1,391 / 1,646
探偵の奥の手
しおりを挟む
だが、気が付いた時には既に銃弾は避けられるような位置にはなかった。ミアの放った銃弾は、振り返った親玉の頭部を貫いた。悲痛な叫び声を上げる親玉の声は、それ自体が範囲内にいる者達の三半規管を刺激し、五感に様々な弊害をもたらした。
ミアは耳を塞ぎながらその場を後にする。彼女の素早い判断が功を奏し、囲まれる事は避けられた。というのも、親玉の霊体は、叫び声を上げつつもミアが狙撃した場所に謎の人物達を送り込んでいた。
しかしその場に既にミアの姿はなく、集まった謎の人物達は周囲を見渡したのちに解散し、壁や床を擦り抜けて持ち場へと戻っていく。その道中、一人の謎の人物がミアの衣装らしきものの一部を視界に捉える。
「ったく・・・!いちいち叫び声に効果があんのかよ・・・」
別の場所で隠れながら次の弾丸を弾倉に込めるミア。そこへ彼女の痕跡を見つけた謎の人物が近づいてくる。音もなく障害物さえも通り抜けて一直線に向かってくる謎の人物の気配に彼女は気が付かなかった。
先程の叫び声を浴びて、周囲へのケアを怠ってしまっていたミア。だが決して彼女に落ち度があった訳ではなく、これも霊体達の戦術の内の一つだったのだ。
披露していた事もあり注意力が散漫になっていたところに、遂に謎の人物の一人が直接彼女の身体に触れた。
「ッ!?」
触れると言っても、実際に腕や足を掴まれるといったものではなく、文字通り謎の人物の腕はミアの身体に触れてそのまま透過してすり抜けたのだ。すぐに場所を移動しハンドガンに切り替えると、素早く照準を頭に合わせ一発二発と撃ち込む。
一連の戦闘から、既に手持ちの銃には魔力を込めた弾丸が装填されていた。頭に魔弾を浴びた謎の人物は、そのまま塵となって消滅していったが、その代わりにミアの容態がより一層悪化してしまっていた。
謎の人物に触れられることにより、肉体的なダメージはなかったがその代わりに魔力を大きく消耗し、疲労感が一気に彼女の身体にのしかかった。
「クソッ・・・こんな雑魚共にッ・・・!シン達は無事なのか!?」
謎の人物に気を取られ、外の様子がどのようになっているのか目を離してしまう。すぐに外の様子を確認するも、それまで居た場所に敵の親玉の姿は無く、倒れていたシンとケヴィンの姿も路地裏から消えていた。
「なッ・・・しまった!どこへ消えた!?」
二人を探しに向かう為、立ちあがろうとするミアだったが、足に力が入らずその場で倒れてしまう。自身でも気が付かない内に見た目以上の疲労が身体に蓄積されていた。
「・・・こんなところで寝てる場合じゃねぇんだってッ・・・!!」
悲鳴をあげる身体に鞭を打ちながら立ち上がり、ミアは民家の中を移動し路地裏へと出ていく。先程までシン達が居た場所に彼らの姿はない。何処かに移動してしまったのか、周囲を見渡し痕跡を探す。
すると、表通りの方から親玉のものと思われる演奏が聞こえてくる。音の範囲は相手の効果により身体に弊害が起こるのだが、一旦途絶えてしまった状況を確認する為にも、自ら術中に飛び込んでいかなくてはならなかった。
意を決して踏み出そうとするミアに、どこからともなく男の声が聞こえてきた。姿こそ見えなかったが、その声は確かに聞き馴染みのあるシンの声に酷似していた。
「近づいちゃダメだ。静かに・・・ゆっくり戻ってきてくれ」
「シン!?どこにいる?無事なのか!?」
声を荒立てるミアに、演奏の音が僅かに近づいたような気がした。慌てて口を閉じたミアは、音を殺して言われるがままに来た道を戻り、シン達が倒れていた場所へと戻ってくる。
てっきりそこにシン達が隠れていると思っていたミアだが、周囲を見渡しても二人の姿を見つけることは出来なかった。
「どこに隠れてる?」
彼女の声にゆっくりと姿を現すシンとケヴィン。彼らは建物の影に身を隠し、更にシンのスキルにより影の中ではないものの、周囲の影を利用し光を遮ることで姿を隠していたようだった。
「二人が無事でよかったが、どうやって奴の注意を逸らした?何故奴は表通りで演奏を?」
「それに関しては私から・・・」
どうやら彼には、探偵業で証拠や痕跡を探る際に頼る仲間がいるのだという。それが人間にはない聴力や嗅覚を持つ、戦闘向きではない動物達だった。戦うことは出来なくとも、ケヴィンには捜査の協力や追手から身を隠す為の囮など、様々な場面で強力なサポートを行う式神のようなものがいた。
「狩猟犬や上空からの偵察を行う為の鳥類など、人は様々なところで他種族の力を借りてきました」
「お前なぁ・・・。そんな事が出来るならもっと早くに・・・」
「おっと!勿論ノーリスクで協力を仰ぐことは出来ません。それに戦闘で呼び出すような召喚などのように、コストが低い訳でもないので使い時が重要なのです。そして私は、今がその時だと判断したという訳です」
「そんな事を聞きたかった訳じゃないが、思ったより元気そうで何よりだ。二人とも歩けるか?」
「ミアが時間を稼いでくれたおかげで、何とか動けるよ」
ミアが謎の人物達とその親玉と戦っている間、まるで瀕死の状態であるかのように動かなかったのは、ケヴィンの指示だったようだ。彼は早くから敵の攻撃が音によるものである事を見抜くと、演奏による体力の消耗や疲労を可能な限り抑え込み、少しでも身体を休ませる為、敢えて動かない決断をしたのだという。
ミアは耳を塞ぎながらその場を後にする。彼女の素早い判断が功を奏し、囲まれる事は避けられた。というのも、親玉の霊体は、叫び声を上げつつもミアが狙撃した場所に謎の人物達を送り込んでいた。
しかしその場に既にミアの姿はなく、集まった謎の人物達は周囲を見渡したのちに解散し、壁や床を擦り抜けて持ち場へと戻っていく。その道中、一人の謎の人物がミアの衣装らしきものの一部を視界に捉える。
「ったく・・・!いちいち叫び声に効果があんのかよ・・・」
別の場所で隠れながら次の弾丸を弾倉に込めるミア。そこへ彼女の痕跡を見つけた謎の人物が近づいてくる。音もなく障害物さえも通り抜けて一直線に向かってくる謎の人物の気配に彼女は気が付かなかった。
先程の叫び声を浴びて、周囲へのケアを怠ってしまっていたミア。だが決して彼女に落ち度があった訳ではなく、これも霊体達の戦術の内の一つだったのだ。
披露していた事もあり注意力が散漫になっていたところに、遂に謎の人物の一人が直接彼女の身体に触れた。
「ッ!?」
触れると言っても、実際に腕や足を掴まれるといったものではなく、文字通り謎の人物の腕はミアの身体に触れてそのまま透過してすり抜けたのだ。すぐに場所を移動しハンドガンに切り替えると、素早く照準を頭に合わせ一発二発と撃ち込む。
一連の戦闘から、既に手持ちの銃には魔力を込めた弾丸が装填されていた。頭に魔弾を浴びた謎の人物は、そのまま塵となって消滅していったが、その代わりにミアの容態がより一層悪化してしまっていた。
謎の人物に触れられることにより、肉体的なダメージはなかったがその代わりに魔力を大きく消耗し、疲労感が一気に彼女の身体にのしかかった。
「クソッ・・・こんな雑魚共にッ・・・!シン達は無事なのか!?」
謎の人物に気を取られ、外の様子がどのようになっているのか目を離してしまう。すぐに外の様子を確認するも、それまで居た場所に敵の親玉の姿は無く、倒れていたシンとケヴィンの姿も路地裏から消えていた。
「なッ・・・しまった!どこへ消えた!?」
二人を探しに向かう為、立ちあがろうとするミアだったが、足に力が入らずその場で倒れてしまう。自身でも気が付かない内に見た目以上の疲労が身体に蓄積されていた。
「・・・こんなところで寝てる場合じゃねぇんだってッ・・・!!」
悲鳴をあげる身体に鞭を打ちながら立ち上がり、ミアは民家の中を移動し路地裏へと出ていく。先程までシン達が居た場所に彼らの姿はない。何処かに移動してしまったのか、周囲を見渡し痕跡を探す。
すると、表通りの方から親玉のものと思われる演奏が聞こえてくる。音の範囲は相手の効果により身体に弊害が起こるのだが、一旦途絶えてしまった状況を確認する為にも、自ら術中に飛び込んでいかなくてはならなかった。
意を決して踏み出そうとするミアに、どこからともなく男の声が聞こえてきた。姿こそ見えなかったが、その声は確かに聞き馴染みのあるシンの声に酷似していた。
「近づいちゃダメだ。静かに・・・ゆっくり戻ってきてくれ」
「シン!?どこにいる?無事なのか!?」
声を荒立てるミアに、演奏の音が僅かに近づいたような気がした。慌てて口を閉じたミアは、音を殺して言われるがままに来た道を戻り、シン達が倒れていた場所へと戻ってくる。
てっきりそこにシン達が隠れていると思っていたミアだが、周囲を見渡しても二人の姿を見つけることは出来なかった。
「どこに隠れてる?」
彼女の声にゆっくりと姿を現すシンとケヴィン。彼らは建物の影に身を隠し、更にシンのスキルにより影の中ではないものの、周囲の影を利用し光を遮ることで姿を隠していたようだった。
「二人が無事でよかったが、どうやって奴の注意を逸らした?何故奴は表通りで演奏を?」
「それに関しては私から・・・」
どうやら彼には、探偵業で証拠や痕跡を探る際に頼る仲間がいるのだという。それが人間にはない聴力や嗅覚を持つ、戦闘向きではない動物達だった。戦うことは出来なくとも、ケヴィンには捜査の協力や追手から身を隠す為の囮など、様々な場面で強力なサポートを行う式神のようなものがいた。
「狩猟犬や上空からの偵察を行う為の鳥類など、人は様々なところで他種族の力を借りてきました」
「お前なぁ・・・。そんな事が出来るならもっと早くに・・・」
「おっと!勿論ノーリスクで協力を仰ぐことは出来ません。それに戦闘で呼び出すような召喚などのように、コストが低い訳でもないので使い時が重要なのです。そして私は、今がその時だと判断したという訳です」
「そんな事を聞きたかった訳じゃないが、思ったより元気そうで何よりだ。二人とも歩けるか?」
「ミアが時間を稼いでくれたおかげで、何とか動けるよ」
ミアが謎の人物達とその親玉と戦っている間、まるで瀕死の状態であるかのように動かなかったのは、ケヴィンの指示だったようだ。彼は早くから敵の攻撃が音によるものである事を見抜くと、演奏による体力の消耗や疲労を可能な限り抑え込み、少しでも身体を休ませる為、敢えて動かない決断をしたのだという。
0
お気に入りに追加
302
あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
スキル盗んで何が悪い!
大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物
"スキル"それは人が持つには限られた能力
"スキル"それは一人の青年の運命を変えた力
いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。
本人はこれからも続く生活だと思っていた。
そう、あのゲームを起動させるまでは……
大人気商品ワールドランド、略してWL。
ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。
しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……
女の子の正体は!? このゲームの目的は!?
これからどうするの主人公!
【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!

異世界無宿
ゆきねる
ファンタジー
運転席から見た景色は、異世界だった。
アクション映画への憧れを捨て切れない男、和泉 俊介。
映画の影響で筋トレしてみたり、休日にエアガンを弄りつつ映画を観るのが楽しみな男。
訳あって車を購入する事になった時、偶然通りかかったお店にて運命の出会いをする。
一目惚れで購入した車の納車日。
エンジンをかけて前方に目をやった時、そこは知らない景色(異世界)が広がっていた…
神様の道楽で異世界転移をさせられた男は、愛車の持つ特別な能力を頼りに異世界を駆け抜ける。
アクション有り!
ロマンス控えめ!
ご都合主義展開あり!
ノリと勢いで物語を書いてますので、B級映画を観るような感覚で楽しんでいただければ幸いです。
不定期投稿になります。
投稿する際の時間は11:30(24h表記)となります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる