World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,494 / 1,646

意思を持つ何者か

しおりを挟む
 柱から落ちる様に離れたシンは、迫る音の衝撃波を避けると別の場所にアンカーを射出し撃ち込む。再び宙を舞う様に移動するシンは、アンナを何処かへ追い込む様に投擲を繰り返す。

 その間、アンナの差し向けた謎の人物達の相手をするツクヨは、布都御魂剣を使いこれを難なく撃退していく。手の空いたところで、シンのサポートを行うべく広場に例の見えざるシャボン玉や、他にアンナの仕掛けた罠が無いかどうかを探る。

 すると、気配を探るツクヨの元に何かが急接近して来た。彼がそれに気が付いた時には既に遅く、防御体勢に入るのが精一杯だった。

「うッ・・・!?」

 ツクヨの身体は大きく吹き飛ばされ、広場の端の壁に激突する。突然の大きな物音に、その場に居た誰もが目を奪われた。ツクヨを吹き飛ばしたのは、ツバキより少し大きいくらいの身長をした、真っ黒な靄を纏う謎の人物だった。

「なッ・・・何者だ!?」

「他の霊体達とは明らかに戦闘力が違うッ!それにこんな近くに来るまで誰も気付けなかったなんて・・・」

 服装や顔も分からない程真っ黒な何者かは、視覚的にシルエットから何となく人間である事くらいしか情報が得られない。そして何よりも、ツクヨを吹き飛ばした今の今まで、その存在に誰も気がつく事が出来なかったというのも妙な点だ。

 仮にもリナムルで獣の気配感知能力を身に付けたシン達であっても、これまでその異様な雰囲気の人物の気配を感知出来なかった。それにツクヨは布都御魂剣の能力で更に感知能力が強化されている。

 それ故に防御体勢が間に合ったとも言えるのかもしれないが、何にせよツクヨを攻撃してきたということは、この謎の人物もシン達の敵ということで間違いないだろう。

 あまりに一瞬の出来事に唖然とする一行の中、アンナの月光写譜の能力を解除する為に連れて来られたジルが、突如現れた謎の人物の出現により新たに起きた現象について気が付いた。

「待って!あの人の周り・・・何か音楽が聞こえる・・・」

「音楽だって?」

 プラチドやアカリには聞こえない僅かな音。それは音楽に精通している者でなければ気が付けないのか、他の者達にはジルの言う音楽というものが一切聞こえてこなかった。

「一体どんな音楽なんだ?もしかして、アンナらと同じバフやデバフの効果のある・・・?」

「いえ、どうでしょう・・・。仮に今までのバッハの血族の者達が演奏する音楽効果と同じなら、私にだけ聞こえているのもおかしいし、皆さんに何の影響も出ていないのが不可解です」

「確かに・・・。じゃぁまた別の能力なのか・・・?」

 音楽について見抜いたジルに気がついたのか、ツクヨを吹き飛ばした謎の人物はゆっくりと攻撃体勢を解除し、その場に立ち尽くすとジルの方へ首を動かす様な動きを見せる。

「キコエテ イルノカ。マッタク・・・ ヤッカイ ナ コトヲ ヒロメテ クレタナ・・・」

 意味を理解し、聞き取れる言葉で話し始めた謎の人物に驚愕する一行。今までの謎の人物達は、雄叫びや奇声こそ上げはしたものの、ちゃんとした言葉を話すことはなかったからだ。

 この人物には、アンナやベルンハルト、アンブロジウスの様な月光写譜を持つ特別な霊体達よりも、強く自我や意思を持っている事になる。これは遠距離から使役しているだけでは到底あり得ない。

 つまり、今宮殿で騒ぎを起こしている犯人、或いは謎の人物ら多くの霊体を使役している術者本人から生み出された“何か”という事になる。それだけ繋がりが濃いからこそ、独自の意思を持ち判断を下せる器用さも兼ね備えている可能性すらあるという事だ。

「しゃッ・・・喋ったッ!?」

「明らかに他の霊体達とは違う・・・。何なら・・・」

 その人物の根本的な性質に気が付いたプラチドと同様、あの謎の人物の周りに流れる音楽に気が付いたジルもまた、その異様な雰囲気からアンナ以上に厄介な存在かも知れないと察していた。

「えぇ・・・あのアンナ・マグダレーナの霊体よりも・・・」

「そんな・・・。だって、ただでさえアンナさんという方だけでも、皆さん苦労されているのに」

 新たな存在の登場に弱気になってしまっている一行の中で、一人逆境の中で寧ろやる気に身を滾らせる者がいた。その者は紅葉の治癒の光に当てられた傷を癒すと、再び道具の中から改良されたガジェットを両腕に取り付ける。

「逆だよ・・・。それだけ親玉に近い存在が現れたってんなら、そいつを倒せばこの騒動の犯人が分かるって事だぜッ・・・!」

「キィー・・・」

「へっ!何だよ、心配してくれんのか?だがここが踏ん張りどころだぜ・・・。シンがあっちの女を食い止めてるってんなら、こっちは俺達で何とかしねぇと!」

 戦える準備を整えたツバキが、真っ黒な何者かの前に立ちはだかる。するとその後ろから、アカリの治療を受けていたプラチドも並んだ。

「大した少年だな、君は。子供がやる気になっているのに、大人が折れるわけにはいかないでしょ!」

「キィーーー!」

 ツバキの闘志に鼓舞され、プラチドと紅葉も前線に加わる。そして遠くから鋭い斬撃の衝撃波が数発、謎の人物へと放たれた。それを軽くいなして見せる謎の人物。衝撃波を放ったのは、不意の一撃を受けたツクヨだった。

「流石、海賊達の中で育っただけの事はあるね。その不屈の闘志と暗闇の中に光を見出す抜け目なさは、彼ら譲りなのかな?」

「ツクヨ!生きてやがったか!」

「当たり前でしょ!あんなもので私は止まらないよ」

 悪態をつくツバキに頼もしい言葉で答えるツクヨ。依然としてアンナはシンが釘付けにしている。その間、一行は新たなる存在との戦闘を始めようとしていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます

蒼井美紗
ファンタジー
旧題:外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜 誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。 スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。 そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。 「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。 スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。 また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

処理中です...