World of Fantasia

神代 コウ

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外からの来訪者達

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 一方、宮殿の屋上で一際強力な霊体と戦闘を開始したミア達とは別に、他の場所で新たな霊体との戦闘が行われていた。そこにはアルバに招待されていた音楽家のアンドレイ一行がいた。

 その様子は司令室にてモニタリングしていた、オイゲンやケヴィンらの元に情報として届けられたのが少し遅れていた。彼らが戦っていた場所というのは、いち早く調査が行われていた宮殿の外だったのだ。

 入り口の広間を映していたカメラが復旧した後、ミアとニノンが司令室を出て行った直後にそれは起きた。

 突然、大きな音と共に正面入り口が破壊され、瓦礫と共に何かが宮殿内へと飛び込んできたのだ。それがアンドレイら一行だった。彼らは何かしらの広範囲攻撃を受けたようで、その爆風と共に吹き飛ばされていたようだ。

 だがアンドレイの護衛であるケイシーのスキルである、植物の蔦によって一行は大きなダメージを負う事なく受け身を取れていた。

「アンドレイ・ネルソンス・・・。何故彼らが外から?」

「それよりもオイゲン氏、あれを見て下さい!」

「?」

 ケヴィンが指差したモニターの映像には、アンドレイら一行の他にとある人物が彼らと一緒に宮殿内へ入り込んでいた。それは音楽学校の生徒であるレオンとクリスだったのだ。

「子供?何故彼らアンドレイ達と一緒にいる?」

「状況は分からないことだらけですが、どうやらアンドレイ氏は宮殿の外で彼らと合流したようですね。ということは、宮殿の外にもまだ人がいるということでしょうか・・・」

「それは直接彼らに聞いてみればいい。すぐに小隊を招集し向かわせる。幸い映像はここからも観れる。彼らが一体何と戦っているのか、見せてもらおうじゃないか」

 宮殿の外にはすでに護衛隊や警備隊を送り込んでいる。しかし宮殿の外へ向かった者達は誰も帰って来ていない。故に外の様子や街の様子も、未だに把握しきれていない状況だった。

 それがどういう訳か、騒動に乗じて勝手に外へ出ていたアンドレイら一行が、あろう事か宮殿に居なかった筈の人間を連れて戻って来たのだ。この貴重な情報源を何としてでも守り抜かねばと、自ら動かんとする勢いだった。

 そこへやって来たのは、教団の護衛の中でもうまく仲を取り持つ役割を果たしているというプラチドという護衛隊員だった。彼はオイゲンの信頼もあり、司令塔である隊長がこの場にいないでどうすると引き留め、代わりに自分がアンドレイらの元へ向かうと名乗り出た。

「すまない、プラチド。だが先ずは情報を持ち帰るのが最優先だ。向こうに到着次第、アンドレイらの援軍は小隊に任せ、君はあの少年二人を司令室に連れて来てくれ」

「了解した。んじゃ、部隊が整うまで準備してればいいか?」

「アンドレイ氏の援軍にも、こちらから一人向かって貰えるか頼んでみます」

「いいのか?確かに人手が多いに越した事はないが・・・」

「彼らは信用していいと思いますよ。それに腕も立つようですし・・・」

 そう言い残し、ケヴィンはモニターの前から離れていった。彼が頼みに行ったのは、ミアと同じく最も行動を共にしていた一行の元だった。

「ケヴィン、さっきの音は?」

「シンさん、申し訳ないのですが協力して頂けませんか?」

「ん?どういう事だ、話が見えないぞ?」

 ケヴィンはシンやツクヨの前で、先程鳴り響いていた大きな物音の原因と、その戦場に向かい音楽家のアンドレイを救援して欲しいと頼み込む。彼らに手を貸すメリットと、シン達が知りたがっているアークシティについての情報について、自身の持っているとっておきの情報を教えるという条件を添えて、取引を申し出てきた。

 言葉巧みなケヴィンの誘いに、恐らくこの場にいたらミアは首を縦に振っていただろうと、ツクヨがその救援の役割を買って出た。

「大丈夫か?ツクヨ」

「手を貸せる戦力は、私かシンのどちらかだろ?それに君の能力は彼らにも買われている。なら私が行くのが自然な流れじゃないかい?」

「それは・・・」

「大丈夫!教団の方々もいるし、向こうに合流すればアンドレイさんの護衛もいる。一緒に戦えば戦況の優劣を見て撤退する事だって出来る。無茶はしないよ」

「ごめん・・・」

「何で君が謝るのさ。それよりも、ツバキやアカリの事、頼んだよ?ここだって戦力は集まっているけれど、安全とは限らない。私は寧ろそっちの方が心配だよ・・・」

「任せてくれ。二人は俺が守るから」

 いつにもなく頼りになる言葉を口にしたシンに、彼の心の変化を見たツクヨは嬉しそうな笑みを見せ、ケヴィンの後について行った。ツクヨがどこかへ行った事に関してアカリに質問されたシンは、その力を見込まれ有名な音楽家の護衛に選ばれたのだと話した。

「まぁツクヨなら大丈夫だろ。アイツはあぁ見えて一番しっかりしてるからな」

「そうかもしれませんが・・・」

 少し不安そうにするアカリは、その胸に紅葉を抱いて寂しそうな表情を浮かべる。しかし二人もまた、何度か窮地を乗り越えて来ているのも事実。リナムルの森での一件では、獣人族に感謝されるほどの働きを見せている。

 シンやツクヨが心配する以上に、この二人もまたシン達との旅の中で成長しているのだ。ただその様子を目にする機会が少なかっただけで。現に二人を守る役目をするのはツクヨが多かった。

 シンはここに来て初めて、守る戦いというものを経験する事になる。
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