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神代 コウ

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風にも負けず

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 またしても彼らを襲う唐突な痛み。攻撃を受けた覚えも、何かされたという予兆すら何処にもなかった。防ぎようのない事故、突発性の病気、今彼女らを襲った衝撃もまた、一見そのようなものと同じだと思われていた。

「がッ・・・なんッ・・・!?」

「これ・・・はッ・・・!?」

 ミアやニノンはまだ戦闘でのダメージなどで身体に耐性があるようだが、戦闘も行ったこともない、それもまだ大人というには早慶な時期にあるレオンにとっては、二人以上に深刻で恐怖を与える一撃となっていた。

 その場に流れていた音楽がピタリと止まり、レオンの手からヴァイオリンがこぼれ落ちる。唐突に訪れた静寂の中に、乾いた木造品が硬いものに打ちつけたれる音が響く。

 苦悶の表情を浮かべながらも、心配そうにレオンの方を見るニノン。そこには放心状態のまま崩れ落ちるレオンの姿があった。余りにも一瞬、余りにも突然の出来事に、まだ彼の脳が何が起きたのか処理しきれていないのだろう。

「お・・・おい、レオン君・・・大丈夫か!?」

「・・・・・」

 ニノンの言葉に返事はない。意識があるのかないのか、膝から崩れ落ちたレオンはそのまま床にうつ伏せの状態で倒れる。

「レオン!?」

 自分のダメージも顧みず、危険な状態で倒れたレオンに駆け寄るニノン。その様子を遠くから見ていたミアは、すぐに自分がアンブロジウスを止めなければならないと、痛む身体に鞭を打ち戦闘体勢を整える。

 倒れた衝撃で床に溢した弾丸を拾い集め懐に入れると、弾倉に込められている魔弾を確認し、アンブロジウスの様子を伺う。土煙はすっかり晴れ、先程までアンブロジウスの影があった場所に彼の姿はない。

 だが何処からか今度は彼の演奏が聞こえてくる。すると再びミア達の身体に例のバフが掛けられ、自由を奪われたミアは勢い余って別の遮蔽物に移動した先で壁に激突してしまう。

「うッ・・・!!クソッ!またこれかよッ・・・。だが何故だ?奴の手元にはもう楽譜は無い筈だろ!?」

 もう一度アンブロジウスを確認するミアだったが、やはりその手元に楽譜は無く、周囲にもそれらしき物は見当たらない。なのに、楽譜を見て演奏していた時と同じ効果をもたらしてくるとは、一体どういう事なのだろう。

「考えても埒があかねぇか。今はやれるだけの事をやる。幸いアタシには、奴のバフに左右されないコイツがあるッ!」

 ウンディーネにも勧められた風属性の魔弾を込めた銃を握り締め、アンブロジウスへの攻撃を開始する。

 一発目の弾丸がアンブロジウスの頭部目掛けて駆け抜けていく。狙い自体は正確だったが、アンブロジウスはこれを演奏しながら難なく避けてみせる。しかし、ミアの弾丸はこれで終わりではない。

 アンブロジウスを通り過ぎ、壁に着弾したミアの魔弾はその場で風をまきおこす。だがここで、先程までのアンブロジウスとは違う動きが表れた。

 前回、ミアの引き起こした風でバランスを崩していたアンブロジウスは、今回の風ではまるで微動だにしていない。しかも変化はそれだけではなかった。彼の周囲にあるシャボン玉もまた、全てではないがその幾つかは風に耐え、その場で割れずに留まっているのだ。

「なッ・・・!?何だあれは!?チッ・・・だが今更攻撃の手は止められない!」

 本来、バランスを崩したところを狙い撃ちしようと思っていたミアだったが、もう一つ装弾した風の魔弾を今度はアンブロジウスの胴体に向けて撃ち放つ。

 依然として一発目の風が周囲に巻き起こる中、アンブロジウスはミアの放った二発目の弾丸も容易に躱してみせる。そして二発目の弾丸が壁に着弾すると、こちらでも風を巻き起こした。

 二つの弾丸が巻き起こす風により、彼の周囲には複雑な気流が発生する。常人ならば、様々な方向から吹き荒ぶ風に足を取られ倒れてしまうところだが、やはりアンブロジウスは何らかの小細工を施しているのか、全くフラつくこともなく、何事もないかのように演奏を続けている。

 しかし、彼の周りを浮遊していたシャボン玉はそうはいかないようだ。一つの風だけなら何とかなっていたものの、二つ目の風力源に流石に耐えられなかったのか、割れたり吹き飛ばされたりとその場に留まっているシャボン玉は一つもなかった。

 単純に魔弾に込められた風の威力の問題かとも疑ったミアだが、それは二発目の弾丸が引き起こす風により、アンブロジウスの仕掛けの秘密をあらわにした。

 風に揺られ、それは周囲の光を反射する事で人間の肉眼でも視認出来るようになったようだ。アンブロジウスやシャボン玉が風力に負けず、その場に留まっていられたのは、彼の作り出した糸による影響だったのだ。
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