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創造の風景と埋もれた植物
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彼のその様子に驚きの反応を見せたのは、プラチドだけではなかった。わずかながらだが、アンナ自身の動きに隙を見つけたツクヨは後退から攻めに転じ、迫る糸を刀で斬り分けるとアンナの懐に飛び込む事に成功する。
しかし彼女に近づけば歌声の影響で様々なマイナス効果を受けてしまう。プラチドもツクヨの急な機転に、それはかえって自らの首を絞める事になると彼の援護に回ろうとするのだが、プラチドの危惧する展開にはならなかった。
ツクヨの振るう刀は、それこそ一般的に目にする細長い日本刀のような形状とは少し異なる形をしており、その刀にはWoFの世界の人間には扱えない特殊な能力が隠されている。
それこそツクヨが今も尚、目を瞑ったまま戦い続けている理由でもあった。彼の振るう刀こそ、かの有名な布都御魂剣といい、WoFの世界において使用者の視界と引き換えに、その瞼の裏に映す使用者の創造する風景を作り出し、使用者だけがその風景の中で戦うことが出来るという、他に類を見ない複雑な能力を有していた。
つまりツクヨには、宮殿の入り口ではなく別の景色が見えており、そこには宙に何かしらの物体、或いは足場が存在していたのだろう。故に他の者達には彼が空中で着地したように見えていた。
そして布都御魂剣がもたらす能力が影響を及ぼすのは地形だけではなく、その環境すらも変えてしまうのだ。これは海上レースにて、彼が水中で自在に動き呼吸も出来ていた事からも窺える。
依然アンナの歌声は続いている。ツクヨの援護に向かおうとするプラチドにもその影響は確実に出ている。それは彼がアンナと一定以上の距離を詰められない事からも伺えた。
「クソッ・・・!これ以上は無理か。ならばここから出来ることを・・・?いや待て、何故彼はあの距離で無事でいられる!?」
ツクヨはアンナの側に着地すると、刀を返しあたかも峰打ちを狙っているかのように刃とは反対の部分を、アンナに振るっていた。だが当然、それでは彼女の周囲を舞う糸を切断することは出来ない。
何度か惜しい一撃を振るうも決定打には至らず、ツクヨの能力に違和感を覚えたのか、今度はアンナの方がツクヨを遠ざけるように後退していった。糸による守りと追撃が激しく、これ以上は踏み込めないと判断したツクヨは、一旦プラチドのいる方へと戻っていく。
「何をしている!?何故刀を返した?」
「すっすみません!でも女の人はちょっと・・・」
「・・・何かトラウマでも持ってるのか?」
「・・・・・」
ツクヨは決してフェミニストという訳ではない。彼自身、相手が非道な者であれば、男であろうが女であろうが、ましてやその見た目が子供であっても戦う心や意思を持ち合わせている。
それが自身の命や仲間の命が危険にさらされていれば尚の事。だが分かっていてもツクヨの身体は、女子供を攻撃することを拒絶してしまうのだ。これは彼が現実世界で目の当たりにした、この世のものとは思えない程の凄惨な光景を見てしまった事が影響しているからだ。
今でも思い出すだけで吐き気を催すほど、決して忘れることは出来ず、また乗り越えることも叶わぬ強大な存在として、彼の中に存在していた。
「悪い・・・言いたくないのなら言わなくていい。だが・・・」
「分かってます。何とか出来る限りのことは・・・」
しかし、そんな言葉を吐くツクヨの表情には大粒の汗が滲み出ていた。その様子からも、ただ事ではない過去を持っていることを察したプラチドは、無理に攻め込む必要はないとフォローし、アンナへの攻撃は自分が担当すると告げ、ツクヨには道を切り開く手伝いをお願いした。
「すみません・・・。肝心なところで私は・・・」
「誰にでもどうしようもない事はある。他人の俺がとやかく言える事ではないが、いずれ何かのきっかけで克服できるだろう。今はまだその時ではないだけさ」
ツクヨは彼の言葉に温かみを感じていながらも、こんな状況でも自身の過去から抜け出せないでいる自分に後ろめたさも感じていた。
すると突然、彼らの背後で瓦礫が崩れる音がした。背後からの奇襲かと振り返るツクヨとプラチドの視界に入ってきたのは、思わぬ人物の姿だった。その人物は瓦礫の下に埋もれており、何とか小さな瓦礫を選び押し退けると、中から出てきたのは小さな人間のような姿をした生き物だったのだ。
「えっ!?あれって・・・小人!?」
この時、ツクヨは彼の姿を見るのが初めてだったようだが、事前に資料で音楽家達の情報を見ていたプラチドは、彼がアンドレイの護衛の一人であるケイシーであるとすぐに分かった。
「彼はアンドレイの護衛だ。まさかこんなところにいたとは・・・。無事か?」
「アンタらがアイツの相手をしてくれてたおかげでね。下敷きになってたせいで身体中痛いし痺れてるけどな」
彼らがそんなやりとりをしていると、まだ瓦礫の下から這い出てきたばかりのケイシーの背後に、二人の謎の人物が床を擦り抜けて忍び寄る。それに気が付いたツクヨとプラチドは、すぐに危険が迫っている事を彼に伝える。
「おいッ後ろ!!ツクヨはアンナを!」
「りょっ了解!」
ツクヨにアンナの事を任せ、すぐにケイシーの元へ向かおうとするプラチドだったが、突然の眩暈と急速に早くなる心臓の鼓動に立っているのがやっとな程の状態に陥る。
「まッ・・・まさか・・・!?」
プラチドと同じように、一時的に布都御魂剣の能力を解除していたツクヨも同じ状況に陥るも、すぐに目を閉じて自分の風景の中に飛び込むと、距離を詰めてきたアンナの前に立ちはだかる。
倒れそうになる足に鞭を打ち、ケイシーの方へ視界を向けるプラチド。しかし一言目の彼の声により、背後から忍び寄る気配に気が付いたケイシーは、自分の身体を押し上げる為に仕込んでおいた植物の種を成長させる。
瓦礫の下から現れたのは、まるで意思を持つかのようにその大きな口を広げて獲物を狙う、食中植物が飛び出し謎の人物達を捕らえていった。
しかし彼女に近づけば歌声の影響で様々なマイナス効果を受けてしまう。プラチドもツクヨの急な機転に、それはかえって自らの首を絞める事になると彼の援護に回ろうとするのだが、プラチドの危惧する展開にはならなかった。
ツクヨの振るう刀は、それこそ一般的に目にする細長い日本刀のような形状とは少し異なる形をしており、その刀にはWoFの世界の人間には扱えない特殊な能力が隠されている。
それこそツクヨが今も尚、目を瞑ったまま戦い続けている理由でもあった。彼の振るう刀こそ、かの有名な布都御魂剣といい、WoFの世界において使用者の視界と引き換えに、その瞼の裏に映す使用者の創造する風景を作り出し、使用者だけがその風景の中で戦うことが出来るという、他に類を見ない複雑な能力を有していた。
つまりツクヨには、宮殿の入り口ではなく別の景色が見えており、そこには宙に何かしらの物体、或いは足場が存在していたのだろう。故に他の者達には彼が空中で着地したように見えていた。
そして布都御魂剣がもたらす能力が影響を及ぼすのは地形だけではなく、その環境すらも変えてしまうのだ。これは海上レースにて、彼が水中で自在に動き呼吸も出来ていた事からも窺える。
依然アンナの歌声は続いている。ツクヨの援護に向かおうとするプラチドにもその影響は確実に出ている。それは彼がアンナと一定以上の距離を詰められない事からも伺えた。
「クソッ・・・!これ以上は無理か。ならばここから出来ることを・・・?いや待て、何故彼はあの距離で無事でいられる!?」
ツクヨはアンナの側に着地すると、刀を返しあたかも峰打ちを狙っているかのように刃とは反対の部分を、アンナに振るっていた。だが当然、それでは彼女の周囲を舞う糸を切断することは出来ない。
何度か惜しい一撃を振るうも決定打には至らず、ツクヨの能力に違和感を覚えたのか、今度はアンナの方がツクヨを遠ざけるように後退していった。糸による守りと追撃が激しく、これ以上は踏み込めないと判断したツクヨは、一旦プラチドのいる方へと戻っていく。
「何をしている!?何故刀を返した?」
「すっすみません!でも女の人はちょっと・・・」
「・・・何かトラウマでも持ってるのか?」
「・・・・・」
ツクヨは決してフェミニストという訳ではない。彼自身、相手が非道な者であれば、男であろうが女であろうが、ましてやその見た目が子供であっても戦う心や意思を持ち合わせている。
それが自身の命や仲間の命が危険にさらされていれば尚の事。だが分かっていてもツクヨの身体は、女子供を攻撃することを拒絶してしまうのだ。これは彼が現実世界で目の当たりにした、この世のものとは思えない程の凄惨な光景を見てしまった事が影響しているからだ。
今でも思い出すだけで吐き気を催すほど、決して忘れることは出来ず、また乗り越えることも叶わぬ強大な存在として、彼の中に存在していた。
「悪い・・・言いたくないのなら言わなくていい。だが・・・」
「分かってます。何とか出来る限りのことは・・・」
しかし、そんな言葉を吐くツクヨの表情には大粒の汗が滲み出ていた。その様子からも、ただ事ではない過去を持っていることを察したプラチドは、無理に攻め込む必要はないとフォローし、アンナへの攻撃は自分が担当すると告げ、ツクヨには道を切り開く手伝いをお願いした。
「すみません・・・。肝心なところで私は・・・」
「誰にでもどうしようもない事はある。他人の俺がとやかく言える事ではないが、いずれ何かのきっかけで克服できるだろう。今はまだその時ではないだけさ」
ツクヨは彼の言葉に温かみを感じていながらも、こんな状況でも自身の過去から抜け出せないでいる自分に後ろめたさも感じていた。
すると突然、彼らの背後で瓦礫が崩れる音がした。背後からの奇襲かと振り返るツクヨとプラチドの視界に入ってきたのは、思わぬ人物の姿だった。その人物は瓦礫の下に埋もれており、何とか小さな瓦礫を選び押し退けると、中から出てきたのは小さな人間のような姿をした生き物だったのだ。
「えっ!?あれって・・・小人!?」
この時、ツクヨは彼の姿を見るのが初めてだったようだが、事前に資料で音楽家達の情報を見ていたプラチドは、彼がアンドレイの護衛の一人であるケイシーであるとすぐに分かった。
「彼はアンドレイの護衛だ。まさかこんなところにいたとは・・・。無事か?」
「アンタらがアイツの相手をしてくれてたおかげでね。下敷きになってたせいで身体中痛いし痺れてるけどな」
彼らがそんなやりとりをしていると、まだ瓦礫の下から這い出てきたばかりのケイシーの背後に、二人の謎の人物が床を擦り抜けて忍び寄る。それに気が付いたツクヨとプラチドは、すぐに危険が迫っている事を彼に伝える。
「おいッ後ろ!!ツクヨはアンナを!」
「りょっ了解!」
ツクヨにアンナの事を任せ、すぐにケイシーの元へ向かおうとするプラチドだったが、突然の眩暈と急速に早くなる心臓の鼓動に立っているのがやっとな程の状態に陥る。
「まッ・・・まさか・・・!?」
プラチドと同じように、一時的に布都御魂剣の能力を解除していたツクヨも同じ状況に陥るも、すぐに目を閉じて自分の風景の中に飛び込むと、距離を詰めてきたアンナの前に立ちはだかる。
倒れそうになる足に鞭を打ち、ケイシーの方へ視界を向けるプラチド。しかし一言目の彼の声により、背後から忍び寄る気配に気が付いたケイシーは、自分の身体を押し上げる為に仕込んでおいた植物の種を成長させる。
瓦礫の下から現れたのは、まるで意思を持つかのようにその大きな口を広げて獲物を狙う、食中植物が飛び出し謎の人物達を捕らえていった。
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