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調査隊
しおりを挟む 酒場の店員の話では、この街には古くから山の調査を行なっている人達がいる事を教えてもらったミアとアカリは、早速彼らのいるという場所へと向かった。
「でもどんな人達なんでしょうね?回帰の山?では長年多くの人々が異常をきたして戻って来たり、山から帰って来なかったりするそうですけど、未だにそれを防ぐ術が見つかっていないって事ですよね?」
酒場を出て店員の言っていた調査隊の居るという場所へ向かう道中、アカリは不思議そうに今までの話を整理しながらミアにも意見を伺う。
「まぁそう言ってやるな。いくら調べても研究しても、分からないものってのはある。話からするとその“光脈”ってのに何かしらの原因があるようだが、何にせよそれを知らない限りは対策のしようもない」
ミアの言う通り、山の中で精神に異常をきたす原因となっているのは、恐らく山の土地に眠ると言われている光脈と呼ばれる生命力の溢れる精気の流れとみて間違いないだろう。
WoFの世界では、強過ぎる魔力、強過ぎる生命エネルギーなど、生き物の限界を超えた力に近づき過ぎると、その力に当てられた本来個々が持つ魔力や生命力の限界を超えて影響を受けてしまい、波長が乱され存在の維持自体が困難になる事があるとされている。
生半可な者では近づく事すら出来ず、強い魔力を帯びた土地や源流から漏れ出した僅かな流れに当てられただけで、生命維持の危機に陥る事すらあると言われている。
それだけ北の山、回帰の山に眠るとされている光脈が純度の高い精気で満たされているのかが分かる。
「だが調査隊なんて言われてるくらいだ。何か光脈の性質や特徴について掴んでいるんだろう」
「何でそんな事が分かるんです?」
「じゃなきゃ調査隊なんてとっくに解散させられているだろう。無駄に命を落としにいくようなものだ。止められなかったとでも思うか?」
「それは・・・」
「それに近くに住む連中も、下手の事されて山の怒りを買いたくはないだろう。無茶なことをする連中なら、それを止めようと暴動が起きてたって不思議じゃねぇのに見逃されてるってのが、その連中がイカれた連中じゃないって証拠だ」
彼女の推察に納得した様子のアカリ。だがアカリの抱える紅葉は何処かソワソワとしていた。普通の鳥でも魔物とも違う、不思議な生態をしている紅葉には、人間には感じ取れない何かを感じているのだろうか。
調査隊の居るという所在地に到着する二人。そこにあったのは想像していたような建物とは大きく異なり、他の街の民家や建物とは異なるどこか寂れたボロい作りの建物だった。
「・・・えっと、ここがその・・・調査をされている方々がいるという場所で、間違いないのでしょうか?」
「少なくとも、予算はなさそうだな・・・」
山に入っていく者達の被害を抑えたり、問題解決へ繋がるような成果をあげられないからか、街からの支援は受けられていない様子だった。稼ぎは個人個人の収入から出している、謂わばボランティアに近い活動なのかも知れない。
「とっ取り敢えず入るぞ」
「はっはい!」
早速戸を叩き声を掛けるミア。少ししてその呼び声に応えるように中から一人の男が戸を開き、顔をのぞかせる。その男の顔は少し頬が痩けており、無精髭を生やした細身といった印象を受ける男だった。
「・・・何か?」
「回帰の山の事について教えて欲しいんですが」
「わざわざここに聞きに来るって事は、他所から来た人かい?まぁ入んなよ、あまり良いもてなしはできないけど」
内装は至って普通であり、外観ほど傷んでいる様子はない。そして中にはもう一人、アカリくらいの青年が座ってこちらを見つめていた。
「あぁ、彼は俺と同じで山で起きる現象について調べてる仲間の・・・」
「“カガリ”です」
先に名前を口にした青年に対し、ミアとアカリも自己紹介を済ませる。カガリに空いているところに腰掛けるよう勧められているうちに、男がお茶を入れて戻って来た。
「すまんな、先に名前を聞いてしまった。俺は“ミネ”という。多分街で俺達の話を聞いて来ただろうが、山の光脈について調べてる者だ」
二人の事については分かったが、他の人物の姿が見えない。調査隊というくらいだ、他にも隊員がいるはずだと思ったミアは、ミネに他の隊員は何処にいるのかと問うと、彼はキョトンとした表情で答える。
「隊員は俺達だけだ」
「は?二人だけ!?」
「前はもっといたんだがな。山に入って光脈を調べる中で、何人も山の精気に当てられちまってな・・・。みんなおかしくなっちまって、山から戻らなかった」
「戻らなかったっていうのは・・・」
ミネは首を横に振った。明確に他の隊員の行方については口にしなかったが、恐らくそのまま山の中で死亡してしまったのだろう。或いは今も山の中で生きているのか。
何にしろ山に詳しい彼らであっても、確実に山の精気を回避するという術は無いようだ。調査を続けるうちに、そういったおかしくなった隊員達を見て、他の者達は山の事を調べるのは不可能だと判断して、皆彼らの元を去って行ってしまったらしい。
「でもどんな人達なんでしょうね?回帰の山?では長年多くの人々が異常をきたして戻って来たり、山から帰って来なかったりするそうですけど、未だにそれを防ぐ術が見つかっていないって事ですよね?」
酒場を出て店員の言っていた調査隊の居るという場所へ向かう道中、アカリは不思議そうに今までの話を整理しながらミアにも意見を伺う。
「まぁそう言ってやるな。いくら調べても研究しても、分からないものってのはある。話からするとその“光脈”ってのに何かしらの原因があるようだが、何にせよそれを知らない限りは対策のしようもない」
ミアの言う通り、山の中で精神に異常をきたす原因となっているのは、恐らく山の土地に眠ると言われている光脈と呼ばれる生命力の溢れる精気の流れとみて間違いないだろう。
WoFの世界では、強過ぎる魔力、強過ぎる生命エネルギーなど、生き物の限界を超えた力に近づき過ぎると、その力に当てられた本来個々が持つ魔力や生命力の限界を超えて影響を受けてしまい、波長が乱され存在の維持自体が困難になる事があるとされている。
生半可な者では近づく事すら出来ず、強い魔力を帯びた土地や源流から漏れ出した僅かな流れに当てられただけで、生命維持の危機に陥る事すらあると言われている。
それだけ北の山、回帰の山に眠るとされている光脈が純度の高い精気で満たされているのかが分かる。
「だが調査隊なんて言われてるくらいだ。何か光脈の性質や特徴について掴んでいるんだろう」
「何でそんな事が分かるんです?」
「じゃなきゃ調査隊なんてとっくに解散させられているだろう。無駄に命を落としにいくようなものだ。止められなかったとでも思うか?」
「それは・・・」
「それに近くに住む連中も、下手の事されて山の怒りを買いたくはないだろう。無茶なことをする連中なら、それを止めようと暴動が起きてたって不思議じゃねぇのに見逃されてるってのが、その連中がイカれた連中じゃないって証拠だ」
彼女の推察に納得した様子のアカリ。だがアカリの抱える紅葉は何処かソワソワとしていた。普通の鳥でも魔物とも違う、不思議な生態をしている紅葉には、人間には感じ取れない何かを感じているのだろうか。
調査隊の居るという所在地に到着する二人。そこにあったのは想像していたような建物とは大きく異なり、他の街の民家や建物とは異なるどこか寂れたボロい作りの建物だった。
「・・・えっと、ここがその・・・調査をされている方々がいるという場所で、間違いないのでしょうか?」
「少なくとも、予算はなさそうだな・・・」
山に入っていく者達の被害を抑えたり、問題解決へ繋がるような成果をあげられないからか、街からの支援は受けられていない様子だった。稼ぎは個人個人の収入から出している、謂わばボランティアに近い活動なのかも知れない。
「とっ取り敢えず入るぞ」
「はっはい!」
早速戸を叩き声を掛けるミア。少ししてその呼び声に応えるように中から一人の男が戸を開き、顔をのぞかせる。その男の顔は少し頬が痩けており、無精髭を生やした細身といった印象を受ける男だった。
「・・・何か?」
「回帰の山の事について教えて欲しいんですが」
「わざわざここに聞きに来るって事は、他所から来た人かい?まぁ入んなよ、あまり良いもてなしはできないけど」
内装は至って普通であり、外観ほど傷んでいる様子はない。そして中にはもう一人、アカリくらいの青年が座ってこちらを見つめていた。
「あぁ、彼は俺と同じで山で起きる現象について調べてる仲間の・・・」
「“カガリ”です」
先に名前を口にした青年に対し、ミアとアカリも自己紹介を済ませる。カガリに空いているところに腰掛けるよう勧められているうちに、男がお茶を入れて戻って来た。
「すまんな、先に名前を聞いてしまった。俺は“ミネ”という。多分街で俺達の話を聞いて来ただろうが、山の光脈について調べてる者だ」
二人の事については分かったが、他の人物の姿が見えない。調査隊というくらいだ、他にも隊員がいるはずだと思ったミアは、ミネに他の隊員は何処にいるのかと問うと、彼はキョトンとした表情で答える。
「隊員は俺達だけだ」
「は?二人だけ!?」
「前はもっといたんだがな。山に入って光脈を調べる中で、何人も山の精気に当てられちまってな・・・。みんなおかしくなっちまって、山から戻らなかった」
「戻らなかったっていうのは・・・」
ミネは首を横に振った。明確に他の隊員の行方については口にしなかったが、恐らくそのまま山の中で死亡してしまったのだろう。或いは今も山の中で生きているのか。
何にしろ山に詳しい彼らであっても、確実に山の精気を回避するという術は無いようだ。調査を続けるうちに、そういったおかしくなった隊員達を見て、他の者達は山の事を調べるのは不可能だと判断して、皆彼らの元を去って行ってしまったらしい。
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