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ループする街と逃れられぬ悪夢
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ここからは再起したシンとケヴィンと共に、三人で宮殿を目指す事となった。周囲の警戒度は親玉が現れた事により格段に上がっていた。これまで徘徊するだけの謎の人物達も、路地へ入ってきたり家屋の中へ踏み入ってきたりと、不規則なルートで徘徊するようになった。
これにより、今までのように行動ルートを把握して通り抜けるというのが難しくなってしまった。その代わりとして、戦線に復帰したシンにより、通りから向かいの通りに移動する際など、影を用いた隠密が可能になり、順調に宮殿へ向かっていたのも束の間。
親玉の注意を逸らしていたケヴィンの捜査犬が、敵にやられ消されたと本人自ら口にした。召喚や使い魔を使用するクラスは、その召喚された者が時間切れや何らかの要因によって消えてしまった場合、術者にそれがわかるようになっているのだそうだ。
その報告は、一行に敵の親玉の存在をより一層強く思い出させた。決して忘れていた訳ではなかったが、警戒心が目の前の謎の人物に移っていたのは確かだった。これからは親玉がどこから見ているか、現れるかなども警戒しなければならない。
親玉の気配は感じ取ることはできない。その代わりに敵は攻撃の際に必ず音を用いる。後手に回ることは避けられないが、致命傷にだけ気をつけながら音に細心の注意を払いながら移動するしかない。
暫く進んでいると、一行はある違和感に気がつく。それはこれまで聞こえていた演奏だった。ケヴィンの囮を始末したのなら演奏も止まるものだと思っていたが、一向に止まる気配はなく絶えず一定の音量で彼らの耳に届いていた。
しかし、違和感というのは聞こえてくる演奏の音量にあった。先程までいた場所に留まっているのなら音量が変わらないのも納得できるが、シン達はこの間にも宮殿へ向けて移動している。
演奏が聞こえ始めた場所からそれなりに移動したはずなのだが、聞こえてくる演奏の音量に変化がないのはおかしい。一行との距離を保ちながら演奏をしてでもいない限り、そのような事はありえないのだ。
「妙ですね・・・。先程から聞こえてくる演奏の音が変わってないと思いませんか?」
「ん?あぁ・・・言われてみりゃそうだな」
「でも近くに迫って来てるような様子もない。このまま宮殿に辿り着きさえすれば、みんなで迎え撃つことも・・・」
シンの言う通り、今は宮殿に辿り着くことを最優先で考え、戦闘を行うのは戦力が整ってからの方がより安全だと思われたが、彼らを取り巻く状況は思っている以上に深刻であった。
それと言うのもある時から、一行がいくら宮殿へ向かって移動しようとも、視界に映る宮殿の建物に近づいている様子がなくなっていたのだ。これはブルースらが街中を移動する途中で感じた違和感と同じものだった。
前へ進めば街並みや景色は確かに変わり、移動しているという実感はあるのだが、目的地へは一切近づいていなかったのだ。勘の鋭いケヴィンがついていながら、一行がそれに気がつけなかったのは、それ以外にも気にしなければならない事情が多くあったからだった。
「シンさん、ミアさん。お気付きですか?」
「・・・やめろ、言いたいことは分かる。だが認めたくないモンってのもあるもんだ。今それを認めちまったら、進み続ける足が歩くのを辞めちまいそうだ・・・」
「でもこれは・・・。やっぱりおかしいのは俺達だけじゃない。街そのものが妙だ・・・」
シンもミアも、ケヴィンの感じていた違和感と同じものをすでに感じていた。言葉にはせずとも一行は心のどこかで、戦いは避けられないと思っていた。
もう一つおかしな点があるとすれば、目的地に辿り着けない一行の前に姿を現さない、謎の人物達を従える親玉だった。彼らが直面している問題から、一行は一問の場所から前にも後ろにも進むことが出来ない、所謂無限にループするエリアに閉じ込められてしまっていると見て間違いない。
術中にハマった獲物の前に、何故狩人が姿を現さないのか。それは現す必要が無いからに他ならない。つまりこのままなら、シン達は親玉の思惑通りだと言うことだ。
「現状を打開するには、術者を見つける必要があります。このまま宮殿を目指しても、無駄に体力と気力を消費するだけでしょう」
「やるしか無いって事か・・・」
「けど、今度は三人で戦える。それに相手の攻撃手段についても、以前より情報があるんだ。前のようにはいかない・・・ニノンの為にも・・・」
シンはグーゲル教会での彼女の最後の表情を思い出していた。謎の人物を倒した時と同様に、黒い塵となって消えてしまったニノン。現場へ救助に駆けつけたケヴィンも、その場にニノンが見当たらなかった事を覚えており、ニノンが敵の手によってやられてしまった事も聞いている。
「ですが、ニノンさんは消えてしまったのであって、亡くなったところを目にした訳ではないのですよね?」
「それは・・・そうだが。あれではもう・・・」
「探偵をしていれば、様々な事件を経験します。失踪や証拠の消滅、資料や証言が全て間違っていたなどという事も、珍しい話ではありません。彼女の“死“が確信となっていないのなら、希望はまだある筈です」
「・・・・・」
シンの士気を保つ為に、ケヴィンがそれらしい言葉で彼をフォローする。シンもそんな彼の優しさには気がついていた。実際、彼の言葉もあながちデタラメでもなかった。
ニノンが死んだという確証はどこにもない。それにアルバの街には以前から失踪事件の噂もある。今回の件がその失踪事件とも繋がっているのなら、ニノンの消滅にも合点がいく。
きっと何処かでニノンはまだ生きているに違いない。今はこれから訪れるであろう戦闘に集中する為、ケヴィンの言葉にあやかる事にした。
これにより、今までのように行動ルートを把握して通り抜けるというのが難しくなってしまった。その代わりとして、戦線に復帰したシンにより、通りから向かいの通りに移動する際など、影を用いた隠密が可能になり、順調に宮殿へ向かっていたのも束の間。
親玉の注意を逸らしていたケヴィンの捜査犬が、敵にやられ消されたと本人自ら口にした。召喚や使い魔を使用するクラスは、その召喚された者が時間切れや何らかの要因によって消えてしまった場合、術者にそれがわかるようになっているのだそうだ。
その報告は、一行に敵の親玉の存在をより一層強く思い出させた。決して忘れていた訳ではなかったが、警戒心が目の前の謎の人物に移っていたのは確かだった。これからは親玉がどこから見ているか、現れるかなども警戒しなければならない。
親玉の気配は感じ取ることはできない。その代わりに敵は攻撃の際に必ず音を用いる。後手に回ることは避けられないが、致命傷にだけ気をつけながら音に細心の注意を払いながら移動するしかない。
暫く進んでいると、一行はある違和感に気がつく。それはこれまで聞こえていた演奏だった。ケヴィンの囮を始末したのなら演奏も止まるものだと思っていたが、一向に止まる気配はなく絶えず一定の音量で彼らの耳に届いていた。
しかし、違和感というのは聞こえてくる演奏の音量にあった。先程までいた場所に留まっているのなら音量が変わらないのも納得できるが、シン達はこの間にも宮殿へ向けて移動している。
演奏が聞こえ始めた場所からそれなりに移動したはずなのだが、聞こえてくる演奏の音量に変化がないのはおかしい。一行との距離を保ちながら演奏をしてでもいない限り、そのような事はありえないのだ。
「妙ですね・・・。先程から聞こえてくる演奏の音が変わってないと思いませんか?」
「ん?あぁ・・・言われてみりゃそうだな」
「でも近くに迫って来てるような様子もない。このまま宮殿に辿り着きさえすれば、みんなで迎え撃つことも・・・」
シンの言う通り、今は宮殿に辿り着くことを最優先で考え、戦闘を行うのは戦力が整ってからの方がより安全だと思われたが、彼らを取り巻く状況は思っている以上に深刻であった。
それと言うのもある時から、一行がいくら宮殿へ向かって移動しようとも、視界に映る宮殿の建物に近づいている様子がなくなっていたのだ。これはブルースらが街中を移動する途中で感じた違和感と同じものだった。
前へ進めば街並みや景色は確かに変わり、移動しているという実感はあるのだが、目的地へは一切近づいていなかったのだ。勘の鋭いケヴィンがついていながら、一行がそれに気がつけなかったのは、それ以外にも気にしなければならない事情が多くあったからだった。
「シンさん、ミアさん。お気付きですか?」
「・・・やめろ、言いたいことは分かる。だが認めたくないモンってのもあるもんだ。今それを認めちまったら、進み続ける足が歩くのを辞めちまいそうだ・・・」
「でもこれは・・・。やっぱりおかしいのは俺達だけじゃない。街そのものが妙だ・・・」
シンもミアも、ケヴィンの感じていた違和感と同じものをすでに感じていた。言葉にはせずとも一行は心のどこかで、戦いは避けられないと思っていた。
もう一つおかしな点があるとすれば、目的地に辿り着けない一行の前に姿を現さない、謎の人物達を従える親玉だった。彼らが直面している問題から、一行は一問の場所から前にも後ろにも進むことが出来ない、所謂無限にループするエリアに閉じ込められてしまっていると見て間違いない。
術中にハマった獲物の前に、何故狩人が姿を現さないのか。それは現す必要が無いからに他ならない。つまりこのままなら、シン達は親玉の思惑通りだと言うことだ。
「現状を打開するには、術者を見つける必要があります。このまま宮殿を目指しても、無駄に体力と気力を消費するだけでしょう」
「やるしか無いって事か・・・」
「けど、今度は三人で戦える。それに相手の攻撃手段についても、以前より情報があるんだ。前のようにはいかない・・・ニノンの為にも・・・」
シンはグーゲル教会での彼女の最後の表情を思い出していた。謎の人物を倒した時と同様に、黒い塵となって消えてしまったニノン。現場へ救助に駆けつけたケヴィンも、その場にニノンが見当たらなかった事を覚えており、ニノンが敵の手によってやられてしまった事も聞いている。
「ですが、ニノンさんは消えてしまったのであって、亡くなったところを目にした訳ではないのですよね?」
「それは・・・そうだが。あれではもう・・・」
「探偵をしていれば、様々な事件を経験します。失踪や証拠の消滅、資料や証言が全て間違っていたなどという事も、珍しい話ではありません。彼女の“死“が確信となっていないのなら、希望はまだある筈です」
「・・・・・」
シンの士気を保つ為に、ケヴィンがそれらしい言葉で彼をフォローする。シンもそんな彼の優しさには気がついていた。実際、彼の言葉もあながちデタラメでもなかった。
ニノンが死んだという確証はどこにもない。それにアルバの街には以前から失踪事件の噂もある。今回の件がその失踪事件とも繋がっているのなら、ニノンの消滅にも合点がいく。
きっと何処かでニノンはまだ生きているに違いない。今はこれから訪れるであろう戦闘に集中する為、ケヴィンの言葉にあやかる事にした。
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