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神代 コウ

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正しい歴史

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 またしても相手に先手を打たれてしまう一行。どうにもこれまでとは違う戦闘方法にまだ慣れず、普段との感覚にズレが生じていた。これはそれまで彼らが相手にしていた謎の人物達が、彼らより格下であった事が原因だろう。

 暗いところに長らく止まり、急に明るいところに出ると目が開かなくなるのと同じ原理だ。反復した行動は目に見えた対策としては有効だが、急な変化には対応しづらくなる。それが弱い相手との慣らしであれば尚の事。

「クソッ!何つぅ速さだよッ!」

 ツクヨが弾き飛ばされたのを見て、近距離戦では敵わないだろうと判断したプラチドは、その場から錫杖を振るい黒い人物に対して遠距離攻撃を仕掛ける。

 黒い人物の周りに突如無数の光の球体が出現し、鬱陶しく思った彼が移動を開始するとそれに連動するように、次々に爆発していく。それは宛らアンナが生み出していた音の衝撃を閉じ込めたシャボン玉のようだった。

「ジドウ ノ エンカク コウゲキ カ。ダガ・・・」

 逃げても逃げてもプラチドの生み出した光の球体は、まるで黒い人物の衛星のように側を離れず追尾し、その行動一つ一つに反応して爆発していった。

 しかし黒い人物はすぐにその性質を見抜き、逆にそれを利用してやろうとアカリとジルの元へと向かい始める。

「あの野朗ッ・・・!俺の攻撃を利用しようってのか!?それなら中断するまで・・・!」

 だが黒い人物の動きは、プラチドが自身の攻撃を中断するよりも早くアカリ達の前に到達しようとしていた。このままでは彼女らを守ろうと立ちはだかるツバキと紅葉もろとも、爆発の餌食になってしまう。

 するとその時、黒い人物の前に現れたのは彼に弾き飛ばされ重傷を負ったと思われていたツクヨだった。

「ツクヨッ!無事だったのか!!」

「当たり前だろ?私があれくらいで負けるとでも思ったかい?」

 彼は意外にもピンピンしていた。不意打ちを受け、とても無事では済まなそうな攻撃を受けていたように見えたが、ツクヨは例の布都御魂剣を使ってこれを回避していたようだった。

「今度はこっちからいくよッ!」

 数回プラチドの攻撃による爆発が発生するも、黒い人物もツクヨもそれを諸共しない攻防をみせる。ツクヨの斬撃による攻撃が追加されたことで、黒い人物も板挟みになり全ての攻撃を回避出来なかったようだ。

 これまでの余裕のある動きから、必死に逃れようとする意思が伝わってくるようだった。このまま押し切れれば勝機も見えてくるだろう。攻め時ととらえたプラチドは、今度はツクヨの身体に光を纏わせる。

 その光は周りの目を眩ませる程輝き、黒い人物の反撃がツクヨに当たらなくなる。黒い人物がどうやってこちらの動きを見ているのかは分からないが、視覚を奪うプラチドの光は有効に働いているようだ。

 動きが鈍くなり、遠くへ避難しようとする黒い人物。だがそれを見逃すほどツクヨは甘くなかった。逃げる黒い人物を執拗に追いかけ回し、そして漸くツクヨの渾身の一撃が黒い人物へと命中する。

「ッ!?」

 鋭い斬撃が黒い人物の首を刎ねるように切り裂く。だがこれまでとは戦ってきた者達と同じように、普通の肉体ではないようで血飛沫が飛び散るような分かりやすい反応は得られない。

 それでも黒い人物の首から靄が舞い、ツクヨの斬撃による風に流されそれがまるで出血したかのように吹き出して見えた。それと同時にバランスを崩した黒い人物は、飛び退いた先で膝をついた。

「コレハ オドロイタ・・・。スグニ スマセル ツモリガ コウモ ハンゲキ ヲ ユルシテ シマウナンテ・・・」

「貴方は一体何者なんです?何故このような事を・・・」

 聞く耳を持ち始めたのか、ツクヨの問いに答え始める黒い人物。彼の何者かという問いに対し、黒い人物は“正しき歴史”を知る者だと答えた。だが当然、その場にいる誰もが黒い人物の言う“正しき歴史”とは何か、分かるはずもなかった。

 今、この世界に正史として伝わる歴史は間違っている。それは主に音楽界隈の歴史、とある音楽家の残した軌跡が別の者によって挿げ替えられてしまったのだと彼は語った。

 その間違った歴史を正す為に、彼はずっとこの時を待っていたと。そして着実に、そして自分自身の命のあるうちにそれを叶える為と、あらゆる手段を使って改革の機会を自ら手繰り寄せたのだと語った。

「何故歴史を変える為にこんな事を・・・。それは貴方の人生を賭けるほど大事な事だったのですか?」

 すると、ツクヨの問いが黒い人物の癪に障ったのか、突然声を荒立てる黒い人物。その声は次第にこれまでの聞き取りずらいものから、人のものに近いハッキリとした声へと変わっていく。
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