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豊作を促す山
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ツバキがケヴィンから貰ったカメラを参考に作り出したというガジェットに映像を元に、依頼人である“トミ・キヴェラ”の住んでいる住居へと向かう。農家をしているという庭先にある彼らの畑は、数日間全く手入れされていなかったのだろう。
そこら中に雑草が生え始め、育っていた野菜の葉は酷い虫食い状態となっており、ものによってはすっかり枯れてしまっていた。近所では最近彼の姿を見たという人はいないらしい。
呼び鈴はなく、ツクヨが彼の自宅に戸を叩き、中にいるであろうトミに声を掛ける。するとk、中から誰かの声と共に、玄関の方へとやって来る足音と気配がし始めた。
扉が開かれると、そこに居たのは話に聞いていた衰弱しているであろう姿ではなく、わりかし元気そうな様子で明るい口調の人物が二人の前に現れたのだ。
「はいはい、どちら様で?」
「え・・・?あぁ、あの・・・トミ・キヴェラさんはいらっしゃいますか?」
中から現れたその男は、ツクヨの質問に不思議そうな表情を浮かべるも、直ぐに二人が他所から来た者達であることを察する。
「彼は今体調が悪くてね。会うのは暫く日を置いてにしてもらえるかな?」
「トミ・キヴェラは妻と二人暮らしで、子供はいないし近所の人に聞いても他にこの家に出入りする者はいないと言われてた。なら、何故アンタはこの家に出入りしてるんだ?」
ツバキが自然と名乗らざるを得ない様な質問をすると、そこで漸く彼は自身が何者なのかを二人に話し始めた。そう、彼こそ先に依頼人の元を訪れていた、ギルドでトミの依頼を受けた人物として記載されていた人物だった。
「俺かい?俺はトミさんの依頼を受けた、“アクセル・アーネル”っていう者だ。奥にもう一人、相棒の“ケネト・グランバリ”がいる。んで?貴方達は?」
彼らにはトミの元を訪れる納得のいく理由があった。どちらかといえば怪しいのはツクヨ達の方だったが、そこは大人のツクヨが自分達がトミの元へやって来た理由について話した。
「へぇ、山を越えたいとな。それで山に慣れてそうな俺達を訪ねて来たと・・・」
「そうなんです。街の人が言うには、北の山は何も考えずに越えるのは不可能だって聞きました。良ければ山に何度か入った経験のある貴方達のお力を借りたいと思いまして・・・。勿論、協力頂けるのであれば我々もトミさんの奥さん探しの手伝いをします」
広大な山での人探しとなれば、彼らも人手は欲しいはず。ツクヨは協力を焚き付ける良い条件を彼に提示する。するとアクセルは、少し悩んだ後に自分一人では決め兼ねると言い、手伝ってくれるのなら丁度いいと、奥にいるケネトに紹介するついでに、一緒にトミの話を聞かないかと提案して来た。
二人はアクセルの提案を受け、まるで家の主人の様に案内する彼の後をついて行った。すると寝室に敷かれた布団で、頬のこけた男が横になり、その側でアクセルの言っていた相棒と思しき男が彼の面倒を見ていた。
「お待たせ」
「お帰り、アクセル。・・・そちら様は?」
「話すと少し長くなるんだが、どうやら北の山を越えたいんだが協力者が欲しいらしくてな?俺達の依頼を手伝う代わりに山超えの案内をして欲しいんだと」
アクセルがツクヨ達の話を簡潔に話し、それを聞いた相棒と依頼人のトミの表情を伺う二人。どうやら印象は悪くなさそうだった。依頼人のトミに至っては頭を動かしてツクヨ達の方へ向けると、弱々しく掠れた声で感謝を述べた。
「ありがとう・・・ございます」
「まぁ協力してくれるのは俺達にとってもありがたい事だ。トミさんも人手が多い方が希望が持てるってもんだ。そうでしょ?」
男が寝たきりのトミに問うと、彼は小さく頷き笑みを浮かべる。
「おっと、紹介が遅れちまった。俺はケネト、”ケネト・グランバリ“だ。んで、こちらの方が依頼人の”トミ・キヴェラ“さん」
「ツクヨです」
「ツバキです」
玄関先でアクセルに問いただした時のツバキとは打って変わり、ここでは大人しい口調へと変わっていた。流石に病人の前では彼も厳かにする気遣いは出来るのだと感心するツクヨだった。
「さて、んじゃまぁおさらいも兼ねまして、俺達がトミさんから聞いた話をしましょうか。トミさんは何か間違ってたり、付け加えたい思い出した事があれば言ってください」
病人のトミの体調を気遣い、代わりに依頼の内容について話し始めるアクセル。どうやら彼らも依頼人の話を聞いている途中だった様だ。
妻の名前は”ユリア・キヴェラ“。山に入り行方不明になってから二週間程が経つのだという。しかしそれも正確なところではない。旦那のトミが精神的に憔悴してしまい、ハッキリとした記憶がないのだそうだ。
ユリアを追って山に入ったせいもあるのだろう。トミ自身も、恐らく山の光脈の精気に当てられてしまい、意識や記憶の混濁があったに違いないとアクセルとケネトは判断している。
その後も、妻の当日の服装や特徴など身体的な情報を聞いた後、山の麓まで行った理由についての話にはいる。ここでハインドの土地の特徴について知る事が出来た。
山に近いところの土は、その光脈のおかげもあるのか、他の土と混ぜる事で植物の成長を促し、人の手が入る余地がないほどの豊潤な畑に変わるのだと言う。
そこら中に雑草が生え始め、育っていた野菜の葉は酷い虫食い状態となっており、ものによってはすっかり枯れてしまっていた。近所では最近彼の姿を見たという人はいないらしい。
呼び鈴はなく、ツクヨが彼の自宅に戸を叩き、中にいるであろうトミに声を掛ける。するとk、中から誰かの声と共に、玄関の方へとやって来る足音と気配がし始めた。
扉が開かれると、そこに居たのは話に聞いていた衰弱しているであろう姿ではなく、わりかし元気そうな様子で明るい口調の人物が二人の前に現れたのだ。
「はいはい、どちら様で?」
「え・・・?あぁ、あの・・・トミ・キヴェラさんはいらっしゃいますか?」
中から現れたその男は、ツクヨの質問に不思議そうな表情を浮かべるも、直ぐに二人が他所から来た者達であることを察する。
「彼は今体調が悪くてね。会うのは暫く日を置いてにしてもらえるかな?」
「トミ・キヴェラは妻と二人暮らしで、子供はいないし近所の人に聞いても他にこの家に出入りする者はいないと言われてた。なら、何故アンタはこの家に出入りしてるんだ?」
ツバキが自然と名乗らざるを得ない様な質問をすると、そこで漸く彼は自身が何者なのかを二人に話し始めた。そう、彼こそ先に依頼人の元を訪れていた、ギルドでトミの依頼を受けた人物として記載されていた人物だった。
「俺かい?俺はトミさんの依頼を受けた、“アクセル・アーネル”っていう者だ。奥にもう一人、相棒の“ケネト・グランバリ”がいる。んで?貴方達は?」
彼らにはトミの元を訪れる納得のいく理由があった。どちらかといえば怪しいのはツクヨ達の方だったが、そこは大人のツクヨが自分達がトミの元へやって来た理由について話した。
「へぇ、山を越えたいとな。それで山に慣れてそうな俺達を訪ねて来たと・・・」
「そうなんです。街の人が言うには、北の山は何も考えずに越えるのは不可能だって聞きました。良ければ山に何度か入った経験のある貴方達のお力を借りたいと思いまして・・・。勿論、協力頂けるのであれば我々もトミさんの奥さん探しの手伝いをします」
広大な山での人探しとなれば、彼らも人手は欲しいはず。ツクヨは協力を焚き付ける良い条件を彼に提示する。するとアクセルは、少し悩んだ後に自分一人では決め兼ねると言い、手伝ってくれるのなら丁度いいと、奥にいるケネトに紹介するついでに、一緒にトミの話を聞かないかと提案して来た。
二人はアクセルの提案を受け、まるで家の主人の様に案内する彼の後をついて行った。すると寝室に敷かれた布団で、頬のこけた男が横になり、その側でアクセルの言っていた相棒と思しき男が彼の面倒を見ていた。
「お待たせ」
「お帰り、アクセル。・・・そちら様は?」
「話すと少し長くなるんだが、どうやら北の山を越えたいんだが協力者が欲しいらしくてな?俺達の依頼を手伝う代わりに山超えの案内をして欲しいんだと」
アクセルがツクヨ達の話を簡潔に話し、それを聞いた相棒と依頼人のトミの表情を伺う二人。どうやら印象は悪くなさそうだった。依頼人のトミに至っては頭を動かしてツクヨ達の方へ向けると、弱々しく掠れた声で感謝を述べた。
「ありがとう・・・ございます」
「まぁ協力してくれるのは俺達にとってもありがたい事だ。トミさんも人手が多い方が希望が持てるってもんだ。そうでしょ?」
男が寝たきりのトミに問うと、彼は小さく頷き笑みを浮かべる。
「おっと、紹介が遅れちまった。俺はケネト、”ケネト・グランバリ“だ。んで、こちらの方が依頼人の”トミ・キヴェラ“さん」
「ツクヨです」
「ツバキです」
玄関先でアクセルに問いただした時のツバキとは打って変わり、ここでは大人しい口調へと変わっていた。流石に病人の前では彼も厳かにする気遣いは出来るのだと感心するツクヨだった。
「さて、んじゃまぁおさらいも兼ねまして、俺達がトミさんから聞いた話をしましょうか。トミさんは何か間違ってたり、付け加えたい思い出した事があれば言ってください」
病人のトミの体調を気遣い、代わりに依頼の内容について話し始めるアクセル。どうやら彼らも依頼人の話を聞いている途中だった様だ。
妻の名前は”ユリア・キヴェラ“。山に入り行方不明になってから二週間程が経つのだという。しかしそれも正確なところではない。旦那のトミが精神的に憔悴してしまい、ハッキリとした記憶がないのだそうだ。
ユリアを追って山に入ったせいもあるのだろう。トミ自身も、恐らく山の光脈の精気に当てられてしまい、意識や記憶の混濁があったに違いないとアクセルとケネトは判断している。
その後も、妻の当日の服装や特徴など身体的な情報を聞いた後、山の麓まで行った理由についての話にはいる。ここでハインドの土地の特徴について知る事が出来た。
山に近いところの土は、その光脈のおかげもあるのか、他の土と混ぜる事で植物の成長を促し、人の手が入る余地がないほどの豊潤な畑に変わるのだと言う。
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