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霊体の演奏者
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屋上にぐったりと横たわる二人。その様子からも、霊体の演奏者と繋がれた糸は彼らが繋いだものではない事は察しが付く。これらから推測するに、その状態がよくない事であることに勘づいたミアは、屋上へ飛び降りる前に狙撃態勢に入り、二人と演奏者を繋ぐ糸目掛けた弾丸を撃ち放つ。
「ミアッ!?」
突然の行動に驚くニノンだったが、彼女の真剣な表情を見て何か考えがある行動だったのだと悟ると、後の判断は各々に任せ先陣を切って屋上に降り立つ。
彼女が先にとった行動は、ブルースとバルトロメオの保護よりも、戦場で突然演奏を始めるという奇行を行う演奏者への攻撃だった。その行動に何かしらの意味があると考えたニノンは、それを中断させるべく渾身の一撃を霊体に打ち込む。
攻撃の瞬間彼女の視界は僅かに歪んだが、その拳は辛うじて霊体の脇腹に命中。直前でニノンの拳に気が付き避けようとしたようだが、彼女の閃光のように素早い拳は霊体の演奏者の想像を遥かに超えていた。
光を放つ拳を受けた演奏者は、血肉の代わりに黒い塵を撒き散らし、ふらふらと前方へ進みニノンの方を振り返る。召喚されていたピアノのような楽器と椅子も、先程のニノンの一撃により黒い塵となって消え去り、演奏は中断された。
すかさず次の攻撃を打ち込まんと、ニノンは振り返る演奏者の視界に入らぬよう素早く反対の方へ回り込むと、今度はその頭部目掛けて光を纏った回し蹴りを放つ。再び彼女の攻撃は命中。演奏者の頭部は黒い塵となって前方へ飛び散る。
「オ・・・ォォォ・・・」
「まだまだッ!」
一撃目の回転を利用し、今度は蹴った足を軸足に変え、回転の勢いをつけたまま反対の足でもう一発の蹴りを、頭部の無くなった演奏者の胴体に打ち込んだ。
彼女の足が演奏者の胴体を両断し、再びその場に黒い塵がまるで血飛沫のように飛び散る。姿を保てなくなったのか、演奏者はそのまま両断された部位ごと煙のように消え去った。
だが代わりに、演奏者の胴体を突き抜けたニノンの足に、ブルースやバルトロメに繋がれていたものと同じ糸が、まるで蜘蛛の巣のように張り付いていたのだ。
「なッ・・・!?」
そこへ撃ち放たれた一発の弾丸。それは炎を纏い彼女の足を掠めんとする勢いで通り過ぎる。炎はニノンの足に粘着した複数の糸に引火し、ボロボロと千切れていく。
身体に辿り着く前に炎を鎮火したニノンは、それがミアの咄嗟の援護だった事を知り、彼女の判断力と狙撃の腕に感謝した。ニノンの足に絡まった糸は完全には消滅していなかったが、その燃え尽きた先端はどこに繋がれるでもなく彼女の足に張り付いて残っていた。
「消えた・・・?いえ、それよりも」
演奏者の姿が見えなくなったことにより、彼女の中での優先度がブルースらの方へと移り変わる。すぐさま彼らの元へ歩み寄ると、二人ともダメージは負っているものの外傷は少なく、大きく体力や魔力を削られただけのようだった。
「大丈夫?動ける?」
「くっ・・・くっそ・・・!あの野郎、わざと生かしておきやがったなぁッ!?」
「それだけ減らず口が叩ければ大丈夫そうね。貴方は?ブルース」
「悪いが俺は重傷だな・・・」
口ではそう言うものの、バルトロメオよりも出血も少なくとても重傷には見えない。だが彼の言う重傷とは、外見上のものではなく、霊体に触れられていた事による魔力の消耗の方だった。
そもそも魂だけの存在となっているブルースは、その魔力を使ってゾルターンの人形を依代に実体化し生きている。今の彼にとって、魔力とは生命を持続させる為のものであり、人形を動かす為の動力源でもあるのだ。
それを護衛であるバルトロメオと同じくらい、動けぬ程大幅に削られてしまっては、魂を現世に繋ぎ止めておくだけで精一杯であり、人形を動かすことに回す魔力が確保できない状態になってしまっている。
「俺の事は後でいい。先にバルトロメオを何とかしてやってくれ・・・」
「分かったわ、貴方がそう言うのなら」
「おっおい、大将!何を言って・・・」
「なぁ、バルト・・・前にもこんな事があったよなぁ?だから分かるだろ?俺の扱いは、お前やゾルターンが一番よく分かってる筈だろ。だから任せてるんだ、いいな?」
彼らの間に何があったのかは分からないが、特殊な存在であるブルースと永らく行動を共にしてきたバルトロメオでれば、ブルースの魂と身体の扱いにも対応できるというもの。
咄嗟の事態にブルースの事を任せるのなら、現状のパーティーだとバルトロメオが適任であることは明らかだろう。ニノンが治癒の魔法をバルトロメオに掛けている間、ミアはゾルターンの作り出した足場を移動し、どこか見晴らしの良い場所はないかと探す。
高い位置にあるのならゾルターンの足場を継続して利用すれば良いと思われるだろうが、どうやら彼の作り出した足場は、瀕死の状態で宮殿に残った今の彼では維持できるものではなかったらしい。
その証拠に、足場から狙撃していたミアには耐久度の低下が目に見えて分かっていた。小さな衝撃でも周りから少しずつ崩れており、ミアとニノンを屋上へ導く為だけの造りものでしかなかったようだ。
バルトロメオの治療を終え、魔力を一時的に補給できるアイテムを手渡すニノン。万全の状態ではないが、これで彼も戦闘に参加できるくらいには回復した事だろう。
ミアも彼らのいる位置を一望出来るポジションに陣取ると、まるでこちらの戦力が整うのを待っていたかのように、先程の演奏と同じ音楽が周囲に流れ始める。
「ミアッ!?」
突然の行動に驚くニノンだったが、彼女の真剣な表情を見て何か考えがある行動だったのだと悟ると、後の判断は各々に任せ先陣を切って屋上に降り立つ。
彼女が先にとった行動は、ブルースとバルトロメオの保護よりも、戦場で突然演奏を始めるという奇行を行う演奏者への攻撃だった。その行動に何かしらの意味があると考えたニノンは、それを中断させるべく渾身の一撃を霊体に打ち込む。
攻撃の瞬間彼女の視界は僅かに歪んだが、その拳は辛うじて霊体の脇腹に命中。直前でニノンの拳に気が付き避けようとしたようだが、彼女の閃光のように素早い拳は霊体の演奏者の想像を遥かに超えていた。
光を放つ拳を受けた演奏者は、血肉の代わりに黒い塵を撒き散らし、ふらふらと前方へ進みニノンの方を振り返る。召喚されていたピアノのような楽器と椅子も、先程のニノンの一撃により黒い塵となって消え去り、演奏は中断された。
すかさず次の攻撃を打ち込まんと、ニノンは振り返る演奏者の視界に入らぬよう素早く反対の方へ回り込むと、今度はその頭部目掛けて光を纏った回し蹴りを放つ。再び彼女の攻撃は命中。演奏者の頭部は黒い塵となって前方へ飛び散る。
「オ・・・ォォォ・・・」
「まだまだッ!」
一撃目の回転を利用し、今度は蹴った足を軸足に変え、回転の勢いをつけたまま反対の足でもう一発の蹴りを、頭部の無くなった演奏者の胴体に打ち込んだ。
彼女の足が演奏者の胴体を両断し、再びその場に黒い塵がまるで血飛沫のように飛び散る。姿を保てなくなったのか、演奏者はそのまま両断された部位ごと煙のように消え去った。
だが代わりに、演奏者の胴体を突き抜けたニノンの足に、ブルースやバルトロメに繋がれていたものと同じ糸が、まるで蜘蛛の巣のように張り付いていたのだ。
「なッ・・・!?」
そこへ撃ち放たれた一発の弾丸。それは炎を纏い彼女の足を掠めんとする勢いで通り過ぎる。炎はニノンの足に粘着した複数の糸に引火し、ボロボロと千切れていく。
身体に辿り着く前に炎を鎮火したニノンは、それがミアの咄嗟の援護だった事を知り、彼女の判断力と狙撃の腕に感謝した。ニノンの足に絡まった糸は完全には消滅していなかったが、その燃え尽きた先端はどこに繋がれるでもなく彼女の足に張り付いて残っていた。
「消えた・・・?いえ、それよりも」
演奏者の姿が見えなくなったことにより、彼女の中での優先度がブルースらの方へと移り変わる。すぐさま彼らの元へ歩み寄ると、二人ともダメージは負っているものの外傷は少なく、大きく体力や魔力を削られただけのようだった。
「大丈夫?動ける?」
「くっ・・・くっそ・・・!あの野郎、わざと生かしておきやがったなぁッ!?」
「それだけ減らず口が叩ければ大丈夫そうね。貴方は?ブルース」
「悪いが俺は重傷だな・・・」
口ではそう言うものの、バルトロメオよりも出血も少なくとても重傷には見えない。だが彼の言う重傷とは、外見上のものではなく、霊体に触れられていた事による魔力の消耗の方だった。
そもそも魂だけの存在となっているブルースは、その魔力を使ってゾルターンの人形を依代に実体化し生きている。今の彼にとって、魔力とは生命を持続させる為のものであり、人形を動かす為の動力源でもあるのだ。
それを護衛であるバルトロメオと同じくらい、動けぬ程大幅に削られてしまっては、魂を現世に繋ぎ止めておくだけで精一杯であり、人形を動かすことに回す魔力が確保できない状態になってしまっている。
「俺の事は後でいい。先にバルトロメオを何とかしてやってくれ・・・」
「分かったわ、貴方がそう言うのなら」
「おっおい、大将!何を言って・・・」
「なぁ、バルト・・・前にもこんな事があったよなぁ?だから分かるだろ?俺の扱いは、お前やゾルターンが一番よく分かってる筈だろ。だから任せてるんだ、いいな?」
彼らの間に何があったのかは分からないが、特殊な存在であるブルースと永らく行動を共にしてきたバルトロメオでれば、ブルースの魂と身体の扱いにも対応できるというもの。
咄嗟の事態にブルースの事を任せるのなら、現状のパーティーだとバルトロメオが適任であることは明らかだろう。ニノンが治癒の魔法をバルトロメオに掛けている間、ミアはゾルターンの作り出した足場を移動し、どこか見晴らしの良い場所はないかと探す。
高い位置にあるのならゾルターンの足場を継続して利用すれば良いと思われるだろうが、どうやら彼の作り出した足場は、瀕死の状態で宮殿に残った今の彼では維持できるものではなかったらしい。
その証拠に、足場から狙撃していたミアには耐久度の低下が目に見えて分かっていた。小さな衝撃でも周りから少しずつ崩れており、ミアとニノンを屋上へ導く為だけの造りものでしかなかったようだ。
バルトロメオの治療を終え、魔力を一時的に補給できるアイテムを手渡すニノン。万全の状態ではないが、これで彼も戦闘に参加できるくらいには回復した事だろう。
ミアも彼らのいる位置を一望出来るポジションに陣取ると、まるでこちらの戦力が整うのを待っていたかのように、先程の演奏と同じ音楽が周囲に流れ始める。
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