World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,584 / 1,646

規格外のモノ

しおりを挟む
 シンが目を覚ます少し前。ツクヨ達が駆け付けた音に驚き、逃げるように山の奥へと向かう人影。

 アクセルはケネトの方を振り向くと、二人は何かを察したように頷く。するとアクセルはその場でツクヨと共にシンの目覚めを待ち、ケネトは逃げた人影を追い始めた。

「え?」

 驚きと共に困惑するツクヨ。

「大丈夫だ、アイツは迷わない。ただしここからそう離れなければだが・・・。それよりアンタはソイツを診てやれ」

 アクセルはツクヨにシンの心配をするよう促す。彼の言っていた“ここから離れなければだが”というのは、ケネトはアクセルに人影の追跡を任された時に、アクセルらのいるこの地点に、自らの魔力で目印を作り出していた。

 それはケネト自身と目印を魔力の糸で繋ぎ、ある程度の範囲内であれば目印の置かれた位置を決して見失うことのない、捜索をする上では非常に役に立つ能力だった。

 だがこれはケネトのクラスによる能力ではなく、誰でも習得が可能なスキルのようだ。故に難しい魔力の制御や強力な力などは必要なく、覚えて仕舞えばアカリやツバキにも習得が可能なようだ。

 それを自らの修練で精錬し、距離を伸ばしたものらしい。人影を追って真っ暗な森の中を駆け抜けていくケネト。だが間も無く、先程作り出した目印の範囲の限界を迎えそうな距離まで来てしまった。

 まだ人影が何処まで逃げて行ったのか、果たして方向を変えていないのか分からない。そんな時、ケネトは地面に落ちている何かを見つける。それは明らかに人工物であり、森のものにしては不自然だったが故に、視界に映った瞬間にケネトの気を引くものとなった。

「何だ?何か落ちている」

 すっかり人影を見失ってしまったケネトは、仕方がなくそこで追跡を終了する事にした。ケネトは落ちていたその何かを拾い上げる。どうやら何かのカードのような物のようだ。明かりで照らしてみると、それはミネの調査隊である事を証明するライセンスのカードだった。

「ミネのライセンスだ。じゃぁあの人影は・・・」

 一先ずケネトは、その拾ったミネのライセンスを手にアクセルらの居る場所に残した目印を目指して戻る事にした。

 一方、ツクヨに抱えられ意識を取り戻したのか、シンがツクヨの呼び掛けに反応する。

「シン!しっかり!」

「意識は戻ったようだな。後は自我があるかどうかだが・・・」

「どういう事です?・・・あ!」

 シンの身を案じていたことで忘れてしまっていたようだが、ツクヨは彼の言葉の意味を考え、それが何を言っているのかについて察しがついたようだった。

 北の山で意識を失う、自我を失うということは、それ即ち山の光脈が放つ強い精気に当てられてしまったとみて、ほぼ間違いないだろう。自ら身体を動かして意識を戻したことに安心していたツクヨだったが、まだ気は抜けない。

 このまま目を覚ましたシンが自我を持っていない状態だったら大変な事になる。それというのも、一度自我を失ってしまった者は、後遺症が残る者も少なくないのだと言う。

 そしてゆっくりと目を開けたシンは、ツクヨの呼び掛けに反応して彼の顔を見ると、その後周りを見渡してまるで何処か別の場所で眠っていたかのように目を覚ます。

「ここは・・・俺は一体・・・?」

「シン!しかりしてくれ!俺が誰だか分かるか!?」

 一人称が変わっている事から、ツクヨの焦りが窺える。しかしそんな彼の心配を振り払うように、シンは彼の名と自分が何者であるかをはっきりと覚えていたようだ。

「ツクヨ・・・悪い、心配かけた・・・」

「いいんだ、そんな事は。意識はしっかりしているかい?」

「あぁ、大丈夫だ。確か俺は森の奥にいた人影を追って忍び寄ったんだが、捕えようとスキルを発動したら急に真っ暗な空間に飛ばされて・・・」

 意識を失っている間に体験した話を口にするシン。その内容はアクセルも聞いた事のない話だったが、内容的にシンの見たという黄金に輝く川というものこそが、この回帰の山という土地に眠る膨大な生命エネルギーを秘めた光脈だったのだろうと、アクセルは語る。

「意識を失っていた人間の殆どは、その時の記憶が無かったりそもそも意識と一緒に自我も失ってしまう者が多かった。アンタの見たという光り輝く川というのも、幾つか記録にはあったようだが、それが光脈だという確証は得られなかった」

「何か身体に異常はない?シン」

「どうだろうな・・・。今の所、どこか痛いとか動かないとかないが・・・」

「光脈とは、要は生物に身体に張り巡らされた血管と同じ。大地に流れる生命エネルギーの血管であり、この山のそれは大地という皮膚を越えて溢れ出すほど、強い生命エネルギーを放っている。それに触れても無事だったという事は、その強過ぎる力に当てられない何かがアンタにはあったのかもしれないな」

 アクセルの話を聞き、二人は一つ思い当たる所があった。それは彼らがこの世界の住人ではないという事だった。別世界からWoFというゲームを通して転生して来た彼らには、光脈の強過ぎる生命エネルギーに耐え得る何かがあったのだろう。

 或いは、この世界のモノでは無いが故に、規格外のモノには影響がなかったのか・・・。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

処理中です...