World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,550 / 1,646

失われた物、手にした者

しおりを挟む
 大勢の兵を連れてアンドレイ一行が広間を去った事で、少しだけスペースに余裕が生まれる。するとケヴィンは、我々も移動しましょうとシン達を先導して宮殿の外へと向かう。

 慣れた様子で街を進むケヴィンに、何処へ向かうのかと尋ねるとどうやらアルバに知り合いが経営している喫茶店があるらしく、そこへシン達を招待しようとしていたようだ。

「職業柄、色んなところへ向かう機会が多くて、その時出会った方がアルバに移住して店を開くと手紙が来たんです。色々あってまだ足を運べてなかったので、皆さんと一緒にと思いまして・・・」

「いいんですか?こんなに大人数で押し掛けちゃって」

「何ならでっかい鳥もいるしな」

「キィーーッ!」

 ツバキの軽口を理解しているかのように、それまで大人しかった紅葉が鳴き声を上げる。いちいち紅葉を怒らせるツバキに、アカリはキツイ視線を送りながら紅葉を宥める。

「おいおい、まるで俺が何て言ったか分かってる見てぇじゃねぇか・・・」

「ははは、大丈夫ですよ。彼は寛大な方ですから。それに動物の同伴も出来るみたいですし、何ならテラス席に案内してもらえば良いんですよ」

 賑やかな一行と共に訪れたのは、オシャレな雰囲気で早朝から客で賑わう人気店のようだった。あまりの賑わいに、案内して来たケヴィンですら驚いている。

「これは想定外でしたね。まさかこれ程人が居ようとは・・・。皆さんはここで待ってて下さい、私が先に行って店主に話をして来ます」

「あぁ、悪いがよろしく頼む」

 そう言って小走りで店内へ向かったケヴィン。一行は近くのベンチに腰掛け、彼の帰りを待つ事にした。

 街には最初にアルバにやって来た時と同じように、様々なところから色んな楽器の音が聞こえてくる。そして今ではすっかり印象の変わった、音の出るシャボン玉もそこら中に漂っていた。

 行き交う人々は、それを物珍しそうに触り、聞こえてくる音を嬉しそうに楽しんでいる。それを危うい赤子を見るような目で眺めていたツバキが、皆が思っていたであろう事を口にする。

「ったく、呑気な野朗共だな。アレのおかげで俺達がどんだけ宮殿に軟禁されてたと思ってやがんだ」

「しょうがないわよ、街のみんなは知らないんだし・・・」

「まぁ、何も知らねぇ方が幸せってやつか」

 アカリとツバキの会話を聞いていたツクヨが、最初に街を訪れた時の二人の様子を引き合いに出す。すると二人は、未知なる物に無警戒ではしゃいでいた事が恥ずかしくなったのか、顔を赤くしてツクヨの言葉を否定した。

 そんな日常の風景を見ながら、シンは今まで聞けなかった事をミアに尋ねる。

「なぁ、ミア」

「何?」

「昨日から今日の朝までの記憶に、何か違和感を感じないか?」

「違和感?どういう事だ?」

「いや、何か忘れてしまっているような・・・。何だか記憶の一部がポッカリ穴が空いたみたいで・・・!?」

 別の世界線の記憶が抜け落ちている事に、何かの違和感といった現象として記憶に変化をもたらしていたシン。頭を抑えて何か抜け落ちた記憶を思い出そうとしたところで、彼はその目から現実世界の白獅に貰った、異なる世界間でデータを送受信出来るアイテムのテュルプ・オーブが無くなっている事に気がついた。

「無いッ・・・!!」

「落ち着け。無いって何がだ?」

「現実世界で白獅と言う男から貰ったアイテムがなくなってる!」

 突然慌て出すシンに、どうしたのかと視線を向けるツバキ達。だが彼らはシン達が別の世界からやって来た事を知らない。騒いで何かを勘付かれる前に、ミアはシンを落ち着かせる。

「おい!ツバキ達の前では控えろ。バレたら面倒になるだろ?」

「ごっごめん・・・」

「それで?その無くしたモンは、そうそう無くなる物なのか?」

「いや、それはあり得ない。俺の左目に擬態して、この世界の異変を調べてもらってたんだ。知らない間に取れたり無くしたりなんか、それこそあり得ない話だ」

 シンの無くしたものは、落とし物と言うレベルの話ではない。そもそも落とす筈のない目玉という物である事。例え寝ている間に取られたとしても、流石に本人であるシンが気が付かない筈はないのだ。

「でも、無くなってるんだろ。宮殿に忘れて来たとかは?そもそも外した記憶は?」

「外した・・・?そんな筈はない。第一私生活や戦闘に支障がないように組み込まれていた。実際、これまで邪魔に感じた事もない」

「じゃぁ何か?さっきシンの言ってた、記憶の違和感と何か関係があるって訳か?」

「分からない・・・。けど一度戻って白獅に知らせないと。彼が削除したのならそれはそれで構わないが、もし誰かが持っているのなら大変な事になる」

 この世界線のシンは知る由もない事だが、テュルプ・オーブはクリストフとの戦闘に敗れた事で、アルバに現れた黒いコートの人物によって、約束通り奪われてしまっていた。

 そんなシンの様子を、民家の屋根から伺う影があった。

「今更気が付いたのかな?でもこれって、この世界の物じゃなさそうなんだよなぁ・・・。けど魔力も感じなければ、”誰かと“通じていたような形跡もない。彼はこれを何処で手に入れたんだ・・・?」

 シンからオーブを盗み出した黒いコートの人物は、太陽の光に透かせるようにしてその未知なる球体を眺めていた。どうやらシンが白獅と連絡を取り合っていた事はバレていないようだ。

 そもそもオーブを手にしたその人物は、それがどのような用途で使われる物なのかも分かっていない様子だった。実際暫くの間、シンと白獅は連絡を取り合っていなかった。

 シンから質問を送る事こそあれど、向こうからは返信すらなくなっていた。初めはアサシンギルドに何かあったのかと心配していたが、こちらの世界での騒動に巻き込まれていく内に、シンもそれどころではなくなっていて、何を質問していたのかさえ忘れていたくらいだ。

 その間に白獅が気を利かし、痕跡を残さないようシンの目から離れた時点で、通信データの削除が行われるようにシステムを組んでいたのかも知れない。

 何にせよ、そこから足がつく事はなくなったのは不幸中の幸いと言ったところだろう。

「ふん、まぁいいや。手柄を取られるのは癪だし、これで一歩リードって感じだよね?君達が取るに足りる存在なのかどうか、もう少し見極めるとしよう・・・」

 シン達を眺めながら、黒いコートの人物は別の世界線で消えた者達と同じように、黒い塵となって姿を消した。

 何とか誤魔化したシンとミアは、無くしたそのアイテムの行方を探ってもらう為、後日現実世界へ戻る算段を立てた。その際もミアはこちらに残り、シンだけが報告の為戻る事となる。

 だが今は、アークシティの情報を聞きアルバを離れるまで時間を割くことが出来ない。幸いこれまでの旅でも、街から街への移動中は異変には巻き込まれてこなかった。

 現実世界へ戻るなら移動中か、事が済んだアルバに滞在している間になる。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

処理中です...