1,523 / 1,646
教団の盾と音の衝撃
しおりを挟む
しかしミアの仕掛けの方は、シルフのように凝ったものではなくもっと単純なものだった。シルフが作り出した風の球体に自身の魔力を乗せ、魔弾の装填と射出時に二ノンへ合図が送られるようになっていた。
「ただ見ていただけではなかったって事ね。抜け目ないわね・・・」
「ついでだ、ついで。自動で援護する何て便利なものを使うなら、こっちの援護射撃の合図もより分かりやすくした方が良いと思ったまでだ」
効率化を図ったミアの作戦は見事にハマり、その後の戦闘は二ノンの攻撃を邪魔する事なく、スムーズな援護射撃が行われ着実にアンブロジウスの魔力を削いでいた。
他の戦場とは違い、宮殿の屋上には黒い人物の姿が現れなかった。時間としてはそれなりに経過していた筈なのだが、アンブロジウスは黒い靄の援護を受けつつミア達の猛攻を凌ぎ持ち堪えていた。
屋上の戦いが膠着状態を迎えている間、礼拝堂でも大きな動きが起きていた。
宮殿入り口と司令室での戦いを終え、戦力を集中し始めていた黒い人物とバッハの一族の霊体達。そこへ合流したのは、教団の騎士隊長であるオイゲンと、WoFの世界ではそれなりに有名だという、探偵のケヴィン。
そして彼らと行動を共にしていた音楽学校の学生カルロス。今となっては楽器を演奏できる人物は、彼しか残っていない。戦場にいる意味は大きく、三対一という不利な状況において月光写譜を奪い取れるかは難しいところだが、戦況を変えられるかもしれない力を持っている。
彼らの目的とその思惑を聞き出していたケヴィンだが、時間稼ぎも限界を迎えようとしていた。黒い人物はアンナとベルンハルトを従え、今にもオイゲンらを消しに掛かろうとしていた。
「時間稼ぎはこの辺でいいですか?こちらの目的はもう分かって頂けたと思いますが・・・」
これ以上は無理だと判断したオイゲンがケヴィンに歩み寄り、相手に聞こえぬよう耳打ちをする。
「もう十分だ、下がっていろ」
「・・・すみません、あまりお力になれず・・・」
「ここからは俺の私の・・・俺の出番だ。カルロスを頼む」
ケヴィンの肩に手を乗せ、前へと出たオイゲンは魔力により作り出した甲冑を身に纏い、特徴的な大きな盾を構え黒い人物達の前へと立ちはだかる。
ベルンハルトの司令室襲撃の際に、彼らとの戦い方は熟知しているオイゲン。戦闘体勢に入った彼に対し、黒い人物はアンナとベルンハルトに合図を出す。
先ずはお手並み拝見と、二人に戦闘を任せて黒い人物自身はまだ戦闘には参加しなかった。宙を飛びオイゲンへ向かって接近するアンナとベルンハルト。それをオイゲンは、魔力を纏った盾を突き出し弾き返した。
実際の盾よりもだいぶ前に張られた魔力の盾に押し出され、僅かに後退した二人は左右に分かれてオイゲンを挟み撃ちにする。巻き込まれないように、カルロスを連れてその場を離れるケヴィン。
その際に黒い人物の方を確認すると、何処を見ているかは分からないが、その頭は二人の方をしっかりと見ているようだった。逃すつもりはないらしい。このままカルロスを連れ、礼拝堂を離れようとすれば大人しくしている黒い人物も動き出すだろう。
余計なことをしてオイゲンの手間を増やさせる訳にもいかず、ケヴィンとカルロスは彼らの戦いを見守る事しか出来なかった。
袖から複数の弦を放つベルンハルト、そして反対側から迫るアンナは声を発して超音波のように空気を震わせる。アンナの声により振動を受けたベルンハルトの弦が不規則に動き周り、オイゲンを取り囲むように襲い掛かる。
それをオイゲンは、周囲を取り囲む半円状のシールドを張って受け止めるが、そのシールドは僅かに歪みを見せていた。
「むッ・・・!?」
自身のスキルに違和感を感じたオイゲンは、シールドの範囲内から飛び出すように移動し、向かって来る弦を剣で弾きながら場所を変える。どうやら彼のスキルに影響を与えていたのは、アンナの声だったようだ。
司令室の監視カメラでアンナの戦闘を見ていたオイゲンだったが、映像だけではアンナの攻撃方法というのは分かりづらかった。実際に相手をしてみて、漸くアンドレイの護衛達が苦戦していた理由を理解した。
「なるほど、通りで彼らが苦戦していた訳だ。・・・しかしこんな中でよくあそこまで戦えていたものだな」
アンナの声をそのまま盾で押し退けるオイゲン。跳ね返された超音波を迂回して回避したアンナは、再びベルンハルトの差し向ける弦に向けて声を発する。
オイゲンによって弾かれた弦は消滅しその数を減らしたが、弾き返された弦やアンナの超音波を避けながら、床や天井からと様々な方向から弦を生み出し、オイゲンへ向けて射出するベルンハルトの猛攻は、一人で捌き切るにはやはり無理があった。
床から飛び出してきた弦がオイゲンの身体に繋がれる。その瞬間、ベルンハルトは鍵盤を出現させ、指を流すように音を奏でる。その音は弦を伝わりオイゲンの身体を直接攻撃した。
「ぐッ・・・!」
「マズイぜ、隊長さん押され始めてないか!?」
「元々一人でも相手をするのが難しい相手です。それを二人まとめて相手にしているのですから、いずれこうなる事は予想出来ていましたが・・・」
何も出来ずただ見守ることしか出来ない状況に歯痒さを感じるケヴィンとカルロス。周囲を見渡し何か自分達にも出来ないかと探していると、礼拝堂のパイプオルガンに目を付けたケヴィンが、あれを使って演奏出来ないかとカルロスに問う。
「いや、出来ない事はないが・・・」
「楽譜ですよね?彼らが集まっているという事は、必ず月光写譜もある筈です。それを見つけられれば・・・」
黒い人物らの目的には、月光写譜の存在が必要不可欠らしい。この礼拝堂に集まっているという事は、必ず月光写譜を持ち込んでいる筈。何とかしてそれを見つけ出し、カルロスに演奏させる事ができれば、アンナとベルンハルトを抑え込む事が出来るかも知れない。
「ただ見ていただけではなかったって事ね。抜け目ないわね・・・」
「ついでだ、ついで。自動で援護する何て便利なものを使うなら、こっちの援護射撃の合図もより分かりやすくした方が良いと思ったまでだ」
効率化を図ったミアの作戦は見事にハマり、その後の戦闘は二ノンの攻撃を邪魔する事なく、スムーズな援護射撃が行われ着実にアンブロジウスの魔力を削いでいた。
他の戦場とは違い、宮殿の屋上には黒い人物の姿が現れなかった。時間としてはそれなりに経過していた筈なのだが、アンブロジウスは黒い靄の援護を受けつつミア達の猛攻を凌ぎ持ち堪えていた。
屋上の戦いが膠着状態を迎えている間、礼拝堂でも大きな動きが起きていた。
宮殿入り口と司令室での戦いを終え、戦力を集中し始めていた黒い人物とバッハの一族の霊体達。そこへ合流したのは、教団の騎士隊長であるオイゲンと、WoFの世界ではそれなりに有名だという、探偵のケヴィン。
そして彼らと行動を共にしていた音楽学校の学生カルロス。今となっては楽器を演奏できる人物は、彼しか残っていない。戦場にいる意味は大きく、三対一という不利な状況において月光写譜を奪い取れるかは難しいところだが、戦況を変えられるかもしれない力を持っている。
彼らの目的とその思惑を聞き出していたケヴィンだが、時間稼ぎも限界を迎えようとしていた。黒い人物はアンナとベルンハルトを従え、今にもオイゲンらを消しに掛かろうとしていた。
「時間稼ぎはこの辺でいいですか?こちらの目的はもう分かって頂けたと思いますが・・・」
これ以上は無理だと判断したオイゲンがケヴィンに歩み寄り、相手に聞こえぬよう耳打ちをする。
「もう十分だ、下がっていろ」
「・・・すみません、あまりお力になれず・・・」
「ここからは俺の私の・・・俺の出番だ。カルロスを頼む」
ケヴィンの肩に手を乗せ、前へと出たオイゲンは魔力により作り出した甲冑を身に纏い、特徴的な大きな盾を構え黒い人物達の前へと立ちはだかる。
ベルンハルトの司令室襲撃の際に、彼らとの戦い方は熟知しているオイゲン。戦闘体勢に入った彼に対し、黒い人物はアンナとベルンハルトに合図を出す。
先ずはお手並み拝見と、二人に戦闘を任せて黒い人物自身はまだ戦闘には参加しなかった。宙を飛びオイゲンへ向かって接近するアンナとベルンハルト。それをオイゲンは、魔力を纏った盾を突き出し弾き返した。
実際の盾よりもだいぶ前に張られた魔力の盾に押し出され、僅かに後退した二人は左右に分かれてオイゲンを挟み撃ちにする。巻き込まれないように、カルロスを連れてその場を離れるケヴィン。
その際に黒い人物の方を確認すると、何処を見ているかは分からないが、その頭は二人の方をしっかりと見ているようだった。逃すつもりはないらしい。このままカルロスを連れ、礼拝堂を離れようとすれば大人しくしている黒い人物も動き出すだろう。
余計なことをしてオイゲンの手間を増やさせる訳にもいかず、ケヴィンとカルロスは彼らの戦いを見守る事しか出来なかった。
袖から複数の弦を放つベルンハルト、そして反対側から迫るアンナは声を発して超音波のように空気を震わせる。アンナの声により振動を受けたベルンハルトの弦が不規則に動き周り、オイゲンを取り囲むように襲い掛かる。
それをオイゲンは、周囲を取り囲む半円状のシールドを張って受け止めるが、そのシールドは僅かに歪みを見せていた。
「むッ・・・!?」
自身のスキルに違和感を感じたオイゲンは、シールドの範囲内から飛び出すように移動し、向かって来る弦を剣で弾きながら場所を変える。どうやら彼のスキルに影響を与えていたのは、アンナの声だったようだ。
司令室の監視カメラでアンナの戦闘を見ていたオイゲンだったが、映像だけではアンナの攻撃方法というのは分かりづらかった。実際に相手をしてみて、漸くアンドレイの護衛達が苦戦していた理由を理解した。
「なるほど、通りで彼らが苦戦していた訳だ。・・・しかしこんな中でよくあそこまで戦えていたものだな」
アンナの声をそのまま盾で押し退けるオイゲン。跳ね返された超音波を迂回して回避したアンナは、再びベルンハルトの差し向ける弦に向けて声を発する。
オイゲンによって弾かれた弦は消滅しその数を減らしたが、弾き返された弦やアンナの超音波を避けながら、床や天井からと様々な方向から弦を生み出し、オイゲンへ向けて射出するベルンハルトの猛攻は、一人で捌き切るにはやはり無理があった。
床から飛び出してきた弦がオイゲンの身体に繋がれる。その瞬間、ベルンハルトは鍵盤を出現させ、指を流すように音を奏でる。その音は弦を伝わりオイゲンの身体を直接攻撃した。
「ぐッ・・・!」
「マズイぜ、隊長さん押され始めてないか!?」
「元々一人でも相手をするのが難しい相手です。それを二人まとめて相手にしているのですから、いずれこうなる事は予想出来ていましたが・・・」
何も出来ずただ見守ることしか出来ない状況に歯痒さを感じるケヴィンとカルロス。周囲を見渡し何か自分達にも出来ないかと探していると、礼拝堂のパイプオルガンに目を付けたケヴィンが、あれを使って演奏出来ないかとカルロスに問う。
「いや、出来ない事はないが・・・」
「楽譜ですよね?彼らが集まっているという事は、必ず月光写譜もある筈です。それを見つけられれば・・・」
黒い人物らの目的には、月光写譜の存在が必要不可欠らしい。この礼拝堂に集まっているという事は、必ず月光写譜を持ち込んでいる筈。何とかしてそれを見つけ出し、カルロスに演奏させる事ができれば、アンナとベルンハルトを抑え込む事が出来るかも知れない。
0
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる