World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,569 / 1,646

北の山の異名

しおりを挟む
 宿の部屋に着いた一行は早速情報収集の為、宿で留守番をする者と二つのグループに分かれる事となった。シン達WoFユーザーは三手に分かれ、メッセージ機能を使った情報交換が出来るので、この三人でグループ分けが行われる。

 だがグループ分けはもう決まったようなものだった。シンは現実世界の瑜那達と新たなシステムの確認と調整を行いたいので、宿で情報収集組の帰りを待つ留守番役で決定。

 残りは再び男女のグループという事で、ツクヨとツバキ、ミアとアカリのグループで決定した。北の山に関する情報収集の他に、現地民で山を越える一団などがあれば合流し超えたい。

 別れ際の馬車の主人の曰く、流石に山を越える馬車は出ていないらしい。商人達も別ルートから山の向こう側へ向かうらしいが、ハインドの街からはかなり離れた場所に行かなければならず、シン達にとっても何日ものタイムロスは痛い。

 だが危険な山であっても、現地の山に詳しい者達と共に慎重に山を登る時間帯と注意すべき事を守って登れば、何もそこまで大きな大惨事にはならないのだという。

 詳しくはこの街の人達に聞いてみてくれと、馬車の主人との会話はそこで終わってしまった。

「じゃぁ俺は宿で待ってるから」

「分かったよシン。情報収集は私達に任せてくれ!」
「何だよ、シンはまた留守番でいいのか?」

「あぁ、ちょっと用事があってな。まぁ今直ぐに出発って訳でもないんだ、夜とか明日とか時間のある時にでも街を見て回るよ」

「ではその時の為に、街案内出来るくらいに詳しくならないとですね!」
「そんなに詳しくなってどうする・・・。まぁ夕食頃までには戻る予定だ。それまで大人しくしてろよぉ~?」

 羨ましいかと言わんばかりの表情でシンの顔を覗き込んでくるミア。いいから早く情報を集めて来いと突っぱね拗ねるような態度を見せたシンを尻目に、一行は一度宿を離れ、それぞれ街の中へと散らばって行った。

「さて・・・。瑜那の奴はWoFユーザーのメッセージ機能と同じって言ってたけど・・・」

 シンは視界の端のタブからメニュー画面を表示すると、メッセージの欄を調べてみる事にした。すると一件のメッセージが来ており、宛先が全く知らない人物からとなっていた。

 試しにそのメッセージを開いてみると、本文には瑜那の名前と共にテスト用のメッセージだという一文が添えられていた。早速シンはそのメッセージに返信をすると、直ぐにメッセージに気づけるように宛先を登録する操作を行う。

『良かった、ちゃんと届いたようですね。今後は取り敢えずこの宛先にメッセージを送ってくれれば、こちらで調べられる事は調べてお答えします。但し時差がありますので、急ぎの際はお気を付けて』

 現実世界とのメッセージ機能は問題ないようだった。後は暫く使ってみて不備やおかしな出来事が起こらないかどうかを調べていく必要がある。

『了解した、ありがとう。では早速で悪いんだが、今俺の現在地から北にある山のマップについて情報が欲しい。場所はハインドと言う街の北側にある。どうやら無策で進むには危険な地らしい。よろしく頼む』

 向こう側からの返信はやや遅く、これが時差によるものなのだろうというのがシンの見解だ。時間にして十分ほど掛かっているようだが、正確なところはハッキリとはしない。

 瑜那の調査結果を待つ間、シンは部屋の窓から見える景色を堪能しながら用意されている茶葉で一服する事にした。

 アルバの不思議な体験の後で、モヤモヤとした気分が残っていたシンは、あの時の事件解決のスピードや違和感を思い出していた。これまでのWoFで起きた異変とはまた別物の違和感。

 自分達の知らないところで修正を加えられているような不気味な感覚は、直接強大な相手を差し向けられるよりも、ある意味怖い現象なのかも知れない。知らないという事は、こちら側から何も対策を打てないという事でもある。

「てっきり奴らの思惑が働いているのかと思っていたんだが・・・。あれは気のせいだったのか?」

 まるで黄昏れるように窓際の椅子に腰掛けたシンは、入れ立ての熱々のお茶を啜り、舌を火傷でもしたかのように口から出して冷ましていた。

 一方その頃、街へと繰り出して行ったミアとアカリ組は、街行く人々から人が集まるところを聞き出し、ハインドの酒場へとやって来ていた。

「ミアさん、また・・・」
「安心しろって、もう飲まないから!すみませ~んちょっといいですか?」

 今回ばかりは目的を優先したミア。早速カウンターの店員に話を伺うことにした。ハインドの街の北側にある山の話を出したら、何と一件目からそれらしい情報を得ることに成功する。

「北の山?あぁ、“回帰の山”の事かい?」

「回帰の山・・・?」

「他所から来た人かい?あの山に入るなら気をつけなよ?しっかり準備をした上で、詳しい者の導きがないと危ないからさ」

 馬車の主人の忠告は、どうやら確かだったらしい。ミアとアカリはあの時馬車で聞いた忠告と同じことをここでもされた。どうやらハインドの街では、誰もが知る有名な話だったらしく、近隣を行き来する者達には毎度同じ話をする事になるらしい。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

秘密多め令嬢の自由でデンジャラスな生活〜魔力0、超虚弱体質、たまに白い獣で大冒険して、溺愛されてる話

嵐華子
ファンタジー
【旧題】秘密の多い魔力0令嬢の自由ライフ。 【あらすじ】 イケメン魔術師一家の超虚弱体質養女は史上3人目の魔力0人間。 しかし本人はもちろん、通称、魔王と悪魔兄弟(義理家族達)は気にしない。 ついでに魔王と悪魔兄弟は王子達への雷撃も、国王と宰相の頭を燃やしても、凍らせても気にしない。 そんな一家はむしろ互いに愛情過多。 あてられた周りだけ食傷気味。 「でも魔力0だから魔法が使えないって誰が決めたの?」 なんて養女は言う。 今の所、魔法を使った事ないんですけどね。 ただし時々白い獣になって何かしらやらかしている模様。 僕呼びも含めて養女には色々秘密があるけど、令嬢の成長と共に少しずつ明らかになっていく。 一家の望みは表舞台に出る事なく家族でスローライフ……無理じゃないだろうか。 生活にも困らず、むしろ養女はやりたい事をやりたいように、自由に生きているだけで懐が潤いまくり、慰謝料も魔王達がガッポリ回収しては手渡すからか、懐は潤っている。 でもスローなライフは無理っぽい。 __そんなお話。 ※お気に入り登録、コメント、その他色々ありがとうございます。 ※他サイトでも掲載中。 ※1話1600〜2000文字くらいの、下スクロールでサクサク読めるように句読点改行しています。 ※主人公は溺愛されまくりですが、一部を除いて恋愛要素は今のところ無い模様。 ※サブも含めてタイトルのセンスは壊滅的にありません(自分的にしっくりくるまでちょくちょく変更すると思います)。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

処理中です...