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本部を襲うもの
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ブルース・ワルターは現在、薄っすらとだが記憶を取り戻しつつある。だがそれを許さないといった様子で、彼とミア達は宮殿の屋上でアンナとは別の霊体と戦っている。
誰もブルースが前日の記憶を持っているなど知る由もない。それなのにまるで、ブルースが知ってはならない秘密を知っていると分かっているかのように、迷いなく彼とその護衛の居る部屋を襲撃した。
つまり犯人には、誰が前日の記憶を持っているのか分かっていると見て間違いないだろう。
結局マティアスはレオンの疑問に真実を語ることはなく、調子を合わせるように犯人の目的が本当に教団の人間だけなのか、他に共通点があるんじゃないかと誤魔化した。
クリスはそれを静観している。マティアスの付き人として長年関わっていたクリスには、彼が何かを隠しているのかが分かったのだろうか。レオンの前ということもあり、マティアスが話したくない事でもあるのだろうと追求はしなかった。
暫く二人の考察を聞いていると、それは突然起きた。オイゲンの指示の元、教団の護衛らと警備隊の人々の働きにより、あらかたの人物を司令室に避難し終え、ほぼ避難は完了しといっても過言ではないだろう。
そんな戦えない人々も集まる司令室に、これまでとは異なるタイプ糸が出現する。それは不意に天井から現れ、大半の人間には見えていなかった。それはオイゲンやケヴィンも例外ではなく、彼らもモニターの確認に夢中になっており、注意しなければ見えないその糸に僅かに触れられていたのだ。
「ん?何だこれ・・・」
「どうした?」
「いや、なんか蜘蛛の糸みたいなのが・・・」
一部の教団の護衛が宙を漂う糸を振り払うように、手で払い除ける。だがその糸は手にくっついてしまい離れない。まさに粘着質を持つ蜘蛛の糸と変わらず何も不審に思わなかった。
と、同時に上の階層から何かが司令室の天井を破壊し降りて来る。
「それに触るんじゃねぇッ!!」
「ッ!?」
「何事だ!?」
天井を破壊して降りて来たのは、ブルースを連れたバルトロメオだったのだ。彼の背後から現れる青白い大きな腕が土煙を払うように暴れ出す。
彼の発言から何かに気付き注意を促してくれたのだろうが、普段からの素行が悪かったバルトロメオの奇行を、一行はまた暴れ出したのかと勘違いし聞く耳を持たなかったのだ。
武器を構える教団の護衛達とオイゲン。
「何をしている!?バルトロメオ!またお前が問題を起こすのか!?
「馬鹿野郎ッ!その“糸“に触れるなっつったんだよ!いいから言う通りにしろ!」
「オイゲンさん!アイツの言葉なんか聞く必要ないですよ!」
「そうだ!アイツにはみんな手を焼いていたんだ。何ならアイツらが今回の騒動の犯人なんじゃないか?」
「コイツらッ・・・!んで誰も聞かねぇんだッ・・・!!」
この時、シンは咄嗟に見えた糸を避け周りを確認する。するとツバキもアカリも、既にその糸を目にしており何の糸かと手を伸ばしていた。嫌な予感のしたシンはすぐに二人に、その糸に触れないようにと声を掛ける。
アカリの抱いていた紅葉も、生物としての勘がそうさせたのか、アカリの腕の中で突如暴れ出しアカリの腕から逃れると、既に彼女の身体に付着していた糸に、羽ばたきで飛び散る火の粉で引火し、断ち切ることに成功する。
「ちょっと!?どうしたの紅葉!危ないでしょ!?」
「ピェーーーッ!」
火の粉は側にいたツバキの身体に付着していた糸にも引火し、身体から糸を断ち切った。紅葉はシンが指示する前にその糸に感じる嫌な予感を察知していたのだろうか。
「いや!いいぞ紅葉!そのまま二人を守ってくれッ!」
紅葉が糸を二人から遠ざけている内に、シンは影のスキルでツバキとアカリの身体を包み込むように飲み込み、影で二人をコーティングする。この時使った影は、それぞれツバキとアカリ自身の影だった。本人達の影を被せた事で、シンの影の能力による効果も強力になる。
「おいおい!何すんだよシン!?」
「落ち着け。二人を守るベールみたいなもんだ。紅葉ももう大丈夫だ、アカリについていてやってくれ」
「ピエー!」
「私“が“!紅葉を守るんです!ほら!おいで」
危機が去ったと判断したのか、紅葉は大人しくアカリの手に捕まり、再びその腕の中に包まれる。シンも二人に施したものと同じスキルで自分をコーティングすると、周りで何が起きているのか見渡した。
すると、バルトロメオの起こした騒動と同時に、何処からともなく音のシャボン玉が司令室に入り込み、いくつかのシャボン玉が割れると同時に静かに何かの演奏が始まった。
誰もブルースが前日の記憶を持っているなど知る由もない。それなのにまるで、ブルースが知ってはならない秘密を知っていると分かっているかのように、迷いなく彼とその護衛の居る部屋を襲撃した。
つまり犯人には、誰が前日の記憶を持っているのか分かっていると見て間違いないだろう。
結局マティアスはレオンの疑問に真実を語ることはなく、調子を合わせるように犯人の目的が本当に教団の人間だけなのか、他に共通点があるんじゃないかと誤魔化した。
クリスはそれを静観している。マティアスの付き人として長年関わっていたクリスには、彼が何かを隠しているのかが分かったのだろうか。レオンの前ということもあり、マティアスが話したくない事でもあるのだろうと追求はしなかった。
暫く二人の考察を聞いていると、それは突然起きた。オイゲンの指示の元、教団の護衛らと警備隊の人々の働きにより、あらかたの人物を司令室に避難し終え、ほぼ避難は完了しといっても過言ではないだろう。
そんな戦えない人々も集まる司令室に、これまでとは異なるタイプ糸が出現する。それは不意に天井から現れ、大半の人間には見えていなかった。それはオイゲンやケヴィンも例外ではなく、彼らもモニターの確認に夢中になっており、注意しなければ見えないその糸に僅かに触れられていたのだ。
「ん?何だこれ・・・」
「どうした?」
「いや、なんか蜘蛛の糸みたいなのが・・・」
一部の教団の護衛が宙を漂う糸を振り払うように、手で払い除ける。だがその糸は手にくっついてしまい離れない。まさに粘着質を持つ蜘蛛の糸と変わらず何も不審に思わなかった。
と、同時に上の階層から何かが司令室の天井を破壊し降りて来る。
「それに触るんじゃねぇッ!!」
「ッ!?」
「何事だ!?」
天井を破壊して降りて来たのは、ブルースを連れたバルトロメオだったのだ。彼の背後から現れる青白い大きな腕が土煙を払うように暴れ出す。
彼の発言から何かに気付き注意を促してくれたのだろうが、普段からの素行が悪かったバルトロメオの奇行を、一行はまた暴れ出したのかと勘違いし聞く耳を持たなかったのだ。
武器を構える教団の護衛達とオイゲン。
「何をしている!?バルトロメオ!またお前が問題を起こすのか!?
「馬鹿野郎ッ!その“糸“に触れるなっつったんだよ!いいから言う通りにしろ!」
「オイゲンさん!アイツの言葉なんか聞く必要ないですよ!」
「そうだ!アイツにはみんな手を焼いていたんだ。何ならアイツらが今回の騒動の犯人なんじゃないか?」
「コイツらッ・・・!んで誰も聞かねぇんだッ・・・!!」
この時、シンは咄嗟に見えた糸を避け周りを確認する。するとツバキもアカリも、既にその糸を目にしており何の糸かと手を伸ばしていた。嫌な予感のしたシンはすぐに二人に、その糸に触れないようにと声を掛ける。
アカリの抱いていた紅葉も、生物としての勘がそうさせたのか、アカリの腕の中で突如暴れ出しアカリの腕から逃れると、既に彼女の身体に付着していた糸に、羽ばたきで飛び散る火の粉で引火し、断ち切ることに成功する。
「ちょっと!?どうしたの紅葉!危ないでしょ!?」
「ピェーーーッ!」
火の粉は側にいたツバキの身体に付着していた糸にも引火し、身体から糸を断ち切った。紅葉はシンが指示する前にその糸に感じる嫌な予感を察知していたのだろうか。
「いや!いいぞ紅葉!そのまま二人を守ってくれッ!」
紅葉が糸を二人から遠ざけている内に、シンは影のスキルでツバキとアカリの身体を包み込むように飲み込み、影で二人をコーティングする。この時使った影は、それぞれツバキとアカリ自身の影だった。本人達の影を被せた事で、シンの影の能力による効果も強力になる。
「おいおい!何すんだよシン!?」
「落ち着け。二人を守るベールみたいなもんだ。紅葉ももう大丈夫だ、アカリについていてやってくれ」
「ピエー!」
「私“が“!紅葉を守るんです!ほら!おいで」
危機が去ったと判断したのか、紅葉は大人しくアカリの手に捕まり、再びその腕の中に包まれる。シンも二人に施したものと同じスキルで自分をコーティングすると、周りで何が起きているのか見渡した。
すると、バルトロメオの起こした騒動と同時に、何処からともなく音のシャボン玉が司令室に入り込み、いくつかのシャボン玉が割れると同時に静かに何かの演奏が始まった。
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