World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,495 / 1,646

動き始める思惑

しおりを挟む
 宮殿入り口の広場にて、これまでの謎の人物達とは見た目もその実力も桁違いの個体が現れていた一方で、事が動き出した司令室でも事態に急展開が訪れていた。

 司令室の現在の状況は、最も人が集まっていた時とは真逆に、シン達がジルを連れアンナのいる入り口へ向かい、オイゲンやケヴィンはアンドレイやマティアス司祭と音楽学校の学生らという、音楽家一行を連れてアンブロジウスのいる屋上へと向かった。

 多くの人の移動があり、残されたのは音楽家のブルースとその護衛であるバルトロメオの二人だけになっていた。

 部隊を三箇所に分けた理由として、ジルとカルロスが宮殿の外で得た情報で、バッハ一族の霊体達のパワーアップに一役買っている、月光写譜と呼ばれる音楽の父として有名な、かのバッハが残したという遺物がある。

 それの解除、及び逆に利用する為にそれぞれの霊体に対応した楽器で、同じく月光写譜に描かれた楽譜を見て演奏する必要がある。その為に、演奏できる音楽家を各地へ散らばせる必要があったのだ。

 司令室でブルースらと対峙しているのは、ベルンハルト・バッハであり彼の得意とする楽器はチェンバロという鍵盤楽器だった。無論、司令室となっている部屋に楽器などは置かれていない為、オイゲン達に楽器の捜索も託している状況だ。

 チェンバロを見つけ次第、ブルースは司令室からベルンハルトを誘導し、その場所で演奏をするという手筈になっていた。二人だけでもベルンハルトの猛攻には何とか対応出来ていたブルースとバルトロメオ。

 それはひとえに、音楽によるバフデバフ効果の効かないブルースと、音の衝撃を伝える糸やシャボン玉に絶大な効果を与えるバルトロメオの青い炎。これが相性が良く、時間稼ぎは上手くいっている様に見えた。

「バルト、まだいけるか?」

「あぁ?誰に言ってる・・・。俺ぁまだやれる・・・」

 口では強がっているものの、生身であるバルトロメオには明らかに疲労の色が見えていた。それもその筈。相手が無尽蔵に生み出してくる取り巻きやシャボン玉に対し、バルトロメオは魔力という動力を使って強力な青白い幻影を作り出し戦っている。

 その力に割く魔力は、彼の戦闘スタイルからも消費が激しく見える。戦えたとしてもそう長くは保たないだろう。バルトロメオ自身も、戦闘の最中で自分が力尽きた際は、構わず戦闘を続けて欲しいとブルースには伝えていた。

 戦闘が長引けば、自分の方が早く力尽きる事は分かっていた。だが均衡した戦いの行方を左右したのは、彼らではなく宮殿入り口の広場に現れた新たな存在と同様に、新たな乱入者によってもたらされた。

 それは割れた司令室の窓から一瞬にして入り込んでくると、ブルースらの攻撃を一人で跳ね除けベルンハルトを守る様な動きを見せたのだ。

「ッ!?」

「何だぁッ!?誰だ邪魔しやがんのはッ!?」

 二人の前に現れたのは、真っ黒な靄に覆われた、少し小さめの謎の人物と似た存在だった。しかしその動きや異様な雰囲気から、他の個体とは明らかに違う事がブルースらにも伝わった。

「・・・妙じゃねぇか?大将。アイツら・・・あんなに早く動けたか?」

「いや、明らかに別物だ・・・。今度は何が起きている・・・?」

 ベルンハルトに攻撃を仕掛けたブルースの身体が、その謎の存在に弾かれた際に受けた衝撃がまだ残っている。余程強い攻撃で弾かれた事が、ブルースの身体に伝わる衝撃からも分かる。

 だが彼らを驚かせたのはそれだけではなかった。司令室に現れたその謎の人物は、あろう事かベルンハルトに言葉を投げ掛け始めたのだ。

「イチバン テウスナ ココ ヲ ツブセバ センリョク ヲ ブンサン デキル」

 謎の人物が言葉を発した事に、バルトロメオが目を丸くして自分の耳を疑った。あり得ない場面を目撃し、自分が正気かどうかを確かめる様にブルースに声を掛ける。

「なッ・・・!?なぁ!アイツ喋りやがったか!?俺の聞き間違いかぁ!?」

「聞き間違いなんかじゃない。俺にも聞こえた・・・。一体何をするつもりだ・・・?」

「ベルンハルト ドノ オチカラ ヲ オカリシタイ」

 謎の人物がベルンハルトに呼び掛けると、それに答える様に彼は首を縦に振る。何か動きがある事はブルースらにも分かった。身構えるブルースらに対して、謎の人物は一瞬にしてその場から姿を消した。

 残像の様に残されたのは、その謎の人物が纏っていた黒い靄だけだった。同時に動き出したベルンハルトは、二人の取り巻きを召喚すると、その二人に糸を繋ぎ素早い動きでブルースの方へと向かわせた。

「大将ッ!ここは俺がッ!!」

 直様ブルースの前に出たバルトロメオは、二人を覆う程の大きな幻影を召喚する。その姿は宛ら、仏教の阿修羅像を彷彿とさせる見た目をしていた。六本の腕が謎の人物達を振り払い、姿を消した例の真っ黒な人物の攻撃に備える防御体勢と、ベルンハルトに拳を差し向ける攻撃体勢の両立をしていた。

 迫る腕を素早い動きで何とか躱すベルンハルト。するとその間に、防御の体勢に入っていた四本の腕が、一つまた一つと切り落とされていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

異世界無宿

ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。 アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。 映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。 訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。 一目惚れで購入した車の納車日。 エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた… 神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。 アクション有り! ロマンス控えめ! ご都合主義展開あり! ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。 不定期投稿になります。 投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。

処理中です...