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音を伝える糸、糸を焼き切る炎
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流れるはバッハの曲である“マタイ受難曲“であり、集められた者達で音楽に詳しいフェリクスやカタリナ、アンドレイやレオン達にはそれが何の曲かすぐに分かったようだ。
同時に、糸が身体に繋がれた者達が突如として胸を押さえるようにして苦しみ出す。犯人による強襲が始まった瞬間だった。しかし、司令室で一体何が起きているのか理解しているのは、天井を破壊して現れたブルースとバルトロメオだけだった。
「なッ・・・何だ!?急に胸がッ・・・!!」
「くっ苦しい・・・!!」
「タス・・・ケテ・・・」
それまで唯一安全と思われていた場所が一変、まるで毒でも撒かれたかのような惨状へと変わり、体力のない者達から徐々に気を失い始めその場に崩れ落ちていく。
「チッ!!大将ッ!ちと待っててくれや!」
バルトロメオはすぐに戦力になりそうなオイゲンと、その隣で苦しむケヴィンを巨大な青白い腕で掴み取る。すると、胸を押さえる苦しみ方とは違う苦痛が二人を襲う。
「なッ何を・・・!?」
「どういうつもりだッ!?バルトロメオッ!!」
彼はそのまま残りの二本の腕で、近場にいた教団の護衛をオイゲンらと同じように掴み上げ、青白い炎のようなもので覆う。どうやら彼には糸から解放する術を身につけていたようだ。
長い苦しみよりも一瞬の苦痛での解放を、掴み上げた四人に与えた。彼らに繋がった糸がバルトロメオの腕が発する炎によって焼かれる。糸は彼らに与えていた胸の苦しみと同時に消え去り、それを確認したバルトロメオは手を離し四人を床に落とした。
「ぐッ・・・!あっあれ?胸の痛みが・・・」
「貴様ッ・・・!もっと他にやり方はなかったのか!?」」
「贅沢言うんじゃねぇよ!助かっただけでもありがたく思え。俺に目をつけられたお前らだけだ、助かったのは・・・。周りを見てみろ」
苦しみから解放された四人が各々ゆっくりと立ち上がりながら、バルトロメオの言う通り周囲へと視線を向ける。するとそこには、まるで陸に打ち上げられた魚のようにもがき苦しむ警備隊や教団の護衛達の姿があった。
だが全てが全て、もがき苦しんでいる訳ではなかった。
同じく糸から解放させる術を持っていたのは、その糸の性質を知るバルトロメオだけではなかったのだ。しかしこちらも救える者には限りがあった。一辺に多くの者は救うことが出来ず、バルトロメオと同様に近場にいた人間だけその炎で救うことが出来た。
彼らを救ったのは、紅葉の羽ばたきで生じる火の粉だった。私達にやってみせたようにみんなを助けてというアカリの言葉に応えた紅葉が飛び立った先はレオンやクリスの元だった。
丁度アカリに近い年齢層の人間を見つけた紅葉は、彼らを助ければアカリも喜ぶと思ったのか、彼らとその周辺を飛び回り火の粉を散らす。紅葉により糸を焼かれたのはレオンとクリス、そして彼らと会話をしていたマティアス司祭だった。
だが紅葉が彼らの元へ向かう途中の火の粉により、炎が糸を焼き切ることを目にしていたアンドレイが咄嗟に火の粉を浴びるという機転を見せ、一人自らの力で生存を果たす。
「今の火の粉はッ・・・!?」
「分からないけど、胸の痛みが消えた・・・。マティアスさんは!?」
「あっ・・・あぁ、私も大丈夫だ・・・。だがこれは一体・・・」
彼らにとって分からない事は一つだけではない。何処からか突然現れた謎の糸やそこへ流れるバッハの曲、そして胸に走る痛みと糸を焼き払う特殊な炎と、知らないところで犯人側と宮殿側の勢力で既に攻防は行われていたのだ。
「糸・・・一見したところでは注視しない限り見つけるのも難しい。だが苦しみ出した者達には須く糸が繋がれていた・・・。誰かリアクションの無かった人物やおかしな反応を見せた者は・・・?」
復帰を果たしたアンドレイだけは、混乱の中でも犯人につながる一瞬の異変や周りのリアクションを見逃すまいと、目を光らせていた。事前に手を打っていたシン達は、糸を伝って流れる衝撃を受けずに済んでいる。
そしてブルースとバルトロメオに関しても、彼らは真っ先に救助活動へと動き出した為、わざわざターゲットの一部である群衆を助けようとする動きをするのはおかしい。その点で言えば、シンの仲間であるアカリが紅葉を使役し、レオン達を助けたのも犯人とその一味であるとは考えずらいだろう。
それともこの場に居ない者の中に犯人がいるのか。アンドレイは考察を続けながらも、火による糸の消滅から周囲にまだ意識のある者を探し出すと、テーブルから落ちた物と思われるライターを手に駆け寄ると、その炎で糸に触れぬよう炙り出した。
しかし、アンドレイを救った紅葉の火の粉のように糸には引火せず、いくら炎で炙っても糸はその者の身体から離れることはなかった。
「たっ・・・助けて・・・!」
「何故・・・ただの炎ではないのか!?」
腕の中でもがく警備隊は、そのまま徐々に力を失っていき、やがて動きを止める。だがアンドレイの中には、彼を救えなかったという思いよりも、何故あの時みた光景と同じく炎で炙っても引火しないのかが優先されていた。
紅葉の羽ばたきにより発生する赤い火の粉、そしてバルトロメオの腕が発する青白い炎。どうやらその二つの炎は見た目こそ違えど、性質自体は同じだと言うことらしい。
同時に、糸が身体に繋がれた者達が突如として胸を押さえるようにして苦しみ出す。犯人による強襲が始まった瞬間だった。しかし、司令室で一体何が起きているのか理解しているのは、天井を破壊して現れたブルースとバルトロメオだけだった。
「なッ・・・何だ!?急に胸がッ・・・!!」
「くっ苦しい・・・!!」
「タス・・・ケテ・・・」
それまで唯一安全と思われていた場所が一変、まるで毒でも撒かれたかのような惨状へと変わり、体力のない者達から徐々に気を失い始めその場に崩れ落ちていく。
「チッ!!大将ッ!ちと待っててくれや!」
バルトロメオはすぐに戦力になりそうなオイゲンと、その隣で苦しむケヴィンを巨大な青白い腕で掴み取る。すると、胸を押さえる苦しみ方とは違う苦痛が二人を襲う。
「なッ何を・・・!?」
「どういうつもりだッ!?バルトロメオッ!!」
彼はそのまま残りの二本の腕で、近場にいた教団の護衛をオイゲンらと同じように掴み上げ、青白い炎のようなもので覆う。どうやら彼には糸から解放する術を身につけていたようだ。
長い苦しみよりも一瞬の苦痛での解放を、掴み上げた四人に与えた。彼らに繋がった糸がバルトロメオの腕が発する炎によって焼かれる。糸は彼らに与えていた胸の苦しみと同時に消え去り、それを確認したバルトロメオは手を離し四人を床に落とした。
「ぐッ・・・!あっあれ?胸の痛みが・・・」
「貴様ッ・・・!もっと他にやり方はなかったのか!?」」
「贅沢言うんじゃねぇよ!助かっただけでもありがたく思え。俺に目をつけられたお前らだけだ、助かったのは・・・。周りを見てみろ」
苦しみから解放された四人が各々ゆっくりと立ち上がりながら、バルトロメオの言う通り周囲へと視線を向ける。するとそこには、まるで陸に打ち上げられた魚のようにもがき苦しむ警備隊や教団の護衛達の姿があった。
だが全てが全て、もがき苦しんでいる訳ではなかった。
同じく糸から解放させる術を持っていたのは、その糸の性質を知るバルトロメオだけではなかったのだ。しかしこちらも救える者には限りがあった。一辺に多くの者は救うことが出来ず、バルトロメオと同様に近場にいた人間だけその炎で救うことが出来た。
彼らを救ったのは、紅葉の羽ばたきで生じる火の粉だった。私達にやってみせたようにみんなを助けてというアカリの言葉に応えた紅葉が飛び立った先はレオンやクリスの元だった。
丁度アカリに近い年齢層の人間を見つけた紅葉は、彼らを助ければアカリも喜ぶと思ったのか、彼らとその周辺を飛び回り火の粉を散らす。紅葉により糸を焼かれたのはレオンとクリス、そして彼らと会話をしていたマティアス司祭だった。
だが紅葉が彼らの元へ向かう途中の火の粉により、炎が糸を焼き切ることを目にしていたアンドレイが咄嗟に火の粉を浴びるという機転を見せ、一人自らの力で生存を果たす。
「今の火の粉はッ・・・!?」
「分からないけど、胸の痛みが消えた・・・。マティアスさんは!?」
「あっ・・・あぁ、私も大丈夫だ・・・。だがこれは一体・・・」
彼らにとって分からない事は一つだけではない。何処からか突然現れた謎の糸やそこへ流れるバッハの曲、そして胸に走る痛みと糸を焼き払う特殊な炎と、知らないところで犯人側と宮殿側の勢力で既に攻防は行われていたのだ。
「糸・・・一見したところでは注視しない限り見つけるのも難しい。だが苦しみ出した者達には須く糸が繋がれていた・・・。誰かリアクションの無かった人物やおかしな反応を見せた者は・・・?」
復帰を果たしたアンドレイだけは、混乱の中でも犯人につながる一瞬の異変や周りのリアクションを見逃すまいと、目を光らせていた。事前に手を打っていたシン達は、糸を伝って流れる衝撃を受けずに済んでいる。
そしてブルースとバルトロメオに関しても、彼らは真っ先に救助活動へと動き出した為、わざわざターゲットの一部である群衆を助けようとする動きをするのはおかしい。その点で言えば、シンの仲間であるアカリが紅葉を使役し、レオン達を助けたのも犯人とその一味であるとは考えずらいだろう。
それともこの場に居ない者の中に犯人がいるのか。アンドレイは考察を続けながらも、火による糸の消滅から周囲にまだ意識のある者を探し出すと、テーブルから落ちた物と思われるライターを手に駆け寄ると、その炎で糸に触れぬよう炙り出した。
しかし、アンドレイを救った紅葉の火の粉のように糸には引火せず、いくら炎で炙っても糸はその者の身体から離れることはなかった。
「たっ・・・助けて・・・!」
「何故・・・ただの炎ではないのか!?」
腕の中でもがく警備隊は、そのまま徐々に力を失っていき、やがて動きを止める。だがアンドレイの中には、彼を救えなかったという思いよりも、何故あの時みた光景と同じく炎で炙っても引火しないのかが優先されていた。
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