やはりWoFのユーザーであることが関係しているのではないかと睨んでいた。
森を抜け、ギルドの隊員達のところへ戻った一行は、山の中で遭遇した人影が落としていった、ミネのライセンスを彼らに手渡した。手掛かりとしてギルドの方で調査が行われるらしい。結果は後日に知らされ、そのまま彼らも新たに捜索隊を結成し、本格的に動き出すのではないかと隊員達は口にしていた。
ギルドが動くのであれば、一緒に捜索する事は出来ないのかと提案するツクヨだったが、それでは主導権をギルド側に握られてしまい、思い通りに捜索が行えない事に加え、依頼の達成の手柄がギルドのものになってしまうので、なるべくそれは避けたいとアクセルらは語る。
あくまで協力という形であればそれを回避出来るため、こちらは失踪したというギルドの隊員の手掛かりを提供し、ギルド側からはトミの依頼に関する情報を開示するという条件で取引出来るのだという。
明日になれば、多くの人手と共に捜索が行えるようになる為、今は大人しくギルド側の指示に従い、情報提供と協力の申請をして明日の準備を整えるのがいいと、アクセルらからアドバイスを受けるシンとツクヨ。
必要な物は、相変わらず精神的な状態異常に対応出来るアイテムらしい。それて可能であれば、捜索に役立つスキルの習得や、治療系の魔法の習得も出来ればしておいた方がいいらしい。
ギルドの前で別れたシンとツクヨは、漸くミア達の居る宿屋へと戻る。街はすっかり静まり返り、街灯や店先の灯りを頼りに宿屋へと戻った二人は、ミアに連絡して内側から鍵を開けてもらい中へと入った。
「随分掛かったな。その様子だと依頼人の女は見つからなかったか?」
「あぁ、それはそうだしギルドの行方不明者の手掛かりもなかった」
「唯一見つかったのが、ミネさんって人の調査隊のライセンスだったね」
ツクヨの言葉に僅かに驚いた表情を浮かべるミア。そこで二人は彼女がミネという人物と面識がある事を思い出した。ハインドの街に着いて情報収集の為に二手に分かれた彼ら。そしてミアとアカリのチームは調査隊の家を訪れていたと聞いている。
「そっか、ミアはそのミネさんと会っていたんだっけ・・・」
「まぁ大した友好関係を築いた訳じゃないからそんなに気にはならないが、見ず知らずのアタシらに色々と教えてくれて、山に入るっつったら心配もしてくれる様な奴だったからな。悪い人間じゃない。そうなるとカガリって奴の方が心配だな」
「カガリ?あぁ、確か調査隊の弟子だとかでミネと一緒に住んでいた少年か。歳はツバキよりも少し上・・・アカリくらいってところか」
「アタシらも何の因果か子供と一緒にいる事になったが故に、こういう不幸はちょっと心配になるっつぅか・・・」
ミアは自分達が居なくなったら、アカリやツバキも同じ思いをするのだろうかと考えていた。何れ彼らとも別れの時は来るだろう。だがそれが唐突であるものとは考えられない。
もしどちらかが突然居なくなる様なことがあれば、ミア達も気が気ではない。既にミア達とこの世界の住人であろうツバキやアカリとも、それだけの関係性になっているという事だった。
「そうだね、彼らも何とかして見つけてあげられれば・・・」
他人を心配するという事自体、昔の現実世界のシンであれば考えられない事だった。自分のことで精一杯で、他者との関係を築き上げていく余裕もなければ、そんな気すらシンにはなかった。
過去の友人に裏切られた経験が、シンの中で深い傷となりトラウマになってしまっていたからだ。唯一WoFの中でだけは、そんな辛い事を忘れて違う自分になれていた。
それが今は、WoFの世界でまるで生身の様に痛みも疲労も感じる様になり、より現実との境目が曖昧になっている。こちらの世界での出会いや別れが、シンの考え方や精神にも大きな変化を与えている事は間違いない。
ミアやツクヨ、それにツバキやアカリに紅葉。仲間達を失いたくないという気持ちは、彼の中で次第に大きくなり大事な存在へとなっていた。
ただ北の山を越える為に協力する。それだけの気持ちでいたが、依頼人のトミが大切な妻を探していたり、ミネとカガリが失踪した事を改めて考えると、シンは赤の他人である筈の彼らに共感出来る“心”を、この世界で育んでいた。
「明日もう一度山に向かう。紅葉の状態次第だが、やっぱり俺はみんなで行きたい」
あまりシンから直接言葉で聞く事のない真っ直ぐな気持ちに、ミアもツクヨその時は驚いたが全く同じ気持ちである事を認識して、より団結力を深めていった。
だがアクセルの判断で、これ以上進むのはやめた方がいいとの事。ケネトの帰りを待ち、揃い次第ギルドの者達を待たせている麓まで降りるらしい。と、そこで突然、アクセルの背後から男の声がした。
「アクセル、コレ・・・」
そこにいたのは、人影を追って森の奥へと向かったケネトだった。彼の手には何やらカードのような物があった。
「ぅおッ!?居るなら居るって言えよ!心臓に悪いだろ?」
「込み入った話をしていたようでな。それよりもコレを見てくれ」
そう言ってケネトに見せられたのは、ミネの調査隊のライセンスカードだった。どうやら先程の人影を追っていた際に、その人影が落とした物と思われる。
「じゃぁ何だ。さっきの人影はミネだったって事か?」
「分からない。だがシルエットは男のもののようだった。トミさんの奥さんという線はないと思うが・・・」
「結局、得られた手掛かりはこのライセンスカードと、アンタの見たという光脈の光景くらいか」
話の終わりの辺りから戻って来ていたケネトは、シンの見たという光脈の光景については聞いていなかった。一行は来た道を戻りながら、気を失っていた間のシンの経験を吟味する。
ヒーラーであり、精神的な現象について詳しいケネトでも、シンの体験したという現象については分からないし、記録や噂でも聞いた事はないのだと言う。それだけ異例の経験なのだということが、余所者のシンやツクヨでも分かる。
故に二人は、やはりWoFのユーザーであることが関係しているのではないかと睨んでいた。
森を抜け、ギルドの隊員達のところへ戻った一行は、山の中で遭遇した人影が落としていった、ミネのライセンスを彼らに手渡した。手掛かりとしてギルドの方で調査が行われるらしい。結果は後日に知らされ、そのまま彼らも新たに捜索隊を結成し、本格的に動き出すのではないかと隊員達は口にしていた。
ギルドが動くのであれば、一緒に捜索する事は出来ないのかと提案するツクヨだったが、それでは主導権をギルド側に握られてしまい、思い通りに捜索が行えない事に加え、依頼の達成の手柄がギルドのものになってしまうので、なるべくそれは避けたいとアクセルらは語る。
あくまで協力という形であればそれを回避出来るため、こちらは失踪したというギルドの隊員の手掛かりを提供し、ギルド側からはトミの依頼に関する情報を開示するという条件で取引出来るのだという。
明日になれば、多くの人手と共に捜索が行えるようになる為、今は大人しくギルド側の指示に従い、情報提供と協力の申請をして明日の準備を整えるのがいいと、アクセルらからアドバイスを受けるシンとツクヨ。
必要な物は、相変わらず精神的な状態異常に対応出来るアイテムらしい。それて可能であれば、捜索に役立つスキルの習得や、治療系の魔法の習得も出来ればしておいた方がいいらしい。
ギルドの前で別れたシンとツクヨは、漸くミア達の居る宿屋へと戻る。街はすっかり静まり返り、街灯や店先の灯りを頼りに宿屋へと戻った二人は、ミアに連絡して内側から鍵を開けてもらい中へと入った。
「随分掛かったな。その様子だと依頼人の女は見つからなかったか?」
「あぁ、それはそうだしギルドの行方不明者の手掛かりもなかった」
「唯一見つかったのが、ミネさんって人の調査隊のライセンスだったね」
ツクヨの言葉に僅かに驚いた表情を浮かべるミア。そこで二人は彼女がミネという人物と面識がある事を思い出した。ハインドの街に着いて情報収集の為に二手に分かれた彼ら。そしてミアとアカリのチームは調査隊の家を訪れていたと聞いている。
「そっか、ミアはそのミネさんと会っていたんだっけ・・・」
「まぁ大した友好関係を築いた訳じゃないからそんなに気にはならないが、見ず知らずのアタシらに色々と教えてくれて、山に入るっつったら心配もしてくれる様な奴だったからな。悪い人間じゃない。そうなるとカガリって奴の方が心配だな」
「カガリ?あぁ、確か調査隊の弟子だとかでミネと一緒に住んでいた少年か。歳はツバキよりも少し上・・・アカリくらいってところか」
「アタシらも何の因果か子供と一緒にいる事になったが故に、こういう不幸はちょっと心配になるっつぅか・・・」
ミアは自分達が居なくなったら、アカリやツバキも同じ思いをするのだろうかと考えていた。何れ彼らとも別れの時は来るだろう。だがそれが唐突であるものとは考えられない。
もしどちらかが突然居なくなる様なことがあれば、ミア達も気が気ではない。既にミア達とこの世界の住人であろうツバキやアカリとも、それだけの関係性になっているという事だった。
「そうだね、彼らも何とかして見つけてあげられれば・・・」
他人を心配するという事自体、昔の現実世界のシンであれば考えられない事だった。自分のことで精一杯で、他者との関係を築き上げていく余裕もなければ、そんな気すらシンにはなかった。
過去の友人に裏切られた経験が、シンの中で深い傷となりトラウマになってしまっていたからだ。唯一WoFの中でだけは、そんな辛い事を忘れて違う自分になれていた。
それが今は、WoFの世界でまるで生身の様に痛みも疲労も感じる様になり、より現実との境目が曖昧になっている。こちらの世界での出会いや別れが、シンの考え方や精神にも大きな変化を与えている事は間違いない。
ミアやツクヨ、それにツバキやアカリに紅葉。仲間達を失いたくないという気持ちは、彼の中で次第に大きくなり大事な存在へとなっていた。
ただ北の山を越える為に協力する。それだけの気持ちでいたが、依頼人のトミが大切な妻を探していたり、ミネとカガリが失踪した事を改めて考えると、シンは赤の他人である筈の彼らに共感出来る“心”を、この世界で育んでいた。
「明日もう一度山に向かう。紅葉の状態次第だが、やっぱり俺はみんなで行きたい」
あまりシンから直接言葉で聞く事のない真っ直ぐな気持ちに、ミアもツクヨその時は驚いたが全く同じ気持ちである事を認識して、より団結力を深めていった。
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