World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,438 / 1,646

殺害方法とその能力

しおりを挟む
 糸と音楽によって床に倒れた者達は、次々に黒い塵となって崩れ去っていく。騒然とする司令室。不気味で恐ろしい光景にアカリも口を押さえながら必死に叫び声を殺し、ふるふると震えている。

「なッ何だよ・・・コレぇ!人が・・・消えちまった!?死んだのか!?」

「いや、これは単なる俺の勘だけど、死んだんじゃないと思う」

「どうしてそう言えるんだよ!?」

「ここでこれほど多くの人を巻き込んだ殺害が可能なら、もっとベストなタイミングと場所があっただろ」

 シンの言葉に記憶を辿るツクヨとアカリ。多くの人が一か所にまとまるタイミング、そしてその場所や機会はいくらでもあった。式典の時やパーティーで人が集まっていた時などだ。

「じゃぁどうして今何だ?」

「目的が達成された・・・。或いはその必要がなくなったか・・・」

 しかしそれでは殺していない理由にはならない。寧ろその逆で、用済みになった者達が邪魔になり一辺に消しに掛かったとも考えられる。しかしそれでは、ターゲットをわざわざ別に殺す必要はないとシンは語る。

 ならば何故、ジークベルト大司教やルーカス司祭、ベルベルトなどを別々に殺したのか。あくまで犯人は、ターゲットだけを殺害する目的の為に動いており、他のその他大勢を殺す事は目的には入らないのではないかと考えていた。

「でも生かしておいたら邪魔になるだろ?犯人探しをする奴だって出るだろう。ってか現に犯人探しが始まってるし・・・」

 ツバキの質問にシンは明確な回答をする事はできなかった。そもそもできる筈もない。犯人の思考など犯人にしか分からず、どんな目的があるのかなどその人物の過去や話でも聞かない限り理解する事も出来ないのだから。

 司令室襲撃を受け、バルトロメオや紅葉のの活躍により生き残った一部の者達は、それぞれに犯人の犯行の考察をするが不思議と彼らの考えは同じような結論へと向かっていた。

 ターゲット以外に向けられるこの音による衝撃の攻撃は、死を与えるものではなくこの場から退場させる為の攻撃であるのだと。そしてその攻撃によって姿を消したものが何処へ行くのかを口にしたのが、昨日の記憶の一部を今日に持ち込んだ唯一の人物であるブルース・ワルターだった。

「安心しろ、消えた者達は死んじゃいない」

「何故そう言い切れる?」

 オイゲンがブルースの言葉にその真意を問う。それにブルースは、この場に昨日の出来事を鮮明に思い出せる者はいるかと問い返す。ブルースの問いかけを聞いていた者達は、その場ですぐに昨日の記憶を思い返すのだが、それらはとても曖昧で自分でもおかしいと思えるような記憶を持っている者が殆どだった。

 記憶が曖昧になっているのは昨日だけで、それ以前の大司教殺害の日の事や、ルーカス司祭とベルベルト殺害の出来事もしっかりと思いだせているのが、更に不気味さを増す要因となっていた。

「何故思い出せないか・・・簡単だ。昨日の記憶が改竄されている。いや、言い方を変えよう。昨日我々は今と同じように犯人のものと思われる襲撃を受けた。そして未知なる能力と力に我々は敗北し、彼らと同じように塵に変えられ記憶を改竄された」

 そう言ってブルースは、今まで床に倒れていた者達の方へ視線を送る。そこには既に彼らの姿はない。僅かに残っているのは、塵に変わった彼らの肉体の一部のみ。

「敵の持つ能力は、音によって生じる“振動“だ。対象を外傷もなく攻撃出来たのは、振動を直接体内へ伝え内部から破壊を発生させたからだ。その一端を担っているのが、一部の者達も既に目にしているだろうが、その“糸“だ」

 あの時胸に走った激痛は、糸を通じて彼らの体内に道標を作り出し、音のシャボン玉が発する音楽を利用し振動を糸へと流し込む。そして振動は目的地である各々の胸、つまり心臓付近へと向かい内部破壊を起こさせていたというのが、ブルースの語る犯人の手口だった。

「音・・・。確かにそれなら証拠は残らない。心不全などという死因も納得がいきますね」

「だがそんな奴とどうやって戦う?目に見えぬ攻撃など厄介極まりないぞ・・・」

 宮殿入り口で戦っている霊体のアンナによる音の攻撃のように、強力で広範囲のものであれば振動は空気中を伝い、歪みを生み出すので肉眼でも僅かながら確認は可能だが、糸という媒体を利用し振動を送り込むことで、振動の伝わりを限りなく肉眼では確認出来ないように仕向けている。

 オイゲンのいうように苦戦は必至だった。現に昨日の彼らも、その厄介な攻撃と能力の前に次々に倒れていった。昨日の戦闘とは違い、戦闘戦闘方法が分かったという違いこそあれど攻略法を見出した訳ではない。

 こちらにある敵対できる武器として有効だと考えられるのは、糸を燃やすことのできるバルトロメオと紅葉の炎。そして糸自体を触れさせないようにする、シンの影のスキルによるコーティングくらいしかない。

 そしてブルース自体は、肉体が自身の物ではない為、他の者達のように内部破壊を行なわれても、動きに支障のある部分さえ壊されなければ戦闘は可能。その間に何処からか攻撃を仕掛けてくる本体を見つけ出し、叩くことさえできれば事件は解決するのだが・・・。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

処理中です...