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たった一人残された世界で
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オイゲンら教団の護衛隊や、音楽家とその一行の奮闘も虚しく、宮殿は瞬く間に制圧されてしまった。
原因はリヒトルの言うように、犯人側の入念な準備と計画によるものが大きい。彼らは気付かぬ間に犯人の術中にまんまと嵌められ、相手の絶対的有利な状況の中へと引き摺り込まれてしまった。
故に備えることも打開策を考える時間すら与えられなかった。いくら戦闘能力に長けていようと、こうなってしまっては手も足も出ない。
だがその中には、何人か犯人の手口や計画について気が付いた者もいる。その中の一人でもあるリヒトル曰く、今回の宮殿襲撃事件以降に襲われた者達は、姿を消す者や意識を失い倒れることはあっても死にはしないようだ。
魂に関する話をしていたリヒトルら一行は、犯人が被害者らの魂に関与する何らかの行いを企てている事を見抜き、謎の人物らにやられた者達の魂が何処かへ帰っているのだと証言していた。
争うほぼ全ての者達が犯人の計画に飲み込まれ、宮殿は再び真夜中に相応しい静寂を取り戻す。内部を縦横無尽に飛び回っていた謎の人物達も姿を消し、床に倒れた者達も個人差はありながらも、一人また一人と塵となって消えていく。
静けさを取り戻したのは宮殿だけではない。音楽の街アルバ全体が、全くの無人になったかのように生活感だけを残して、一様に姿を消していた。
しかし、そんな誰もいないはずのアルバの街に、ただの一人だけ未だに意識を保ち何とか動ける者がいた。それは通常の生物の在り方とは異なる方法で、このWoFの世界に生きていた“ブルース・ワルター“だった。
ニクラス教会にて、謎の人物達を束ねる親玉であった霊体の存在、“ヨハン・ベルンハルト・バッハ“との戦闘でボロボロになった、魂の入れ物である仮の肉体で、誰もいなくなった街中を平然とした様子で、一人何処かへ向かって歩みを進めていた。
「クソッタレ・・・。一体何がどうなってやがる?バルトやゾルターンは何処へ消えた?それにツクヨとかいう奴らも・・・。周りには奴らの気配も感じねぇし姿も見えない。すっかり誰もいなくなっちまった。これも幻術だってのか?」
あらかた教会の内部やその周辺を探し回ったのか、ブルースは誰もいなくなってしまった事を悟り、気にする事なく思ったままの言葉を独り言として声に出して呟いていた。
彼の足取りはまっすぐ宮殿へ向かっていた。自分だけが取り残されたのかと思ったブルースは、全ての事の発端である宮殿に戻れば、何か分かるのではないかと踏んだのだ。
しかしいざ宮殿の前へやって来ると、そこには彼の望むようなものなど何もないと言わんばかりの静寂があった。脱出した時にいた鬱陶しいほどの警備隊もいなくなっており、街と同様に一切の気配が消えていた。
「どうなってる・・・?全員消えたのか?」
正面で足を止めたブルースは全体を眺めるように見渡した後、脱出の際にバルトロメオが破壊した外壁の方へと回り込む。だが彼が壊したはずの外壁は、綺麗に元通りになっていた。
誰かが修復したと言うにはあまりに不自然で、元から壊されてなどいなかったようにそっくりそのまま、元の綺麗な宮殿の形をへと戻っている。
まだ犯人の術中だと言うのなら、いくらか解決方法もあると考えたブルースは、最も術者がいる可能性の高い宮殿内部へと入っていく。中は外から見て想像していた通り、全く人の気配など感じさせないほど静まり返っていた。
通常であれば、真夜中であっても誰かしらの物音がしていた。気配を感じ取る能力などなくとも、何処かに人がいるという安心感もあった。だが今はその逆。これほどまでに人の気配がないと、かえって人の存在が恐ろしくなる。
何故ならば、こんな状況下の中で人がいるとするならば、それは犯人しかあり得ないからだ。もしブルースと同じ魂だけの存在の者がいたとするならば、恐らく彼とは逆に、その人物はアルバの街へと探しに向かうだろう。
「いよいよお目にかかれるって訳か?悪いが俺は、他のターゲットらと違って自ら戦えるからな・・・返り討ちにしてやる」
足音を立てないようにゆっくりとした足取りで宮殿内を進むと、オイゲンやツバキのいた司令室の前を通りかかるブルース。半開きになっている扉の隙間から中を覗くと、机の上に置かれたタブレットがうっすらと光を放っているの見つける。
「そういえば監視カメラの映像データが何処かにある筈だな。調べてみる価値はありそうだ・・・」
扉をゆっくり開けて中の様子を伺う。しかし司令室にも誰の姿もなく、あるのはそれまでオイゲンやツバキらが行っていた宮殿内のカメラの映像やその修復の跡だけだった。
気配だけでなく肉眼でも司令室に誰もいないことを確認したブルースは、真っ先に机に置かれたタブレットのところへと向かう。画面に映し出されていたのは、いくつかの部屋の様子を映し出すカメラの映像だった。
「やっぱりな・・・いい趣味してるぜ」
宮殿を一から探り回るのは骨が折れると、ブルースはツバキらの直した監視カメラの映像を使って、宮殿内部の様子を確かめる事にした。操作自体は簡単で、画面をスライドすることで別室や廊下、広間の映像などを切り替えられるようになっている。
何か気になるものが映っていなければ次にスライドする。その作業の繰り返しの中で、ブルースは奇妙な映像を見つける。
「な・・・何だこれは・・・」
そこには束になった紙が宙を彷徨いながら移動している映像が映り込んでいた。紙の束は人が歩くくらいの速度で移動しており、拡大して確認してみると、どうやらその内容は何かの楽譜のようだった。
原因はリヒトルの言うように、犯人側の入念な準備と計画によるものが大きい。彼らは気付かぬ間に犯人の術中にまんまと嵌められ、相手の絶対的有利な状況の中へと引き摺り込まれてしまった。
故に備えることも打開策を考える時間すら与えられなかった。いくら戦闘能力に長けていようと、こうなってしまっては手も足も出ない。
だがその中には、何人か犯人の手口や計画について気が付いた者もいる。その中の一人でもあるリヒトル曰く、今回の宮殿襲撃事件以降に襲われた者達は、姿を消す者や意識を失い倒れることはあっても死にはしないようだ。
魂に関する話をしていたリヒトルら一行は、犯人が被害者らの魂に関与する何らかの行いを企てている事を見抜き、謎の人物らにやられた者達の魂が何処かへ帰っているのだと証言していた。
争うほぼ全ての者達が犯人の計画に飲み込まれ、宮殿は再び真夜中に相応しい静寂を取り戻す。内部を縦横無尽に飛び回っていた謎の人物達も姿を消し、床に倒れた者達も個人差はありながらも、一人また一人と塵となって消えていく。
静けさを取り戻したのは宮殿だけではない。音楽の街アルバ全体が、全くの無人になったかのように生活感だけを残して、一様に姿を消していた。
しかし、そんな誰もいないはずのアルバの街に、ただの一人だけ未だに意識を保ち何とか動ける者がいた。それは通常の生物の在り方とは異なる方法で、このWoFの世界に生きていた“ブルース・ワルター“だった。
ニクラス教会にて、謎の人物達を束ねる親玉であった霊体の存在、“ヨハン・ベルンハルト・バッハ“との戦闘でボロボロになった、魂の入れ物である仮の肉体で、誰もいなくなった街中を平然とした様子で、一人何処かへ向かって歩みを進めていた。
「クソッタレ・・・。一体何がどうなってやがる?バルトやゾルターンは何処へ消えた?それにツクヨとかいう奴らも・・・。周りには奴らの気配も感じねぇし姿も見えない。すっかり誰もいなくなっちまった。これも幻術だってのか?」
あらかた教会の内部やその周辺を探し回ったのか、ブルースは誰もいなくなってしまった事を悟り、気にする事なく思ったままの言葉を独り言として声に出して呟いていた。
彼の足取りはまっすぐ宮殿へ向かっていた。自分だけが取り残されたのかと思ったブルースは、全ての事の発端である宮殿に戻れば、何か分かるのではないかと踏んだのだ。
しかしいざ宮殿の前へやって来ると、そこには彼の望むようなものなど何もないと言わんばかりの静寂があった。脱出した時にいた鬱陶しいほどの警備隊もいなくなっており、街と同様に一切の気配が消えていた。
「どうなってる・・・?全員消えたのか?」
正面で足を止めたブルースは全体を眺めるように見渡した後、脱出の際にバルトロメオが破壊した外壁の方へと回り込む。だが彼が壊したはずの外壁は、綺麗に元通りになっていた。
誰かが修復したと言うにはあまりに不自然で、元から壊されてなどいなかったようにそっくりそのまま、元の綺麗な宮殿の形をへと戻っている。
まだ犯人の術中だと言うのなら、いくらか解決方法もあると考えたブルースは、最も術者がいる可能性の高い宮殿内部へと入っていく。中は外から見て想像していた通り、全く人の気配など感じさせないほど静まり返っていた。
通常であれば、真夜中であっても誰かしらの物音がしていた。気配を感じ取る能力などなくとも、何処かに人がいるという安心感もあった。だが今はその逆。これほどまでに人の気配がないと、かえって人の存在が恐ろしくなる。
何故ならば、こんな状況下の中で人がいるとするならば、それは犯人しかあり得ないからだ。もしブルースと同じ魂だけの存在の者がいたとするならば、恐らく彼とは逆に、その人物はアルバの街へと探しに向かうだろう。
「いよいよお目にかかれるって訳か?悪いが俺は、他のターゲットらと違って自ら戦えるからな・・・返り討ちにしてやる」
足音を立てないようにゆっくりとした足取りで宮殿内を進むと、オイゲンやツバキのいた司令室の前を通りかかるブルース。半開きになっている扉の隙間から中を覗くと、机の上に置かれたタブレットがうっすらと光を放っているの見つける。
「そういえば監視カメラの映像データが何処かにある筈だな。調べてみる価値はありそうだ・・・」
扉をゆっくり開けて中の様子を伺う。しかし司令室にも誰の姿もなく、あるのはそれまでオイゲンやツバキらが行っていた宮殿内のカメラの映像やその修復の跡だけだった。
気配だけでなく肉眼でも司令室に誰もいないことを確認したブルースは、真っ先に机に置かれたタブレットのところへと向かう。画面に映し出されていたのは、いくつかの部屋の様子を映し出すカメラの映像だった。
「やっぱりな・・・いい趣味してるぜ」
宮殿を一から探り回るのは骨が折れると、ブルースはツバキらの直した監視カメラの映像を使って、宮殿内部の様子を確かめる事にした。操作自体は簡単で、画面をスライドすることで別室や廊下、広間の映像などを切り替えられるようになっている。
何か気になるものが映っていなければ次にスライドする。その作業の繰り返しの中で、ブルースは奇妙な映像を見つける。
「な・・・何だこれは・・・」
そこには束になった紙が宙を彷徨いながら移動している映像が映り込んでいた。紙の束は人が歩くくらいの速度で移動しており、拡大して確認してみると、どうやらその内容は何かの楽譜のようだった。
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