World of Fantasia

神代 コウ

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幻想の声楽家

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 再び聞こえた叫び声に埋もれるように、ドサッと鈍い音が聞こえてくる。その音に気が付きいち早く動いたのがアンドレイだった。護衛であるチャド達を追い越し、響き渡る叫び声に耳を塞ぐこともなく駆け出していく。

「ア・・・アンドレイ様ッ!?」

「どうしたんだ急に!?ってか、アンドレイさん耳大丈夫なのかよッ!?」
「何言ってるの!?聞こえないわ!」

 全身を震わせる高音は、並大抵の人間では立っていられなくなる程、身体から力が抜けてしまっていた。ジルとカルロスは壁に寄りかかりながらズルズルと崩れていき、床に座り込んでしまう。

 竜人族のチャドと小人族のケイシーは、人間以上に聴力が長けている為ジルやカルロス以上に耳へのダメージを負っていたが、二人とも戦闘の訓練をしていることから通常の民間人よりはまだ身体が動くといった状況だった。

「チャ・・・チャドッ!俺をアンドレイ様の行った方へ投げてくれ!」

「いいんだね?」

 両手で耳を塞いだまま何度も頷くケイシーを、チャドは尻尾を彼の小さな身体へ巻き付けると、彼ならアンドレイを任せられると信じ、いうことを聞かない身体で何とか手加減をしながらケイシーを、叫び声のする部屋へと投げる。

 聴覚への影響で力をコントロール出来なかったチャドだったが、狙いは正確だった。ケイシーは壁や障害物にぶつかることなく、見事にアンドレイの後を追い飛んでいった。

 その先にいたのは、苦しむシアラを抱き抱えるアンドレイと、大きな口を開けて叫び声を上げる女の霊体だった。勢い余って通り過ぎそうになると、ケイシーは袖から植物の蔓を素早く出すと、部屋にある物に巻きつけチャドの投げた勢いを止める。

「アンドレイ様ッ!それにシアラ!?一体何がッ・・・」

「ケイシー!いいところに来てくれた。奴を止めて!」

「言われなくてもッ・・・!!」

 ケイシーは植物の蔦を利用して棚の上に飛び乗ると、棚のへりに何らかの植物の種をくっ付ける。するとその植物は急成長し、鉄砲のような花を咲かせる。

「甘美な刺激スイート・ショットッ!」

 花開いたところから、弾丸のような物が放たれる。それは宛らミアの魔力を込めた弾丸である“魔弾“のように光を纏いながら、叫び声を上げる女の霊体の胸部に命中する。

 一瞬、女のあげる叫び声が止まると、胸部に空いた弾痕から魔力を纏った蔓が出現し、女の身体を全く間に縛り上げる。

「ギッ・・・ァァァアアアーーーッ!」

 もがく間も無く蔓はまるで女の口を縫うように口を塞ぎ、身動きを封じた。静かになった隙に体勢を整えるアンドレイは、シアラをなるべく遠くへ運ぼうと部屋の隅の物陰に彼女を連れて行く。

 そこへ、廊下で叫び声に動きを止められていたチャドとジル達が合流する。

「ケイシー!上手くいったみたいだね」

「チャド!呑気な事言ってられないぞ。すぐにトドメをさせ!」

 状況が把握できないまま、それでもケイシーを信頼しているチャドは視界に入る状況から判断し、彼の技で絡め取られている女の霊体を見つけると、言われた通り何よりも先に駆け付けると、普段は隠している鋭利な爪を剥き出しにし、手に魔力を纏うと槍のように素早い突きを繰り出す。

 チャドの爪は霊体の女の身体を貫き、見事ダメージを与えることに成功した。・・・ように見えたのだが、彼らが見ていた敵の姿というものは本当の本体が見せていた幻覚だったのだ。

 すうっと姿を消していった霊体の女。チャドも今の一撃に手応えを感じていなかったようで、驚いたような表情を浮かべている。ケイシーがトドメを刺したのかと問う。

 しかしチャドにも目の前で起きた現象が信じられなかった。今までの霊体とされていた人物達は、魔力を纏った攻撃であれば攻撃を当てることも可能だったことは、宮殿で戦う教団の護衛や警備隊の戦闘を見て確認している。

 そうであると信じきっていたものが、目の前で消えてなくなったのだから無理もない。あれだけ煩かった霊地の女がチャド達の前から姿を消すと、それでは本当の敵はどこに隠れているのかと、一行はそれぞれ部屋の中や廊下の方を見渡す。

 すると彼らがシアラの元へ駆けつけた廊下の方に、薄暗い中に佇む綺麗なドレスを身に纏った美しくもあり、得体の知れない存在であるという要素が、いるはずのない幽霊が目の前に現れたかのような、身の毛のよだつ感覚に見舞われていた。

 言葉を失って硬直する一行を他所に、廊下に佇む女の真上の照明がまるでスポットライトのように一箇所だけ点灯する。女に気を取られていた気が付かなかったが、なんとその女の周りにはいつの間にか多くの謎の人物達が集まっていたのだ。

「ッ!?」

 ライトの点灯によって初めて見えてきたものはそれだけではなかった。何故かその女の前にはいつの間にかマイクが用意されており、今にもショーでも始まるのではないかという雰囲気がその場に漂い始めた。
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