World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,450 / 1,646

情報を活かすも殺すも

しおりを挟む
 ジルはバッハ博物館に戻されていなかった、彼に所縁のある代物“月光写譜“のことをその場で口にした。そしてレオン達を騙す為の口実として使ったニクラス教会で、何者かが楽譜のようなものを持ち出すところを目撃したことも。

 ジルとカルロスが宮殿へやって来たのは、その人物の後をつけて来たからだった。無論、レオン達とは宮殿前で落ち合うつもりではいたが、彼らの方でも事情が変わっておりアンナの襲撃を受け、半ば強制的に宮殿内へと入ることになってしまった。

 これでもう無関係ではいられない。何か事情を隠そうとしていた宮殿サイドの隠し事を知ってしまった以上、彼らも自由に街を捜索するという訳にも行かなくなった。

 いやそれ以前に、宮殿の何処かに潜んでいると思われる真犯人に彼らのことが知られて仕舞えば、彼らもまたターゲットになり得る。それも恐らく犯人側が最も知られたくなかったであろう重大な情報を、知られたくない者達の前で口にしてしまった。

 当然それを想像できなかったジルとカルロスではない。しかしそれが事件の真相に近づく何らかの手掛かりであり、現状彼らを取り巻く不気味で不可思議な体験を終わらせる為の情報であり、今この場にはそれを終わらせることのできる者達が揃っていることを、二人とも理解している。

 その背中を押すのに一役買ったのが、ベルンハルトの思惑にハマり攻撃を返されてしまったブルースだったのだ。それは嬉しい誤算でもあった。ブルースとて、バルトロメオとオイゲンの攻撃を跳ね返されカウンターを貰うなどとは考えもしなかった事だ。

 急遽肉体から魂を分離させた彼は、そのまま都合がいいと状況を俯瞰して様子を見いようと考えたのだが、謎の人物達同様に壁や床を擦り抜けて移動できることを思い出し、気になっていた外の状況を見に行った。

 その時に見つけたのがジルとカルロスだった。彼らはまだ宮殿の側にまで到達している訳ではなかった。ブルースが偶然目を向けた街並みの中に、明らかに謎の人物達とは違う者の動く影を見つけたのだ。

 暫く様子を見ていると、彼らが宮殿を目指していることが直ぐに分かった。ブルースから二人にアプローチすることは出来ず、どうやって二人を手っ取り早く一行の居る司令室に招き入れられるかと考えたブルースは、今彼らの前にある結果の通りバルトロメオに壁を破壊させるという手段をとった。

 これによりジルとカルロスが正面へ回り込むというタイムロスを省く事になり、現在のベルンハルトの変化に対応できる新たな選択肢として、彼の持つ“楽譜“を取り上げることで弱体化を狙えるという希望を得た。

「楽譜・・・。それが奴の力の・・・延いては能力の源という訳か」

「可能性としては高いでしょうね。それよりも驚いたのは、彼らの推理力と行動力でしょう。それともブルースさんの導きでもあったのでしょうか?」

 ケヴィンが考えるには、ジルとカルロスが楽譜の情報を持って宮殿へ向かおうと考えたのは、そこに解決できるかもしれない人物がいると思っての事だろうと言うのだ。

 レオンとクリスの話から、アルバの街でも同じように謎の人物達の出現と襲撃はあったようだ。それにその現象を確認しているのは彼らだけだったらしい。当然、親や身近な人物に相談もしただろう。

 だがこうしてこの場に現れたのが、彼らのような学生達だけだったということは、誰も彼らの話を信じなかったか話せなかった何らかの理由があったことが読み取れる。

 普通であれば、自分がおかしくなったのか、みんな知っていて知らぬフリをしているのだと考え、周りに流されようとするのが殆どだろう。その中で異変に気が付き、真実を追い求めようとする意思と行動をとったのは、宮殿に残る者達にとって幸運だったと言える。

 彼らの失われた記憶の中でもそうだったが、宮殿を脱出して持ち出された楽譜の存在に気がつけた者はいない。これは街で異変に気が付き、手掛かりを掴もうとする協力者でもいない限り到底できることではなかった。

 何故学生らが危険を冒してまでそのような事に首を突っ込もうと思ったのかは、宮殿にいたケヴィンらには理解できない事だったが、それを知ってか知らずか宮殿へ招き入れたブルースとバルトロメオにも感謝しなければならないとケヴィンはオイゲンに語った。

「確かに、外の様子は我々も調査しようと試みてはいたが、手掛かりを掴むことは出来なかった。やった事といえば、容疑者を数人、宮殿へ連れてきた程度で彼らからも有力な情報は聞き出せていない。それがまさか彼らによって暴かれようとは・・・」

「ですが、それを活かすも殺すも私達次第です・・・。どうですか?楽譜の件は何とかできそうですか?」

 楽譜を奪うだけとなれば、未知の能力を身につけたベルンハルトを倒すというよりも可能性はあるだろう。現実的に、能力が覚醒したのはベルンハルト本人であって、楽譜というアイテム自体には今のところ何の変化も起きていない。

 ブルースとバルトロメオが戦力として戻った今、数にものを言わせた強引な戦略も可能となるだろう。そしてその結論に至ったのは、その場で状況を見て勝算を導き出そうとしていたアンドレイも同じだった。

 更に彼は、楽譜を奪うだけであればこれ以上適任な者はいないとして、ある人物に目をつけていた。それはまたしても、このWoFの世界において特異なクラスとして知られる、影の中に身を潜められるアサシンのクラスであるシンだった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...