1,477 / 1,646
風の精霊と痛みの原因
しおりを挟む
またしても戦況は逆戻り。これでは先程のアンブロジウスによる内部攻撃によって、いくら善戦したところで盤上をひっくり返されてしまう。何かアンブロジウスのその攻撃を止める手立てを考えなければ、このままジリ貧になりいずれ頼りのレオンも限界を迎えるのは近いだろう。
「これは芳しくない状況ね。これじゃぁフェアじゃないわ」
「だッ・・・誰だ!?何を言っている・・・!」
突如ミアの耳に届いた何者かの声、その声の主はゆっくりと風を巻き上げながら目に見える形で彼女の前に姿を現した。風をイメージさせるようなエメラルド色の光を纏い、妖精のような小さな身体をしていた。
「あら?だいぶ前に助けてあげた事があったと思うけど、もう忘れちゃったの?」
「助けて・・・。そうか!もしや貴方が・・・」
「最近じゃすっかり“ウンディーネ”と仲良くしてるみたいで、私の力なんて必要無かった?」
「そんな事はないわ。こうして姿を見せてくれたのは初めてよね。嬉しいわ」
「ふふっ、おっかしぃ~!普段の貴方からは想像もつかない言葉使いだわ。でも“彼”前にでは少し違うのかもね」
クラスによって使役できる可能性のある精霊は、使用者本人の意識とは別のところで本体の様子を伺う事もできる。だがそれは、使役する者に余程興味でもなければそのような事はしない。
ましてウンディーネの話では、その者は気分屋であり手懐けるのは相当難しいという。現にこれまでミアの前にその姿を現した事はなく、語りかけてくる事もなかった。
ゲームという世界の概念でいうところの、熟練度が上がった事によってその者の興味を引き、実力を見せる事で従える事が出来るものなのだが、彼女らのいるWoFの世界では少し勝手が違うようだ。
「そんな事よりっ・・・、先程言っていた“フェア”じゃない・・・とは?」
「そっか、初めましてだものね。私は“シルフ”、四大元素にして風の属性を司る精霊よ。フェアじゃないと言ったのは、貴方達の身体に起きている出来事の事よ」
自身をシルフと名乗る風の精霊は、ミア達の身に起きる突然の痛みの原因が何なのかについて語り始める。どうやらシルフは、アルバの街に起きる異変に彼女らが巻き込まれた辺りからミアの状況を見ていたようで、誰も気が付かなかったその理不尽な攻撃について何かに気づいたようだ。
「戦いの前から仕込まれていたのよ。でも大丈夫、私なら何とか出来るから」
「ちょっと待って。まだ原因が何かもっ・・・!」
言葉足らずのシルフは、詳しい内容も伝えぬままミアの身体の中に入り込むようにして、自身を風と変えミアの魔力と同化し始めた。シルフが身体の中に入る事による痛みや異変はなかったが、その前に受けていたダメージによってミアはシルフにされるがままだった。
「クソッ・・・!急に出てきたと思ったらまた戻って・・・。それどころじゃないってのにッ・・・!」
アンブロジウスの内部攻撃によりまだ麻痺している身体を強引に動かし、敵の位置と仲間の様子、そして次の攻撃に備えるミア。一緒に倒れたニノンの方も意識はあるようだったが、レオンは二度目の内部攻撃でかなり参ってしまっているようだ。
ニノンが倒れるレオンの身体を引きずり、身を隠すように遮蔽物の裏へと移動している。その間にミアは、事前に幾つか作っていた風の力を込めた魔弾を装填する。
しかし相手も呑気には待ってくれない。演奏をしながらもアンブロジウスは、逃げたニノンと厄介な相手と認識したレオンのいる方へ、例の音のシャボン玉と糸を差し向ける。
「おいおいッ・・・まだ傷が癒えてないってのにッ!」
身体を引き摺りながら銃口を構えるミア。そして辛うじて放った魔弾がニノン達の近くの壁に着弾し、彼女らに攻撃が至らぬよう風を巻き起こし、シャボン玉と糸を退ける。
「・・・・・」
邪魔をされた事に腹を立てたのか、アンブロジウスは一旦ミアへと標的を変え、演奏を止めて弓を銃声がした方へと向ける。それはミア達を苦しめていた内部攻撃の予兆だった。
「マズイッ!!またあれが来るッ!」
衝撃に備えると言っても、体内に直接攻撃を仕掛けて来るのに防御も何もあったものではない。それでも気持ちを整えておく事で、不意に貰うダメージよりかは和らげる事が出来るような気がしていたのだろう。
狙いを定めるように、ミアが身を隠している遮蔽物に弓の先端を向けるアンブロジウス。そしてその弓から音の振動、目には僅かに蜃気楼のような空間の歪みのようなモノが見えた。
それが攻撃の合図なのだろう。ミアもそれを察したのか、眉間に皺を寄せて衝撃に備えた。しかしそんな彼女の覚悟が安堵へと変わる。確かに攻撃の予兆はあった。だがこれまでのようにミアの体内に衝撃が走る事はなかったのだ。
「・・・あ?何とも・・・ない?」
すると、ミアの身体の中に入り込んでいたシルフが再び彼女の前に姿を現した。
「おい、どうなってる?一体私の中で何をした?」
「どうやら成功したようね。私が原因を取り除いてあげたのよ。感謝しなさい」
「原因?原因って一体・・・」
「ふふ、答え合わせね。コレよコレ」
そう言ってシルフは、自らの指先に小さな泡のようなモノを一つだけ作り出し、ミアへ見せた。俄かには信じられなかったが、シルフが言うにはその一粒の気泡が身体の中に生成されていたのだと語る。
「これは芳しくない状況ね。これじゃぁフェアじゃないわ」
「だッ・・・誰だ!?何を言っている・・・!」
突如ミアの耳に届いた何者かの声、その声の主はゆっくりと風を巻き上げながら目に見える形で彼女の前に姿を現した。風をイメージさせるようなエメラルド色の光を纏い、妖精のような小さな身体をしていた。
「あら?だいぶ前に助けてあげた事があったと思うけど、もう忘れちゃったの?」
「助けて・・・。そうか!もしや貴方が・・・」
「最近じゃすっかり“ウンディーネ”と仲良くしてるみたいで、私の力なんて必要無かった?」
「そんな事はないわ。こうして姿を見せてくれたのは初めてよね。嬉しいわ」
「ふふっ、おっかしぃ~!普段の貴方からは想像もつかない言葉使いだわ。でも“彼”前にでは少し違うのかもね」
クラスによって使役できる可能性のある精霊は、使用者本人の意識とは別のところで本体の様子を伺う事もできる。だがそれは、使役する者に余程興味でもなければそのような事はしない。
ましてウンディーネの話では、その者は気分屋であり手懐けるのは相当難しいという。現にこれまでミアの前にその姿を現した事はなく、語りかけてくる事もなかった。
ゲームという世界の概念でいうところの、熟練度が上がった事によってその者の興味を引き、実力を見せる事で従える事が出来るものなのだが、彼女らのいるWoFの世界では少し勝手が違うようだ。
「そんな事よりっ・・・、先程言っていた“フェア”じゃない・・・とは?」
「そっか、初めましてだものね。私は“シルフ”、四大元素にして風の属性を司る精霊よ。フェアじゃないと言ったのは、貴方達の身体に起きている出来事の事よ」
自身をシルフと名乗る風の精霊は、ミア達の身に起きる突然の痛みの原因が何なのかについて語り始める。どうやらシルフは、アルバの街に起きる異変に彼女らが巻き込まれた辺りからミアの状況を見ていたようで、誰も気が付かなかったその理不尽な攻撃について何かに気づいたようだ。
「戦いの前から仕込まれていたのよ。でも大丈夫、私なら何とか出来るから」
「ちょっと待って。まだ原因が何かもっ・・・!」
言葉足らずのシルフは、詳しい内容も伝えぬままミアの身体の中に入り込むようにして、自身を風と変えミアの魔力と同化し始めた。シルフが身体の中に入る事による痛みや異変はなかったが、その前に受けていたダメージによってミアはシルフにされるがままだった。
「クソッ・・・!急に出てきたと思ったらまた戻って・・・。それどころじゃないってのにッ・・・!」
アンブロジウスの内部攻撃によりまだ麻痺している身体を強引に動かし、敵の位置と仲間の様子、そして次の攻撃に備えるミア。一緒に倒れたニノンの方も意識はあるようだったが、レオンは二度目の内部攻撃でかなり参ってしまっているようだ。
ニノンが倒れるレオンの身体を引きずり、身を隠すように遮蔽物の裏へと移動している。その間にミアは、事前に幾つか作っていた風の力を込めた魔弾を装填する。
しかし相手も呑気には待ってくれない。演奏をしながらもアンブロジウスは、逃げたニノンと厄介な相手と認識したレオンのいる方へ、例の音のシャボン玉と糸を差し向ける。
「おいおいッ・・・まだ傷が癒えてないってのにッ!」
身体を引き摺りながら銃口を構えるミア。そして辛うじて放った魔弾がニノン達の近くの壁に着弾し、彼女らに攻撃が至らぬよう風を巻き起こし、シャボン玉と糸を退ける。
「・・・・・」
邪魔をされた事に腹を立てたのか、アンブロジウスは一旦ミアへと標的を変え、演奏を止めて弓を銃声がした方へと向ける。それはミア達を苦しめていた内部攻撃の予兆だった。
「マズイッ!!またあれが来るッ!」
衝撃に備えると言っても、体内に直接攻撃を仕掛けて来るのに防御も何もあったものではない。それでも気持ちを整えておく事で、不意に貰うダメージよりかは和らげる事が出来るような気がしていたのだろう。
狙いを定めるように、ミアが身を隠している遮蔽物に弓の先端を向けるアンブロジウス。そしてその弓から音の振動、目には僅かに蜃気楼のような空間の歪みのようなモノが見えた。
それが攻撃の合図なのだろう。ミアもそれを察したのか、眉間に皺を寄せて衝撃に備えた。しかしそんな彼女の覚悟が安堵へと変わる。確かに攻撃の予兆はあった。だがこれまでのようにミアの体内に衝撃が走る事はなかったのだ。
「・・・あ?何とも・・・ない?」
すると、ミアの身体の中に入り込んでいたシルフが再び彼女の前に姿を現した。
「おい、どうなってる?一体私の中で何をした?」
「どうやら成功したようね。私が原因を取り除いてあげたのよ。感謝しなさい」
「原因?原因って一体・・・」
「ふふ、答え合わせね。コレよコレ」
そう言ってシルフは、自らの指先に小さな泡のようなモノを一つだけ作り出し、ミアへ見せた。俄かには信じられなかったが、シルフが言うにはその一粒の気泡が身体の中に生成されていたのだと語る。
0
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)
葵セナ
ファンタジー
主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?
管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…
不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。
曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!
ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。
初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)
ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる