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風の精霊と痛みの原因
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またしても戦況は逆戻り。これでは先程のアンブロジウスによる内部攻撃によって、いくら善戦したところで盤上をひっくり返されてしまう。何かアンブロジウスのその攻撃を止める手立てを考えなければ、このままジリ貧になりいずれ頼りのレオンも限界を迎えるのは近いだろう。
「これは芳しくない状況ね。これじゃぁフェアじゃないわ」
「だッ・・・誰だ!?何を言っている・・・!」
突如ミアの耳に届いた何者かの声、その声の主はゆっくりと風を巻き上げながら目に見える形で彼女の前に姿を現した。風をイメージさせるようなエメラルド色の光を纏い、妖精のような小さな身体をしていた。
「あら?だいぶ前に助けてあげた事があったと思うけど、もう忘れちゃったの?」
「助けて・・・。そうか!もしや貴方が・・・」
「最近じゃすっかり“ウンディーネ”と仲良くしてるみたいで、私の力なんて必要無かった?」
「そんな事はないわ。こうして姿を見せてくれたのは初めてよね。嬉しいわ」
「ふふっ、おっかしぃ~!普段の貴方からは想像もつかない言葉使いだわ。でも“彼”前にでは少し違うのかもね」
クラスによって使役できる可能性のある精霊は、使用者本人の意識とは別のところで本体の様子を伺う事もできる。だがそれは、使役する者に余程興味でもなければそのような事はしない。
ましてウンディーネの話では、その者は気分屋であり手懐けるのは相当難しいという。現にこれまでミアの前にその姿を現した事はなく、語りかけてくる事もなかった。
ゲームという世界の概念でいうところの、熟練度が上がった事によってその者の興味を引き、実力を見せる事で従える事が出来るものなのだが、彼女らのいるWoFの世界では少し勝手が違うようだ。
「そんな事よりっ・・・、先程言っていた“フェア”じゃない・・・とは?」
「そっか、初めましてだものね。私は“シルフ”、四大元素にして風の属性を司る精霊よ。フェアじゃないと言ったのは、貴方達の身体に起きている出来事の事よ」
自身をシルフと名乗る風の精霊は、ミア達の身に起きる突然の痛みの原因が何なのかについて語り始める。どうやらシルフは、アルバの街に起きる異変に彼女らが巻き込まれた辺りからミアの状況を見ていたようで、誰も気が付かなかったその理不尽な攻撃について何かに気づいたようだ。
「戦いの前から仕込まれていたのよ。でも大丈夫、私なら何とか出来るから」
「ちょっと待って。まだ原因が何かもっ・・・!」
言葉足らずのシルフは、詳しい内容も伝えぬままミアの身体の中に入り込むようにして、自身を風と変えミアの魔力と同化し始めた。シルフが身体の中に入る事による痛みや異変はなかったが、その前に受けていたダメージによってミアはシルフにされるがままだった。
「クソッ・・・!急に出てきたと思ったらまた戻って・・・。それどころじゃないってのにッ・・・!」
アンブロジウスの内部攻撃によりまだ麻痺している身体を強引に動かし、敵の位置と仲間の様子、そして次の攻撃に備えるミア。一緒に倒れたニノンの方も意識はあるようだったが、レオンは二度目の内部攻撃でかなり参ってしまっているようだ。
ニノンが倒れるレオンの身体を引きずり、身を隠すように遮蔽物の裏へと移動している。その間にミアは、事前に幾つか作っていた風の力を込めた魔弾を装填する。
しかし相手も呑気には待ってくれない。演奏をしながらもアンブロジウスは、逃げたニノンと厄介な相手と認識したレオンのいる方へ、例の音のシャボン玉と糸を差し向ける。
「おいおいッ・・・まだ傷が癒えてないってのにッ!」
身体を引き摺りながら銃口を構えるミア。そして辛うじて放った魔弾がニノン達の近くの壁に着弾し、彼女らに攻撃が至らぬよう風を巻き起こし、シャボン玉と糸を退ける。
「・・・・・」
邪魔をされた事に腹を立てたのか、アンブロジウスは一旦ミアへと標的を変え、演奏を止めて弓を銃声がした方へと向ける。それはミア達を苦しめていた内部攻撃の予兆だった。
「マズイッ!!またあれが来るッ!」
衝撃に備えると言っても、体内に直接攻撃を仕掛けて来るのに防御も何もあったものではない。それでも気持ちを整えておく事で、不意に貰うダメージよりかは和らげる事が出来るような気がしていたのだろう。
狙いを定めるように、ミアが身を隠している遮蔽物に弓の先端を向けるアンブロジウス。そしてその弓から音の振動、目には僅かに蜃気楼のような空間の歪みのようなモノが見えた。
それが攻撃の合図なのだろう。ミアもそれを察したのか、眉間に皺を寄せて衝撃に備えた。しかしそんな彼女の覚悟が安堵へと変わる。確かに攻撃の予兆はあった。だがこれまでのようにミアの体内に衝撃が走る事はなかったのだ。
「・・・あ?何とも・・・ない?」
すると、ミアの身体の中に入り込んでいたシルフが再び彼女の前に姿を現した。
「おい、どうなってる?一体私の中で何をした?」
「どうやら成功したようね。私が原因を取り除いてあげたのよ。感謝しなさい」
「原因?原因って一体・・・」
「ふふ、答え合わせね。コレよコレ」
そう言ってシルフは、自らの指先に小さな泡のようなモノを一つだけ作り出し、ミアへ見せた。俄かには信じられなかったが、シルフが言うにはその一粒の気泡が身体の中に生成されていたのだと語る。
「これは芳しくない状況ね。これじゃぁフェアじゃないわ」
「だッ・・・誰だ!?何を言っている・・・!」
突如ミアの耳に届いた何者かの声、その声の主はゆっくりと風を巻き上げながら目に見える形で彼女の前に姿を現した。風をイメージさせるようなエメラルド色の光を纏い、妖精のような小さな身体をしていた。
「あら?だいぶ前に助けてあげた事があったと思うけど、もう忘れちゃったの?」
「助けて・・・。そうか!もしや貴方が・・・」
「最近じゃすっかり“ウンディーネ”と仲良くしてるみたいで、私の力なんて必要無かった?」
「そんな事はないわ。こうして姿を見せてくれたのは初めてよね。嬉しいわ」
「ふふっ、おっかしぃ~!普段の貴方からは想像もつかない言葉使いだわ。でも“彼”前にでは少し違うのかもね」
クラスによって使役できる可能性のある精霊は、使用者本人の意識とは別のところで本体の様子を伺う事もできる。だがそれは、使役する者に余程興味でもなければそのような事はしない。
ましてウンディーネの話では、その者は気分屋であり手懐けるのは相当難しいという。現にこれまでミアの前にその姿を現した事はなく、語りかけてくる事もなかった。
ゲームという世界の概念でいうところの、熟練度が上がった事によってその者の興味を引き、実力を見せる事で従える事が出来るものなのだが、彼女らのいるWoFの世界では少し勝手が違うようだ。
「そんな事よりっ・・・、先程言っていた“フェア”じゃない・・・とは?」
「そっか、初めましてだものね。私は“シルフ”、四大元素にして風の属性を司る精霊よ。フェアじゃないと言ったのは、貴方達の身体に起きている出来事の事よ」
自身をシルフと名乗る風の精霊は、ミア達の身に起きる突然の痛みの原因が何なのかについて語り始める。どうやらシルフは、アルバの街に起きる異変に彼女らが巻き込まれた辺りからミアの状況を見ていたようで、誰も気が付かなかったその理不尽な攻撃について何かに気づいたようだ。
「戦いの前から仕込まれていたのよ。でも大丈夫、私なら何とか出来るから」
「ちょっと待って。まだ原因が何かもっ・・・!」
言葉足らずのシルフは、詳しい内容も伝えぬままミアの身体の中に入り込むようにして、自身を風と変えミアの魔力と同化し始めた。シルフが身体の中に入る事による痛みや異変はなかったが、その前に受けていたダメージによってミアはシルフにされるがままだった。
「クソッ・・・!急に出てきたと思ったらまた戻って・・・。それどころじゃないってのにッ・・・!」
アンブロジウスの内部攻撃によりまだ麻痺している身体を強引に動かし、敵の位置と仲間の様子、そして次の攻撃に備えるミア。一緒に倒れたニノンの方も意識はあるようだったが、レオンは二度目の内部攻撃でかなり参ってしまっているようだ。
ニノンが倒れるレオンの身体を引きずり、身を隠すように遮蔽物の裏へと移動している。その間にミアは、事前に幾つか作っていた風の力を込めた魔弾を装填する。
しかし相手も呑気には待ってくれない。演奏をしながらもアンブロジウスは、逃げたニノンと厄介な相手と認識したレオンのいる方へ、例の音のシャボン玉と糸を差し向ける。
「おいおいッ・・・まだ傷が癒えてないってのにッ!」
身体を引き摺りながら銃口を構えるミア。そして辛うじて放った魔弾がニノン達の近くの壁に着弾し、彼女らに攻撃が至らぬよう風を巻き起こし、シャボン玉と糸を退ける。
「・・・・・」
邪魔をされた事に腹を立てたのか、アンブロジウスは一旦ミアへと標的を変え、演奏を止めて弓を銃声がした方へと向ける。それはミア達を苦しめていた内部攻撃の予兆だった。
「マズイッ!!またあれが来るッ!」
衝撃に備えると言っても、体内に直接攻撃を仕掛けて来るのに防御も何もあったものではない。それでも気持ちを整えておく事で、不意に貰うダメージよりかは和らげる事が出来るような気がしていたのだろう。
狙いを定めるように、ミアが身を隠している遮蔽物に弓の先端を向けるアンブロジウス。そしてその弓から音の振動、目には僅かに蜃気楼のような空間の歪みのようなモノが見えた。
それが攻撃の合図なのだろう。ミアもそれを察したのか、眉間に皺を寄せて衝撃に備えた。しかしそんな彼女の覚悟が安堵へと変わる。確かに攻撃の予兆はあった。だがこれまでのようにミアの体内に衝撃が走る事はなかったのだ。
「・・・あ?何とも・・・ない?」
すると、ミアの身体の中に入り込んでいたシルフが再び彼女の前に姿を現した。
「おい、どうなってる?一体私の中で何をした?」
「どうやら成功したようね。私が原因を取り除いてあげたのよ。感謝しなさい」
「原因?原因って一体・・・」
「ふふ、答え合わせね。コレよコレ」
そう言ってシルフは、自らの指先に小さな泡のようなモノを一つだけ作り出し、ミアへ見せた。俄かには信じられなかったが、シルフが言うにはその一粒の気泡が身体の中に生成されていたのだと語る。
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