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逃げられぬ定め
しおりを挟む逃げる途中で出会してしまったプラチドは、咄嗟に彼らに助けを求めた。村が襲われている、早く助けて欲しいと。彼の必死の懇願に、教団の者達は直ぐにその村を案内するよう彼に言い渡す。
一度彼らを見捨てて逃げ出した分際で、どんな顔をして戻ればいいか。一瞬教団の隊員の言葉に思考が停止するも、何も考えられなくなったからこそ、今目の前に与えられた役目を果たすしかなくなったのだ。
彼らを連れて逃げ出した農村への道を戻ると、再びプラチドの前にあの惨状が蘇る。外では男達がこき使われており、女子供の姿は見当たらない。家屋の崩壊や惨殺などこそ行われていないものの、それは一目で一方的な蹂躙である事が窺える。
直ぐに止めに入る教団の隊員達。初めこそ言葉での仲裁に入るが、相手は見られてはマズイ場面を目撃されてしまっている。故に今更誤解だと言ったところで弁明しようもない。
状況の説明を求める騎士隊に、兵士達は一度は下手に出るも、それぞれ部隊を分断した騎士隊を家屋へ誘い込むと、その態度を一気に豹変させた。彼らにしか分からぬよう、屋内の者達と合図を送り合っていたのか、息を合わせるように入り口の左右の物陰に隠れていた者達が、足を踏み入れた騎士隊に襲い掛かる。
家屋の彼方此方で戦闘が始まる。だが戦力的には圧倒的に農村を襲っていた兵士達の数が上回っている。不意打ちを受け倒れる騎士隊の姿も見える中、身を隠しその光景を安全なところから見ていたプラチドは、自分が助けを求めたから彼らは死んでしまったのだと後悔し始める。
徐々に罪悪感から呼吸が荒々しくなり、パニックを起こしそうになったプラチドは、今度こそバレる前に逃げ出そうと吐きそうになる口を押さえながら、兎に角農村から離れようと走り出した。
背後に聞こえる女子供の悲鳴と、騎士隊に加担する男達の聞き覚えのある声。金属がぶつかり合う音の中に響く断末魔の叫びが、まるで呪いのようにプラチドの耳にこびり付いた。
しかし運命は、三度も彼を惨劇の場から逃す事はなかった。
近隣の動きを探る斥候として、別行動をしていた教団の騎士隊に行く手を阻まれてしまう。血相を変えたプラチドの姿を見て、只事ではないと察した隊員が何があったのかと問う。
質問される度に脳裏に蘇るのは、殺される農村の人々の顔と、死へと招いた騎士隊達の姿だった。まともな精神状態でいられなくなったプラチドは、遂に逃走を諦め、目の前の斥候達に近くの農村で惨劇が繰り広げられている事を伝えると、腰が抜けたようにその場に崩れ落ちる。
斥候の一人がもう一人の隊員に指示を出し、プラチドの言う方角へと向かっていく。その間彼を診てくれた人物こそ、後にプラチドの上官ともなる“オイゲン・フォン・エーレンフリート“だった。
そこで意識を失ってしまったプラチドが次に目を覚ました時、そこは見覚えのある天井だった。奇しくも彼は、逃げ出した農村に戻って来てしまったのだった。
彼が目を覚ました事に気がついたのは、戦場から逃げ出した彼を受け入れてくれた夫妻の奥さんの方だった。その顔には何箇所か痣があるものの、彼女は無事だったようだ。
だが彼女が生きて目の前に現れた事が、プラチドの心に大きな傷を残した。自分が全てを見捨てて逃げ出した事も知らず、彼女は助けを呼んでくれた恩人としてプラチドを看病してくれていた。
家屋の中はまだ荒らされたままになっており、ある程度片付けられてはいるが、そこら中に血痕が飛び散っていた。
このままここに居ては、嫌な思い出や苦しかった事ばかり思い出してしまい、一向に良くならないどころかいずれ自責の念から命を絶ってしまう。そう思ったオイゲンが彼を別の診療所へ連れて行った事から、次第にプラチドは過去の自分を切り捨てる覚悟をし、教団へと入信することになる。
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