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神代 コウ

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勝負の醍醐味

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 柱の陰に潜り込んだシンを捕らえるように左右から弦を伸ばし巻きつけると、弦を綺麗に並べシンの投げた短剣の刃の部分を弓代わりにして、鼓膜に響く音を奏でる。

 柱に巻かれたクリストフの弦は、音の振動で表面を削り石でできた柱にみるみる食い込んでいく。人の身体が巻き込まれていたら、確実に肉を切り裂き骨すら両断している事だろう。

 しかし柱の根本を見ても、裏側からは血が垂れてこない。シンは既にどうやってかクリストフの攻撃を躱したようだ。仕留め損なったことを悟り、弦を切り落とそうとするクリストフ。

 だがその寸前、柱側からクリストフが起こした音の振動とは別の振動が、彼の手元に迫って来ていた。

「何ッ!?」

 急ぎ弦を手放したクリストフは、弦が宙で細かく振動しているのを見て、柱の裏で何が起きているのかを確認しに行く。そこにはシンの代わりに一本の刀剣が柱に巻き付けられており、床には投擲で用いられたであろうナイフが転がっていた。

「打ち鳴らしていた、という訳か・・・ッ!?」

 すろと、天井から何かの気配を察したクリストフがその場を飛び退く。天井から降りて来たのはシンだった。彼は間髪入れずにクリストフの元へと飛び込んでいき、顔面へ向けて拳を振るう。

 シンの拳はクリストフの目の前で彼の手によって止められる。体格はシンの方が大きい。しかしその力は人成らざる者のように強く、ゆっくりと下へ下ろされていく。

「俺の弦を利用したのには驚かされたが、所詮は物体同士が引き起こした振動。そこには魔力も何も込められていない。今にして思えば、避けてやる必要もなかったか・・・」

「チッ・・・!」

「影が使えないだけで随分と苦しそうですね」

「そうだな。自分が如何に能力に頼り切っていたのかを思い知らされる」

 クラススキルやその特徴を活かして戦うのは、全てのゲームの醍醐味だろう。本人のステータスの上昇には限界がある。それぞれのパラメータを振り分けることで、同じクラスでも個性を出すことが出来るようになっているのがWoFだが、クラスの特徴やスキルを活かすとなると、やはり偏りは出てくる。

 攻撃や防御、魔力や素早さやなど、自由にステータスを振り分けられるゲームをプレイした事はあるだろうか。一見自分だけのキャラクターを作れると思うかもしれないが、ステータスの振り分けるは結局のところ、自分が就いているクラスや使いたいスキルによって、必要なステータスやより強力に活かせる使い方などは決まっている。

 故に、結局皆同じようなステータスに落ち着くというのが現実。魔法をメイン武器として戦おうというのに、力のステータスを上げつ続けても威力は上がらない。

 シンのクラスであるアサシンは、力のステータスをそれほど必要としない。勿論、全く力のステータスがなければ投擲などの威力も落ちてしまうので、全く無いというわけでは無いが、今の強化されたクリストフと近接格闘をするにはあまりにも弱い。

 それなのに何故シンが拳を使って殴り掛かって行ったのか。無論、そこにはシンの思惑があったからだ。作戦を成就させる為に、シンは直接彼に“触れる”必要があったのだ。

 依然としてクリストフの共感覚により、礼拝堂が極彩色に見えているシンには影のスキルを使う事はできない。正確には床や壁など、本来ある筈の影が映し出されない事によって、影の中へ入ったり、影で相手を縛ったりと“表向き”なスキルが発動しないだけ。

 先程シンがやって見せたように、自身の体内の影を使って目に直接影のフィルターを掛ける事などは出来る。それは実際に証明されている事で、勿論自分だけでなく、相手に対してもそれが有効である筈だとシンは考えたのだ。

「でもこの世界において、弱い者が革命を起こす為に必要なのが、その“能力”だと俺は思います。だから能力に頼るのは当たり前のことで、必然的なことですよ。その上でどちらの能力が上か・・・それが勝敗を分けるんです!」

 シンの拳を掴んだまま、クリストフは彼の身体に蹴りを入れ吹き飛ばす。彼の攻撃を甘んじて受け入れたシンは、ダメージを負いながらも何とか受け身を取る。

「悪く思わないでください。俺だけ能力を存分に使える状況に持ち込める。それもまた俺の力だ。漸く計画が実って、望みが手の届くところまでやって来た・・・。こんなところで負ける訳にはいかないんですよ!」

「・・・・・」

 クリストフの並々ならぬ想いが伝わってくる。この日の為に計画を立てて来たのも、準備をして来たのも事実だろう。そこに犠牲があった事には目を瞑るのかなどと、綺麗事を言うつもりはシンには無い。

 そして今更言葉でクリストフをどうこうしようという気もない。彼を納得させるには、それこそ勝負に勝つしかない。確かにアサシンとしての個性を大きく削がれてしまっている事には変わりないが、その中でも工夫し、活路を見出すことこそアサシンの醍醐味だとシンは思っている。
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