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家屋に潜むモノ
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息を切らしながら建物に張り付き、窓から中の様子を伺う一行。何とか胸を押さえながら呼吸を整えようとするが、先程よりも心臓の鼓動の回数が増えている事に気がつく。
「はぁ・・・はぁ・・・。なぁ、これも奴の攻撃なのか?」
「教会で戦った時は、音楽によるバフ効果を付与された・・・」
「バフ効果だぁ?」
シンはニノンと共に敵の親玉と戦った際、音楽により身勝手なバフ効果を付与され、通常よりも遥かに強力な腕力と瞬発力を身につけた。だがそれは、戦闘を有利に運ぶことはなく無駄な体力を使わされ、バフ効果が切れたと同時にそれまでの疲労が一気にシン達の身体を襲った事を思い出す。
「つまりこの疲労も、今聞こえている音楽の効果という事ですね」
「呑気なこと言ってる場合か!要するにアタシらの体力が尽きるか、奴を仕留める方が先かの勝負ってことだろ?」
「でもどうやって攻める?音は確かに中から聞こえるが、窓からじゃ見えないぞ・・・」
「そんなの・・・」
するとミアは一度窓から離れると、助走をつけて窓へと飛び込んでいった。
「なッ!?」
「ミアさん!?」
ガラスの割れる音と共に、家屋の中を駆け抜けていくミアの足音が聞こえてくる。彼女には最初から作戦などなかった。しかし時には強硬手段も必要である。何より、何もしなくても体力を奪われていく現状、時間を掛ければ掛けるほどシン達が不利になってしまうからだ。
ミアがそこまで考えていたかは定かではないが、ケヴィンも今は彼女の行動力に便乗すべきだと、ミアが突き破った窓から家屋の中へと入っていく。こちらに居場所を突き止められたくないであろう敵は、今の音を聞いて逃げてしまうのではと心配するシンだったが、辺りを見渡すと通りの奥の方から、先程の音を聞きつけたのか謎の人物が向かって来ていた。
「ええぃッ!なるようになれだッ!」
シンはミアと同じように窓を突き破り家屋へと侵入する。ここからはスピード勝負となる。演奏はいまだに続いていることから、演奏者である親玉はまだ家屋の中にいると思われる。
逃げ出される前に見つけて攻撃を仕掛けなければ、いつまで経っても状況は変わらない。すると、二階の方からかミアのものと思われる銃声が鳴る。銃弾が命中したのか、何発かの銃声が鳴ると家屋から聞こえていた演奏が止まり、引き続き二階から激しく動き回るような音が下の階へと響く。
「シンさん!二階ですッ!」
「分かってるッ!・・・クソッ、丁度真上だな?」
シンは自身の影を天井へと向かわせると、そこに二階へ続くゲートを作り出す。移動する距離が短ければ、一度も目にしていない壁の向こう側や床や天井といった薄い障害は通り抜けられる。
幾度の戦闘や移動の際の使用率により、スキルは次の段階へと徐々に成長しつつあったのだ。所謂、熟練度による燃費の効率化や、単純な威力や効果の向上などといった効果が得られる。
勢いをつけて机へ片足を掛けると、一気に踏み込んで天井の影の中へと飛び込んでいくシン。通り抜けた先は、家屋の二階にある一室だったようだ。周囲を見渡しミアを見つけると彼女と合流し、状況を確認する。
「ミア!?いたのか?」
「あぁ二、三発撃ち込んでやったが、奴の身体から糸みたいなモンが飛び出して来たんで、こっちの部屋に回避したんだが・・・!」
ミアが二階での出来事をシンに説明していると、壁の中から腕のようなものが飛び出し、彼女の言っていた糸のようなものが指先から二人目掛けて発射された。
左右に飛び込むようにして回避するシンとミア。起き上がると同時に腕に向かって銃弾を撃ち込む。すると腕は痛がるような動きを見せ、糸のようなものが緩み不規則に動きながら二人を追い詰める。
「マズイッ!!」
シンはすぐさま、側にあった椅子の足を掴むと糸を遠退けるように投げつけた。しかし、その腕が発した糸は椅子を通り抜け、しなる様にシンの身体の方へと曲がってきた。
この糸のようなものは、グーゲル教会でシンとニノンを襲ったものと同じものだったのだ。糸を通り抜けた椅子は、壁に当たり床へ転がった後、突如として足の部分が破裂するように壊れてしまった。
その光景が、シンには目の前でニノンが苦しんでいる光景と重なった。今椅子に起きた現象は、あの時教会でニノンの身体を襲った音の振動による攻撃と同じだとすぐに理解した。
「ミアッ!これに触れちゃダメだッ!!」
だがシンが気が付いた時には既に遅く、ミアは謎の腕が垂らした糸を避け切ることが出来ず、僅かに足首あたりを掠めてしまっていた。糸は彼女の足首に繋がれたものの、引っ張られたり痛みを感じるということは無い様だ。
「あぁ?何だって!?それよりこの糸が外れねぇんだが・・・」
「ッ!?」
糸を振り払おうとするミアの背後に、いつの間にか立っていた謎の人物。それは他の謎の人物達とは違い、かといって先程まで演奏をしていた親玉とも違う。
スラっとした体型で燕尾服を着たその人物が大きく両腕を広げると、その手にヴァイオリンと弓が出現する。そしてゆっくり演奏を始めるかのような体勢を取ると、弓を弾き音を奏た。
それと同時に、ミアの足に繋がれた糸がその男の方へピンと伸びると、男のヴァイオリンの方から小さな空間の歪みの様なものが糸を辿り、ミアの方へと移動していく。
歪みがミアの足に到着するまでに数秒と掛からなかっただろう。瞬く間に彼女の足首に接触した歪みは、直後にミアの悲痛な叫びを奏た。
「はぁ・・・はぁ・・・。なぁ、これも奴の攻撃なのか?」
「教会で戦った時は、音楽によるバフ効果を付与された・・・」
「バフ効果だぁ?」
シンはニノンと共に敵の親玉と戦った際、音楽により身勝手なバフ効果を付与され、通常よりも遥かに強力な腕力と瞬発力を身につけた。だがそれは、戦闘を有利に運ぶことはなく無駄な体力を使わされ、バフ効果が切れたと同時にそれまでの疲労が一気にシン達の身体を襲った事を思い出す。
「つまりこの疲労も、今聞こえている音楽の効果という事ですね」
「呑気なこと言ってる場合か!要するにアタシらの体力が尽きるか、奴を仕留める方が先かの勝負ってことだろ?」
「でもどうやって攻める?音は確かに中から聞こえるが、窓からじゃ見えないぞ・・・」
「そんなの・・・」
するとミアは一度窓から離れると、助走をつけて窓へと飛び込んでいった。
「なッ!?」
「ミアさん!?」
ガラスの割れる音と共に、家屋の中を駆け抜けていくミアの足音が聞こえてくる。彼女には最初から作戦などなかった。しかし時には強硬手段も必要である。何より、何もしなくても体力を奪われていく現状、時間を掛ければ掛けるほどシン達が不利になってしまうからだ。
ミアがそこまで考えていたかは定かではないが、ケヴィンも今は彼女の行動力に便乗すべきだと、ミアが突き破った窓から家屋の中へと入っていく。こちらに居場所を突き止められたくないであろう敵は、今の音を聞いて逃げてしまうのではと心配するシンだったが、辺りを見渡すと通りの奥の方から、先程の音を聞きつけたのか謎の人物が向かって来ていた。
「ええぃッ!なるようになれだッ!」
シンはミアと同じように窓を突き破り家屋へと侵入する。ここからはスピード勝負となる。演奏はいまだに続いていることから、演奏者である親玉はまだ家屋の中にいると思われる。
逃げ出される前に見つけて攻撃を仕掛けなければ、いつまで経っても状況は変わらない。すると、二階の方からかミアのものと思われる銃声が鳴る。銃弾が命中したのか、何発かの銃声が鳴ると家屋から聞こえていた演奏が止まり、引き続き二階から激しく動き回るような音が下の階へと響く。
「シンさん!二階ですッ!」
「分かってるッ!・・・クソッ、丁度真上だな?」
シンは自身の影を天井へと向かわせると、そこに二階へ続くゲートを作り出す。移動する距離が短ければ、一度も目にしていない壁の向こう側や床や天井といった薄い障害は通り抜けられる。
幾度の戦闘や移動の際の使用率により、スキルは次の段階へと徐々に成長しつつあったのだ。所謂、熟練度による燃費の効率化や、単純な威力や効果の向上などといった効果が得られる。
勢いをつけて机へ片足を掛けると、一気に踏み込んで天井の影の中へと飛び込んでいくシン。通り抜けた先は、家屋の二階にある一室だったようだ。周囲を見渡しミアを見つけると彼女と合流し、状況を確認する。
「ミア!?いたのか?」
「あぁ二、三発撃ち込んでやったが、奴の身体から糸みたいなモンが飛び出して来たんで、こっちの部屋に回避したんだが・・・!」
ミアが二階での出来事をシンに説明していると、壁の中から腕のようなものが飛び出し、彼女の言っていた糸のようなものが指先から二人目掛けて発射された。
左右に飛び込むようにして回避するシンとミア。起き上がると同時に腕に向かって銃弾を撃ち込む。すると腕は痛がるような動きを見せ、糸のようなものが緩み不規則に動きながら二人を追い詰める。
「マズイッ!!」
シンはすぐさま、側にあった椅子の足を掴むと糸を遠退けるように投げつけた。しかし、その腕が発した糸は椅子を通り抜け、しなる様にシンの身体の方へと曲がってきた。
この糸のようなものは、グーゲル教会でシンとニノンを襲ったものと同じものだったのだ。糸を通り抜けた椅子は、壁に当たり床へ転がった後、突如として足の部分が破裂するように壊れてしまった。
その光景が、シンには目の前でニノンが苦しんでいる光景と重なった。今椅子に起きた現象は、あの時教会でニノンの身体を襲った音の振動による攻撃と同じだとすぐに理解した。
「ミアッ!これに触れちゃダメだッ!!」
だがシンが気が付いた時には既に遅く、ミアは謎の腕が垂らした糸を避け切ることが出来ず、僅かに足首あたりを掠めてしまっていた。糸は彼女の足首に繋がれたものの、引っ張られたり痛みを感じるということは無い様だ。
「あぁ?何だって!?それよりこの糸が外れねぇんだが・・・」
「ッ!?」
糸を振り払おうとするミアの背後に、いつの間にか立っていた謎の人物。それは他の謎の人物達とは違い、かといって先程まで演奏をしていた親玉とも違う。
スラっとした体型で燕尾服を着たその人物が大きく両腕を広げると、その手にヴァイオリンと弓が出現する。そしてゆっくり演奏を始めるかのような体勢を取ると、弓を弾き音を奏た。
それと同時に、ミアの足に繋がれた糸がその男の方へピンと伸びると、男のヴァイオリンの方から小さな空間の歪みの様なものが糸を辿り、ミアの方へと移動していく。
歪みがミアの足に到着するまでに数秒と掛からなかっただろう。瞬く間に彼女の足首に接触した歪みは、直後にミアの悲痛な叫びを奏た。
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