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拡散する紅の風
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しかし、安心するのも束の間だった。一行に迫る脅威を退けたツバキと紅葉だったが、それ以降続けて攻撃してくる様子がなかったのだ。不気味なほど静けさの戻る戦場。
皆、それぞれの役割を果たす事に夢中になっており、アンナの居場所の特定が疎かになっていた。否、探したところで容易に見つけられるものでもない。彼らには今出来ることをする以外に取れる行動がなかった。
その中には仲間の治癒も含まれている。部隊を組んでの戦闘において、仲間は心強いものではあるが、同時に弱みにもなり得る。
戦争や大戦でも用いられた戦費の中に、敵をするよりも死なぬ程度の瀕死に留め、足手纏いにすることで敵の動きを鈍くさせるという戦法がある。傷ついた仲間、日々を共にした友人が目の前で瀕死の状態になっている。
手当てをすればまだ助かる状態とあらば、助けようとする行動に出るのも納得がいく。それを意図的に引き起こすのだ。無意識の中での出来事だったのか、或いは狙って引き起こしたz事態だったのか。
アンナは手一杯となっている一行の元へと忍び寄り、至近距離からの攻撃を仕掛けようとしていたのだ。ツバキや紅葉が見えざるシャボン玉に気を取られている内に、アンナは既に彼らの後方で治療にあたるアカリの元へと近づいていた。
意識のあるプラチドに警戒してか、アカリの陰に隠れながら接近し、見えざる身体のままその手を彼女へと伸ばすアンナ。とその時、突然空間を切り裂く様に光る閃光の様なものがアンナの手の行く手を阻んだ。
「えっ・・・!」
それは意識を取り戻したツクヨの仕業だった。本来であればその刃は相手の腕を切り落としていたことだろう。だが女性を攻撃できぬが故の、ツクヨなりの精一杯の抵抗だった。
「さっ・・・させないよ・・・!」
「ァ・・・ァアアァァァアアッ・・・!」
アンナは苦しそうにその場を離れる。彼がアンナの前に突き立てた物、それはリナムルの地下研究所で拾って来た刀に、復興途中のリナムルの鍛治師に柄と鞘を付けてもらった物だった。
あの時も何やら不思議な力を放っていた曰く付きの刀。アンナはそれに触れる事すらなく苦しみという反応を見せた。アカリを守る為に必死だったツクヨには、それが刀の持つ不思議な能力による物だとは気が付かなかった様だが・・・。
「ツクヨさん、ありがとうございます。しかしまだ動いては・・・」
「礼を言うのはこっちの方だ。助けてくれてありがとう、アカリ。でも君達を守るのは、大人の役目だから」
身体が動く様になったツクヨは上体を起こし、投げた刀の方を向くと膝を立てながらそれを回収しに向かった。まだ本調子ではないようで、覚束ない足取りだったツクヨだが刀を回収するまでの間に身体を慣らし、つま先で何度か床を鳴らしたツクヨはすっかり普段通りの動きに戻っていた。
「さて、アカリやツバキが居るということは、シンも来ているんだよね?」
「えぇ、今は見えない相手を炙り出す計画があると言って、広場を巡っている最中です」
「相手を炙り出す・・・?そんな事が出来るのかい?」
するとアカリは、ツバキを回復している紅葉の方を向いて彼の力があればそれが可能だとシンが話していた事をツクヨに知らせた。そもそも気を失っている間に、普段とは全く違う姿と大きさに変わった紅葉に、今更ツクヨの表情は固まった。
「なッ・・・あれが紅葉!?確かに面影はあるけれど・・・。いやそうじゃなくて!その紅葉の力って言うのは・・・」
ツクヨにとっては、紅葉のその能力をしっかりと見るのは初めての事だった。今ツバキに行っている回復の力もさることながら、炎による音楽家達の攻撃を無力化する能力。
やはり記憶を失った二人も、ただの子供と鳥ではなかったのだろうと思わざるを得ない。そしてアカリが語ったのは、紅葉のもう一つの能力の方がシンの計画の要になるのだと言う事。
そこで初めてツクヨは、紅葉の火の粉舞う風がアンナの見えざるシャボン玉に効果的面であった事を話す。それをふまえてシンは、紅葉のその風を宮殿入り口の広場全体に届かせようというのだ。
「影のゲートを作りに・・・」
「えぇ、その為に広場の影が濃い場所を片っ端理に・・・。シンさんは一体何をするつもりなのでしょう?」
「うーん・・・!なるほど、そういう事か!彼のゲートが“攻撃”も運ぶ事が出来るのなら、或いは・・・」
「ちょっと、一人で納得してないで私にも教えて下さい!」
勿体振るツクヨに痺れを切らしたアカリが、シンの計画というものの全貌について尋ねる。今まで音を武器として戦うアンナと対峙していたツクヨには、シンの言う歌声をスピーカーで拡散する事から着想を得たという点が肝になっているのだという。
「攻撃も影のゲートで運べるなら、一つのゲートからそれぞれのゲートに一気に流す事も出来るかもしれない・・・。つまりシンは、紅葉の炎の風を影のゲートを使って拡散させようとしているんじゃないかな」
「なるほど!それで相手の力を参考にするって訳ですね!」
そして彼らがシンの思惑に勘付いた頃、漸くシンの方の準備が完了した様だった。
皆、それぞれの役割を果たす事に夢中になっており、アンナの居場所の特定が疎かになっていた。否、探したところで容易に見つけられるものでもない。彼らには今出来ることをする以外に取れる行動がなかった。
その中には仲間の治癒も含まれている。部隊を組んでの戦闘において、仲間は心強いものではあるが、同時に弱みにもなり得る。
戦争や大戦でも用いられた戦費の中に、敵をするよりも死なぬ程度の瀕死に留め、足手纏いにすることで敵の動きを鈍くさせるという戦法がある。傷ついた仲間、日々を共にした友人が目の前で瀕死の状態になっている。
手当てをすればまだ助かる状態とあらば、助けようとする行動に出るのも納得がいく。それを意図的に引き起こすのだ。無意識の中での出来事だったのか、或いは狙って引き起こしたz事態だったのか。
アンナは手一杯となっている一行の元へと忍び寄り、至近距離からの攻撃を仕掛けようとしていたのだ。ツバキや紅葉が見えざるシャボン玉に気を取られている内に、アンナは既に彼らの後方で治療にあたるアカリの元へと近づいていた。
意識のあるプラチドに警戒してか、アカリの陰に隠れながら接近し、見えざる身体のままその手を彼女へと伸ばすアンナ。とその時、突然空間を切り裂く様に光る閃光の様なものがアンナの手の行く手を阻んだ。
「えっ・・・!」
それは意識を取り戻したツクヨの仕業だった。本来であればその刃は相手の腕を切り落としていたことだろう。だが女性を攻撃できぬが故の、ツクヨなりの精一杯の抵抗だった。
「さっ・・・させないよ・・・!」
「ァ・・・ァアアァァァアアッ・・・!」
アンナは苦しそうにその場を離れる。彼がアンナの前に突き立てた物、それはリナムルの地下研究所で拾って来た刀に、復興途中のリナムルの鍛治師に柄と鞘を付けてもらった物だった。
あの時も何やら不思議な力を放っていた曰く付きの刀。アンナはそれに触れる事すらなく苦しみという反応を見せた。アカリを守る為に必死だったツクヨには、それが刀の持つ不思議な能力による物だとは気が付かなかった様だが・・・。
「ツクヨさん、ありがとうございます。しかしまだ動いては・・・」
「礼を言うのはこっちの方だ。助けてくれてありがとう、アカリ。でも君達を守るのは、大人の役目だから」
身体が動く様になったツクヨは上体を起こし、投げた刀の方を向くと膝を立てながらそれを回収しに向かった。まだ本調子ではないようで、覚束ない足取りだったツクヨだが刀を回収するまでの間に身体を慣らし、つま先で何度か床を鳴らしたツクヨはすっかり普段通りの動きに戻っていた。
「さて、アカリやツバキが居るということは、シンも来ているんだよね?」
「えぇ、今は見えない相手を炙り出す計画があると言って、広場を巡っている最中です」
「相手を炙り出す・・・?そんな事が出来るのかい?」
するとアカリは、ツバキを回復している紅葉の方を向いて彼の力があればそれが可能だとシンが話していた事をツクヨに知らせた。そもそも気を失っている間に、普段とは全く違う姿と大きさに変わった紅葉に、今更ツクヨの表情は固まった。
「なッ・・・あれが紅葉!?確かに面影はあるけれど・・・。いやそうじゃなくて!その紅葉の力って言うのは・・・」
ツクヨにとっては、紅葉のその能力をしっかりと見るのは初めての事だった。今ツバキに行っている回復の力もさることながら、炎による音楽家達の攻撃を無力化する能力。
やはり記憶を失った二人も、ただの子供と鳥ではなかったのだろうと思わざるを得ない。そしてアカリが語ったのは、紅葉のもう一つの能力の方がシンの計画の要になるのだと言う事。
そこで初めてツクヨは、紅葉の火の粉舞う風がアンナの見えざるシャボン玉に効果的面であった事を話す。それをふまえてシンは、紅葉のその風を宮殿入り口の広場全体に届かせようというのだ。
「影のゲートを作りに・・・」
「えぇ、その為に広場の影が濃い場所を片っ端理に・・・。シンさんは一体何をするつもりなのでしょう?」
「うーん・・・!なるほど、そういう事か!彼のゲートが“攻撃”も運ぶ事が出来るのなら、或いは・・・」
「ちょっと、一人で納得してないで私にも教えて下さい!」
勿体振るツクヨに痺れを切らしたアカリが、シンの計画というものの全貌について尋ねる。今まで音を武器として戦うアンナと対峙していたツクヨには、シンの言う歌声をスピーカーで拡散する事から着想を得たという点が肝になっているのだという。
「攻撃も影のゲートで運べるなら、一つのゲートからそれぞれのゲートに一気に流す事も出来るかもしれない・・・。つまりシンは、紅葉の炎の風を影のゲートを使って拡散させようとしているんじゃないかな」
「なるほど!それで相手の力を参考にするって訳ですね!」
そして彼らがシンの思惑に勘付いた頃、漸くシンの方の準備が完了した様だった。
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