1,517 / 1,646
礼拝堂の問答
しおりを挟む
「お前達はッ・・・何故ここに!?」
「ベルンハルト・バッハ、アンナ・マグダレーナの姿も見えますね。彼らがここに居るということは・・・。それに何でしょう・・・あのシルエットの様に黒い人物は・・・?」
「そんな事言ってる場合かぁ!?ベルンハルトとアンナって、それぞれ司令室と入り口で戦ってたんじゃないのか!?」
カルロスの言う通り、彼らは司令室を飛び出して以降のそれぞれの戦場の様子を知らない。だが、この礼拝堂の状況を見るに、司令室と宮殿入り口の戦いはそれぞれ敗北してしまったであろう事が伺える。
それとも霊体である彼らは、別の個体だとでも言うのだろうか。
「そういえば“彼らも”まだ居たんでしたね。すっかり忘れていました」
「・・・・・」
一番最初に口を開いたのは、シルエットの様に真っ黒な人物だった。どうやら黒い人物はオイゲンらの事を知っているらしい。だが彼らにとっては、その衝撃的な容姿をした人物を目にしていたのなら、決して忘れる事は出来ないだろう。
オイゲンらに黒い人物の記憶がなく、向こうが一方的に知っていると言うことは、何処かで彼らを見ていたか、或いは誰かと記憶や五感などを共有でもしているのだろうか。
「まだアンブロジウスさんがやって来るまで時間が掛かりそうです。ベルンハルトさん、アンナさん・・・。もう少しだけこの”世界“を楽しむとしましょうか。長年に渡り溜まった鬱憤を、彼らにぶつけてから正史を引き継いだ世界に向かうのもいいでしょう」
黒い人物の誘いに、パイプオルガンを弾いていたベルンハルトはその手を止めて立ち上がり、オイゲンらの方を振り返る。演奏が止まり娯楽を失ったアンナも、ベルンハルトと同様に席を立って黒い人物に横に移動した。
物騒な言葉から彼らは、屋上にいるアンブロジウスが到着するまでの暇つぶし、何か大きな恨みを晴らす吐口としてオイゲンらと戦うつもりらしい。
「どうやらやる気みたいですね・・・。こっちはオイゲン氏しかいませんが・・・どうします?真っ向勝負は、とてもではありませんがオススメしませんが」
「かといって、彼らが我々を逃がしてくれるだろうか・・・」
「どう見ても騎士隊長さんだけでは厳しそうだが・・・?それとも教団の騎士隊長様ともなれば、まだ隠している力が?」
期待を込めたカルロスの言葉に、オイゲンは残念そうに首を横に振った。司令室で宮殿入り口の戦闘を見ていたオイゲンは、アンナやベルンハルトの戦闘方法をある程度知っている。
一対一であればまだ可能性も見出せるだろうが、他の戦場の苦戦している様子を見ると、一人でケヴィンらを守りながら戦うのは極めて厳しいようだ。
「なるほど・・・。では時間稼ぎでもしましょうか。その間に何か情報が明るみに出たり、作戦が思いつくかもしれませんよ?」
「情報を得たところで、果たして意味があるのか?」
絶体絶命の中で彼らの情報を引き出したところで何の意味があるのか。何を知ったところで死んでしまっては、元も子もないのは言うまでもない。だがそれが分からないケヴィンでもない。
彼は宮殿内で集めた情報から、彼らバッハの家系の霊体達やそれを使役していると思われる犯人は、自分達を殺そうとしているのではないのではと考えていたようだ。
「どうにも引っ掛かるんですよ・・・。我々を殺すつもりなら、宮殿内に血痕が残っていないのも疑問ですし、リヒトル夫妻とその護衛が大人しくしているのも疑問でした。加えてブルース氏の特異な体質・・・。そこから来る彼しか知らない情報など、どうやら彼らによる消滅は死に直結していないのではないでしょうか?」
「どう言う事だ・・・?」
推理を始めたケヴィンの言葉に、黒い人物が面白い反応を見せた。どうやらケヴィンの言う通り、彼らはオイゲンらを殺すつもりはないのだと言う。それどころか、”生きていてもらわなければ困る“とまで言い出したのだ。
「生きていてもらわなければ困る・・・?一体どう言う事だ?」
「えと・・・取り敢えず死なないって事で、いい感じっスか・・・?」
オイゲンの問いに、待ってましたと言わんばかりに嬉しそうに語る黒い人物。彼が言うにはオイゲンらは”生き証人“なのだと言う。そして真実を世界に広める鳩だとも言っていた。これは特にアルバの街の外からやって来た者達のことらしい。
「鳩・・・つまり我々は、アルバ出身の方々とは違い、何かを外に広める役目があると?」
「流石は名探偵と名高いオーギュスト・ケヴィンさん。理解が早くて助かります。今まで消えていった方々も、その”殆ど“は死んだと言う訳ではありません」
「殆ど・・・」
言葉の節々に散りばめられた情報をケヴィンは聞き逃さなかった。黒い人物もそれ程意識していた訳ではなかったが、ポツリとケヴィンが溢した言葉に彼の鋭さを悟ったようだった。
「そうです。殆どです。俺の目的の妨げになる方々は、残念ながら新しい世界に連れていく事は出来ません」
「犯人を追う我々は、邪魔者ではない・・・と?」
「大した問題ではない・・・と言うのが正確なところでしょうか。そしてそれも、今となっては揺るがないモノとなって来た・・・。今更あなた方が足掻いたところで、変えようのない事実です」
彼の言う変えようのない事実とは、ベルンハルトとアンナがこの場にいるという事と関係しているのだろうか。となると、やはり司令室と入り口に居る仲間達は、彼らによって消滅させられたと考えを固めるケヴィンだった。
「ベルンハルト・バッハ、アンナ・マグダレーナの姿も見えますね。彼らがここに居るということは・・・。それに何でしょう・・・あのシルエットの様に黒い人物は・・・?」
「そんな事言ってる場合かぁ!?ベルンハルトとアンナって、それぞれ司令室と入り口で戦ってたんじゃないのか!?」
カルロスの言う通り、彼らは司令室を飛び出して以降のそれぞれの戦場の様子を知らない。だが、この礼拝堂の状況を見るに、司令室と宮殿入り口の戦いはそれぞれ敗北してしまったであろう事が伺える。
それとも霊体である彼らは、別の個体だとでも言うのだろうか。
「そういえば“彼らも”まだ居たんでしたね。すっかり忘れていました」
「・・・・・」
一番最初に口を開いたのは、シルエットの様に真っ黒な人物だった。どうやら黒い人物はオイゲンらの事を知っているらしい。だが彼らにとっては、その衝撃的な容姿をした人物を目にしていたのなら、決して忘れる事は出来ないだろう。
オイゲンらに黒い人物の記憶がなく、向こうが一方的に知っていると言うことは、何処かで彼らを見ていたか、或いは誰かと記憶や五感などを共有でもしているのだろうか。
「まだアンブロジウスさんがやって来るまで時間が掛かりそうです。ベルンハルトさん、アンナさん・・・。もう少しだけこの”世界“を楽しむとしましょうか。長年に渡り溜まった鬱憤を、彼らにぶつけてから正史を引き継いだ世界に向かうのもいいでしょう」
黒い人物の誘いに、パイプオルガンを弾いていたベルンハルトはその手を止めて立ち上がり、オイゲンらの方を振り返る。演奏が止まり娯楽を失ったアンナも、ベルンハルトと同様に席を立って黒い人物に横に移動した。
物騒な言葉から彼らは、屋上にいるアンブロジウスが到着するまでの暇つぶし、何か大きな恨みを晴らす吐口としてオイゲンらと戦うつもりらしい。
「どうやらやる気みたいですね・・・。こっちはオイゲン氏しかいませんが・・・どうします?真っ向勝負は、とてもではありませんがオススメしませんが」
「かといって、彼らが我々を逃がしてくれるだろうか・・・」
「どう見ても騎士隊長さんだけでは厳しそうだが・・・?それとも教団の騎士隊長様ともなれば、まだ隠している力が?」
期待を込めたカルロスの言葉に、オイゲンは残念そうに首を横に振った。司令室で宮殿入り口の戦闘を見ていたオイゲンは、アンナやベルンハルトの戦闘方法をある程度知っている。
一対一であればまだ可能性も見出せるだろうが、他の戦場の苦戦している様子を見ると、一人でケヴィンらを守りながら戦うのは極めて厳しいようだ。
「なるほど・・・。では時間稼ぎでもしましょうか。その間に何か情報が明るみに出たり、作戦が思いつくかもしれませんよ?」
「情報を得たところで、果たして意味があるのか?」
絶体絶命の中で彼らの情報を引き出したところで何の意味があるのか。何を知ったところで死んでしまっては、元も子もないのは言うまでもない。だがそれが分からないケヴィンでもない。
彼は宮殿内で集めた情報から、彼らバッハの家系の霊体達やそれを使役していると思われる犯人は、自分達を殺そうとしているのではないのではと考えていたようだ。
「どうにも引っ掛かるんですよ・・・。我々を殺すつもりなら、宮殿内に血痕が残っていないのも疑問ですし、リヒトル夫妻とその護衛が大人しくしているのも疑問でした。加えてブルース氏の特異な体質・・・。そこから来る彼しか知らない情報など、どうやら彼らによる消滅は死に直結していないのではないでしょうか?」
「どう言う事だ・・・?」
推理を始めたケヴィンの言葉に、黒い人物が面白い反応を見せた。どうやらケヴィンの言う通り、彼らはオイゲンらを殺すつもりはないのだと言う。それどころか、”生きていてもらわなければ困る“とまで言い出したのだ。
「生きていてもらわなければ困る・・・?一体どう言う事だ?」
「えと・・・取り敢えず死なないって事で、いい感じっスか・・・?」
オイゲンの問いに、待ってましたと言わんばかりに嬉しそうに語る黒い人物。彼が言うにはオイゲンらは”生き証人“なのだと言う。そして真実を世界に広める鳩だとも言っていた。これは特にアルバの街の外からやって来た者達のことらしい。
「鳩・・・つまり我々は、アルバ出身の方々とは違い、何かを外に広める役目があると?」
「流石は名探偵と名高いオーギュスト・ケヴィンさん。理解が早くて助かります。今まで消えていった方々も、その”殆ど“は死んだと言う訳ではありません」
「殆ど・・・」
言葉の節々に散りばめられた情報をケヴィンは聞き逃さなかった。黒い人物もそれ程意識していた訳ではなかったが、ポツリとケヴィンが溢した言葉に彼の鋭さを悟ったようだった。
「そうです。殆どです。俺の目的の妨げになる方々は、残念ながら新しい世界に連れていく事は出来ません」
「犯人を追う我々は、邪魔者ではない・・・と?」
「大した問題ではない・・・と言うのが正確なところでしょうか。そしてそれも、今となっては揺るがないモノとなって来た・・・。今更あなた方が足掻いたところで、変えようのない事実です」
彼の言う変えようのない事実とは、ベルンハルトとアンナがこの場にいるという事と関係しているのだろうか。となると、やはり司令室と入り口に居る仲間達は、彼らによって消滅させられたと考えを固めるケヴィンだった。
0
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる