World of Fantasia

神代 コウ

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互いの目的の為

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 彼らの無くした記憶の中にある昨日の襲撃事件。その発端となったのは、音楽家ブルース・ワルターの宿泊する部屋からだった。これまでの犯行と同様に犯人はブルースを夜中のうちに殺害しようとした。

 しかし彼の特殊な体質から犯行は失敗に終わる。襲撃を受けた彼ら、特に護衛であるバルトロメオが騒ぎ出し、一行は宮殿を脱出しアルバの街へと飛び出して行った。

 その後は宮殿や街中問わず、謎の人物と呼んでいる存在が各地で蔓延り、警備隊も護衛隊もその対応に追われていた。結果は言わずもがなだが、彼らはその時の記憶を失い、新たに上書きされた情報と共に何事もなかったかのように翌日を迎えている。

 そこに僅かながらの違和感を抱えながら。

「最初の襲撃場所はどこだ?」

「報告によると各所でほぼ同時に襲撃が始まったようです。特定の場所に集中して・・・という形ではないようですね」

「一辺に仕掛けてきたか・・・」

「こちらの様子を伺っているのでしょう。私達と同じく、犯人もマティアス司祭の事について調べようという腹づもりなのかもしれません。良いですか?みなさん、マティアス司祭の事に関しては決して顔に出さないように。彼が仮死状態にあったことを尋ねられても、何も知らないと言い張って下さい」

 ケヴィンの忠告を聞き、犯人がこちらにも目を光らせているのだと肝に銘じると共に、これからの行動にもそれぞれ犯人の意思が向けられるという恐怖が付きまとうということを感じていた。

「シンさん!?どこへ行くつもりですか?」

「襲撃を受けたんだろ!?みんながッ・・・仲間達が心配なんだッ!」

「待って下さい!ミアさんやツクヨさんならきっと大丈夫です」

「分からないだろ!?自分の知らないところで失うのは嫌なんだッ!」

 珍しく感情的になるシンは、ケヴィンの静止を振り切り仲間達のいる部屋へ戻ると言い出した。彼のスキルを当てにしていたケヴィンは、シンには別の件で手伝いをしてもらおうと考えていたのだが、その表情を見た時、とても引き留められるものではない事を悟る。

「まて、私が付いて行こう。オイゲンもそれでいいな?」

「あぁ、我々にとってもその方が都合が良いしな。彼のことはニノンに任せよう」

「えッ!?ぁっ・・・ちょっとちょっと!」

「彼には自分の身を危険に晒しても、居たい場所があるのだろ?誰もが君のように打算的になれるものでもないだろ」

 会話を待たずして司令室を飛び出して行ったシンの後を追うニノン。そしてそれを引き止めようとしたケヴィンを説得したオイゲンは、彼の持ち込んだカメラも活用し、宮殿内に紛れ込んでいると思われる犯人の反応を探す事にした。

「おい!待てシン!」

 廊下を駆け抜ける中、そこら中で襲撃者達と宮殿側の者達との戦闘が行われていた。だがそれらをうまく躱して目的の場所へまっしぐらに向かうシンに追い付き、その腕を掴むニノン。

「離せッ!協力ならする!だがそれはみんなの無事が確保されてからッ・・・・!?」

 ニノンはそのままシンをまるで荷物のように担ぎ上げると、窓を開けて足を掛ける。慌てた様子でどうするつもりなのかシンが尋ねると、ニノンは口角を上げて答える。

「こっちの方が近道だ」

 ニノンは持ち前の身体能力で、一人の大人を担ぎながらシン達の宿泊していた上層階の窓があるところまで跳躍する。ちょうど対角線上にある窓に今にもぶつかりそうになると、彼女はそのまま窓も壁も破壊せんという勢いで身構える。

「ちょっと待て!そのまま突っ込んでくれ!」

「元々そのつもりだ」

「そうじゃない。いいから俺を信じて、そのまま乗り込んでくれ」

「ッ・・・分かった!」

 風を切り飛び上がる二人は、そのまま窓から少しズレた外壁にぶつかる勢いで突っ込んでいく。するとその壁に映る二人の影が濃さを増し、黒い渦のようになって影のゲートを開く。

 これがケヴィンの言っていたシンのスキルかと、話には聞いていたアサシンのスキルを目の当たりにし、安心した様子でニノンはその影の中へと飛び込んでいく。

 二人は外壁をすり抜け、何も壊すことなく上層階に到着する。シンを下ろしたニノンが立ち上がると、そこはミア達の居る部屋の前だった。

「ミア!ツクヨ!」

 扉を勢いよく開けて中へ入っていくと、部屋の中は少し荒らされた様子はあるものの、何ら変わらぬ様子のツクヨやミアの姿があった。互いに無事な姿を見て安堵すると同時に、驚きの表情を浮かべていた。

「シン!?無事だったのかい?」

「そっちこそ!これは・・・」

「突然、訳の分からん奴らがやって来た」

 シンの問いに答えたのは、その手に僅かに煙を上げる銃を持ったミアだった。どうやら彼らの元にも同じ襲撃者がやって来たようだ。それは突然入り込んで来たのだという。

 壁や床など、お構いなしに移動してくるその謎の人物達には、物理的な攻撃が通用せず魔力が込められた弾丸や、ツクヨの持つ特殊な効果を持つ刀でなければ対抗できないとの事だった。

「物体を透過する存在か・・・」

「あちこちで騒がしい音が聞こえる。他でも襲撃が?」

「あぁ、そこら中でな・・・。ここも安全ではない。君達は戦えるようだが、良ければ司令室に来ないか?あそこなら主力も集まるし、何より人手が欲しいところだ。ケヴィンから話は聞いている。正直、まとまっていた方がこちらも守りやすい」

「願ってもない申し出だ。アタシは賛成だね」

 敵が何であるか、どれほどの戦力を持っているか分からない以上、孤立し戦うよりも協力しまとまっていた方がミアは安全だと判断した。何より戦闘を行えないアカリを守りながらとなると、一人でも多くの戦える者の力があった方が生存率は上がる。

 無論、教団側の監視したいという名目もあるのだろう。仲間の無事を願っているのは、何もシンだけではない。ミアも利用できるものは何でも利用するべきだと考えていたのだ。
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