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本当の正史を世界へ
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「えっ・・・?」
足に力が入らず、膝から崩れるクリストフ。その腹部には避けた筈のシンの槍が突き刺さっていた。吐血しながら腹部を貫いている槍を力無く握る。
「何故そこに・・・まさかあの一瞬で・・・?」
背後を見ると、そこにはクリストフのすぐ後ろに立ち尽くすシンの姿があった。クリストフは前方の柱の陰に隠れていると思っていたが、それはシンが仕掛けたフェイクだった。
柱から見えていた人影は、シンが人の形に保ちその場に残していた影にすぎず、本体はそこには既にいなかった。ならばシンはどうやって一瞬の内に、クリストフの背後に回ったのか。
槍を投げた直後に素早く移動したとも考えられるが、人程の大きさのものが素早く移動すれば、その移動に伴い生み出される風を読まれて、攻撃自体が避けられてしまう可能性があった。
故にシンは槍を投げ、クリストフが見ていた柱の陰に潜んでいたというところまでは確定していた。つまりクリストフがシャボン玉の能力を解除し、周囲に音の衝撃を放つまでは柱の陰に隠れていた事になる。
しかしその後クリストフは、槍の軌道からシンが投擲した位置を割り出し視線を向けていた。人一人くらいなら隠れられるだろう柱の幅では、その直後に移動したとしてもクリストフに姿を見られていた筈。
姿を見られる事なくクリストフの背後に回るには、シンの十八番である影の中を通るしかない。ここからはシンにとっても予想だにしなかった展開となった。
クリストフが能力の解除によって力を解き放ち、シンの投擲を防いだことが彼に幸運を呼び寄せた。
能力が解除された事により、シンの影を用いたスキルが解放され、影の中を移動することが可能になったのだ。そしてシンはクリストフに直接触れ、一度影をリンクさせていた。
これにより離れた位置からでもクリストフの影に移動できるようになっていたのだ。そこでシンは、最後に柱の陰に人影を作り、クリストフを騙す為の罠を張った。
まんまとその影をシンだと思い込んだクリストフが、既に背後に回り込んでいたシンに気が付かず、囮の方に向かったところを見送ると瞬時に影から飛び出して、別の槍で彼の腹部を貫いた。
この時シンが何故クリストフの急所を貫かなかったのか。それは彼にクリストフを殺すという意思まではなかったからだろう。
「さぁ、早く元の世界に戻れ。そうすればお前は死なないんだろ?」
クリストフが何らかの能力で作り出している今の世界。これは本来あったかも知れない世界線の一つなのだと言う。つまりクリストフの言うところの、彼の一族から能力を奪ったバッハが、このWoFの世界で音楽の父として伝わった世界というもの。
その世界線を変える為にクリストフは長い間計画を練り、その生涯を賭けて準備して来たのだ。ここで死んで全てを無駄にするよりも、もう一度この世界線を捨て、現実に世界に帰り別の機会を伺うのが得策だろう。
しかしクリストフの表情は重く、なかなか他の者達を送ったという現実世界へ戻ろうとはしなかった。
「・・・・・」
「どうした?勝負は付いた、早く戻らないとお前のその身体では・・・」
シンがわざと急所を外したのはクリストフを殺さない為だったが、腹部に突き刺さったその傷は決して軽い傷などではなかった。このまま放置すれば死にも繋がる危険な状態になってしまう。
「もう、戻れない・・・戻る訳にはいかないんですよッ!」
傷口の痛みに、膝で立っていることすら出来なくなり、床に自身の血液で染まった手をついて持ち堪える。
「馬鹿なことを言ってる場合か!そのままじゃ本当に死ぬぞ!?」
彼に現実世界へ戻る意思が無いと思ったシンは、直ぐに駆け寄り手持ちの回復薬を使おうとするが、槍が刺さったまま自力で立ち上がるクリストフの、痛々しい姿でありながらも死をも覚悟した壮絶な様子に思わず足が止まる。
「勝負が付いた?じゃぁコレも、わざと外したってのか?・・・ハッ、じゃぁはなから勝負になんてなって無かったなッ!」
「何を言ってッ・・・!?」
そこでシンは初めて礼拝堂内が、妙に静かになった事に気がつく。クリストフとの戦闘が始まった時には、確かにバッハの霊体達が月光写譜の演奏をしていた。視線をオルガンの方へ向けると、視界全体がぼやけるような光に包まれ始める。
「手を抜いたのがアンタの“敗因”だよ。俺の目的は達成された・・・もう戻る必要も無い。どの道俺はこの世界線と共に消えて無くなる。その代償に俺達の血筋が脚光を浴びるんだ・・・」
「どっどういう事だ!何が始まるッ!?」
シンの身体は指先から徐々に光の粒子へと変わり消えていく。
「安心しなよ。まだこの世界線に残ってる連中も一緒に“あっち”へ送ってやるから・・・」
黒いコートの人物が持ちかけて来た取引。それはクリストフとの戦いに決着を付ける事だったが、その勝敗の方法に相手を殺すという条件はなかった。故に勝負さえ付けば、クリストフも止められて世界の異変についても聞き出せるとシンは考えた。
だがその時点で、クリストフが言うように既に勝敗はついていたのかも知れない。クリストフは初めから死ぬつもりで、世界に埋もれた本来の歴史を世界に残そうとしていた。
シンはクリストフ・バッハに敗れたのだ。それは覚悟の違いもそうだったが、そもそもこの街、この地に積み重ねて来た思いが決定的に違っていた。黒いコートの人物も、シンとクリストフを戦わせて何かを確かめようとしていた。
もしかしたら、このWoFの世界にやって来たぽっと出のイレギュラーが、ストーリーという既に決められたものを書き換える力があるのかを、試そうとしていたのかも知れない。
恐らくこれまでに会って来た黒いコートの人物達と、さっき礼拝堂に現れた人物は別人なのだろう。他の場所ではシン達の存在がストーリーを変える結果を生み出している。
それをあの人物が知っていたのなら、或いはその時点でシン達は始末されていたのかも知れない。
足に力が入らず、膝から崩れるクリストフ。その腹部には避けた筈のシンの槍が突き刺さっていた。吐血しながら腹部を貫いている槍を力無く握る。
「何故そこに・・・まさかあの一瞬で・・・?」
背後を見ると、そこにはクリストフのすぐ後ろに立ち尽くすシンの姿があった。クリストフは前方の柱の陰に隠れていると思っていたが、それはシンが仕掛けたフェイクだった。
柱から見えていた人影は、シンが人の形に保ちその場に残していた影にすぎず、本体はそこには既にいなかった。ならばシンはどうやって一瞬の内に、クリストフの背後に回ったのか。
槍を投げた直後に素早く移動したとも考えられるが、人程の大きさのものが素早く移動すれば、その移動に伴い生み出される風を読まれて、攻撃自体が避けられてしまう可能性があった。
故にシンは槍を投げ、クリストフが見ていた柱の陰に潜んでいたというところまでは確定していた。つまりクリストフがシャボン玉の能力を解除し、周囲に音の衝撃を放つまでは柱の陰に隠れていた事になる。
しかしその後クリストフは、槍の軌道からシンが投擲した位置を割り出し視線を向けていた。人一人くらいなら隠れられるだろう柱の幅では、その直後に移動したとしてもクリストフに姿を見られていた筈。
姿を見られる事なくクリストフの背後に回るには、シンの十八番である影の中を通るしかない。ここからはシンにとっても予想だにしなかった展開となった。
クリストフが能力の解除によって力を解き放ち、シンの投擲を防いだことが彼に幸運を呼び寄せた。
能力が解除された事により、シンの影を用いたスキルが解放され、影の中を移動することが可能になったのだ。そしてシンはクリストフに直接触れ、一度影をリンクさせていた。
これにより離れた位置からでもクリストフの影に移動できるようになっていたのだ。そこでシンは、最後に柱の陰に人影を作り、クリストフを騙す為の罠を張った。
まんまとその影をシンだと思い込んだクリストフが、既に背後に回り込んでいたシンに気が付かず、囮の方に向かったところを見送ると瞬時に影から飛び出して、別の槍で彼の腹部を貫いた。
この時シンが何故クリストフの急所を貫かなかったのか。それは彼にクリストフを殺すという意思まではなかったからだろう。
「さぁ、早く元の世界に戻れ。そうすればお前は死なないんだろ?」
クリストフが何らかの能力で作り出している今の世界。これは本来あったかも知れない世界線の一つなのだと言う。つまりクリストフの言うところの、彼の一族から能力を奪ったバッハが、このWoFの世界で音楽の父として伝わった世界というもの。
その世界線を変える為にクリストフは長い間計画を練り、その生涯を賭けて準備して来たのだ。ここで死んで全てを無駄にするよりも、もう一度この世界線を捨て、現実に世界に帰り別の機会を伺うのが得策だろう。
しかしクリストフの表情は重く、なかなか他の者達を送ったという現実世界へ戻ろうとはしなかった。
「・・・・・」
「どうした?勝負は付いた、早く戻らないとお前のその身体では・・・」
シンがわざと急所を外したのはクリストフを殺さない為だったが、腹部に突き刺さったその傷は決して軽い傷などではなかった。このまま放置すれば死にも繋がる危険な状態になってしまう。
「もう、戻れない・・・戻る訳にはいかないんですよッ!」
傷口の痛みに、膝で立っていることすら出来なくなり、床に自身の血液で染まった手をついて持ち堪える。
「馬鹿なことを言ってる場合か!そのままじゃ本当に死ぬぞ!?」
彼に現実世界へ戻る意思が無いと思ったシンは、直ぐに駆け寄り手持ちの回復薬を使おうとするが、槍が刺さったまま自力で立ち上がるクリストフの、痛々しい姿でありながらも死をも覚悟した壮絶な様子に思わず足が止まる。
「勝負が付いた?じゃぁコレも、わざと外したってのか?・・・ハッ、じゃぁはなから勝負になんてなって無かったなッ!」
「何を言ってッ・・・!?」
そこでシンは初めて礼拝堂内が、妙に静かになった事に気がつく。クリストフとの戦闘が始まった時には、確かにバッハの霊体達が月光写譜の演奏をしていた。視線をオルガンの方へ向けると、視界全体がぼやけるような光に包まれ始める。
「手を抜いたのがアンタの“敗因”だよ。俺の目的は達成された・・・もう戻る必要も無い。どの道俺はこの世界線と共に消えて無くなる。その代償に俺達の血筋が脚光を浴びるんだ・・・」
「どっどういう事だ!何が始まるッ!?」
シンの身体は指先から徐々に光の粒子へと変わり消えていく。
「安心しなよ。まだこの世界線に残ってる連中も一緒に“あっち”へ送ってやるから・・・」
黒いコートの人物が持ちかけて来た取引。それはクリストフとの戦いに決着を付ける事だったが、その勝敗の方法に相手を殺すという条件はなかった。故に勝負さえ付けば、クリストフも止められて世界の異変についても聞き出せるとシンは考えた。
だがその時点で、クリストフが言うように既に勝敗はついていたのかも知れない。クリストフは初めから死ぬつもりで、世界に埋もれた本来の歴史を世界に残そうとしていた。
シンはクリストフ・バッハに敗れたのだ。それは覚悟の違いもそうだったが、そもそもこの街、この地に積み重ねて来た思いが決定的に違っていた。黒いコートの人物も、シンとクリストフを戦わせて何かを確かめようとしていた。
もしかしたら、このWoFの世界にやって来たぽっと出のイレギュラーが、ストーリーという既に決められたものを書き換える力があるのかを、試そうとしていたのかも知れない。
恐らくこれまでに会って来た黒いコートの人物達と、さっき礼拝堂に現れた人物は別人なのだろう。他の場所ではシン達の存在がストーリーを変える結果を生み出している。
それをあの人物が知っていたのなら、或いはその時点でシン達は始末されていたのかも知れない。
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