World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
1,468 / 1,646

奏者達の到着

しおりを挟む
 彼の離脱も考えると、その後の宮殿内の探索はより効率的に行わなければならない事が予想される。その点に関しては、宮殿内の構造に詳しいマティアスとクリスの消失は、今の彼らにとって痛手だったとも言える。


多少なりとも敵の感知が可能なケヴィンを最後方に配置しながら全体をカバーし、敵の襲撃にはオイゲンが臨機応変に対応し屋上へとやって来た一行。

 先頭のオイゲンが扉を開けて外へと飛び出していくと、そこにはそこら中の壁や床に弾痕が散りばめられ、宮殿の外壁を削りながら戦ったのだろうと思われる、建物の破片が撒き散らされた荒れた戦場が広がっていた。

 少し遅れてやって来た一行も、屋上の荒れた様子に驚いた表情を浮かべながら、周囲を見渡しブルースの言っていたバッハの一族の霊であるアンブロジウスと、それと戦うミアとニノンの姿を探す。

 しかし一見して彼らの周りに、何かが動くような気配は感じられない。

「な・・・何だこれ・・・!」
「おいおい・・・、まさかもう勝負がついちまったって事ぁねぇよな!?」

 最初に口を開いたレオンとカルロス。率直な感想としては皆同じような事を思い浮かべていただろう。だがその時は直ぐに訪れた。次に誰かが口を開こうとした瞬間、それまで視界に映らなかったモノが彼らの前に現れたのだ。

 それは彼らにとっても記憶に新しいモノであり、アルバに住む者なら誰しもが慣れ親しんでいたモノ。今回の事件が起こるまでは、それがこんなに恐ろしいモノであるなどと思いもしなかった、音を中に閉じ込める“シャボン玉”だったのだ。

 何もないところから急に現れたシャボン玉は、僅かな空間に歪みと光の反射でによりその姿を一行の前に晒した。それと同時に響き渡ったのは、数発の銃声だった。

 何処からくる攻撃に備えていたオイゲンが、一行を覆うようなドーム状のバリアを展開する。シャボン玉に驚いていた一行は、オイゲンの咄嗟のスキルに身構え何事かと周囲への警戒を強める。

「銃声!?」

「大丈夫です、この銃声は味方のものッ・・・!?」

 ケヴィンにはその銃声がミアのものであることが分かっていた。だが突然の攻撃にいっこうを落ち着かせようと声を掛けた彼の思惑を裏切るように、銃弾は周囲のシャボン玉幾つか破りながらオイゲンのバリアへと命中する。

「ケヴィンさん!銃弾がこちらへ飛んで来ましたが!?」

「ミアさんッ・・・!?一体何故・・・?」

 すると、何者かが急接近して来ることに気が付いたオイゲンが、一行に注意を促す。

「気を付けろッ!何か来るぞ!」

 彼の発した声とほぼ同時に、オイゲンの張るバリアの直ぐ側に司令室で彼らを襲撃したベルンハルトとよく似た格好をした霊体が姿を現し、その手に持ったヴァイオリンで音を奏でようとしていた。

「マズイッ!攻撃が来る!!」

 オイゲンの脳裏に過ったのは、彼のバリアを透過して来るベルンハルトの音を使った攻撃だった。このままでは一行を守る為のバリアが、そのまま一行を一網打尽にする鳥籠になりかねないと。

 直ぐにスキルを解除しなければ取り返しのつかない事になる。しかし、既に楽器を構え、弓を引くだけの状態に既に入っている。もう間に合わないかと半ば諦めかけていたその時、今まで気配すら感じさせなかったニノンが瞬く間にオイゲンの視界に飛び込んで来ると、間一髪のところでアンブロジウスの演奏を阻止する事に成功した。

「なッ・・・ニノン!?無事だったのか!?」

「話は後!みんなを開けたところへ!」

 目にも止まらぬ速度で駆けつけたニノンの拳は、オイゲンのバリアに迫っていたアンブロジウスを遠ざけるように吹き飛ばした。攻撃が命中している。いや、ニノンの拳はアンブロジウスに触れる直前のところで、見えぬ何かに阻まれていた。

 だがニノンは、攻撃を阻むその何かごと押し退けていたのだ。

「チッ・・・!またそれか」

 屋上でずっと戦っていた彼女は、アンブロジウスの戦い方や能力をある程度理解しているようだ。だがその上でも攻撃が本体にダメージを与えていないという事は、彼女らにはそれ以外にとる手段がないという状況に置かれている事が分かる。

 しかしピンチという訳でもなさそうだ。確かにこのまま戦闘が長引けば、彼女らの体力と魔力切れでジリ貧になる事は明白。だがそれも今直ぐにという訳ではない。それは彼女の動きがと表情が証明している。

ニノンの表情は焦りもなければ余裕というものでもない。ただ、彼女らは司令室内でのオイゲンら以上に、落ち着いて相手の攻撃に対処出来ているようだ。彼らを開けたところへ避難させたのも、一見遮蔽物の多い室内へ逃げた方が安全そうに思えるが、音の物質を透過する能力を考慮しての事だったのだろう。

「ニノン、これはどういった状況だ?」

 オイゲンらがニノンの指示で開けた場所へ移動した後、そこへ彼女も合流すると退けたアンブロジウスを一行から遠ざけるように、様々な方角から奇妙な軌道を描く銃弾が飛び交う。

「安心して。この銃弾はミアの物。彼女はポイントを変えながら私を援護する銃撃を行ってくれている。奴が楽譜を取り出して演奏してから、攻撃のパターンが一気に変わって対応するのに苦労したわ」

「やはり楽譜を・・・」

「やはり?何か知っているの?」

「俺達はその楽譜の効果を打ち消す為に来た。奴が弱体化したら何とかなりそうか?」

 オイゲンは司令室で起きた出来事をなるべく簡潔に彼女へ伝えた。そして楽譜は他の者でも演奏する事が可能であり、楽譜ごとに対応する楽器で演奏する事で、アンブロジウスの強化を解除する事ができる。

 その為に奏者と楽器を持って来たのだと。そして宮殿内の別のところで戦う者達の為にも、急ぎ次の場所へと向かわねばならぬ事を伝え、戦力的に問題ないかと彼女に問うと、弱体化されるのであれば勝機もあると心強い返事を返してくれた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。

みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。 勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。  辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。  だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

虚弱生産士は今日も死ぬ ―遊戯の世界で満喫中―

山田 武
ファンタジー
今よりも科学が発達した世界、そんな世界にVRMMOが登場した。 Every Holiday Online 休みを謳歌できるこのゲームを、俺たち家族全員が始めることになった。 最初のチュートリアルの時、俺は一つの願いを言った――そしたらステータスは最弱、スキルの大半はエラー状態!? ゲーム開始地点は誰もいない無人の星、あるのは求めて手に入れた生産特化のスキル――:DIY:。 はたして、俺はこのゲームで大車輪ができるのか!? (大切) 1話約1000文字です 01章――バトル無し・下準備回 02章――冒険の始まり・死に続ける 03章――『超越者』・騎士の国へ 04章――森の守護獣・イベント参加 05章――ダンジョン・未知との遭遇 06章──仙人の街・帝国の進撃 07章──強さを求めて・錬金の王 08章──魔族の侵略・魔王との邂逅 09章──匠天の証明・眠る機械龍 10章──東の果てへ・物ノ怪の巫女 11章──アンヤク・封じられし人形 12章──獣人の都・蔓延る闘争 13章──当千の試練・機械仕掛けの不死者 14章──天の集い・北の果て 15章──刀の王様・眠れる妖精 16章──腕輪祭り・悪鬼騒動 17章──幽源の世界・侵略者の侵蝕 18章──タコヤキ作り・幽魔と霊王 19章──剋服の試練・ギルド問題 20章──五州騒動・迷宮イベント 21章──VS戦乙女・就職活動 22章──休日開放・家族冒険 23章──千■万■・■■の主(予定) タイトル通りになるのは二章以降となります、予めご了承を。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第四章フェレスト王国ドワーフ編

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...