World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,433 / 1,646

分岐した未来

しおりを挟む
 考えれば考えるほど、ジルへの疑いが募っていってしまう。だがこれまで行動を共にしてきて、彼女も謎の人物達追われ、そして襲われていた。仮に楽譜を盗んだのが彼女らだったとしても、事件の犯人とは別である可能性の方が高いだろう。

 悪い方へ考えてしまう己の思考を振り払うように頭を振るカルロス。すると資料を見ていたジルが満足したのか、手にしていた書物を棚に戻し博物館での調べ物はこれ以上はないと口にした。

「もういいのか?」

「えぇ、楽譜の事や知りたかった事はあらかた調べたわ。でもカタリナさんの言う通り、血縁に関しては載ってなかった・・・」

「じゃぁやっぱりバッハの血筋ではなかった?」

「分からない・・・。けど、記録には残せない部分というものは、どんな歴史にだってある筈よ。その時の権力者や情勢で記載される情報というものは左右される。要は、その時代に生きている人達によって都合の良い真実として歴史は後世に伝えられていくって事・・・」

 ジルはバッハの資料や月光写譜に関する詳細を調べる中で何を思うのか、その表情は暗く曇りはしていたものの、何か重要な目的を見つけたかのように、瞳は何かを見据えていた。

「これからどうする?こんなところに長居は出来ねぇぜ。レオン達に合流するか?」

「いえ、その前に本来向かうはずだったニクラス教会へ行きましょう。そこでもう一つ確かめたい事があるの」

「また調べ物か!?今じゃなきゃだめなのか?」

「今後に大きく関わる事よ。もしかしたら、グーゲル教会で行われていた儀式のようなものを止められるかもしれない・・・」

「・・・?」

 グーゲル教会で行われていた儀式。それは街の人々とは姿形を変えた多くの人の姿をした何者か達が集まり、誰かの演奏を聞きながらまるで神に祈るように静かに大人しくしていた。

 ジル達もグーゲル教会の様子はその目で見ており、彼らが教会に侵入した時には既にクリスも中に入り込んでいた。彼が何故その場にいたのかは分からないが、マティアス司祭の使いをしている彼であれば教会にいたとしても何ら不思議ではない。

 結局彼らはそこにいた謎の人物達に見つかってしまい、クリスはその場で囮になり捕まり、レオン達は教会を脱出するも追手を振り切る事ができず、それぞれの場所で眠りについてしまい、その時の記憶を消失してしまっている。

 しかし起点を効かせたジルのおかげで、その場に目印となる物を残したおかげで、後日そこを通りかかった際に失われていた記憶の断片を集めることに成功している。

 それ故に、今の彼らがある。教会での怪しげな儀式や宮殿での事件について周りが一切認知していない、或いは知っていて知らないフリをしている事を知ったジル達は、全ての謎の真実があるであろう宮殿へ向かう計画を立てたのだった。

 ジルとカルロスはその途中で別行動をとっているという訳だ。だがここで、ジルはレオン達に告げた本来の目的地であるニクラス教会へ向かうと言い出した。

 二人は資料の置かれた部屋を後にし施錠すると、鍵を元に戻して教会へと移動する中、その目的についてジルはカルロスに説明していた。

「思えばニクラス教会は、ジークベルト大司教をあまりよく思っていないルーカス司祭が担当している教会よね?」

「あぁ?そうだったのか?俺にはそうは見えなかったが?」

「ルーカス司祭の事を見ていれば分かるわ。彼、大司教の前だといつもと少し様子が違うもの」

「どんな感じにだ?」

「口数が減って、その代わりにまるで見張っているかのように大司教の事をしっかりその目に捉えている・・・っていうのかしら」

「気のせいとかじゃねぇのか?そんくらい、誰でもするだろ普通」

 一向にジルの着眼点を認めようとしないカルロスに、痺れを切らしたのか大きな溜息をつくジル。全く他人のこと見ていないと彼を罵り、普段のルーカs司祭の様子を思い出させた後、先程のジルの着眼点についてもう一度丁寧に説明すると、漸く彼も納得した様子で話が進む。

「でもそれが事件とどんな関係があんだよ?」

「同じ教団の関係者ともなれば、容疑者として真っ先に疑われるのが司祭の二人じゃないかしら?そしてクリスが宮殿から解放されている事を考えれば、マティアス司祭の疑いは十中八九解かれたものと考えていいと思う。じゃなきゃクリスも今頃宮殿に隔離されているはずだもの」

「確かに・・・。宮殿から出て来れたのって、クリスだけなんじゃねぇか?」

「そうね。彼が宮殿から解放されたのも疑問だけれど、今となってはそれは私達にとっては好都合だったのかもしれない。いや、彼の話じゃなくて・・・。ジークベルト大司教に何か思うところのある様子のルーカス司祭なら、何か殺害されるような要因を掴んでいたんじゃないかしら」

「なるほど!それでルーカス司祭の担当していたニクラス教会を調べてみりゃ、それが分かると」

「こっちは事件に直接関係ありそうな証拠探しになるわね。後はグーゲル教会のように演奏会が行われてなければいいのだけど・・・」

「まぁそしたら大人しく、レオン達の向かった宮殿へ行けばいいだろ。どの道無茶は出来ねぇんだ、バレねぇようにしないとな!」

 前日の記憶、主にブルース一行の記憶にあるニクラス教会では、ジル達が見たグーゲル教会での儀式のようなものは行われていなかった。その代わり、ニクラス教会内部には謎の人物達が見張りのように徘徊しており、演奏する謎の霊体との戦闘が行われた。

 だが今の状況は、宮殿側でもアルバの街でも前日のものとは徐々に違う道を辿り出している。本来辿る筈だった未来が、別の選択肢により違う未来へと分岐したのだ。

 しかしそれは彼らの行動によるものではなく、今回のアルバの街全体を巻き込んで起こした事件の犯人によって引き起こされた別の分岐。それは犯人自身にもどのような結果をもたらすのかは分からない。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス

於田縫紀
ファンタジー
 雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。  場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。

処理中です...