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音の玉と外壁の仕掛け
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同僚であり良き友でもあるニノンが心配で気が気ではなかったオイゲン。各部隊の様子と人数の把握など、事務的なことを手際よく行なっていくと、ふとその視界にこれまで宮殿の中で見かけなかったものを目にする。
「これは・・・音のシャボン玉。今まで宮殿の中になかったのに何故・・・?」
「壁や窓がぶち破られちまったからだろ。それにこの街なら、寧ろあるのが当然なんじゃなかったか?」
二人の会話を聞いていた宮殿の警備隊の一人が、普段宮殿の中でシャボン玉を見かけない理由について語る。
ツバキが言うようにアルバの街では、音のシャボン玉が浮遊しているという光景は、まるで空気中に漂う埃を誰も気にしないのと同じくらい、この街の人達にとって当然の存在になっている。
現に数日過ごしただけのツバキ達も、今では見慣れてしまいそれほど興味をそそられなくなってしまっていたくらいだ。
そんなアルバの街の中ならどこにでもあるようなシャボン玉。それが宮殿で見かけなかった理由はごく単純なものだった。歴史的にも重要な代物や楽器などが集められるこの街では、各所から様々な分野で活躍する人物が訪れては音楽を嗜み、重要な式典や催し物が行われる。
重要な場面でシャボン玉から余計な音などを出さない為に、宮殿や教会、そして一部の音楽に関する重要な建造物などには、シャボン玉が入らないような仕掛けが施されているのだという。
「シャボン玉が入らない仕掛け?何だそりゃぁ、だって店とか宿屋でも見たぜ?」
「確かに。私も街を見回った際に建物の中でこれらを見かけた。窓や扉から入り込んだ訳でもあるまい」
「その通りです。このシャボン玉は壁や床、地面でさえ通り抜けます。ではどうやって入ってこないようにするのか。それは“振動“です」
警備隊の者が言うには、シャボン玉が入ると困る建物には外壁などに振動を発する仕掛けが施されているのだという。一部の生物並みに聴覚が発達していれば、その振動を感じ取ることもできるのだそうだが、基本的には生活などに支障がないような微量な振動でシャボン玉を押し退けている。
謎の人物達の襲撃によりそれらの仕掛けが故障してしまったか、或いは機能しないように細工をされてしまったか・・・。
「まぁ宮殿の様子から見て、十中八九破壊されたと見て間違いねぇだろうな」
「そのようだ。その証拠に破壊されてない壁や床からもシャボン玉が中に入って来ている」
「けど、それが今の状況に何の関係があるんだ?別に音が聞こえてこようと問題ねぇだろ」
「それはまぁ、そうなんだが・・・」
何かの違和感を感じていたオイゲンだったが、ツバキの言うように最早戦場となっている宮殿に、雑音となる音が聞こえてこようが何も支障はない。壁の仕掛けはまた作り直せばいいだけの事。
だが、人の命は違う。優先すべきは犯人を突き止める為に宮殿へ半ば監禁状態としてしまった要人達や、今も尚戦い続ける者達の命だ。
「そういえばあの“ガキ“はどうした?」
「クリス君の事か。彼はマティアス司祭の事を心配していた。宮殿で彼に何があったのか説明したが、この目で確かめるまで信じられないと取り乱していたな・・・」
「そりゃぁそうだろ・・・。アイツにとってその司祭は、育ての親なんだからよ・・・」
ツバキも本当の両親を知らない。彼もまたウィリアム・ダンピアに海で拾われ、本当の子のように育てられてきた。だがそれでもツバキは自分が不幸などと思ったことはなかった。
彼の周りには造船技師の仲間や、信じられないような冒険の話をしてくれる海賊達がいたからだ。
しかしクリスには、マティアス司祭以外に頼れる人がいなかったのだ。故に司祭の求めるものは何でもしたし、言う通りにしてきた。その様子から彼は、一部の心無い者達から媚を売るしか脳の無い人間だと言われ続けてきた。
そんな彼を見捨てる事なく面倒を見続けてきたマティアス司祭が亡くなったと聞いて、とても受け入れることができなかったのだろう。自分の目で真実を確かめる為、クリスはオイゲンから彼の遺体がある仮設の痛い安置所の場所を教え、教団の護衛に案内させていた。
「そうだな・・・。彼は・・・彼の案内は私の信頼する仲間が勤めている。きっと無事に再会しているだろう・・・」
「あぁ・・・」
司令室の働きによって宮殿は徐々に体勢を整えつつあった。アルバへ招待された要人の中で、唯一宮殿内に自らの意思で残り部屋に篭っていた人物達がる。
それは音楽家の“リヒトル・ワーグナー“だ。彼とその護衛達は、当初の教団の言い付け通り大人しく部屋で待機している。ただそれは、彼らが従順であるのではなく、あくまで大人しくしている事こそが彼らの望みであり目的だったからだ。
「これは・・・音のシャボン玉。今まで宮殿の中になかったのに何故・・・?」
「壁や窓がぶち破られちまったからだろ。それにこの街なら、寧ろあるのが当然なんじゃなかったか?」
二人の会話を聞いていた宮殿の警備隊の一人が、普段宮殿の中でシャボン玉を見かけない理由について語る。
ツバキが言うようにアルバの街では、音のシャボン玉が浮遊しているという光景は、まるで空気中に漂う埃を誰も気にしないのと同じくらい、この街の人達にとって当然の存在になっている。
現に数日過ごしただけのツバキ達も、今では見慣れてしまいそれほど興味をそそられなくなってしまっていたくらいだ。
そんなアルバの街の中ならどこにでもあるようなシャボン玉。それが宮殿で見かけなかった理由はごく単純なものだった。歴史的にも重要な代物や楽器などが集められるこの街では、各所から様々な分野で活躍する人物が訪れては音楽を嗜み、重要な式典や催し物が行われる。
重要な場面でシャボン玉から余計な音などを出さない為に、宮殿や教会、そして一部の音楽に関する重要な建造物などには、シャボン玉が入らないような仕掛けが施されているのだという。
「シャボン玉が入らない仕掛け?何だそりゃぁ、だって店とか宿屋でも見たぜ?」
「確かに。私も街を見回った際に建物の中でこれらを見かけた。窓や扉から入り込んだ訳でもあるまい」
「その通りです。このシャボン玉は壁や床、地面でさえ通り抜けます。ではどうやって入ってこないようにするのか。それは“振動“です」
警備隊の者が言うには、シャボン玉が入ると困る建物には外壁などに振動を発する仕掛けが施されているのだという。一部の生物並みに聴覚が発達していれば、その振動を感じ取ることもできるのだそうだが、基本的には生活などに支障がないような微量な振動でシャボン玉を押し退けている。
謎の人物達の襲撃によりそれらの仕掛けが故障してしまったか、或いは機能しないように細工をされてしまったか・・・。
「まぁ宮殿の様子から見て、十中八九破壊されたと見て間違いねぇだろうな」
「そのようだ。その証拠に破壊されてない壁や床からもシャボン玉が中に入って来ている」
「けど、それが今の状況に何の関係があるんだ?別に音が聞こえてこようと問題ねぇだろ」
「それはまぁ、そうなんだが・・・」
何かの違和感を感じていたオイゲンだったが、ツバキの言うように最早戦場となっている宮殿に、雑音となる音が聞こえてこようが何も支障はない。壁の仕掛けはまた作り直せばいいだけの事。
だが、人の命は違う。優先すべきは犯人を突き止める為に宮殿へ半ば監禁状態としてしまった要人達や、今も尚戦い続ける者達の命だ。
「そういえばあの“ガキ“はどうした?」
「クリス君の事か。彼はマティアス司祭の事を心配していた。宮殿で彼に何があったのか説明したが、この目で確かめるまで信じられないと取り乱していたな・・・」
「そりゃぁそうだろ・・・。アイツにとってその司祭は、育ての親なんだからよ・・・」
ツバキも本当の両親を知らない。彼もまたウィリアム・ダンピアに海で拾われ、本当の子のように育てられてきた。だがそれでもツバキは自分が不幸などと思ったことはなかった。
彼の周りには造船技師の仲間や、信じられないような冒険の話をしてくれる海賊達がいたからだ。
しかしクリスには、マティアス司祭以外に頼れる人がいなかったのだ。故に司祭の求めるものは何でもしたし、言う通りにしてきた。その様子から彼は、一部の心無い者達から媚を売るしか脳の無い人間だと言われ続けてきた。
そんな彼を見捨てる事なく面倒を見続けてきたマティアス司祭が亡くなったと聞いて、とても受け入れることができなかったのだろう。自分の目で真実を確かめる為、クリスはオイゲンから彼の遺体がある仮設の痛い安置所の場所を教え、教団の護衛に案内させていた。
「そうだな・・・。彼は・・・彼の案内は私の信頼する仲間が勤めている。きっと無事に再会しているだろう・・・」
「あぁ・・・」
司令室の働きによって宮殿は徐々に体勢を整えつつあった。アルバへ招待された要人の中で、唯一宮殿内に自らの意思で残り部屋に篭っていた人物達がる。
それは音楽家の“リヒトル・ワーグナー“だ。彼とその護衛達は、当初の教団の言い付け通り大人しく部屋で待機している。ただそれは、彼らが従順であるのではなく、あくまで大人しくしている事こそが彼らの望みであり目的だったからだ。
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