World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,449 / 1,646

演奏されていたものの正体

しおりを挟む
 全てがベルンハルトから離れるように押し除けられていく。これまで優位に働いていた紅葉の炎やバルトロメオの青白い炎、そしてブルースの作り物の身体やシンの取り付けているガジェットなどが一斉にその優位性を失い始めた瞬間でもあった。

「なっ何だ!?何が起きている!?」

「風がッ・・・風が彼を避けている!?いや、何かによって弾かれているんだ」

「何かって何だ!?そこが重要なんじゃないか」

「考えられるのは音による“振動“ではないでしょうか。彼の腕がまるで弦楽器のように変化しています」

 ケヴィンの言うベルンハルトのカラアダの変化を確かめるオイゲン。跳ね返る風の中、僅かに見えたその先には自身の腕で音を奏でるベルンハルトの姿があった。

「自らの身体で音を奏でているだと・・・!?」

「まだこんな隠し球を持っていたとは・・・。これは非常に厄介ですよ」

 それは単純に考えても、ベルンハルトが自身の召喚するチェンバロに張り付けになる必要がなくなった上に、これまで以上に彼は自由に動き回れるようになったことになる。

 これまでは邪魔が入っていたとはいえ、同じ場所に留まり演奏する必要があったのか、それこそ固定砲台のようになっていたのだが、これ以降はその砲台を持ち歩き、銃口をどの方向にも向けられるようになったと思っていいだろう。

「だが、何故それを初めから使わなかった?彼らにはある程度の意思はあるのかもしれないが、余裕を見せたり手の内を隠して戦うなんて芸当が出来るのか・・・?」

 考察はツバキやアカリと共にいるアンドレイも行っていた。そして彼の言うように、まるで意思を持った生物のように段階的に能力や力を解放していくなどと言うことが、召喚された者や何者かに操られている者に出来るのだろうかと言うのが、彼の中で引っかかっていた。

 アンドレイは、謎の人物達を使役し特殊な能力を持つバッハの血族の霊体を二人見てきている。一人は目の前でシン達が戦っているベルンハルト。そしてもう一人が宮殿の入り口で待ち伏せを受けたアンナだった。

 最後までその戦闘を見ていた訳ではなかったが、戦力を温存しているといった様子は見受けられなかった。だがベルンハルトは違う。自分の身体を楽器に変えられるのであれば、わざわざチェンバロを召喚してまで演奏をする必要はない。

 音の振動を扱うのに楽器が必要なのであれば、初めから視界も固定されることなく移動も可能な方法を選ぶのが合理的だろう。それほどの知能が無かったといえばそれまでだが、かの有名な音楽家の血族の霊がその発想に至らないとは考えずらい。

「なぁ、アイツ何ぶつぶつ言ってんだぁ?」

「色々考えてくれてるんだと思う。アンドレイさんって、宮殿の入り口からこっちに避難してきた人でしょ?入り口の方でもツクヨさんとプラチドさんが、戦っている筈。きっとアンドレイさんは、入り口を襲ってる人とあの人に何か共通点があるんじゃないかって、考えてるんじゃないかしら・・・」

 アンドレイは消去法から、ベルンハルトは力を隠していたのではなく、段階的に今の力を解放した、或いは力を得たのではないかと考えた。しかしその条件となった要因が分からなかった。

 自身の護衛の話からも、戦闘を行う者は自身が追い詰められることで新たな力に目覚めたり、内なる能力が覚醒したりなどと言うことも少なくないのだそうだ。他にも同じ音楽家の中には、アイデアが浮かばなかったり新譜の発表に間に合わなかったりすると、潜在的な才能がそれをカバーするかのように働いたという事象を耳にすることもある。

 だがそれは生物としての本能が引き起こすものであり、死者にも当てはまるものなのだろうか。ブルースのように完全なる自我を持った魂ならば、或いはそのような事も起きるかもしれないが、ベルンハルトに至ってはまともに喋れもしない。

 死からも何年も経っている事もあり、突発的な成長や偶発的に仕組まれていたものとも思えない。つまりベルンハルト本人による要因ではないのではないかというのが、アンドレイの結論だった。

 別の何かの要因ともなれば、彼らを使役し事件を起こした真犯人こそがその要因に違いない。となれば、ベルンハルトに新たな力が目覚めたということは、犯人が近くにいて何らかのトリガーが発動したのか、或いは犯人自体が彼に近づいた事により、能力の解放が起きた可能性が考えられる。

 ベルンハルトの音の振動により、跳ね返され乱れた風を受けてバランスを崩す紅葉。それを見たシンが急ぎ紅葉を救出しその場を離れる。敵を退けた事により、ベルンハルトは攻勢に転じようとでもいうのか、弦に変化させた腕を退いたシンの方に向けて、今にも強烈な音を出さんと弦に指を掛ける。

 するとその時、何者かによって司令室の壁が破壊され音の伝わりを阻害する大きな物音が司令室内に響き渡る。

「何だ、何事だ!?」

「ねぇあれ!ブルースさんよね?確か・・・」

「あぁ?ってことはまた“アイツ“かよ!?」

 ツバキとアカリの視線の先には、土煙の中に佇むブルースとその中からシルエットで現れる三人の姿があった。

「ぅわッ!何だよいきなり!?もっと静かにッ・・・」

「そんな流暢な事言ってる場合じゃねぇんだよ!さぁ話せ!オメェらが一体何を知ってんだ!?」

 聞こえてきたのは、ブルースの護衛であるバルトロメオの声と、彼よりも数段若い少年のような声だった。その声にいち早く気が付いたのはレオンとクリスだった。

「カルロスの声だ!アイツら無事だったんだな!?」
「ッ・・・・・!」

 突然の出来事に驚く一行。これはブルースが肉体から離れている間に感じた、宮殿に近づく何者かの気配を探った結果だった。そしてバルトロメオに彼らを戦場に招待するよう伝え、直接司令室に辿り着けるよう壁を破壊させたのだった。

 そしてカルロスと共に行動していたジルの口から、司令室にいる一行に重要な情報が告げられる事になる。

「楽譜を取り上げて!彼が演奏しているのは、バッハの残した遺品である月光写譜に記された曲。きっとそれに何かおかしな効果があるに違いないわ!」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神速の冒険者〜ステータス素早さ全振りで無双する〜

FREE
ファンタジー
Glavo kaj Magio 通称、【GKM】 これは日本が初めて開発したフルダイブ型のVRMMORPGだ。 世界最大規模の世界、正確な動作、どれを取ってもトップレベルのゲームである。 その中でも圧倒的人気な理由がステータスを自分で決めれるところだ。 この物語の主人公[速水 光]は陸上部のエースだったが車との交通事故により引退を余儀なくされる。 その時このゲームと出会い、ステータスがモノを言うこの世界で【素早さ】に全てのポイントを使うことを決心する…

元英雄 これからは命大事にでいきます

銀塊 メウ
ファンタジー
異世界グリーンプラネットでの 魔王との激しい死闘を 終え元の世界に帰還した英雄 八雲  多くの死闘で疲弊したことで、 これからは『命大事に』を心に決め、 落ち着いた生活をしようと思う。  こちらの世界にも妖魔と言う 化物が現れなんだかんだで 戦う羽目に………寿命を削り闘う八雲、 とうとう寿命が一桁にどうするのよ〜  八雲は寿命を伸ばすために再び 異世界へ戻る。そして、そこでは 新たな闘いが始まっていた。 八雲は運命の時の流れに翻弄され 苦悩しながらも魔王を超えた 存在と対峙する。 この話は心優しき青年が、神からのギフト 『ライフ』を使ってお助けする話です。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

異世界転生? いいえ、チートスキルだけ貰ってVRMMOをやります!

リュース
ファンタジー
主人公の青年、藤堂飛鳥(とうどう・あすか)。 彼は、新発売のVRMMOを購入して帰る途中、事故に合ってしまう。 だがそれは神様のミスで、本来アスカは事故に遭うはずでは無かった。 神様は謝罪に、チートスキルを持っての異世界転生を進めて来たのだが・・・。 アスカはそんなことお構いなしに、VRMMO! これは、神様に貰ったチートスキルを活用して、VRMMO世界を楽しむ物語。 異世界云々が出てくるのは、殆ど最初だけです。 そちらがお望みの方には、満足していただけないかもしれません。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

処理中です...