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真っ黒なシルエット
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しかし、家屋を出た二人はそこに広がっていた光景に驚愕の表情を浮かべる。ミアとケヴィンを待ち構えていたのは、彼らが居た家屋を取り囲むかのようにして集められた無数の謎の人物達だったのだ。
逃げる隙間もないほどびっしりと並んだ彼らは、ミア達の姿を見ても襲い掛かる様子もなく、ただそこで立ち尽くしているだけだった。
「そんなッ・・・既に囲まれていたのか!?」
元々戦闘能力を持たないケヴィンには、重傷者を抱えてこの場を切り抜けられるような力など無かった。最早、知恵だけでどうにかできる状況ではない。策士に策を練らせる気力すら湧かせない人海戦術に、ミアを支えるケヴィンの足は思わず後退りする。
すると、後ろに下がる彼の意思を阻むかのように、ミアが身体をグッと前に出し家屋へ戻ることを拒否する。中ではシンがヴァイオリンの男と戦っている。今二人が家屋の中へ引き下がれば、敵を中に招いてしまうかも知れない。
決死の思いで強敵を引き受けてくれたシンに、戦いに集中してもらう為にも自分達が足手纏いになる状況に陥ってはならないと、ミアはケヴィンを諭し片手で銃を構えると攻撃はミアが、移動はケヴィンが担当し、少しでも生存できる可能性に賭けると戦闘を開始する。
一方、家屋の中で二階に逃げたヴァイオリンの男を追いかけて行ったシンは、家屋の中に蜘蛛の巣のように張り巡らされた糸を掻い潜りながら、絶えず演奏を続けるヴァイオリンの男を追い回し攻撃を仕掛ける。
演奏により体力を奪われつつも、避けきれなかった糸を伝う音の衝撃に合わせ、ここぞという時にスキルを使いながら魔力の節約をして戦っていた。ヴァイオリンの男が動く度に張り巡らせた糸は、床や壁だけでなく椅子や机といった家具にも繋がれ、ピンと張った糸が不規則に緩みながらその先端を別の場所へと移して、新たに張り巡らされる。
「ある程度糸の動きは読めてきた。それに影で衝撃を移すという保険もある。しくじらなければ負けることはないが、こっちも決定打がない・・・どうする?」
通常の人間サイズとなった相手は、シンにも負けない身のこなしを会得しており、狭い室内を見事に飛び回り演奏を続ける。それに加えヴァイオリンの男は物体を透過する。
当然、シンの放つ物理的な攻撃、主に短剣やナイフを投擲するような攻撃に関しては射線上では命中しているはずでも、身体をすり抜けて壁や床、天井などに突き刺さっている。
ヴァイオリンの男も逃げる気はないようで、家屋をすり抜け攻撃を躱すもその後にはシンの前に姿を現しにやって来る。音の聞こえる範囲が攻撃範囲であるのなら、わざわざシンの前に現れなくとも家の外からでも攻撃はできる筈。そうしないのは何かしら攻撃に条件があるのか、或いは単なる挑発や余裕の現れなのか。
二階の壁はシンの攻撃により殆ど部屋を隔てる役割を果たしていないほど打ち抜かれている。家具も投擲に利用した為、最早隠れられるようなところも殆ど残っていない。
「そうかよ・・・。アンタもここで決着をつける気なんだな?それなら一つ試してみたいことがある・・・」
すると彼は、ヴァイオリンの男に投擲による攻撃をしながらも、家屋の中にある影を集め始めたのだ。それぞれの場所にある濃い影に触れていくと、自身の影と接触させ、それを吸収していくと彼の影はまるで深淵のように深く濃い真っ黒なものへと変わっていく。
そして二階にある影を一通り集め終えたシンは、それまでの戦いで温存してきた影に攻撃を解禁し、ヴァイオリンの男の攻撃を掻い潜り接近すると、集めた影により強力となったスキルを放ち、男の動きを止める。
シンの影を用いるスキルの中でも、基本となる技である影縛りを用いると、ヴァイオリンの男の演奏は止まり、演奏による体力の消費も止まった。拘束に成功したシンは、そのまま張り巡らされた糸を無視して突っ切り、ヴァイオリンの男の懐へと潜り込む。
「どんなものでも擦り抜けられるのなら、コイツも擦り抜けられるか!?」
自身の足元に集めた影を身体を伝わせ手に向かわせると、真っ黒に染まった手をヴァイオリンの男の身体に当てる。透過する筈の身体は、シンの魔力が込められた影を纏う手を透過することが出来ずに触れられる。
そしてシンは、集めた影をその接点から一気にヴァイオリンの男へと流し込み、全身を覆う程の影で飲み込んだのだ。影を送り込み終えたシンはその手を離し、全身真っ黒なシルエット姿となったヴァイオリンの男から距離をとる。
これによりシンは、ヴァイオリンの男から発せられる音や衝撃、糸んどによる攻撃も全て飲み込んでしまおうと考えたのだ。現にシルエットの状態の男はヴァイオリンを構え演奏する動きを見せるも、音は一切聞こえずその効果の影響もシンには届かなかった。
逃げる隙間もないほどびっしりと並んだ彼らは、ミア達の姿を見ても襲い掛かる様子もなく、ただそこで立ち尽くしているだけだった。
「そんなッ・・・既に囲まれていたのか!?」
元々戦闘能力を持たないケヴィンには、重傷者を抱えてこの場を切り抜けられるような力など無かった。最早、知恵だけでどうにかできる状況ではない。策士に策を練らせる気力すら湧かせない人海戦術に、ミアを支えるケヴィンの足は思わず後退りする。
すると、後ろに下がる彼の意思を阻むかのように、ミアが身体をグッと前に出し家屋へ戻ることを拒否する。中ではシンがヴァイオリンの男と戦っている。今二人が家屋の中へ引き下がれば、敵を中に招いてしまうかも知れない。
決死の思いで強敵を引き受けてくれたシンに、戦いに集中してもらう為にも自分達が足手纏いになる状況に陥ってはならないと、ミアはケヴィンを諭し片手で銃を構えると攻撃はミアが、移動はケヴィンが担当し、少しでも生存できる可能性に賭けると戦闘を開始する。
一方、家屋の中で二階に逃げたヴァイオリンの男を追いかけて行ったシンは、家屋の中に蜘蛛の巣のように張り巡らされた糸を掻い潜りながら、絶えず演奏を続けるヴァイオリンの男を追い回し攻撃を仕掛ける。
演奏により体力を奪われつつも、避けきれなかった糸を伝う音の衝撃に合わせ、ここぞという時にスキルを使いながら魔力の節約をして戦っていた。ヴァイオリンの男が動く度に張り巡らせた糸は、床や壁だけでなく椅子や机といった家具にも繋がれ、ピンと張った糸が不規則に緩みながらその先端を別の場所へと移して、新たに張り巡らされる。
「ある程度糸の動きは読めてきた。それに影で衝撃を移すという保険もある。しくじらなければ負けることはないが、こっちも決定打がない・・・どうする?」
通常の人間サイズとなった相手は、シンにも負けない身のこなしを会得しており、狭い室内を見事に飛び回り演奏を続ける。それに加えヴァイオリンの男は物体を透過する。
当然、シンの放つ物理的な攻撃、主に短剣やナイフを投擲するような攻撃に関しては射線上では命中しているはずでも、身体をすり抜けて壁や床、天井などに突き刺さっている。
ヴァイオリンの男も逃げる気はないようで、家屋をすり抜け攻撃を躱すもその後にはシンの前に姿を現しにやって来る。音の聞こえる範囲が攻撃範囲であるのなら、わざわざシンの前に現れなくとも家の外からでも攻撃はできる筈。そうしないのは何かしら攻撃に条件があるのか、或いは単なる挑発や余裕の現れなのか。
二階の壁はシンの攻撃により殆ど部屋を隔てる役割を果たしていないほど打ち抜かれている。家具も投擲に利用した為、最早隠れられるようなところも殆ど残っていない。
「そうかよ・・・。アンタもここで決着をつける気なんだな?それなら一つ試してみたいことがある・・・」
すると彼は、ヴァイオリンの男に投擲による攻撃をしながらも、家屋の中にある影を集め始めたのだ。それぞれの場所にある濃い影に触れていくと、自身の影と接触させ、それを吸収していくと彼の影はまるで深淵のように深く濃い真っ黒なものへと変わっていく。
そして二階にある影を一通り集め終えたシンは、それまでの戦いで温存してきた影に攻撃を解禁し、ヴァイオリンの男の攻撃を掻い潜り接近すると、集めた影により強力となったスキルを放ち、男の動きを止める。
シンの影を用いるスキルの中でも、基本となる技である影縛りを用いると、ヴァイオリンの男の演奏は止まり、演奏による体力の消費も止まった。拘束に成功したシンは、そのまま張り巡らされた糸を無視して突っ切り、ヴァイオリンの男の懐へと潜り込む。
「どんなものでも擦り抜けられるのなら、コイツも擦り抜けられるか!?」
自身の足元に集めた影を身体を伝わせ手に向かわせると、真っ黒に染まった手をヴァイオリンの男の身体に当てる。透過する筈の身体は、シンの魔力が込められた影を纏う手を透過することが出来ずに触れられる。
そしてシンは、集めた影をその接点から一気にヴァイオリンの男へと流し込み、全身を覆う程の影で飲み込んだのだ。影を送り込み終えたシンはその手を離し、全身真っ黒なシルエット姿となったヴァイオリンの男から距離をとる。
これによりシンは、ヴァイオリンの男から発せられる音や衝撃、糸んどによる攻撃も全て飲み込んでしまおうと考えたのだ。現にシルエットの状態の男はヴァイオリンを構え演奏する動きを見せるも、音は一切聞こえずその効果の影響もシンには届かなかった。
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