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音楽の父の後妻
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スピーカーにはコードなどは繋がれていない。本体だけが剥き出しで現れただけに過ぎないが、形はどうあれ動力のないまま敵がそれを召喚した筈がない。どうやってそれを使うのか、前日の記憶が失われている彼らでは確かめようがなかった。
「スピーカーだわ!でも動力が・・・」
「そんなもの必要無いのかも知れない・・・」
「!?」
「それってマズイのではッ・・・!?」
アンドレイら一行を取り囲むようにして配置されたスピーカーが、どこから力を得たのかまるで電力を蓄え始めたかのように起動音をあげて僅かに震え始める。
それと同時に、彼らの前に立ちはだかる細身の謎の人物の前に、ステージや舞台などで使うようなスタンドマイクが召喚される。これも彼らの失われた記憶の中に眠る、前日彼らを襲ったとある音楽家と同じ攻撃手段だったのだ。
身構えるチャドの肩から飛び出したケイシーが、複数の植物の種をばら撒く。種はスピーカーの近くの地面に着弾すると、即時に蔓を生やしてスピーカーに巻き付いたのだ。
「呑気にしてる暇なんてないぞッ!チャド!シアラ!早くあのスピーカーを破壊しろッ!」
蔓はスピーカーを締め付けたまま、バキバキと音を立てて破壊する。ケイシーに急かされ、チャドは腕の一部を竜神族の姿へと変えると、近くの大きな石を拾い上げお得意の身体能力を活かして、凄まじい投擲でスピーカーを数台破壊した。
「全く何よいきなり・・・!チャド!アンドレイ様をッ!」
「あっあぁ、任せて!アンドレイ様、僕の後ろへ」
シアラは懐から何やらタバコくらいの大きさをした鉄の棒のような物を、複数本指の間に挟んでスピーカーの方へと放つ。彼女の投げたその鉄の棒はスピーカーに突き刺さるようにくっ付く。
それを確認したシアラは、自らでも鉄の棒を持ち片手で耳を押さえると、鉄の棒を口元へ持っていき高音の声を出し始めた。
「アアアーーー」
大気を震わせるような高音に、チャドの後ろで身を隠すアンドレイも耳を押さえながらその様子を眺めていた。シアラの発した高音の声は鉄の棒のところで増幅し広がっていくように周囲へ響き渡る。
すると、彼女の放った鉄の棒が張り付いたスピーカーが突如として、破裂するようにして粉々に粉砕したのだ。
「ダメ!カバーしきれないわ!数が多すぎるッ・・・!」
護衛の彼らの活躍により、召喚された複数のスピーカーはいくらか破壊することが出来たようだが、まだ他にもスピーカーは残されている。今度はアンドレイらの前に立ちはだかるその人物が、如何にも自分の番だと言わんばかりにマイクを使って声を発する。
大きく息を吸い込んだその人物は、胸を膨らませ十分に息を吸い込んだところで一度息を止める。そして彼女はスタンドマイクに口を近づけると、とある曲を歌い始めたのだ。その歌声から、彼らの前に立ちはだかった人物が女性であることが判明した。
「この曲はッ・・・!」
「ア・・・アンドレイ様?」
音楽家であるアンドレイには、直ぐにその曲と歌声の主が誰であるのか大方の予想がついたようだ。彼女が声で奏で始めたのは、バッハが作曲したと言われるマタイ受難曲。アルバでも何度も耳にしているほど、一行にとっても聞き馴染みのある曲だった。
そしてそれを歌うのは、バッハの後妻とされる“アンナ・マグダレーナ・バッハ“だとアンドレイは語った。確かにアルバはバッハのゆかりの地としても有名だった。それ故に彼女の霊や魂が、より根強く体現されているとしても不思議ではない。
だが何故彼女が、夫でもあるバッハゆかりの地でこんな殺人事件などを起こしたのか、アンドレイにはその動機が犯人の思考と結び付かなかったようだ。やはり何者かによって思考を奪われているのか操られている、或いは何らかの感情を過度に煽られて盲目になってしまっている状態なのかも知れない。
「アンドレイ様ッ!あれをッ!」
「!?」
チャドが指差す先には、歌うアンナの側の物陰に隠れている二人の少年がいた。それは宮殿の彼らと同様に、街中で不気味な体験をしていた音楽学校の生徒であるクリスとレオンだった。
彼らは二手に分かれ、その内の片割れが宮殿を目指してやって来たのだ。飲み込めない状況がさらに重なるも、今はそれどころではない。護衛達が対処しきれなかったスピーカーが今にも音を発しそうになっている。
それは宛ら、いつ爆発してもおかしくない爆弾のようだった。スピーカーの向きなどは関係ない。あんな物を召喚するということは、シアラと同じく音に関係する攻撃を仕掛けようとしているに違いない。
「あそこにいたら巻き込まれませんか!?」
「ケイシー!彼らをこちらへ!チャド、私は構わないので彼らを受け止めてあげなさい!」
「りょッ了解です!」
アンドレイの指示でケイシーは植物の蔓をクリスとレオンの元へと伸ばし身体に巻き付かせると、こちらへ向けて二人を投げた。
「えっ!?」
「何でここにいるのが!?」
偶然彼ら側のスピーカーを壊したのがケイシーであったのが功を奏し、そのまま残してあった蔓が二人の救出を可能にした。宙を舞う二人の少年をチャドがキャッチすると同時に、アンナの歌声がスピーカーから大音量で放たれる。
「スピーカーだわ!でも動力が・・・」
「そんなもの必要無いのかも知れない・・・」
「!?」
「それってマズイのではッ・・・!?」
アンドレイら一行を取り囲むようにして配置されたスピーカーが、どこから力を得たのかまるで電力を蓄え始めたかのように起動音をあげて僅かに震え始める。
それと同時に、彼らの前に立ちはだかる細身の謎の人物の前に、ステージや舞台などで使うようなスタンドマイクが召喚される。これも彼らの失われた記憶の中に眠る、前日彼らを襲ったとある音楽家と同じ攻撃手段だったのだ。
身構えるチャドの肩から飛び出したケイシーが、複数の植物の種をばら撒く。種はスピーカーの近くの地面に着弾すると、即時に蔓を生やしてスピーカーに巻き付いたのだ。
「呑気にしてる暇なんてないぞッ!チャド!シアラ!早くあのスピーカーを破壊しろッ!」
蔓はスピーカーを締め付けたまま、バキバキと音を立てて破壊する。ケイシーに急かされ、チャドは腕の一部を竜神族の姿へと変えると、近くの大きな石を拾い上げお得意の身体能力を活かして、凄まじい投擲でスピーカーを数台破壊した。
「全く何よいきなり・・・!チャド!アンドレイ様をッ!」
「あっあぁ、任せて!アンドレイ様、僕の後ろへ」
シアラは懐から何やらタバコくらいの大きさをした鉄の棒のような物を、複数本指の間に挟んでスピーカーの方へと放つ。彼女の投げたその鉄の棒はスピーカーに突き刺さるようにくっ付く。
それを確認したシアラは、自らでも鉄の棒を持ち片手で耳を押さえると、鉄の棒を口元へ持っていき高音の声を出し始めた。
「アアアーーー」
大気を震わせるような高音に、チャドの後ろで身を隠すアンドレイも耳を押さえながらその様子を眺めていた。シアラの発した高音の声は鉄の棒のところで増幅し広がっていくように周囲へ響き渡る。
すると、彼女の放った鉄の棒が張り付いたスピーカーが突如として、破裂するようにして粉々に粉砕したのだ。
「ダメ!カバーしきれないわ!数が多すぎるッ・・・!」
護衛の彼らの活躍により、召喚された複数のスピーカーはいくらか破壊することが出来たようだが、まだ他にもスピーカーは残されている。今度はアンドレイらの前に立ちはだかるその人物が、如何にも自分の番だと言わんばかりにマイクを使って声を発する。
大きく息を吸い込んだその人物は、胸を膨らませ十分に息を吸い込んだところで一度息を止める。そして彼女はスタンドマイクに口を近づけると、とある曲を歌い始めたのだ。その歌声から、彼らの前に立ちはだかった人物が女性であることが判明した。
「この曲はッ・・・!」
「ア・・・アンドレイ様?」
音楽家であるアンドレイには、直ぐにその曲と歌声の主が誰であるのか大方の予想がついたようだ。彼女が声で奏で始めたのは、バッハが作曲したと言われるマタイ受難曲。アルバでも何度も耳にしているほど、一行にとっても聞き馴染みのある曲だった。
そしてそれを歌うのは、バッハの後妻とされる“アンナ・マグダレーナ・バッハ“だとアンドレイは語った。確かにアルバはバッハのゆかりの地としても有名だった。それ故に彼女の霊や魂が、より根強く体現されているとしても不思議ではない。
だが何故彼女が、夫でもあるバッハゆかりの地でこんな殺人事件などを起こしたのか、アンドレイにはその動機が犯人の思考と結び付かなかったようだ。やはり何者かによって思考を奪われているのか操られている、或いは何らかの感情を過度に煽られて盲目になってしまっている状態なのかも知れない。
「アンドレイ様ッ!あれをッ!」
「!?」
チャドが指差す先には、歌うアンナの側の物陰に隠れている二人の少年がいた。それは宮殿の彼らと同様に、街中で不気味な体験をしていた音楽学校の生徒であるクリスとレオンだった。
彼らは二手に分かれ、その内の片割れが宮殿を目指してやって来たのだ。飲み込めない状況がさらに重なるも、今はそれどころではない。護衛達が対処しきれなかったスピーカーが今にも音を発しそうになっている。
それは宛ら、いつ爆発してもおかしくない爆弾のようだった。スピーカーの向きなどは関係ない。あんな物を召喚するということは、シアラと同じく音に関係する攻撃を仕掛けようとしているに違いない。
「あそこにいたら巻き込まれませんか!?」
「ケイシー!彼らをこちらへ!チャド、私は構わないので彼らを受け止めてあげなさい!」
「りょッ了解です!」
アンドレイの指示でケイシーは植物の蔓をクリスとレオンの元へと伸ばし身体に巻き付かせると、こちらへ向けて二人を投げた。
「えっ!?」
「何でここにいるのが!?」
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