World of Fantasia

神代 コウ

文字の大きさ
上 下
1,387 / 1,646

幻想の声楽家

しおりを挟む
 再び聞こえた叫び声に埋もれるように、ドサッと鈍い音が聞こえてくる。その音に気が付きいち早く動いたのがアンドレイだった。護衛であるチャド達を追い越し、響き渡る叫び声に耳を塞ぐこともなく駆け出していく。

「ア・・・アンドレイ様ッ!?」

「どうしたんだ急に!?ってか、アンドレイさん耳大丈夫なのかよッ!?」
「何言ってるの!?聞こえないわ!」

 全身を震わせる高音は、並大抵の人間では立っていられなくなる程、身体から力が抜けてしまっていた。ジルとカルロスは壁に寄りかかりながらズルズルと崩れていき、床に座り込んでしまう。

 竜人族のチャドと小人族のケイシーは、人間以上に聴力が長けている為ジルやカルロス以上に耳へのダメージを負っていたが、二人とも戦闘の訓練をしていることから通常の民間人よりはまだ身体が動くといった状況だった。

「チャ・・・チャドッ!俺をアンドレイ様の行った方へ投げてくれ!」

「いいんだね?」

 両手で耳を塞いだまま何度も頷くケイシーを、チャドは尻尾を彼の小さな身体へ巻き付けると、彼ならアンドレイを任せられると信じ、いうことを聞かない身体で何とか手加減をしながらケイシーを、叫び声のする部屋へと投げる。

 聴覚への影響で力をコントロール出来なかったチャドだったが、狙いは正確だった。ケイシーは壁や障害物にぶつかることなく、見事にアンドレイの後を追い飛んでいった。

 その先にいたのは、苦しむシアラを抱き抱えるアンドレイと、大きな口を開けて叫び声を上げる女の霊体だった。勢い余って通り過ぎそうになると、ケイシーは袖から植物の蔓を素早く出すと、部屋にある物に巻きつけチャドの投げた勢いを止める。

「アンドレイ様ッ!それにシアラ!?一体何がッ・・・」

「ケイシー!いいところに来てくれた。奴を止めて!」

「言われなくてもッ・・・!!」

 ケイシーは植物の蔦を利用して棚の上に飛び乗ると、棚のへりに何らかの植物の種をくっ付ける。するとその植物は急成長し、鉄砲のような花を咲かせる。

「甘美な刺激スイート・ショットッ!」

 花開いたところから、弾丸のような物が放たれる。それは宛らミアの魔力を込めた弾丸である“魔弾“のように光を纏いながら、叫び声を上げる女の霊体の胸部に命中する。

 一瞬、女のあげる叫び声が止まると、胸部に空いた弾痕から魔力を纏った蔓が出現し、女の身体を全く間に縛り上げる。

「ギッ・・・ァァァアアアーーーッ!」

 もがく間も無く蔓はまるで女の口を縫うように口を塞ぎ、身動きを封じた。静かになった隙に体勢を整えるアンドレイは、シアラをなるべく遠くへ運ぼうと部屋の隅の物陰に彼女を連れて行く。

 そこへ、廊下で叫び声に動きを止められていたチャドとジル達が合流する。

「ケイシー!上手くいったみたいだね」

「チャド!呑気な事言ってられないぞ。すぐにトドメをさせ!」

 状況が把握できないまま、それでもケイシーを信頼しているチャドは視界に入る状況から判断し、彼の技で絡め取られている女の霊体を見つけると、言われた通り何よりも先に駆け付けると、普段は隠している鋭利な爪を剥き出しにし、手に魔力を纏うと槍のように素早い突きを繰り出す。

 チャドの爪は霊体の女の身体を貫き、見事ダメージを与えることに成功した。・・・ように見えたのだが、彼らが見ていた敵の姿というものは本当の本体が見せていた幻覚だったのだ。

 すうっと姿を消していった霊体の女。チャドも今の一撃に手応えを感じていなかったようで、驚いたような表情を浮かべている。ケイシーがトドメを刺したのかと問う。

 しかしチャドにも目の前で起きた現象が信じられなかった。今までの霊体とされていた人物達は、魔力を纏った攻撃であれば攻撃を当てることも可能だったことは、宮殿で戦う教団の護衛や警備隊の戦闘を見て確認している。

 そうであると信じきっていたものが、目の前で消えてなくなったのだから無理もない。あれだけ煩かった霊地の女がチャド達の前から姿を消すと、それでは本当の敵はどこに隠れているのかと、一行はそれぞれ部屋の中や廊下の方を見渡す。

 すると彼らがシアラの元へ駆けつけた廊下の方に、薄暗い中に佇む綺麗なドレスを身に纏った美しくもあり、得体の知れない存在であるという要素が、いるはずのない幽霊が目の前に現れたかのような、身の毛のよだつ感覚に見舞われていた。

 言葉を失って硬直する一行を他所に、廊下に佇む女の真上の照明がまるでスポットライトのように一箇所だけ点灯する。女に気を取られていた気が付かなかったが、なんとその女の周りにはいつの間にか多くの謎の人物達が集まっていたのだ。

「ッ!?」

 ライトの点灯によって初めて見えてきたものはそれだけではなかった。何故かその女の前にはいつの間にかマイクが用意されており、今にもショーでも始まるのではないかという雰囲気がその場に漂い始めた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

処理中です...