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神代 コウ

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風のブラックホール

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 破裂した魔弾は、外殻の破片を撒き散らし細かな風の刃を四方八方へと飛ばした。実体のある破片はアンブロジウスの身体を透過し、全くダメージはなさそうだった。

 それ自体は予想出来る事だった。問題はその後のシルフが仕込んだという風の刃だった。こちらは謎の人物達にも有効だった、その全てが魔力で作られたもの。

 謎の人物達と同じ霊体であるアンブロジウスには有効な筈だ。だが彼は演奏を止める事なく、ヴァイオリンを弾きながら踊るように風の刃を避けていく。しかしその全てを躱す事は出来ていない様だった。

 彼の身体を風の刃が掠めていく。すると身体を構成している魔力が、消滅する時の黒い靄と同じようなものを噴出しては、元の身体の部位を形成する。要するにアンブロジウスの魔力を削る事は出来ているようだった。

 そしてそれを仕込んだ本人でもあるシルフとミアが注目したのは、突如として彼の側に現れた黒い靄だった。アレが現れてからというものの、アンブロジウスの動きは豹変した。

 これまでの上品な所作が見る影もないほど、生き物としての本能的な動きとなり、身体能力は飛躍的に向上している様に見える。

 しかし、黒い靄は彼の周りをまるで衛星の様に飛び回り、素早い動きで細かな風の刃を一つ一つ丁寧に避けていた。

「駄目ね、あの程度じゃ分からないわ」

「それなりの大きさなら、アレは避け切れる筈はない。まさかあそこまで早く動けるとはな・・・」

 シルフは顎に手を当てながら難しい顔をしている。どうやら次の手段を既に考え始めていたようだが、今度は事前に何をしでかすのか聞いておかなければと、ミアは彼女に何を企んでいるのかと問う。

「おい、何をする気だ?今度は事前に説明しておいてくれよ」

「そうね・・・。次はちょっと危険かも知れないから伝えておくわ」

 シルフはもう一度ミアに、風の力を纏わせた魔弾を装填する様に伝える。今度は放出するのではなく、収集するとだけ口にしたシルフに、もっと詳しく話す様にと伝えるミア。

 どうやら彼女は、魔弾に込めた魔力を解放することでその場に周囲の空気を取り込む小さなホールを作り出すのだと言う。その際、近くに誰かが居るとその者の魔力まで吸い集めてしまうのだと彼女は語る。

「だから次は、あの子を離れさせておいてね?」

「そういう事か・・・。分かった、任せろ!」

 魔弾を込めた銃とは別に、もう一丁に銃を取り出したミア。シルフの魔力の仕込みが済むと、ミアは通常の弾丸が込められた方の銃で、遮蔽物から顔を覗かせ何かを数発撃った。

 ミアが放った弾丸は二発。どちらも二ノンの側の地面に命中し、銃痕を残した。

「これは・・・!」

 それを見た二ノンは直ぐにその場から移動し、アンブロジウスから距離をとった。二発の銃弾は床に距離を空けて銃痕を残していた。二ノンはその銃痕からミアの合図を受け取っていたのだ。

 銃弾はそれぞれ二ノンとアンブロジウスの位置を示しており、二発の銃痕が距離を空けていたのは、アンブロジウスから距離を取れという合図になっていた。

 こちらの動きにアンブロジウスは全く反応していない。演奏に酔いしれる彼は、自分に向けられた攻撃以外に全く興味がないようだ。だがそのお陰でミアも銃声を機にする事なく行動ができる。

 自らの意思を持った相手ならこうはいかなかっただろう。それだけ銃声は相手に危機感や警戒心を与えてしまう。とても合図に使うには向いていない。それにどこに居るのかという位置まで教えることになるので、デメリットの方が多い。

 最悪の場合、ミアには銃声を消すスキルを所持している為、それを用いれば遠距離からの暗殺も可能となる。但しその際は、魔力感知に引っ掛からない実弾で行う必要がある。

 合図に弾丸を撃ち込んだ後、直ぐにミアはシルフの魔力が込められた魔弾をアンブロジウスへと撃ち放った。どうせ避けられる事は織り込み済み。一応彼の頭部を狙って撃ち放つも、予想していた通り彼はそれを難なく避けた。

 その直後、魔弾はアンブロジウスの側で魔力を放ち、まるで小さなブラックホールの様に周囲の空気を取り込み始めた。弾丸は避けられても、その空気を取り込むホールの影響まで読むことは出来なかったのか、アンブロジウスの身体もいくらばかりか取り込む結果となった。

 そして狙いだった黒い靄に関しては、アンブロジウス本体から離れる事が出来ないのか、アンブロジウスが吸い込まれるのに気付いてから離れるまで、纏っていた靄も一緒に吸い込んでいたのだ。
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