World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,553 / 1,646

新たな目的地を見据え

しおりを挟む
 考えれば考えるほどアークシティへの潜入が困難であることが浮き彫りになっていく。沈黙が多くなる一行に対し、ケヴィンはアークシティのマイナスな面ばかりではなく、プラスの面や楽しめる要素もある事をシン達につたえる。

「暗い話ばかりで気が滅入っちゃいますね。でも嫌なことばかりでもないんですよ?」

「どういう事だ?」

「言葉の通りです。アークシティでは他では出来ない体験や、自分には出来ないと思っていた事でも実現化させるような技術の進化を体験出来ます。私の持ち込んだカメラのようにね」

 多機能を兼ね備えたアークシティのカメラは、生物の形を模して自然界に溶け込むように作られた物もあるようで、ケヴィンが購入したのは潜入捜査に優れた小型の蜘蛛の形状をしたカメラだった。

 大まかな性能は同じだが、大きさや内部容量の違いで値段や様々な機能の違いもあるらしい。小型の種類で言えば、他にもサルの形状をした物もあり、映像を記録するカメラは勿論、戦闘では相手からアイテムなどを盗む働きもしてくれる。

 他にも大型となれば、主人を護衛する用心棒としても使える程だ。勿論戦闘型の中には近接戦闘タイプや遠距離タイプ、更にはアシストサポートタイプもあり、戦闘を行う者達のにとっても良き相棒のように従えている冒険者もいるのだという。

「そうなのか?その割にはあまりそんな奴を見かけないが・・・」

「ははは、そりゃぁいい値段しますからね。それこそ一生物のパートナーになったりもするくらいですから、住居を買うくらいの大出費になりますよ」

「おいおい、そんな物俺達に勧めるなよ」

「でも夢があるでしょ?今はまだ一般には手の届かない値段がする物でも、技術の進化で誰でも手にすることが出来るようになります。それがいつになるかは分かりませんが、アークシティの技術の進化は他の国や街とは比べ物にならない程、早く進んで行ってます」

 話が明るい未来のものになると、技術に興味津々のツバキや未知の未来の話に夢を膨らませるアカリの表情は明るくなっていった。互いに夢の話を語り始める中、ツクヨはケヴィンに話題を変えてくれた事に対し感謝していた。

「ありがとうございます、ケヴィンさん」

「何がですか?」

「みんなの不安を逸らしてくれたんでしょ?」

「そんな事はありませんよ。私はただ、今後この世界に広まっていくであろう未来の話をしたまでです」

「未来・・・」

 ポロッと言葉を漏らしたツクヨの声は、寂しそうで今にも消えてしまいそうな程小さかった。彼がこの世界にやって来た目的は、現実世界で消えた妻と愛娘を探す為だとシンは聞いている。

 どうやら退っ引きならない事情があるようで、彼もまたミアと同じように目的を果たすまで現実の世界には戻りたくないと言っている。そんな彼が想像する未来とは、きっと恐らく妻子と共に描く幸せな光景なのだろう。

 彼らとの出会いで、現実世界では得られなかった絆を手に入れた今のシンなら、彼の失ったものの大きさと辛さが少しは理解出来るような気がしたのだろう。

 そしてそんな思いを胸に秘め、一行を明るく支える彼の強さに感服せざるを得なかった。

「誰もが何処でも安心して暮らせる世界。それを実現させようと頑張っているのも、アークシティの研究者達です。諸悪が何処にあるかは分かりませんが、純粋に未来に突き進む彼らを責める事は難しいですね・・・」

 すると今度は暫く口を噤んでいたミアが、力強い自分の意思を彼らに語る。

「先の事はいくら考えても仕方がない。いくら目標を掲げようと夢を見ようと、それに近づけば近づくほど目を覆いたくなる現実が見えてくるだけという事も、大いにあり得る話だろ。だから今は、邪魔するなら排除する。立ち塞がるなら越えていくだけだ・・・」

 いつにもなく言葉に想いが篭っていた。ミア自身、目標の為に努力し続け、漸く辿り着いた先が、くだらぬ人間関係に左右され、理不尽な待遇を受けるという現実に打ちのめされた過去がある。

 先を見据えた努力の時間が、全てゴミ箱に捨てていただけなのだと思った時、彼女は目の前とその先に広がる未来と現実に絶望してしまったのだろう。

 そんな彼女の言葉に、いつもは茶化しを入れるツクヨも、思わずその言葉の意味やミアのいう分からない未来について悩む事をやめた。

「皆さんの知りたがっていたアークシティに関しては、私の知る限りの事は話しました。正直、内部事情については詳しくは分かりません。私自身、深く調べた訳ではありませんので・・・。後は皆さんの目と肌で感じてもらう他ありませんね!」

「何だぁ?急に語尾を強めて。また難しい話でもしてたのかよ?」

 再び話が暗くなっていく流れを断ち切るケヴィンに、明るい未来の話をしていたツバキが反応する。ツバキとアカリが話すような明るい話をしながら、アルバでの最後の食事を楽しもうと、一行は今度こそ観光地での優雅なひと時を満喫する。

 食事を終えると、今回は事件に協力してくれたお礼だと言ってケヴィンが会計を済ませてくれた。店主と軽い挨拶を交わした後に、店先でケヴィンとはここで別れる事となった。

「さて、皆さんに伝えるべき事は伝えましたし、私はそろそろ別件の調査に戻るとします」

「別件?」

「前に話した、アルバでの失踪事件の件ですよ。ただこっちも殆ど解決に向かっているようですがね」

 宮殿で落ち合う前に、ケヴィンは既にアルバの警備隊に連絡を取り、クリストフの起こした宮殿での事件とは別に、以前からアルバで起きていた失踪事件についての調査を依頼していたのだが、どうやらそちらもクリストフの証言から彼が計画の決行を試みる前の実験として、引き起こしていた事件であった事が明かされた。

 後はその証言が正しいのかどうかの事実確認だけだった。その調査結果を確認する為に警備隊の詰め所へと向かうのだと言う。

「そうか。今回は色々と世話になったな」

「なんの、こちらこそですよ。またお会いする機会があれば、その時はよろしくお願いします。あと依頼があればいつでも連絡して下さい。その時こそ、探偵としての実力を遺憾なく発揮してみせますとも!」

「現金な奴だな。でも頼もしいよ、機会があれば依頼するとしよう」

 ケヴィンは一人ずつとしっかり握手をしながら、一言ずつ言葉を送る。そうして彼らの元から去っていった彼は、雑踏の中へと消えていく。

 彼と別れ朝食を済ませた一行は、ケヴィンの話にあった北の山を次なる目的地として、準備を整える為アルバの街で武具の購入と、各種必要なアイテムの購入をする事にした。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...